児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

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このブログでは、児童虐待関係の仕事をしているブログ主が、心理学とか心理学研究における統計解析の話などをします。

 

児童虐待領域記事(リンク無しは未発表)

A.虐待の影響

 1.虐待の影響(全般)
 2.内的作業モデル
 3.被虐待児の攻撃性
 4.敵意帰属バイアス
 5.感情調節障害
 6.自傷行為

B.脳

 1.虐待の脳への影響
 2.脳容積と虐待
 3.脳と攻撃性

C.精神医学的診断

 1.ASD(自閉スペクトラム症)1-2.ASDの感情調節障害
 2.ADHD(注意欠陥多動症)
 3.RAD(反応性アタッチメント障害)
 4.DSED(脱抑制型対人交流障害)
 5.C-PTSD(複雑性PTSD)
 6.社会的(語用論的)コミュニケーション症

D.不適応行動・状態

 1.窃盗
 2.過剰適応
 3.性加害
 4.攻撃性全般

E.ケア

 1.実親との面会交流
 2.感情のラベリング
 3.トラウマケア・プレイセラピー

F.虐待関連

 1.児童虐待による死亡(CMF)
 2.子どもの虐待証言(性的虐待順応症候群と絡めて)
 3.虐待加害リスク

G.基礎心理概念

 1.抽象化思考

 

以下カテゴリ

心理ー基礎心理学系⇒心理学の基礎的な話など

   アセスメント⇒架空事例などを用いたアセスメント例など

   児童虐待関係児童虐待にかかわる話など

統計ー基礎心理統計⇒心理統計の基礎的な話など

   時系列解析系⇒時系列データを用いた分析例など

   ベイズ統計系ベイズ統計やそれを用いた分析例など

 

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ASDの感情調節障害

1.ASDと感情調節の概要
ASD児童は感情コントロールができず、かんしゃくを起こすことが珍しくないように感じます。ASDは感情調節が難しい性質をもっているのでしょうか。
感情調節の困難さは、自閉症スペクトラム障害ASD)を持つ子どもや成人にとって一般的な特徴の1つです。まずは感情調節の困難さとそのASDへの影響について簡単に説明します。

自他の感情認識と理解の困難:ASDの人々は、他人の感情を適切に認識し理解することが難しい場合があります。非言語的なサインや表情の読み取りが難しいため、他者の感情状態を正確に理解するのが難しいことがあります。その結果、適切な感情の反応や対処が難しくなり、感情の調節が困難になることがあります。また自己認識の困難も、ASDの感情調節の問題に関連しています。自己や他者の感情やニーズを理解することが難しく、自分自身の感情を認識し、適切に処理することが難しい場合があります。そのため、自分の感情を正しく識別することが難しく、感情の調節が困難になることがあります。
柔軟な思考や行動の困難:ASDの人々は、変化や予期せぬ出来事に対する適応が難しく、これによって感情が高ぶることがあります。また、一貫性やルーチンにこだわる傾向があり、その変更に対して強いストレスを感じることがあります。これらの柔軟性の欠如は、感情の調節にも影響を与える可能性があります。

以上のように、ASDの感情調節の困難さは、感情の認識や理解の困難さ、柔軟な思考や行動の困難など、さまざまな要因に起因しています。これらの特徴は、ASDの個々の症状や重症度によって異なる場合がありますが、感情調節の困難さがASDの中核的な特徴の1つであることは間違いありません。

2.ASD児の感情調節困難に関わるリスク因子
感情調節困難に陥ったASDはどのようなリスク因子を抱えているのでしょうか。どういったASD児童が感情調節困難に陥りやすいのか、という視点で見ていくと良いのかなと思います。
以下、乳原・石川(2016)より引用多数で恐縮ですが、リスク因子を並べていきます。

アレキシサイミア:アレキシサイミアとは,感情を特定,区別,記述することに困難を感じている状態のことであり,ASD を抱える人は発達段階に関わらず,アレキシサイミアの傾向が強いことが知られている(Berthoz & Hill,2005;Rieffe et al., 2007)。感情を特定する能力の高さは,適切な感情調節の使用と正の相関があることからも(Barrett et al., 2001),アレキシサイミアの傾向が強いASD の子どもは,感情調節が妨げられている可能性がある。
心の理論:ASD の子どもは心の理論の障害を持つことが知られている(Loukusa et al., 2014)。ASD の子どもは他者の発する社会的・感情的てがかりを正確に読み取れないために,感情調節方略を実施できなかったり,適切なタイミングで使用することができなかったりするとされている(Mazefsky & White, 2014)。 
認知的柔軟性:ASD の子どもの持つ認知的な特徴としては,認知的柔軟性の欠如,問題解決能力の低さが挙げられる。適切な感情調節方略は,文脈内の重要な側面を適切に見分ける能力を必要としていることから(Mazefsky etal., 2013),ASD の中核的な症状である認知的な頑固さ,あるいは柔軟性の欠如によって適切な感情調節が妨げられている(Mazefsky &White, 2014)。
衝動性:衝動性の高さは適切な感情調節を妨げるが,ASD の子どもの約50%が高い衝動性を持つことが示されている(Murray, 2010)。衝動性の高さによって,即効的で自動的な反応(例えば,叩く,叫ぶなど)を阻止することができなくなり,その結果として不適切な感情調節方略を使用すると考えられている(Mazefsky & White, 2014)。
変化や刺激への過敏さ:変化や刺激に対する敏感さは,変化に対する不安や感覚の過敏さにつながり,問題行動の増加のリスク要因になると言われている(Mazefsky,2012)。環境の変化や刺激に対する混乱によって,即効的で自動的な反応が出現していることが推察される。
葛藤場面の対処戦略:ASD 児は葛藤場面に対して(b)あきらめ行動を有意に多く表していることが報告されている。また,(d)感情調節のための方法に関して,ASD 児は表出や回避を頻繁に使用し,建設的な方法をより使用しにくいことが報告されている(Jahromi, Meek, & Ober-Reynolds,2012)。また、行動観察による未就学のASD 児における感情調節の検討の結果,ASD 児は感情を調節するために保護者を求める行動が見られず,1人で感情を調節しようとすることが示されている。また,自己調節においても適切な感情調節の方法を使用できておらず,回避や表出行動などの不適切な感情調節方略に頼っていることが明らかになっている(乳原・石川,2016)。

さらに新しい知見では
ASDの受容言語能力の向上が、親が報告する感情調節能力の向上と有意に関連(Cibralic et al., 2023)
ASD特性の重症度と感情調節不全との間に正の関連性があること、さらに、実行機能は、ASD 特性と感情制御の間の関係を仲介する(Costescu et al., 2023)
ASDは、社会的互恵性、社会的参加/回避、共感性および体系化スコアが低く、有害な社会的行動、受容感覚スコアが高かった。感覚の探求、低い感覚受容、および共感と体系化は、ソーシャルスキルの合計スコアを有意に予測した。(Kose et al., 2023)
といった社会的・機能的なリスク因子も多く示されています。

3.ASDの感情調節障害に対する介入
感情の調節不全はASDの人にとって共通の課題であり、行動上の問題、社会的困難、精神的健康問題の増加に関連しています。この問題に対処するために、研究者たちは、ASD 人口の感情調節スキルを対象としたさまざまな介入を開発し、評価してきました。
しかし、ASDにおけるERプロセスを明確に標的とする介入はほとんど開発されていない。ER は、ASD で使用されているいくつかの既存の心理社会的治療法で扱われる可能性があります。これには、ポジティブな行動サポートの提供、感情的な言語の強化、および修正された認知行動療法が含まれます。将来必要とされる分野には、治療計画と評価を目的とした ASD の ER を評価する手段の開発と検証、および ASD の独特の特性を組み込んだ ER を促進する介入の開発が含まれます(Mazefsky & White, 2014)。
ストレス・怒り管理計画([STAMP] Factor et al., 2019; Scarpa & Reyes, 2011)、Emotional Awareness and Skills Enhancement (EASE)プログラム(Conner et al., 2019)などは一定の有効性が示されているようですが、それでもまだ多いと言えない現状かなと思いました。

4.感情調節におけるASDの特異性
ASD者とそうでない人では、感情を制御するための認知行動テクニックはどのように異なるのでしょうか。ASDだからといって認知方略に違いがあったりするのでしょうか。最近お気に入りのAIに聞いてみました(https://www.perplexity.ai/)。↓
1.認知の柔軟性と剛性:ASD を持つ人は、多くの場合、より認知的な硬直性があり、認知的な柔軟性に困難を示します。これにより、別の視点を考慮する能力が必要となるため、認知の再構成や再評価の手法がより困難になる可能性があります。ASD を持つ個人への介入では、感情調整スキルと並行して認知的柔軟性を構築することに重点を置く必要があるかもしれません。
2.社会的認知と視点の獲得:社会的認知と心の理論の欠陥はASDによく見られます。これは、自分自身や他人の感情状態を正確に特定して対応する能力に影響を与える可能性があります。ASDを持つ個人への介入には、感情の制御戦略と並行して、社会感情の理解と視点の取得に関するより明確なトレーニングを組み込む必要があるかもしれません。
3.行動的アプローチと認知的アプローチ:ASDおよび行動上の問題を抱える個人にとって、行動的感情制御戦略(例:対処スキルトレーニング)が、純粋に認知的アプローチ(例:認知再構築)よりも効果的である可能性があるという証拠がいくつかある。ASD を持つ個人への介入では、より抽象的な認知技術と比較して、具体的な行動的感情制御スキルを教えることに重点を置く必要があるかもしれません。
4.カスタマイズされた心理教育:ASDを持つ個人は、自分の状態の性質、感情調節の役割、そしてその独特の認知的および社会的プロフィールを考慮して認知行動戦略をどのように適用できるかについて、よりカスタマイズされた心理教育を必要とする場合があります。
5.介護者の関与:ASD を持つ個人が直面する社会的および認知的課題を考慮すると、介護者を巻き込み、人間関係における感情の制御に焦点を当てた介入が特に重要である可能性があります。
要約すると、検索結果は、ASDにおける感情制御のための認知行動介入は、非ASDに対するアプローチと比較して、行動戦略、社会的認知、介護者の関与に重点を置き、障害に関連する中核的欠陥に対処するために適応させる必要がある可能性があることを示唆している。

以上、ASDの感情調節障害に関するリスク因子や介入方法についてレビューしました。
比較的具体的なリスク因子が特定されている一方で、有力な治療法などはまだ限定的なようです。
自己感情の分化(感覚と言語の一致が難しい感じ?)が進んでいない児童が多い中で、どこまで感情言語の強化が有効なのか、メタ認知がそもそもきちんと働いてくれるのかなど、疑問は多々あります。
いずれにせよ、ASDの特性の1つに感情調節の困難さがあり、それが不適切な行動化につながる可能性があるものの、介入の開発はあまり進んでいないということなので、今後の科学の進歩に期待したいですね。

引用文献
Cibralic, S., Kohlhoff, J., Wallace, N., McMahon, C., & Eapen, V. (2023). Emotional Regulation and Language in Young Children With and Without Autism Traits. Journal of Early Intervention, 10538151231176188.
Conner, C. M., White, S. W., Beck, K. B., Golt, J., Smith, I. C., & Mazefsky, C. A. (2019). Improving emotion regulation ability in autism: The Emotional Awareness and Skills Enhancement (EASE) program. Autism, 23(5), 1273–1287. https://doi.org/10.1177/1362361318810709
Costescu, C., Adrian, R., & Carmen, D. (2023). Executive functions and emotion regulation in children with autism spectrum disorders. European Journal of Special Needs Education, 1-10.
Factor, R. S., Swain, D. M., Antezana, L., Muskett, A., Gatto, A. J., Radtke, S. R., & Scarpa, A. (2019). Teaching emotion regulation to children with autism spectrum disorder: Outcomes of the Stress and Anger Management Program (STAMP). Bulletin of the Menninger Clinic, 83(3), 235–258. https://doi.org/10.1521/bumc.2019.83.3.235
Kose, S., Turer, F., Inal Kaleli, I., Calik Senturk, H. N., Ozuysal Uyar, D. H., & Bildik, T. (2023). The Relationship Between Social Skills and Sensory Profile, Emotion Regulation, and Empathizing/Systemizing in Adolescents on the Autism Spectrum. Journal of Autism and Developmental Disorders, 1-17.
Mazefsky, C. A., & White, S. W. (2014). Emotion regulation: Concepts & practice in autism spectrum disorder. Child and Adolescent Psychiatric Clinics, 23(1), 15-24.
Scarpa, A., & Reyes, N. M. (2011). Improving emotion regulation with CBT in young children with high functioning autism spectrum disorders: A pilot study. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 39(4), 495–500. https://doi.org/10.1017/S1352465811000063
乳原彩香 & 石川信一. (2016). 自閉スペクトラム症を抱える子どもの感情調節機能についての研究展望 (Doctoral dissertation, Doshisha University).

Emotion Regulation deficits / Emotional dysregulation :感情調節障害

0.感情調節障害の事例(ChatGPTで生成/プロンプト:以下の特徴を持つ10歳の少年について、800字程度で事例を生成してください。どのような子どもで、どのような場面で、どのような問題行動が生じており、それに対する専門知識のない教員の対応でどのようなトラブルに発展しているか、を含めてください。「(ここに”2.ER障害の症状”を羅列)」)
10歳の少年、たかひろは、状況に対して激しい感情を示すことが多い。彼は動揺したり落ち着かなかったりすることがよくあり、否定的な感情を抑えるのが難しい。自分を落ち着かせる方法を見つけるのが難しく、感情的な経験を理解することも困難だ。特に否定的な感情に対処する際、たかひろは回避的になったり攻撃的になったりすることがある。さらに、彼は否定的な感情をより多く経験し、極端な感情を示す傾向がある。感情的な手がかりを識別することも難しく、自分の感情を認識するのが困難だ。彼は否定的なことに集中しやすく、注意をコントロールすることも難しい。また、衝動的な行動をとり、ネガティブな感情を抑えるのが難しい。たかひろは動揺したときに落ち着くのが難しいと感じている。
学校では、たかひろはしばしば授業中に感情のコントロールを失い、怒りを爆発させたり、他の生徒に攻撃的な言動を示したりします。先生が彼を叱りつけると、彼はますます感情的になり、暴力的な行動をとることがあります。また、彼はしばしば他の生徒との関係に問題を抱え、他の子供たちと衝突しやすい傾向があります。
教員はたかひろの行動に困惑し、彼の感情的な安定性を改善する方法がわかりません。彼らは単に彼を叱責したり、クラスから排除したりすることによって、問題行動を管理しようとしますが、これらのアプローチはしばしばたかひろの抵抗心を引き起こし、彼の行動問題を悪化させる可能性があります。彼の行動問題に対する適切な支援や介入が必要ですが、教員がそれを提供するためのリソースや知識が不足しているため、トラブルが続いています。

1.感情調節(ER)障害の概要
感情調節(ER)障害とは、自分の感情を調節しコントロールすることが困難な状態です。幼少期の児童虐待やネグレクト、その他のトラウマ的な体験の結果として見られることが多いとされています。ER障害は、気分の落ち込み、怒りの爆発、衝動性、自傷行為、ストレス管理の困難さとして現れます。
いわゆる感情コントロールが難しいと、激しい行動化につながることが多いために、この概念を上手に扱ってケアに向けていくことが極めて重要なんじゃないかと思っています。
以下からは、ER障害のリスク、機序、ケアなどの知見をざっと見ていき、まとめに向かいたいと思います。

2.ER障害の症状
子どものER障害は、具体的に以下のような内面化・外在化行動と関連することがあるとされています(Macklem, 2007)。
・内面的な状態
状況に対して激しすぎる感情を示す。
動揺してもなかなか落ち着かない。
否定的な感情を減らすのが難しい。
自分自身を落ち着かせることができない。
感情的な経験を理解するのが難しい。
否定的な感情に対処するとき、回避的になったり攻撃的になったりする。
より多くの否定的な感情を経験する。
・外在化行動
極端な感情を示す。
感情的な手がかりを識別するのが難しい。
自分の感情を認識することが困難
否定的なことに集中する。
注意をコントロールするのが難しい。
衝動的
ネガティブな感情を抑えるのが難しい。
動揺したときに落ち着くのが難しい。
他にもER障害の症状として考えられるのは、極度の涙もろくなる、怒りが爆発する、あるいは物を破壊したり投げつけたりするなどの行動の爆発、自己または他者に対する攻撃性、自殺すると脅すなどです。ER障害は行動上の問題を引き起こし、家庭、学校、職場などでの社会的交流や人間関係に支障をきたすことがある(Dialetical Living)などが言われています。
ER障害、非常に重症度の高い行動化のリスクにもなる障害で、その背景には虐待が絡むことが多い、ということです。

3.ER障害のリスク因子
ER障害の原因・リスク因子って何なのでしょうか。児童虐待によるER障害の心理学的・神経学的原因は複雑で多因子的と言われています。
虐待やネグレクトに長期間さらされることで、脳の構造や機能、特に扁桃体前頭前野などの感情調節に関連する部位に変化が生じる可能性があります。さらに、小児期のトラウマは、回避や解離などの不適応な対処戦略を引き起こし、感情調節を妨げることがあります。
児童虐待によるER障害に関連する症状は、しばしば複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)と呼ばれます。C-PTSDは、幼少期の長期にわたる虐待やネグレクトなどの 慢性的なトラウマに反応して発症する可能性のある心理疾患でして、ADHDと誤診されたりRADとして扱われたりしている児童の中に、実はC-PTSDじゃね?って子は案外いたりします。

4.ER障害の機序
ERの獲得について:ERは、PTSD(Cloitre, Miranda, Stovall-McClough, & Han, 2005)を含む様々な精神障害の発症と維持に重要な役割を担っている(Berking & Wupperman, 2012)。自分の情動反応を調節する能力は、幼少期から成人期にかけて形成され(Thompson & Goodman, 2010)、内発的・外発的要因に影響されるといわれています(Fox & Calkins, 2003)。養育者はER能力の発達に重要な役割を果たし(Thompson, 2011)、養育者から虐待を受けた子どもは、日常生活で感情を管理するサポートを受けられないだけでなく、虐待に典型的に関連する負の感情に対処しなければなりません。
複雑性PTSDの子どもでは、ER障害は癇癪に表れ、人間関係の困難は他者への抵抗として観察され、解離は白昼夢や注意力欠如として現れる可能性があります。癇癪や対話的な遊びが少ないといった症状は年齢相応のものかもしれないので、外傷性ストレス要因の前にこうした症状があった場合は、それを考慮に入れて悪化していると認識する必要があります。
ER障害の影響:子どもの虐待は機能的なER戦略の獲得を阻害し(Dvir et al.,2014),その結果,強烈な否定的感情を伴うPTSDの症状と関連する(Kaczkurkin et al.,2017)。児童虐待のような早期発症の対人トラウマは、他のタイプのトラウマよりもERの機能不全的側面と強く関連する。心理的虐待は、感情的な状況に対する不適切な反応や衝動的な反応を特徴とするERの側面とより関連し、感情的ネグレクトは、感情に対するより貧しい理解に関連するERの側面とより関連することがわかっています(Berzenski, 2018)。ネグレクトされた子どもは、虐待された子どもよりも感情を識別することが難しく、ストレスの多い状況で絶望的な反応をする傾向があるようで、虐待された子どもはより怒りっぽくなる傾向があるそうです(Hildyard & Wolfe, 2002)。
不適応な対処戦略の視点:不適応な対処戦略(自己逸脱、否認、物質使用、行動的離脱、自己非難)は、小児期のトラウマとうつ病との関係の有意な媒介因子であった。一方で小児期のトラウマを経験した妊婦のPTSDに対処するためには、不適応対処に介入するだけでは不十分である可能性も示唆されています(Choi et al., 2015)。表面化しているのがうつかPTSDで、介入戦略は変わってくるようです。
感情的葛藤に対する適応の視点:ER障害とは若干違う概念ですが、感情的葛藤に内的に適応できるか、という視点からの示唆もありました。児童虐待の重症度は、感情的葛藤への適応度の低さと関連していたが、認知的コントロールとは無関係であった。特に、性的虐待ではなく、感情的・身体的虐待の重症度が、感情的葛藤適応の低下と関連していた。感情的葛藤適応は、前向きに内面化精神病理と関連しなかったようです(Kim et al., 2021)。心理的・身体的虐待が、自動的な感情調節に影響を及ぼす可能性があるようでした。
メディエーターとしての情動調節(Knefel et al.,2019):児童虐待からPTSDおよびDSOへの媒介因子としての感情調節(ER)の役割を検証したところ、ERの側面は児童虐待とネグレクトによって異なる形で予測されました。負の感情を経験したときに自分の行動をコントロールし続けることが難しい(衝動)、いったん動揺すると感情を効果的に調節するためにできることはほとんどないという信念(戦略)は、児童虐待によってのみ予測されました。どちらの尺度も、激しい感情の存在に対する個人の反応を反映しています。ネグレクトでは、感情反応への不注意や気づきの欠如(aware)、経験している感情が明確でない(clarity)、ネガティブな感情を経験すると集中できず課題を達成できない(goals)など、ERのミュートと言える側面が予測されました。全体の結論として、児童虐待からICD-11 PTSDへの経路は直接的であり、DSOへの経路はERによって媒介され、したがって間接的であることを示唆。ERが児童虐待とCPTSD症状の苦痛との関連を媒介するという基本的な考えを支持した結果であったと言えます(Choi et al.,2014;Stevens et al.,2013)。

5.ER障害の治療
児童虐待によるER障害の治療法としては、認知行動療法(CBT)、弁証法的行動療法(DBT)、眼球運動脱感作・再処理(EMDR)などの精神療法が用いられることが多いです。これらの療法は、個人が感情を調整し、ストレスを管理し、より適応的な対処法を開発するためのスキルを学ぶのを助けることを目的としています。
ADHD の一部であると診断された場合、メチルフェニデート(リタリン) (Suzer & Tahiroglu, 2018)やアトモキセチン(Vacher et al., 2020)などのノルエピネフリンおよびドーパミン再取り込み阻害剤がよく使用されます。

以上、研究知見の概説を行ってきました。
全般的に、幼少期のトラウマを経験した人は、感情刺激に反応する前頭前野の活動が低下し、より衝動的な行動を示すことがわかっています。さらには幼少期のトラウマが、記憶や感情の調節に関わる脳領域である海馬の体積減少と関連していることも分かっています。虐待のような幼少期のトラウマのせいで、子どもの感情の調節がさらに損なわれている可能性があります。
幼少期のトラウマは個人の感情調節能力だけでなく、学習理論的にストレス対処能力に大きな影響を与える可能性があることも考えられますよね。回避や防衛などの不適応な対処法は、対人関係の構築を困難にし、感情の調節を妨げ、不安、うつ、心的外傷後ストレス障害など、さまざまなメンタルヘルス上の問題につながる可能性があります。
 「感情コントロールできない難しい子」ではなくて、それに至る機序は何で、子どもの何が阻害された結果のER障害で、何を回収・リカバリーしたらER向上に寄与しそうなのか…。そういった視点での関与が求められます。


引用文献
1. Beheshti, A., Chavanon, M. L., & Christiansen, H. (2020). Emotion dysregulation in adults with attention deficit hyperactivity disorder a meta-analysis. BMC psychiatry, 20(1), 1-11.
2. Berzenski, S. R. (2018). Distinct emotion regulation skills explain psychopathology and problems in social relationships following childhood emotional abuse and neglect. Development and Psychopathology, 1–14.
3. Cabecinha-Alati, S., Montreuil, T. C., & Langevin, R. (2022). The role of maternal child maltreatment history and unsupportive emotion socialization in the intergenerational transmission of emotion regulation difficulties. Child Abuse & Neglect, 129, 105661.
4. Choi, K. W., Sikkema, K. J., Velloza, J., Marais, A., Jose, C., Stein, D. J., ... & Joska, J. A. (2015). Maladaptive coping mediates the influence of childhood trauma on depression and PTSD among pregnant women in South Africa. Archives of women's mental health, 18, 731-738.
5. Conner, C. M., Golt, J., Shaffer, R., Righi, G., Siegel, M., & Mazefsky, C. A. (2021). Emotion dysregulation is substantially elevated in autism compared to the general population: Impact on psychiatric services. Autism Research, 14(1), 169-181.
6. Dawson, D., Strodl, E., & Kitamura, H. (2022). Childhood maltreatment and disordered eating The mediating role of emotion regulation. Appetite, 172, 105952.
7. Dialetical Living. "What is Emotion Dysregulation?". www.dialecticalliving.ca/.
8. Dvir, Y. , Ford, J. D. , Hill, M. , & Frazier, J. A. (2014). Childhood maltreatment, emotional dysregulation, and psychiatric comorbidities. Harvard Review of Psychiatry, 22(3), 149–161.
9. Gruhn, M. A., & Compas, B. E. (2020). Effects of maltreatment on coping and emotion regulation in childhood and adolescence: A meta-analytic review. Child abuse & neglect, 103, 104446.
10. Hildyard, K. L. , & Wolfe, D. A. (2002). Child neglect: Developmental issues and outcomes. Child Abuse & Neglect, 26(6–7), 679–695.
11. Macklem, G. L. (2007). Practitioner's guide to emotion regulation in school-aged children. Springer Science & Business Media.
12. Kaczkurkin, A. N. , Zang, Y. , Gay, N. G. , Peterson, A. L. , Yarvis, J. S. , Borah, E. V. , … Foa, E. B. (2017). Cognitive emotion regulation strategies associated with the DSM‐5 posttraumatic stress disorder criteria. Journal of Traumatic Stress. Advance online publication.
13. Knefel, M., Lueger‐Schuster, B., Karatzias, T., Shevlin, M., & Hyland, P. (2019). From child maltreatment to ICD‐11 complex post‐traumatic stress symptoms: The role of emotion regulation and re‐victimisation. Journal of Clinical Psychology, 75(3), 392-403.
14. Kim, S. G., Weissman, D. G., Sheridan, M. A., & McLaughlin, K. A. (2021). Child abuse and automatic emotion regulation in children and adolescents. Development and psychopathology, 1-11.
15. Pencea, I., Munoz, A. P., Maples-Keller, J. L., Fiorillo, D., Schultebraucks, K., Galatzer-Levy, I., ... & Powers, A. (2020). Emotion dysregulation is associated with increased prospective risk for chronic PTSD development. Journal of psychiatric research, 121, 222-228.
16. Séguin-Lemire, A., Hébert, M., Cossette, L., & Langevin, R. (2017). A longitudinal study of emotion regulation among sexually abused preschoolers. Child Abuse & Neglect, 63, 307-316.
17. Squires, L. R., Hollett, K. B., Hesson, J., & Harris, N. (2021). Psychological distress, emotion dysregulation, and coping behaviour: a theoretical perspective of problematic smartphone use. International Journal of Mental Health and Addiction, 19, 1284-1299.
18. Suzer Gamli, I., & Tahiroglu, A. Y. (2018). Six months methylphenidate treatment improves emotion dysregulation in adolescents with attention deficit/hyperactivity disorder: a prospective study. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 1329-1337.
19. Wooten, W., Laubaucher, C., George, G. C., Heyn, S., & Herringa, R. J. (2022). The impact of childhood maltreatment on adaptive emotion regulation strategies. Child Abuse & Neglect, 125, 105494.
20. Vacher, C., Goujon, A., Romo, L., & Purper-Ouakil, D. (2020). Efficacy of psychosocial interventions for children with ADHD and emotion dysregulation: a systematic review. Psychiatry research, 291, 113151.
21. Zhong, H., Li, H., Zhang, X., Zhang, X., Zhang, Y., & Zhao, J. (2022). Childhood maltreatment and impulsivity in offenders Examining the mediating roles of self-compassion and cognitive reappraisal. Child Abuse & Neglect, 133, 105847.

敵意帰属バイアス(Hostile Attribution Bias:HAB/Hostile Intent Attribution:HIA)

1.敵意帰属バイアスの概要
敵意帰属バイアスとは、あいまいで中立的な社会的手がかりを、意図的に敵意や攻撃性があると解釈する認知バイアスのことです。言い換えれば、他者の行動には別の説明が可能であるにもかかわらず、その行動や言葉に敵意があるとする傾向といえます。たとえば“声をかけただけで覚醒して蹴ってくる被虐待児”や“失敗を指摘した他児を反射的に攻撃する児童”などがこのバイアス強めな可能性が考えられます。このバイアスは、実際には存在しないかもしれない敵意を知覚させ、過剰反応、防衛的、攻撃的な反応を引き起こす可能性があります。以下、概要について先行研究とともに説明していきます。
幼少期や青年期に否定的な経験に遭遇した人は、他者の曖昧な行動を敵対的、脅威的、自分自身に向けられたものとして経験する可能性が高く、脅威に対する過敏性と敵対的な意図帰属の持続的なパターンに影響される(Dodge et al., 2015)。人の行動が意図的に有害であると認識されることで、こうした人はより攻撃的に反応しやすくなる。このメカニズムが「敵対的帰属バイアス」(HAB)と呼ばれる。
HABとは、特に社会的文脈の手がかりがあいまいであったり、予測不可能であったり、解釈が困難であったりする場合に、他者の行動を敵対的意図があると解釈してしまう傾向のことで(Milich & Dodge, 1984)、環境の手がかりの不正確な解釈が敵意と関連が示されている (Hoaken et al., 2007)。社会的情報処理理論によれば、HABは、現在の否定的な出来事によって、他者や出来事を表す否定的な認知スキーマや経験が活性化され、過去の出来事と意識的または無意識的に関連づけられることで出現する(Guerra & Huesmann, 2004)。
挑発や脅威に対する誰かの反応は、客観的な社会的手がかりのみに依存するのではなく、社会的情報の処理方法に強く影響されるとしている(Setchell, Fritz, & Glasgow, 2017)。社会的情報の処理は、(i)手がかりを符号化することから始まり、次のように循環的に行われる: (ii)それらの手がかりの解釈、(iii)目標の明確化、(iv)反応の生成、(v)反応の選択と効果評価、そして最後に(vi)行動である(Crick & Dodge, 1994)。最初の2つの段階は初期社会情報処理と呼ばれ、不明瞭であいまいな状況を誤って解釈し、脅威の思考や感情を呼び起こすため、反応性の攻撃行動を引き起こすと提唱されている。HABはこの段階の重要な構成要素である。

2.敵対的帰属バイアスのリスク因子
 敵意帰属バイアス(HAB/HIA)になってしまうリスク因子はどのようなものがあるのでしょうか。
・関連あり
仲間に対するHIAと攻撃性の関係は、攻撃的で拒絶される子どもほど強い(Verhoef et al., 2019)
反応的攻撃性が、小児および青少年におけるHABと攻撃性との正の関連性の原動力である。関係性攻撃性が高い子供は、関係性攻撃性が低い子供よりもより多くの関係性 HAB を示し、物理的な HAB は示さなかった。対照的に、身体的攻撃性が高い子供は、身体的 HAB が高く、関係的 HAB は示されなかった(Martinelli et al., 2018)。
HAB と攻撃性の間に小から中程度の正の関連を示し、攻撃性の高い個人はあいまいな刺激や敵対的な状況で一層相手が敵対的な意図を持っているとも考えることが示唆された(Tuente, Bogaerts & Veling, 2019)。
反応的攻撃性におけるHABは脅威に関連する刺激に向けられるという注意処理の偏りに関連(Manning, 2020)。

・関連なし
HIAと攻撃性の関係の強さは仲間の親密さに依存しない(Verhoef et al., 2019)
HIAは反応性攻撃性の方が攻撃性一般よりも強い訳ではなく、ADHDにより強まることもない(Verhoef et al., 2019)

3.敵意帰属バイアスの治療
 敵意帰属バイアスの治療についての研究は限定的です。僕が知っている中ではシナリオ完了トレーニングというものがあり、比較的実施しやすいのではないかなと感じました。
シナリオ完了トレーニング(Van Bockstaele et al., 2020):他人の動機や行動が肯定的にも否定的にも解釈できる曖昧なシナリオを、一度に 1 文ずつコンピューター画面上に提示しました。シナリオの内容は、Novaco Anger Scale and Provocation Inventory ( Novaco, 2003 ) およびHawkins and Cougle (2013)によって使用されたシナリオに触発されていますが、青少年向けに適応されています (つまり、より短い文、より簡単な言葉遣い)。最後の文では、曖昧さをなくすための重要な単語が単語の断片として提示され、参加者はこの断片を完成することが求められました。
例:私が先生とダンスをしているところ、先生が私の足を踏んだ。先生は________
ちなみにこのトレーニング、文章を作っていかなきゃなのですが、ChatGPTに生成させると楽に作れます。プロンプト(和訳)は
「あいまいなシナリオ完了トレーニング(ambiguous scenario completion training)(Van Bockstaele et al., 2020)という名前のトレーニングがあります。このトレーニングでは短いシナリオを使用します。このトレーニングに使用するシナリオを作成してください。シナリオの要件は、以下の6つです。
1.他人の動機や行動が肯定的にも否定的にも解釈できる曖昧なシナリオ
2.より短い文
3.より簡単な言葉遣い
4.曖昧さをなくすための重要な単語をシナリオ中の断片として提示する
5.参加者の課題はこの空白を完成させること
6.シナリオの例は“私が先生とダンスをしているところ、先生が私の足を踏んだ。先生は________”」
でした。これで提示されたシナリオを、トレーニングで使用しやすいように改変し、心理教育として使用しています。

4.まとめ
敵意帰属バイアスはかなり子どもの適応を悪化させるので、個人のニーズに基づいて介入を調整し、まずは敵対的帰属バイアスの原因となりうる根本的な心理状態に対処することが重要だと思います。その後、心理教育などでバイアスを改善するといった流れでしょうか。
被虐待児はこのバイアスに苦しめられている子が多い印象なので、ぜひアセスメントでターゲットを特定して、ケアをしてあげてほしいです。

引用文献
Dodge, K. A., Malone, P. S., Lansford, J. E., Sorbring, E., Skinner, A. T., Tapanya, S., ... & Pastorelli, C. (2015). Hostile attributional bias and aggressive behavior in global context. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(30), 9310-9315.
Hawkins, K. A., & Cougle, J. R. (2013). Effects of interpretation training on hostile attribution bias and reactivity to interpersonal insult. Behavior Therapy, 44(3), 479-488.
Manning, K. E. (2020). Seeing red? A systematic review of the evidence for attentional biases to threat-relevant stimuli in propensity to reactive aggression. Aggression and violent behavior, 50, 101359.
Martinelli, A., Ackermann, K., Bernhard, A., Freitag, C. M., & Schwenck, C. (2018). Hostile attribution bias and aggression in children and adolescents: A systematic literature review on the influence of aggression subtype and gender. Aggression and violent behavior, 39, 25-32.
Novaco, R. W. (2003). The Novaco anger scale and provocation inventory: NAS-PI. Los Angeles, CA: Western Psychological Services.
Setchell, S., Fritz, P. T., & Glasgow, J. (2017). Relation between social information processing and intimate partner violence in dating couples. Aggressive behavior, 43(4), 329-341.
Tuente, S. K., Bogaerts, S., & Veling, W. (2019). Hostile attribution bias and aggression in adults-a systematic review. Aggression and violent behavior, 46, 66-81.
Verhoef, R. E., Alsem, S. C., Verhulp, E. E., & De Castro, B. O. (2019). Hostile intent attribution and aggressive behavior in children revisited: A meta‐analysis. Child development, 90(5), e525-e547.
Van Bockstaele, B., van der Molen, M. J., van Nieuwenhuijzen, M., & Salemink, E. (2020). Modification of hostile attribution bias reduces self-reported reactive aggressive behavior in adolescents. Journal of experimental child psychology, 194, 104811.

身体的虐待加害者のリスク因子

身体的虐待を働く加害者の特徴を知れたら、その対応策やケア方法も浮かんでくると思いませんか?
また、虐待リスクの高い方が相手だと分かっていたら、その後のケースワーク方略や支援構築検討の材料にもなりそうです。
以下、メタアナリシスであるMilner et al.(2022)を中心に整理していきたいと思います。

イントロ(翻訳)紹介 以下引用(Milner et al., 2022)
“子どもの身体的虐待(child physical abuse :以下CPA)は、被害者の精神的・身体的健康に悪影響を及ぼすだけでなく、経済的にも莫大な損失をもたらす。
米国で報告されている児童虐待(CM)の結果の年間推定コストは、800億ドル(Gelles & Perlman, 2012)から1030億ドル(Wang & Holton, 2007)である。生涯コストの推定は、1億2,400万ドル(Fang et al., 2012年)から4,280億ドル(Peterson et al., 2018年)である。推定費用に関しては、児童性的虐待に次いで、CPAが1件当たりで最も費用がかかるタイプのCMのようである(Miller et al., 1996;Wang & Holton、2007)。米国におけるCMに関連する費用見積もりは多様であり、批判がないわけではないが(Corso & Fertig, 2010)、最も保守的な見積もりを用いても、CMとCPAの経済的費用が相当なものであることは明らかである。”

CPAの生存者はまた、短期的・長期的に数多くの教育的・心理的・心理社会的問題を抱えるリスクがある。たとえば
言語や運動技能の発達の遅れ(Prasad et al., 2005)
学業成績の低下(Lansford et al., 2002)
注意欠陥多動性障害(Sugaya et al.、2012)
反抗性障害、行動障害(Flisher et al.,1997)
ディスチミア、大うつ病双極性障害(Dunn et al., 2013; Goodwin & Wamboldt, 2011)
不安障害(Flisher et al., 1997)
心的外傷後ストレス障害(Sugaya et al., 2012)など。

CPAは以下のような健康問題の危険因子でもある。
メタボリックシンドローム(Midei et al., 2013)
身体的不定愁訴(Silverman et al., 1996)
心臓病(Dong et al., 2004)
片頭痛、胃腸障害(Goodwin et al., 2003)
呼吸器障害(Goodwin & Wamboldt, 2011)
がん(Fuller-Thomson & Brennenstuhl, 2009)など。

身体的虐待を受けた子どもの、その後の予測できるリスクとしては
喫煙、過食、薬物乱用、危険な性行動など、高リスクで自傷的な行動 (Chartier et al., 2009; Duke et al., 2010)
自殺念慮や自殺未遂を起こしやすい(Dunn et al., 2013;Silverman et al., 1996)
仲間の攻撃性、デート暴力(Duke et al., 2010;Yexley et al., 2002)
重大な少年犯罪(Smith et al.,)
成人の親密なパートナーからの暴力(Bensley et al., 2003)
CPAを含む子育ての問題(Capaldi et al., 2019)など。


以下は本研究(Milner et al., 2022)の結果を紹介します。
「子どもの身体的虐待の危険因子: 系統的レビューとメタ分析」

結果:リスク因子
①中程度(r> 0.30 からr<0.50)の効果量
・個人(世話人)レベルのCPAリスクは、ES(effect size)の高い順に、
「育児ストレス」、「共感の欠如」、「自尊心の低さ」、「衝動制御の欠如」、「孤独」、「苦痛」、 「否定的な属性」、「うつ病」、「認知的制限」、「不安」、「子供の発達に関する知識の欠如」、および「敵意」
でした。
・関係 (対人) レベルのCPA リスクは、ESの高い順に、
「ネガティブな親子関係」、「家族の結束の欠如」、「ポジティブな子育て行動の少なさ」
でした。

②小さい (r < 0.30)効果量
・個人 (世話人) レベルの CPA リスクは、ESの高い順に、
「認知された子供の問題」、「精神病理学」、「問題解決」スキルの乏しさ、「子供時代のサポートの欠如」、「社会的孤立」、「加害者の出身家族における虐待の子供時代の歴史」、「個人的なストレス」、および強い「懲戒的態度と罰の信念」
でした。
・人間関係 (対人関係) レベルのCPA リスクは、ESの高い順に、
「家族の対立」と「コントロールの必要性」
でした。

まとめ
これほどにまでリスク因子が多岐にわたっている時点で、同一の対応方法を選択することは誤りだと言えます。リスク因子に沿った対処戦略をテーラーメイドしつつ実践していく以外ないかなと。
なので、予防方法も同様に、家族や地域のニーズに応じて柔軟に適用されるべきです。また、専門家や地域の支援組織と協力して、子供や家族に適切なサポートを提供することが重要です。

Milner, J. S., Crouch, J. L., McCarthy, R. J., Ammar, J., Dominguez-Martinez, R., Thomas, C. L., & Jensen, A. P. (2022). Child physical abuse risk factors: A systematic review and a meta-analysis. Aggression and violent behavior, 101778.

抽象的思考の神経基盤とASDにおける不安:前頭前野の役割

抽象化思考 Abstract thinking

1. 抽象的思考の概要
抽象的思考とは、具体的で目に見える物や考えを超えて考え、概念的な思考や問題解決に取り組む能力のことです。アイデア、概念、シンボルを生成し操作する能力、および比喩や類推などの抽象的な概念を理解する能力が含まれます。抽象的思考は、高次の認知能力と考えられており、創造性、革新性、問題解決など、人間の認知の多くの分野で重要な役割を担っています。たとえばWISCなどでは、「りんごとパイナップルの共通点」として「くだもの」を答えさせるなど、低次元(具体)情報から高次元(抽象)情報を抽出させるなどにより、この抽象的思考力を測定しています。
抽象的思考は、刺激志向の知覚(見えたもの、聞こえたもの)に由来する情報とは対照的に、自己生成的で刺激に依存しない思考として広義に定義することができます。この定義を超えて、抽象化には2つの特殊な形態が考えられます。
1.抽象化は時間的に定義することができる。抽象的思考とは、長期的な目標や過去または未来の出来事に関連する思考である。抽象的思考とは、単純な刺激の特徴ではなく、表象間の関係に焦点を当てた思考である。
2.抽象的思考は、単純な刺激特徴ではなく、表象間の関係に焦点を当てた思考である。認知過程のサブセットには、単一の時間的または関係的領域内、あるいはその両方にまたがる抽象的思考操作に対する要求が特に高いものがある。これには、①過去の思考や記憶の検索(例:エピソード記憶やソース記憶の検索)、②現在のタスクに関連する、またはタスクに関連しない自己生成情報の操作(例:それぞれ関係推論や問題解決、マインドワンダリング)、③未来に関連する思考の処理(例:計画、マルチタスク、プロスペクティブ記憶)などが含まれる。
 以上、抽象的思考と言うと“具体的じゃない情報を使用した思考力かなぁ”程度に安直な考えをもっていましたが、結構奥が深い感じがしてきます。

2. 抽象的思考に関与する脳部位:前頭前野―細胞構造と下位区分
抽象的思考はブロードマン野10(BA10)にほぼ対応する吻側前頭前野 (rostral prefrontal cortex: RPFC)が関連しているとされ、全く異なる2種類の認知能力が関連しています。
RPFCの外側(RLPFC):推論、問題解決、より一般的な抽象的思考に関与するように、環境から自己を切り離し、抽象的な規則や情報を精緻化し、評価し、維持する能力(Amati and Shallice, 2007, Christoff and Gabrieli, 2000).
RPFCの内側、すなわち内側前頭前皮質(MPFC):社会的認知、他者の心の理解に関与(Amodio and Frith, 2006, Blakemore, 2008, Van Overwalle, 2009)。
過去10年間、大規模な磁気共鳴(MRI)研究により、RPFCはヒトにおいて成熟期に達する最後の脳領域の一つであることが示されてきました。RPFCは前頭前野、前側頭葉皮質、帯状皮質と相互に接続しており、関与が深いとされています。
3. 抽象的思考の発達
抽象的思考はどのように発達するのでしょうか。この章では、1. 自己生成思考の柔軟な選択の発達、2. 論理的推論の発達、3.関係推論の発達の3点について検討します。

3.1. 自己生成思考の柔軟な選択の発達
抽象的思考の操作の重要な側面は、知覚的経験によって引き起こされる認知 (刺激指向型、SO)と、感覚的入力がないときに生じる認知(自己生成型、または刺激非依存型、SI)のバランスを調整する能力にある(Burgess et al., 2007)。
子どもにおいて、SI思考の操作は流動性知能や関係推論(Crone, 2009, Wright et al., 2008) と関連していた。視覚的注意散漫に対する耐性は、年齢とともに正確さと反応速度の両方でわずかな改善を示したが、SI思考の操作とSI思考とSO思考の切り替えは、青年期後期まで急峻な反応速度の改善を示した。
自己生成思考の操作速度の発達や、知覚に由来する思考と自己生成思考との切り替え速度の発達は、計画、推論、抽象的思考等の“思考の操作に依存する能力”の発達に関連している可能性がある(Anderson et al., 2001、De Luca et al., 2003、Huizinga et al., 2006、Rosso et al., 2004)。
つまり、抽象的思考に重要なのは具体的な刺激の認知と刺激非依存型の認知のスムーズな切り替えで、どっちかがダメだと抽象的推論も苦手なままなんですね。

3.2. 論理的推論の発達
類推による問題解決には、ある文脈や状況から別の状況へ、以前に獲得した解決策や戦略を移すことが必要である。未就学児や幼児でさえも、類推する能力を示し、ある問題から学んだ解決策を別の問題の解決に利用する。しかし、年長の子どもほど、元の問題と新しい問題状況との間の根本的な類似性を検出する能力が高い.例えば、「パン: パンの切れ端::: オレンジ:?"」というシークエンスを、「オレンジの切れ端」、「ケーキの切れ端」、「絞ったオレンジ」、「オレンジの風船」、「オレンジのバスケットボール」という選択肢のうちの1つと一致させることが求められる。
関係シフト仮説は、幼児は類推や比喩を、「まず対象の類似性から解釈し、次に関係の類似性から解釈する」というものである。この仮説は、例えば、関係類似性が物体類似性と競合する場合、幼児は物体類似性の反応を示すが、年齢や経験が増すにつれて、反応は関係類似性に沿ったものになるという観察から支持されている(Rattermann & Gentner, 1998)。この関係性の変化は、単に年齢によって決まるのではなく、知識に関連していると考えられている。
つまり、類推性を把握して解決策・戦略を別の文脈にも応用することやが推論能力の中核なんでしょうか。小学生でも、同じ問題なら解けるけど、ちょっと出題の仕方を変えると一気に解けなくなるのは、この推論能力の低さ故になのでしょうか。使用する知識量の増加が推論力の向上に寄与する可能性もあるということなのでしょうか。確かに、知識がないと推論の材料も乏しくて関係シフトできなそうですもんね。

3.3. 青年期における関係推論の発達の行動学的測定
問題の関係性推論の要求は、正しい解答に到達するために同時に考慮する必要がある次元の数、または変動要因の数で定義することができる。5歳未満の子供は、0と1の関係性の問題は解けるが、2の関係性の問題は解けない(Halford et al., 1998)。関係性推論の早期改善は、物体の類似性から関係性の類似性への移行を反映している可能性がある(Rattermann & Gentner, 1998)。小児期から青年期にかけてのさらなる改善は、関係性の知識の増加やワーキングメモリ容量の増加に関連している可能性がある(Crone et al., 2009, Sternberg and Rifkin, 1979; Richland et al., 2006を参照)。実際、Carpenter et al.(1990)は、関係推論課題の個人差につながるプロセスは、主に抽象的な関係を抽出し、ワーキングメモリ内の大きな問題解決目標を動的に管理する能力であると主張した。
つまり、論理的推論と同様に、関係推論においても、ワーキングメモリは、複数の抽象的思考を維持し、それらの比較と統合を可能にする上で重要な役割を果たしているんだなと分かります。ワーキングメモリって大事ですね。

4. ASD児の不安と抽象的思考(定義:低IQ:IQ70未満、高IQ:IQ70以上)
 ASD児童は不安が高くて防衛行動が強く柔軟性に欠けるとか、抽象的思考が困難とか、現場レベルではそういったASDの印象があったりします。実際どうなんでしょうか。

4.1. 自閉症における不安
自閉症児の約40%が不安診断の基準を満たし(Mattila et al., 2010; Simonoff et al., 2008)、一般集団の2%~24%(Merikangas et al., 2009)に対して、11%~84%(White et al., 2009)と推定されている。自閉症児が不安障害の診断を受ける確率は、神経発達障害児の2倍である(van Steensel et al., 2011)。自閉症児の不安障害の軌跡は、不安障害のみの児と類似しており、多くの場合、低年齢児では外向的行動として現れ、青年期には引きこもりや回避へと変化する(American Psychiatric Association, 2013; Kerns & Kendall, 2012; White et al., 2009)。しかし、自閉症児はより多くの強迫、より高い社会的回避、感覚過敏に関連した不安を経験する(Acker et al., 2018)

4.2. 自閉症において不安とIQがどのように・どのような理由で関連しているのか?(Mingins et al., 2021)
・IQの範囲全体を含む研究では、わずかながらも明確な正の相関があった。的障害のある自閉症の子供たちのグループは、そうでない子供たちよりも低い不安を示した。IQが正常範囲以上の子供だけを含む研究では、IQと不安の間に一貫した相関の証拠はなかった。
⇒1つの可能性は、IQと不安の関係がIQの全範囲を線形に存在する=「高いIQを持つ自閉症の子供たちは、低いIQを持つ自閉症の子供たちよりも不安レベルが高い」。
正常範囲のIQを持つ子供だけを対象にし、自閉症の子供たちとその仲間との不安の最大の差が、最も高いIQを持つ子供たちにある(van Steensel & Heeman, 2017)。
高いIQは、より高度な抽象的思考や計画を可能にし、これがより予防的な心配やそれに関連する不安を引き起こす可能性があります(Kerns&Kendall, 2012)。さらに、高いIQを持つ子供たちは、高次の機能をより遂行する能力があり、これが過去、未来、自己効力感に関する懸念を助長する可能性があり、これが不安を持続させる可能性があります(Salazar et al., 2015)。高いIQを持つ自閉症の子供たちは、自分の社会的スキルと同僚との間の乖離をよりよく認識する能力があり、これが不安を引き起こす可能性があります(Acker et al., 2018)。しかし、このパターンは、自閉症のない子供でははっきりしていません(Karpinski et al., 2018;Martin et al., 2010;Penney et al., 2015)。
ASD児の多くの場合、不安の高さが外向的行動→引きこもりや回避へと変遷していく可能性が指摘されていますが、興味深いですね。小学生くらいでは(極端な表現ですが)暴力的な行為がみられる子もいて、中学生以降は回避的になるというのは、現場の方々的には少し納得感があるのではないでしょうか。家庭内では大きくなっても暴力的な行為が無くならない子もいるのはまた別の考察が必要なのでしょうか。

以上、抽象的思考と関連する状態についてまとめてみました。分かっていたようで意外と難しい概念も含まれていて、やっぱ調べてみるもんだなと思いました。

今回は主に↓2本の論文からの引用です。
Dumontheil, I. (2014). Development of abstract thinking during childhood and adolescence: The role of rostrolateral prefrontal cortex. Developmental cognitive neuroscience, 10, 57-76.
Mingins, J. E., Tarver, J., Waite, J., Jones, C., & Surtees, A. D. (2021). Anxiety and intellectual functioning in autistic children: A systematic review and meta-analysis. Autism, 25(1), 18-32.

攻撃性のタイプ/リスク因子/神経機序/介入

攻撃性一般

攻撃性とは一般的に、他人に危害や傷害を加えることを意図した行動を指す。身体的攻撃、言語的攻撃、関係的攻撃など、さまざまな形で現れます。
身体的攻撃には、殴る、蹴る、押すなど、身体に危害や損傷を与える行為が含まれます。
言葉的攻撃には、怒鳴る、侮辱する、脅すなどの行為が含まれます。
関係性攻撃には、社会的関係を操作したり、噂を流したりして、誰かの社会的地位や人間関係を傷つけることが含まれます。

攻撃性は否定的なものと考えられがちですが、攻撃性が防御機構として機能する場合や、挑発やストレスに対する反応として機能する場合があることは見落とされがちだったりします。
攻撃性を理解するには、社会的背景、個人の心理、根底にある動機やきっかけなど、行動に影響を与える複数の要因を考慮した視点が必要です。効果的に対処するためには、そういった知識の上で戦略を練っていかなきゃです。

1.攻撃のタイプ:反応/積極型、虐待、IPV
攻撃って色んなタイプがあります。計画的だったり、反射的だったり。ここでは2つの型が言及されていて、その2つの型はそれぞれ異なる要因・様子があります。以下、先行研究が続きます。
反応的攻撃性:(a)怒り,憤怒,敵意を必ず伴う,(b)欲求不満や知覚された挑発に反応して起こる(特に対人関係において),(c)不快な情動状態を鎮めるというより初歩的な目的によって動機づけられる攻撃性,である。
積極的攻撃性:(a)常に怒りや怒りなどの否定的な情動状態を伴わず,(b)典型的には,挑発されるのではなく,加害者によって開始され,(c)価値のあるもの,例えば,物,報酬,権力,地位,社会的優位を得るという期待によって明示的に動機づけられていることが特徴的である(Rosell & Siever, 2015)。
反応的攻撃性と積極的攻撃性は同時に存在するにもかかわらず,この2つのサブタイプは重要な相違を示す。反応的攻撃性は虐待歴(Dodge,Lochman,Harnish,Bates, & Pettit 1997,Kolla,Malcolm,Attard,Arenovich,Blackwood & Hodgins, 2013),負の感情性,衝動性(Cima,Raine,Meesters & Popma,2013 ; Raine,Dodge & Loeber,2006)と関連しており,CU特性(精神病質の構成要素)はやや負の予測をする。
一方,積極的攻撃性は,サイコパス(Kolla,Malcolm,Attard,Arenovich,Blackwood & Hodgins ,2013)の身体的攻撃性,暴力犯罪と正の相関があることが示された(Cima,Raine,Meesters & Popma,2013 )。さらに,社会的手がかりに敵意を過剰に帰属させる傾向,すなわち敵意帰属バイアスは反応的攻撃性と関連するが,積極的攻撃性とは関連しない(Arsenio, Adams & Gold ,2009 ; Hubbard, Dodge, Cillessen, Coie & Schwartz ,2001). 一方,暴力や攻撃行為が好ましい結果につながるという確信,すなわち正の結果期待感は積極的攻撃性と特に関連している(Smithmyer, Hubbard & Simons ,2000 ; Walters ,2007).
最後に,攻撃性に関連する刺激による注意の干渉は,反応的攻撃性と相関がある(Brugman, Lobbestael & Arntz, 2015 )。

1-1.反応的攻撃性
 脅威に対するこの哺乳類の反応が、扁桃体 内側から、主に 終末線条を介して視床下部内側へ、そしてそこから中 脳水道周囲灰白質 (PAG) の背側半分へと 走る回路を介して媒介されることを示している(Gregg & Siegel, 2001 ;Lin et al., 2011 ; Nelson & Trainor, 2007)。 この回路は、脅威だけでなく,フラストレーションや社会的挑発に対しても、人間の反応的攻撃を媒介すると主張されてきた(Blair, 2004 )。参照:フラストレーション(Yu et al., 2014)、社会的挑発に対する報復(da Cunha-Bang et al., 2017 ; White et al., 2014)。
 この回路 (扁桃体視床下部、および PAG) が過敏性である場合、個人は脅威/フラストレーション/社会的挑発に対して反応性暴力のリスクが高いと予測できる(Blair, 2019)。間欠性爆発性障害 ( Coccaro et al., 2007 )、重度の気分調節障害 (Thomas et al., 2013)、境界性パーソナリティ障害 (Hazlett et al., 2012)、反応的に攻撃的な若者 (White et al., 2016)、および衝動的なIPV( Lee,Chan, & Raine, 2008 ) は脅迫的な刺激に対する扁桃体の反応性が高い。さらに、衝動的な攻撃の傾向と恐怖の表現に対する扁桃体の反応との間の正の関連性が報告されている(Choe et al., 2015)。

1-2.積極的攻撃性
積極的攻撃性は道具的攻撃ともいえます。道具的攻撃は、目標を達成するための個人の行動反応の選択の結果です。
じゃあなぜ一部の人々は、他の人よりも目標を達成するためにこの行動を選択するのでしょうか?
道具的攻撃を選ぶ人は、それ開始することにより、達成されると予想される報酬に基づいて、行動を選択する(Blair et al., 2018)。これは、次の場合に個人が道具的暴力に関与する可能性が高いことを示唆しています。1.行動の期待される報酬が特に顕著、2.行動に対して予想される罰の不透明さ、3.期待値の表現を可能にする神経メカニズム…など。
手段としての暴力の潜在的な報酬を理解したり、他者の潜在的な負のコストを理解できないと、暴力などの反社会的行動に関与する可能性が高まる(Blair, 2003)。
一部の暴力的な個人は、他人の感情表現を処理する能力に障害を示し ( Dawel et al., 2012 ; Marsh & Blair, 2008 )、他の個人の苦痛、特に恐怖に対する扁桃体や島の反応が低下し ( Decety et al., 2014; Dolan & Fullam, 2009 ; Jones et al., 2009 ; Lozie et al., 2014 ; Marsh et al., 2008 ; Michalska, Zeffiro, & Decety, 2016 ; Viding et al.,2012)、他人の苦痛に対する扁桃体の反応が低下した人は、手段による暴力に関与する可能性が高くなる (Lozier et al., 2014)。

1-3.虐待
虐待は、暴力のリスクとの関連だけでなく、脅威に対する扁桃体の反応性を高めることが頻繁に観察される (McCrory et al., 2017)。扁桃体の反応性に対するこの影響は、虐待と特に反応性攻撃のリスクの増加との関連の多くを仲介している可能性が高い (Blair et al., 2018)。 しかし、強化情報の表現が虐待後に損なわれる可能性があることを示唆する最近の発見を考慮することは有用です(Hanson et al., 2017)。
身体的虐待加害のリスク因子について、加害者の個人要因では、中程度の効果量:「育児ストレス」「共感の欠如」「自尊心の低さ」「衝動制御の欠如」「孤独」「苦痛」「否定的な属性」「うつ病」「認知的制限」「不安」「子供の発達に関する知識の欠如」および「敵意」/低い効果量:「認知された子供の問題」「精神病理学」「問題解決スキルの乏しさ」「子供時代のサポートの欠如」「社会的孤立」「加害者の出身家族における虐待の子供時代の歴史」「個人的なストレス」および「強い懲戒的態度と罰の信念」。関係性要因では、中程度の効果量:「ネガティブな親子関係」「家族の繋がりの欠如」「ポジティブな子育て行動の少なさ」、低い効果量:「家族の対立」「コントロールの必要性」であった(Milner et al., 2022)。
児童性的虐待者は健常対照者と比較して、実行機能におけるセットの切り替え・抑制・言語機能に多くの欠損が認められた。児童性的虐待者を非性的加害者や成人に対する性的加害者と比較した場合、明確な差は認められなかった。⇒性的虐待加害者は健常者と比較すると特異だが、一般犯罪者と比較して特異といえる根拠はなかった(Turner & Rettenberger, 2020).

1-4.親密なパートナーによる暴力(DV・IPV) (Dempsey et al., 2023; Stover et al., 2022)
IPV犯罪者の認知的リスク因子は、認知の柔軟性 (Romero-Martínez et al., 2019; Romero -Martínez, et al., 2013)、実行機能(Stanford et al., 2007 ; Westby & Ferraro, 1999) 、衝動制御 (Chan et al., 2010 ; Romero-Martínez et al., 2019 ; Schafer & Fals-Stewart, 1997)機能の低さが認められた。さらに、アルコール乱用IPV犯罪者だと、ワーキングメモリ(Easton et al., 2008)、実行機能と認知的柔軟性(Romero-Martínez et al., 2019 ; Romero-Martínez et al., 2016 ; Vitoria-Estruch et al., 2018)の低さが認められた。
児童虐待とIPV目撃 (Brown et al., 2015 ; Capaldi et al., 2012 ; Mair et al., 2012)は、成人期のIPVと関連。虐待などの幼少期ストレスは、扁桃体や海馬などの脳領域の変化を含む神経生物学的変化によって衝動制御が不十分になり、IPV 使用のリスクが増加する可能性 (Zietz et al., 2020 ; Lovallo, 2013 ; Anda et al.,2006)。さらに、子供時代の身体的虐待の経験は、子供のストレス反応システムの変化と関連しており、それはコルチゾール反応の鈍化の証拠とともに持続する可能性がある (Carpenter et al., 2011 ; Suzuki et al., 2014)。
身体的および心理的IPV(DV)の動機としては、「自己防衛」「感情的な傷に対する報復」「コミュニケーションの困難」が認められた(Dempsey et al., 2023)。
IPV犯罪者の脳について、扁桃体(Flanagan et al., 2019;Verdejo-Román et al., 2019)や前頭前皮質(Bueso-Izquierdo et al., 2016)の機能不全、P3 成分の振幅の減少 (Stanford et al., 2007)等が認められた。
テストステロンは、一般的に犯罪行為や攻撃性に関連していることが長い間発見されてきたが( Higley et al., 1996 )、IPV のみを使用する男性のテストステロンレベルの上昇を検出した多数の研究がある(Romero-Martínez et al., 2016)。テストステロンは、IPV男性の急性ストレッサーに反応して免疫応答を間接的に刺激する可能性がある(Romero-Martínez et al., 2014)。


2.リスク因子
2-1.外的変数
(a) 出生前の危険因子 (例えば、胎児のアルコールへの曝露、産科合併症)、(b) 一般的な育成 (例えば、重要な 暴力への暴露 、社会経済的地位および文化的背景)、(c) 身体的および性的虐待、(d) 育児スタイルおよび子供時代の虐待 ( 例、親の不在または早期の母親の拒絶)、(e) 遺伝的素因 、(f) 脳病変 、(g) 初期の健康リスク要因、(h) ピア グループ、および (i)低所得地域に住むこと ( Bergeron & Valliant, 2001 ; Broomhall, 2005 ; Friedman et al., 2018 ; Hancock, Tapscott, & Hoaken, 2010 ; Ishikawa et al., 2001 ; Pennuto, 2007 ; Raine, 2019 ; Volavka, 1999 )。
一般的な犯罪の強い予測因子=家族・親の次元で、犯罪の持続性の重要な予測因子=犯罪志向集団/学校・雇用/家族/精神的健康/酒・薬物乱用 (Basto-Pereira & Farrington, 2022)。

2-2.実行機能
暴力的な犯罪者は、自己調整と自己制御といった実行機能の欠如傾向にある(Cruz et al., 2020)。
攻撃的な人はまた、フィードバックの手がかりを使用して行動を調整し、迅速な決定を下すことができないことを示しており、その結果、挑発に対して攻撃的で不釣り合いな反応を示す可能性が高くなる(Hoaken et al., 2003)。

2-3.衝動性
衝動性にはさまざまな側面(すなわち、負の衝動性、正の衝動性、計画性欠如、忍耐欠如、感覚追求)がある。負の衝動性とは、個人が負の感情を感じたときに無謀な行動をとる傾向を指し、正の衝動性とは、正の感情を感じたときに衝動的な行動をとる個人の傾向、感覚追及はスリルを求める行動への個人の関与を示し、外向性に関連。
衝動性が高いほど攻撃性が高く、さらに、負の衝動性、正の衝動性、計画性の欠如は、他の側面よりも攻撃性と有意に強い関連を示した(Bresin, 2019)。
反応的攻撃性は衝動性(Cima et al., 2013 ; Raine et al., 2006)と関連を示した。

2-4.敵意帰属バイアス(cf. Tuente, Bogaerts & Veling, 2019)
幼少期や青年期に否定的な経験に遭遇した人は、他者の曖昧な行動を敵対的、脅威的、自分自身に向けられたものとして経験する可能性が高く、脅威に対する過敏性と敵対的な意図帰属の持続的なパターンに影響される(Dodge et al., 2015)。人の行動が意図的に有害であると認識されることで、こうした人はより攻撃的に反応しやすくなる。このメカニズムは「敵対的帰属バイアス」(HAB)と呼ばれる。
HABとは、特に社会的文脈の手がかりがあいまいであったり、予測不可能であったり、解釈が困難であったりする場合に、他者の行動を敵対的意図があると解釈してしまう傾向のことで(Milich & Dodge, 1984)、環境の手がかりの不正確な解釈が敵意と関連が示されている (Hoaken et al., 2007)。社会的情報処理理論によれば、HABは、現在の否定的な出来事によって、他者や出来事を表す否定的な認知スキーマや経験が活性化され、過去の出来事と意識的または無意識的に関連づけられることで出現する(Guerra & Huesmann, 2004)。
挑発や脅威に対する誰かの反応は、客観的な社会的手がかりのみに依存するのではなく、社会的情報の処理方法に強く影響されるとしている(Setchell, Fritz, & Glasgow, 2017)。社会的情報の処理は、(i)手がかりを符号化することから始まり、次のように循環的に行われる: (ii)それらの手がかりの解釈、(iii)目標の明確化、(iv)反応の生成、(v)反応の選択と効果評価、そして最後に(vi)行動である(Crick & Dodge, 1994)。最初の2つの段階は初期社会情報処理と呼ばれ、不明瞭であいまいな状況を誤って解釈し、脅威の思考や感情を呼び起こすため、反応性の攻撃行動を引き起こすと提唱されている。HABはこの段階の重要な構成要素である。
HAB と攻撃性の間に小から中程度の正の関連を示し、攻撃性の高い個人はあいまいな刺激や敵対的な状況で一層相手が敵対的な意図を持っているとも考えることが示唆された(Tuente, Bogaerts & Veling, 2019)。
反応的攻撃性におけるHABは脅威に関連する刺激に向けられるという注意処理の偏りに関連(Manning, 2020)。

2-5.社会的要因
 反応的攻撃性は虐待歴(Dodge et al., 1997; Kolla et al., 2013)、早期の問題行動、仲間関係不適応(Dodge et al., 1997)と関連。

3.神経学的機序
3-1.衝動的攻撃
腹側線条体機能の低下は,攻撃性の誘因となる対人的な侮辱や社会的拒絶に対する過度の過敏性など,不均衡なフラストレーションの影響を受けやすく,衝動的攻撃性(衝動的反社会性の一要素)と関連する可能性を示唆している(Buckholtz, Treadway & Cowan,2010)。

3-2.挑発に対する攻撃
反応性暴力のリスクが高い人は、急性脅威システムの神経回路の反応性が高い。この高い反応性は、挑発 (脅威、フラストレーション、社会的挑発) に対しては回避・フリーズ反応でなく、反応的な攻撃を開始することを意味する可能性(Blair, 2019)。
被験者が攻撃的行動をとるか金銭的報酬を追求するかを選択し、挑発(金銭的減算)後の脳の活性化を測定した。結果、暴力犯罪者は対照者よりも攻撃的に行動し、扁桃体線条体における挑発に対する脳の反応性が有意に高く、扁桃体-前頭前野および線条体-前頭前野の結合性が低下していた。挑発に対する扁桃体の反応性は、暴力的犯罪者の課題関連行動と正の相関があった。挑発に対する線条体および前頭前野の反応性は、特性怒りおよび特性攻撃性と正の相関を示した。⇒暴力的な人は社会的挑発に対する神経感受性が異常に高く、攻撃的行動に関連する感受性を示すことを示唆(da Cunha-Bang et al., 2017)。

3-3.不平等扱いへの拒絶
自分自身が不平等扱いの条件では特に拒絶と関連する内側前頭前皮質と、自分自身と第三者の両方の条件では拒絶と関連する左前島皮質との間に解離が認められ、第三者に対しても公正な行動を促進することが示唆(Corradi-Dell'Acqua et al., 2013)。

4.その他攻撃性との関連
4-1.犯罪・攻撃の否認
心理的な苦痛を感じていること、犯罪を認める、被害者への共感、治療の動機の表明 と再犯の減少との間に相関関係はない (Hanson & Morton-Bourgon, 2019)。
IPV(≒DV)についての法律の認識を高めることでIPVが減少(Song et al., 2017)。

4-2.関係性攻撃:Relational aggression
関係攻撃性とは、広くは「社会的排除」や「友情操作」(Voulgaridou et al., 2019 )などにより、他人の人間関係を傷つけるために使用される行動。具体的には、噂、秘密、嘘の流布、悪意のある噂話、仲間はずれを指し、それは言語的・非言語的な方法(一部の仲間を避ける、無視する、無言で接する)で現れることがあり、社会的関係を終わらせると脅したり、意図的な関係操作・友情操作によって他者を傷つけたりする(Crick & Grotpeter, 1995; Murray-Close, Nelson, Ostrov, Casas, & Crick, 2016; Voulgaridou & Kokkinos, 2015)。
身体的攻撃性は幼児期 (18 ~ 30 か月)にピークに達し、その後、子供が自己調整能力を発達させ、認知および言語の発達と社会的情報処理が増加するにつれて減少する。対照的に、関係性攻撃性は幼児期に現れ、特に年長の女の子ではやや安定したまま (Blakely-McClure & Ostrov, 2016;Crick et al., 2006)。
心理社会的要因:社会的認知、子育てのスタイル、実行機能、言語発達、抑うつ症状、メディア、多動性衝動性、不安などがあるが、包括的な調査は不十分 (Swit & Slater, 2021).

5.介入
「苦痛の手がかりに対する扁桃体の反応の減少に関連する道具的暴力の神経認知的危険因子/脅威・欲求不満・および社会的挑発に対する扁桃体の反応の増加に関連する反応的暴力の神経認知的危険因子/vmPFC内の価値の機能不全の表現に関連する暴力の神経認知危険因子」システムのいずれかが機能不全に陥ると、個人の暴力のリスクが高まる。介入は、将来の暴力を防止する (または少なくともそのリスクを軽減する) ために、個人の特定の形態の機能不全に的を絞る必要がある。他人の苦痛に対する扁桃体の反応性を高めるように設計された介入は、過度の脅威への反応性による反応的攻撃の増加を示す人にとって、利益をもたらす可能性は低く、困難を悪化させる可能性さえある(Blair, 2019)。
反応性暴力のリスクが高まることに直面している攻撃的な個人は、感情的な反応を減らすためのテクニックが役立つ可能性があります。 確かに、これらのテクニックは、トラウマを経験した患者に対して存在し、脅威への反応性を低下させることが示されています (Cisler et al., 2015 ; Cisler et al., 2016; van Rooij et al., 2016)。 さらに、参加者に 感情制御 戦略のトレーニングを行うと、一部の若者の反応的攻撃が減少することが示されています (Ford et al., 2012 ; Gatzke-Kopp et al., 2015 )。

以上、攻撃性の知見をまとめてみました。
攻撃性という概念の幅広さと深さを感じました。
先行研究をベースに、その対象に合った対処戦略を構築していくことが大事になると思いました。

引用文献(一部…)
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ASDの心理学的特徴と神経学的特徴

1.社会的コミュニケーションと相互作用
 1-1.認知的共感と情動的共感
 1-2.表情認知
2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors
3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties
4.実行機能(Executive Function :EF)と心の理論(Theory of Mind :ToM)
5.ASDにおける攻撃性
 5-1.有病率および影響
 5-2.ASDにおける攻撃性の治療
6.神経学的特徴
 6-1.概要
 6-2.共感に関連の深いネットワーク
 6-3.ASDセロトニンドーパミンシステム
7.他障害との関連
 7-1.ADHD
 7-2.感情調節(Emotional Regulation: ER)障害

0.ASDの概要
自閉症スペクトラム障害ASD)は、社会的コミュニケーションや相互作用に障害があり、行動、興味、活動のパターンが制限的で反復的であることを特徴とする神経発達障害です。2010年以降の研究成果をもとに、ASDの心理・神経学的特徴をご紹介します。以下にASDをとりまく要素などを概説して、詳細は続きに記載していきます。
1.社会的コミュニケーションと相互作用の欠落:ASDの方は、社会的な合図を理解すること、社会的な関係を築くこと、維持すること、アイコンタクトや表情、ボディランゲージなどの非言語コミュニケーションを適切に用いることが困難な場合があります。これらの障害は、社会的状況、友達作り、恋愛関係の形成に困難をもたらす可能性があります。
2.制限的で反復的な行動:ASDの人は、体を揺らしたり、手で叩いたり、物を回したりするような反復的な行動をとることがあります。また、非常に特殊な興味や習慣を持ち、変化や移行を苦手とする場合もあります。
3.感覚処理の困難さ:ASDの方の多くは、音や感触、匂いなどの特定の感覚刺激に対して過敏になったり、過少になったりするなどの感覚処理上の困難を経験します。
4.実行機能と心の理論の欠陥:実行機能とは、計画、組織化、タスク遂行に関わる一連の認知プロセスを指します。ASDの方は、計画、整理、問題解決など、実行機能のタスクに苦労することがあります。また心の理論とは、他人が自分とは異なる考え、信念、感情を持っていることを理解する能力のことを指します。ASDの方は、心の理論に困難があるため、社会的なコミュニケーションや他者の視点を理解することに問題がある可能性があります。
5.攻撃性:ASDの攻撃性の高さについても研究が蓄積されています。
6.神経学的特徴:神経画像研究により、ASDの方は脳の構造と機能に違いがあることが示されています。感情の処理に関わる脳領域である扁桃体ASDの方では肥大している一方で、前頭前野などの他の領域が不活発である可能性があることを示唆する研究もある。これらの神経学的な違いは、ASDで観察される社会性やコミュニケーションの障害の一因となる可能性があります。
7.併存疾患:ASD患者の多くは、不安、うつ病ADHDてんかんなどの併存疾患を抱えています。これらの併存疾患は、診断や治療を複雑にする可能性があります。特にADHDとの辺損について、最近研究が進められています。

1.社会的コミュニケーションと相互作用
1-1.ASDの認知的共感と情動的共感について
認知的共感と感情的共感は、共感の重要な2つの要素です。
認知的共感とは、相手の表情や声のトーンなどの非言語的な手がかりから、相手の精神状態や感情状態を理解し予測する能力のことです。
感情的共感は、他者の感情を感情的に共有する,あるいは身体反応を伴って同期、共有する能力を含んでいます。
2010年以降の研究により、自閉症スペクトラム障害ASD)の方は、認知的共感と感情的共感の両方が困難である場合が多いことが明らかになっています。ある研究では、ASDの人は認知的共感能力に問題がないが、感情的共感能力に問題があることが示唆され、また別の研究では、両方の共感能力に障害があることが示されています。
これらの共感障害の説明として考えられるのは、行動や感情の知覚と模倣に関わるミラーニューロンシステム(MNS)の機能障害である。いくつかの研究では、ASDの人は感情表現を観察する際にMNSの活動が低下していることが分かっており、これが感情的な共感の困難さの一因になっている可能性があります。
また、表情や身振り手振りを含む社会的な手がかりを解釈する能力の欠如も、その一因と考えられます。ASDの人は感情表現を認識し解釈することが難しいことが研究で示されており、それが認知的共感と感情的共感の両方における障害の一因になっている可能性があります。

1-2.表情認知
ASD では,顔処理と同様,表情情報も非定型的に処理していると考えられている.例えば,定型発達では,ネガティブな感情については目に,ポジティブな感情については口に注目するのに対し,ASD ではそもそも顔・表情,その中でも目への注視時間が短い. 動的表情を複数の速度で呈示された際に,表情変化の自然さを評定すると,ASD では表情の変化速度が遅くなっても不自然さを感じにくいといった表情変化速度処理の非定型性,また,幸福表情の認識そのものには影響ないが,幸福表情の検出が遅い、(定型発達においては,感情表情の検出は中性表情と比較して素早いことが知られている)といった表情知覚に関する問題も指摘されている.
上側頭溝および扁桃体は,顔情報の動的な側面を処理する領域であり,表情を見ている際に,ASD では定発達と比較して活動が低下しているという報告が多数なされている.扁桃体は目への注視によってその活動が調整され,ASD では目への注視時間が短縮していることから,注意の向け方の問題が扁桃体の活動に大きく影響しているという指摘もある.しかし,注視点の呈示により目への注目を高めても表情を見ている際の扁桃体の活動は低下しているという報告が一定存在することから,ASDにおいては扁桃体の機能不全により表情認知が障害されていることが示唆される.
Facialmimicry には,他者の運動を観察した時に活動すると同時に自身が同じ運動を行う際に活動する神経システムであるミラーニューロンシステムが重要な役割を果たすと考えられており,顔の動きを知覚する上側頭溝,運動知覚に関わる情報を処する下頭頂小葉,模倣の神経基盤である下前頭といった領域がヒトでは関与する。ASD では情動認知の障害に加えて,情動的行動の表出の少なさも中核的症状の一つであり,実証研究では,他者とのやりとりの際に表情反応の減少や場面にそぐわない表情の表出があることが見出されてきた.近年facialmimicry の減少やタイミングの遅れの報告も相次いでおり,facial mimicry の障害,すなわちミラーニューロンシステムの不全が,ASD における情動認知の障害に影響を与えている可能性がある。

2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors
自閉スペクトラム症ASD)に見られる制限・反復行動(restricted and repetitive behaviors:RRB)の原因は、複雑かつ多面的であり、未だ完全には解明されていません。しかし、2010年以降の研究により、ASD患者のRRB潜在的な基礎メカニズムが明らかにされました。
有力な説のひとつは、ASD患者のRRBは、認知・知覚処理の困難さに起因している可能性があるというものです。具体的には、ASDの人は、特定の感覚刺激や詳細に注目する傾向があり、同時に、異なる領域にわたる情報を統合して処理することが困難であると考えられています。このため、注意の焦点が狭く柔軟性に欠け、圧倒的な感覚環境に対処する方法として、ルーチンや儀式に過度に依存するようになる可能性があります。この説は、ASD患者の感覚処理、注意、実行機能を司る領域における脳活動の違いを示す神経画像研究によって支持されています。
もう一つの説は、RRBは脳内の興奮性神経活動と抑制性神経活動の間の不均衡から生じる可能性があるとするものです。この説によると、ASDの人は興奮系が過剰に働くため、特定の内容や興味に過度に集中し、注意を柔軟に転換したり、環境の変化に適応したりする能力が低下している可能性があるという。同時に、抑制性神経活動の欠損があり、反復行動や自己制御の困難さの一因となっている可能性があります。この説は、ASD患者における抑制的制御と認知的柔軟性の基盤となる神経メカニズムを検討した研究によって支持されています。
これらの認知的・神経的要因に加え、社会的・環境的要因もASD患者のRRBの発達・維持に寄与している可能性がある。例えば、RRBは不安やストレスを軽減する方法として機能したり、これらの行動を行うことで注意や他の報酬を不用意に与える介護者によって強化されることがある。さらに、ASDの特徴である社会的相互作用やコミュニケーション能力の欠如は、社会規範や慣習を理解することの難しさにつながり、その結果、社会世界をナビゲートする方法として、反復行動や儀式的行動に依存することにつながるかもしれません。
まとめると、ASD患者におけるRRBの根本的な原因は、認知的、神経的、社会的、環境的な要因が複雑に絡み合い、多面的であると考えられる。近年、これらのメカニズムに対する理解は著しく進んでいるが、ASD患者におけるRRBの発達と維持については、まだ多くのことが分かっていない。

3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties
まず、感覚処理とは、環境からの感覚情報を受け取り、解釈し、反応する脳の能力であることを理解することが重要です。これには、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のほか、体の位置や動きの感覚(固有感覚)、平衡感覚(前庭感覚)など、あらゆる感覚からの情報が含まれます。
研究により、ASDの方は、脳が感覚情報を処理する方法に違いがあることが分かっています。この違いは、脳が入力された感覚情報を処理し、フィルタリングする方法に関係しているという説があります。ある研究では、ASDの人は感覚系が「うるさい」または「過敏」である可能性があり、感覚情報が圧倒されたり、痛みを感じたりする可能性があると指摘しています。また、ASDの方は、複数の情報源からの感覚情報を統合することが難しく、混乱したり、環境を理解することが難しくなったりする可能性があることを示唆する研究もあります。
神経学的に、研究者はASD患者の脳の構造や機能に違いがあり、それが感覚処理の難しさにつながっている可能性があることを発見しました。例えば、ASDの方は、感情処理に関わる扁桃体や、運動制御や協調に関わる小脳など、特定の脳領域の大きさや結合性に違いがあることが、いくつかの研究でわかっています。これらの違いは、脳が感覚情報を処理する方法に影響を与える可能性があります。
ASDにおける感覚処理の難しさを説明するもう一つの可能性は、ASDの人が環境とどのように関わっているかに関連しています。研究者の中には、ASDの人は感覚環境を調整する方法として、反復行動や定型的な行動をとることがあると指摘する人もいます。例えば、回転や揺れは、感覚情報に圧倒されている人に癒しや心地よさを与えるかもしれません。
まとめると、ASDにおける感覚処理障害の根本的な原因は複雑であり、神経学的要因と環境要因の組み合わせが関係している可能性が高い。これらの困難を引き起こすメカニズムを完全に理解するため、さらなる研究が必要である。

4.実行機能(Executive Function :EF)と心の理論(Theory of Mind :ToM)
EFの障害は反復行動パターンには特異的であるが、制限行動パターンには特異的ではないことが示唆された(1Boyd et al., 2009)。制限行動や反復行動の症状とEFを関連付ける理論が導かれ、EFの構成要素がASDの行動クラスター内で区別できることが示唆された。
反応抑制の構成要素である事前反応抑制と干渉制御を調査した小児と青少年におけるメタアナリシスでは、年齢による違いが確認された(Geurts et al., 2014)。反応前抑制の障害は年齢が高くなるにつれて弱まるが、干渉制御の障害は生涯にわたって持続した。小児と青年におけるワーキングメモリの調査(Wang et al., 2017)では、言語性ワーキングメモリと空間性ワーキングメモリの両方に障害があることが明らかになった。年齢による差はなかったが、言語性ワーキングメモリと比較して空間性ワーキングメモリでより大きな効果サイズが観察され、ASDの青少年では空間領域でより大きな困難があることが示唆された。プランニングは適応行動における重要なEFと考えられており、メタアナリシスではASDのプランニングの障害が報告されている(van den Bergh et al., 2014)。プランニングの困難さは、年齢、知的機能、アセスメントタイプの影響とは無関係であった。上記のメタアナリシスでは、個別のEFの障害が確認されている。しかし、これらが共通のメカニズムによって支えられているのか、あるいはASDにおいて個別のEFが異なって障害されているのかは不明であった。
しかし最近行われた2つのメタアナリシス(Lai et al., 2017 ; Demetriou et al., 2018)では、ASDにおける複数のEF領域にわたるクールEFが調査され、この疑問が解決された。EFの広範な障害は、小児と青少年(Lai et al., 2017)とライフスパン(Demetriou et al., 2018)の両方で観察された。(Lai et al., 2017)のメタアナリシスでは、反応抑制とプランニングの障害は、柔軟性(セットスイッチングとセットシフト)、生成性/流暢性、ワーキングメモリーの障害に比べてあまり顕著ではなかった。(Demetriou et al., 2018)のメタアナリシスでは、上記のすべての領域で障害が確認された。両研究とも、根底にある共通の経路がASDのEFプロセスに影響を与えている可能性を示唆している。
ToMとの関連について、EFがASDのToMパフォーマンスに影響を与え(Kouklari et al., 2018 ; Pellicano, 2007)、社会的コミュニケーション・クラスタに影響を与える可能性を示している。ToMモデルは、心的状態を自己と他者に帰属させる能力の障害が、社会的コミュニケーション・クラスタで観察される障害を含むさまざまな障害の一因であると提唱されている (Mazza et al., 2017)。最近の研究では、ToMが障害を予測する可能性も指摘されている(Pepper et al., 2018)。EFとToMの間の推定される関連性を支持する知見として、ワーキングメモリの減少が社会的コミュニケーション能力を緩和するというものがある(McEvoy et al., 1993)。
他者の痛みへの共感についての研究がある。静的刺激および動的刺激として、痛みを伴う全身動作の写真とビデオを用いた。両群とも、刺激中のモデルが痛みを感じているかどうかを判断するよう指示し、その反応時間、正確さ、事象関連電位(ERP)データを記録した。その結果、痛みを伴う静的刺激を見た場合、高ASD群では低ASD群よりも反応が大きかったが、痛みを伴う動的刺激を見た場合、両群間に差は認められなかった。つまり、自閉症特性が静的刺激に対する他者の痛みの情動処理に影響を及ぼしていることを示唆していた(Li et al., 2022)。

5.ASDにおける攻撃性
5-1.有病率および影響
攻撃的な行動はASDの人に比較的多く見られ、有病率は50%から70%と推定されています。攻撃性の結果は、他者への傷害や自傷行為、社会的状況からの排除、教育や職業機会へのアクセス制限など、深刻なものになることがあります。さらに、ASD患者の攻撃性は、その行動の重大性と持続性、そして根本的な原因の理解が限られているため、特に管理が困難な場合があります。
ASDにおける攻撃性の原因には、生物学的要因、環境要因、社会的要因など、多くの可能性があります。以下では、2010年以降の研究で明らかになった、ASDにおける攻撃性の原因として最も著名なものをいくつか紹介します。
感覚の過負荷 :ASDの患者さんには感覚処理の障害がよく見られ、感覚過敏や過敏になることがあります。感覚刺激に圧倒されると、ASDの人は覚醒レベルを自己調整する方法として、攻撃的になることがあります。
コミュニケーションの困難さ:コミュニケーション障害はASDの中核的な特徴であり、自分のニーズを表現できなかったり、他人を理解できなかったりすると、フラストレーションや攻撃性につながる可能性があります。
社会的孤立:社会的孤立もASDの方によく見られる症状で、不安やストレスのレベルの上昇につながることがあります。攻撃性は、この不安やストレスを表現する方法のひとつかもしれません。
遂行機能障害:計画、問題解決、衝動制御の問題など、実行機能の障害はASDの方に多く見られます。これらの障害は、攻撃的な行動の発生や持続の一因となる可能性があります。
精神衛生状態の併発:ASDの方の多くは、不安、うつ、ADHDなどの精神的な健康状態も併発しています。これらの疾患は、攻撃的な行動の発生を助長する可能性があります。
自閉症スペクトラム障害ASD)の児童・青年1,380人を対象に、攻撃性の有病率と危険因子を検討した。有病率は高く、68%が養育者に対して、49%が非養育者に対して攻撃性を示したことがあると親が報告していた。全体として、攻撃性は、臨床医が観察したASD症状の重症度、知的機能、性別、配偶者の有無、親の教育レベル、コミュニケーションの側面とは関連していなかった。年齢が低い人、高収入の家庭の出身者、親が報告した社会的/コミュニケーション上の問題が多い人、反復行動をとる人は、攻撃性を示す可能性が高かった(Kanne & Mazurek, 2011)。
反応的攻撃性は、定型発達児では感情的共感と負の相関を示したが、ASD児では正の相関を示した。この結果は、感情調節の乏しさと他者の感情理解の障害の組み合わせが、ASD児の攻撃的行動と関連していることが示唆された(Pouw et al., 2013)。
ToMは一般的な攻撃性を低下させる一方で、攻撃性は発達段階においてToM能力の低下をも生じさせる可能性があることが示唆され、いじめ以外の攻撃性とToMの間には負の相関がああるが、いじめとToMの間には相関がなかった(Wang et al., 20223)。

5-2.ASDにおける攻撃性の治療
ASDの攻撃性を軽減するのに有効であることが示されているいくつかの介入がある。以下のようなものがあります。
感覚統合療法:感覚統合療法は、ASD患者の覚醒レベルを調整し、攻撃性を軽減するために、感覚的な体験を利用するものです。
ソーシャルスキルレーニング:ソーシャルスキルレーニングは、ASDの方のコミュニケーション能力の向上、社会的孤立の解消、欲求不満や不安を解消するための対処法の開発に役立ちます。
薬物療法抗精神病薬気分安定薬などの薬物療法は、一部のASD患者の攻撃性を軽減するのに有効な場合があります。しかし、薬物療法には副作用があり、すべての人に有効であるとは限らないため、注意して使用する必要があります。
行動的介入:応用行動分析(ABA)のような行動的介入は、ASD患者の攻撃的な行動を減らすのに効果的である可能性が言われていた。これらの介入は、行動の先行要因と結果を特定し、攻撃性の可能性を減らすために、それらの要因を修正する計画を立てることに重点を置いています。しかし現在のメタアナリシスでは、有効とは言えない結果が得られている(以下,Im, 2021)。
有効:ASD成人の攻撃性治療に対するリスペリドン、プロプラノロール、フルボキサミン、活発な有酸素運動、デキストロメトルファン/キニジン
有効とは言えない:行動的介入、多重感覚環境(Multi Sensory Environments :MSEs)、抑肝散、その他の治療法

6.神経学的特徴
6-1.概要
ASDの方は、神経質な方と比較して、脳の構造や機能に違いがあることが研究により明らかにされています。これらの違いは、神経接続、神経可塑性、神経処理に影響を与え、ASDの中核的な症状の一因となると考えられています。
最も一貫した知見のひとつは、ASDの人は脳の体積が大きく、前頭前野扁桃体など特定の脳領域で灰白質が増加する傾向があることです。しかし、これらの増加はすべての脳領域で一様ではなく、ASDを持つ個人の特定のサブグループに特有のものである可能性があります。
また、ASDの方は、特に上側頭溝(STS)や楔状回などの社会的認知に関わる脳領域において、神経接続や処理が変化している可能性があることが研究で示されています。STSは、視線方向や表情などの社会的情報の処理に関与していると考えられており、ASDの人は社会的課題中にSTSの活性化が低下していることが研究で示されている。同様に、顔認識に関与する楔状回についても、ASDの人では顔処理タスク中の活性が低下していることが示されています。
もう一つの重要な発見は、ASDの人は神経同期のパターン、つまり脳の異なる領域がどのように連携して働くかが変化している可能性があるということです。研究によると、ASDの人は、社会的処理に関わる脳領域間の同期が低下している可能性があるが、知覚処理に関わる領域では同期が増加していることが示されている。このことは、ASDの方が一般的に経験する感覚的な処理の難しさの一因になっている可能性があります。
最後に、セロトニン系やドーパミン系を含む、ASD患者の神経伝達系における異常も研究により確認されています。これらの神経伝達系は、気分調節、報酬処理、社会的認知など様々な機能に関与しており、これらのシステムの異常は、ASDに見られる社会的・行動的な困難の一因となっている可能性があります。

6-2.共感に関連の深いネットワーク(梅田,2018)
1)エモーショナルネットワーク(emotional network),扁桃体側坐核視床前頭葉眼窩部など,ヤコブレフの情動回路を中心としたネットワークであり,感情反応を実現するネットワークである。これらの部位に機能低下があると,質的にはさまざまなバリエーションはあるものの,感情そのものの反応に障害が生じるため,必然的に,共感反応にも機能障害が起こる。
2)セイリエンスネットワーク(salience network),帯状回前部および島皮質前部からなるネットワークである。ホメオスタシス状態から逸脱した際に敏感に反応し,その回復を促す役割を担う。帯状回前部については,心的ストレスがかかるような課題に従事させると活動する傾向が認められている。さらに,この部位の活動は,自律神経における交感神経活動と深い関連があることも報告されている。島皮質は内臓を含む身体内部の状態をモニターし,異変が生じた時に,それを意識化させる機能を持つものと想定されている。本人が物理的な痛みを感じていない状態でも,親密な関係ある他者が痛みを感じている場面を見ると,島皮質が活動することが明らかにされ,いわゆる心理的な痛みに対しても島皮質が関与する。
3)メンタライジングネットワーク(mentalizing network),メンタライジング,すなわち「心の理論」にかかわるネットワークであり,前頭前野内側部・帯状回前部近傍,側頭頭頂接合部,上側頭溝後部などから成り立っている。
4)ミラーニューロンネットワーク(mirror neuronnetwork),観察をもとに,それを真似ることによる学習を実現するネットワークである。局在的には,頭頂葉下部や運動前野腹側・前頭葉下部などの部位から成り立つ。
内側前頭前野と他者友好性判断(メンタライジングネットワーク)と、右島皮質と他者感情類推能力について、山本(2018)による報告がある。ASD 当事者が行うと,定型発達者に比べて非言語情報を重視して友好性を判断する機会が有意に少なく,その際に内側前頭前野などの賦活が有意に減弱していた。そして内側前頭前野の賦活が減弱しているほど臨床的に評点したコミュニケーション障害の重症度が重いという相関を認めた。そこでさらに,40 名の成人男性のASD 当事者を対象に,上述した社会的コミュニケーションの障害を反映する心理課題成績や脳画像指標が,オキシトシン単回投与によって改善するかどうかを二重盲検で無作為化した偽薬-実薬のクロスオーバーデザインの臨床試験で検討した。その結果オキシトシン投与によって,定型発達群で観察されていた表情や声色を活用して相手の友好性を判断する行動がASD 群においても増え,元々減弱していた領域で内側前頭前野の活動が回復し,それら行動上の改善度と脳活動上の改善度が関与しあっていた。また, ASD 当事者で低下していた他者の感情の類推能力とその背景をなしていた右島皮質の活動低下についても検討し,これらについてもオキシトシン投与によって有意に改善することを示した。

6-3.ASDセロトニンドーパミンシステム
ASD の病態として,セロトニンドーパミンシステムの初期障害が指摘されている。自閉症スペクトラム障害ASD)の方は、セロトニンドーパミン系に異常があり、行動や認知機能に影響を及ぼす可能性がある。
セロトニンは気分調節、社会的行動、認知に関与する神経伝達物質であり、ドーパミンは報酬処理、動機づけ、運動に関与する神経伝達物質である。これら2つの神経伝達物質の相互作用は、社会的行動やコミュニケーションなど、さまざまな機能にとって重要。
ASDは脳内のセロトニン濃度が低く、それがASDの行動症状の一因となっている可能性がある。
さらに、ASDは脳内のドーパミン受容体の密度や分布に違いがあることが示され、これがASDで観察される認知や運動の障害の一部や、反復行動と関連している可能性がある。
さらに、セロトニン系とドーパミン系の相互作用がASDに関与している可能性も提唱されています。例えば、この2つのシステムの相互作用の異常が、ASD患者に見られる社会性やコミュニケーション障害に関係している可能性を示唆する研究もある。

7.他障害との関連
7-1.ADHD
ASDADHD群は、柔軟性と計画性の両方においてASD群と障害を共有しているように見えるが、反応抑制の欠損はADHD群と共有している。逆に、注意力、ワーキングメモリ、準備過程、流暢さ、概念形成の欠損は、ASDADHDASDADHD群の識別において特徴的なものではなく、実行機能障害の共通した併発は、別個の障害を持つ別の病態というよりは、むしろ相加的な併存症を反映していることが示唆されている(Craig et al., 2016)。

7-2.感情調節(Emotional Regulation: ER)障害
 ER障害の有病率は、一般群と比較してASD群で有意に高く、精神科入院ASD群で最も高かった。同様に、精神科の入院歴、最近の救急サービスの利用(過去2ヵ月間の感情や行動に関する懸念による警察との接触、救急外来受診、在宅での危機評価)、向精神薬の処方は、ASD群で有意に高かった。つまり、一般集団と比較してASDにおけるER障害の割合が大幅に高い(Conner et al., 2021)。

※引用が明記されていない個所はChatGPTを使用して作成してみました。間違いがあればご指摘ください!!

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