児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

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このブログでは、児童虐待関係の仕事をしているブログ主が、心理学とか心理学研究における統計解析の話などをします。

 

児童虐待領域記事(リンク無しは未発表)

A.虐待の影響

 1.虐待の影響(全般)
 2.内的作業モデル
 3.被虐待児の攻撃性
 4.自傷行為
 5.感情調節障害
 6.敵意帰属バイアス

B.脳

 1.虐待の脳への影響
 2.脳容積と虐待
 3.脳と攻撃性

C.精神医学的診断

 1.ASD(自閉スペクトラム症)
 2.ADHD(注意欠陥多動症)
 3.RAD(反応性アタッチメント障害)
 4.DSED(脱抑制型対人交流障害)
 5.C-PTSD(複雑性PTSD)
 6.社会的(語用論的)コミュニケーション症

D.不適応行動・状態

 1.窃盗
 2.過剰適応
 3.性加害
 4.攻撃性全般

E.ケア

 1.実親との面会交流
 2.感情のラベリング
 3.トラウマケア・プレイセラピー

F.虐待関連

 1.児童虐待による死亡(CMF)
 2.子どもの虐待証言(性的虐待順応症候群と絡めて)
 3.虐待加害リスク

 

以下カテゴリ

心理ー基礎心理学系⇒心理学の基礎的な話など

   アセスメント⇒架空事例などを用いたアセスメント例など

   児童虐待関係児童虐待にかかわる話など

統計ー基礎心理統計⇒心理統計の基礎的な話など

   時系列解析系⇒時系列データを用いた分析例など

   ベイズ統計系ベイズ統計やそれを用いた分析例など

 

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攻撃性のタイプ/リスク因子/神経機序/介入

攻撃性一般

攻撃性とは一般的に、他人に危害や傷害を加えることを意図した行動を指す。身体的攻撃、言語的攻撃、関係的攻撃など、さまざまな形で現れます。
身体的攻撃には、殴る、蹴る、押すなど、身体に危害や損傷を与える行為が含まれます。
言葉的攻撃には、怒鳴る、侮辱する、脅すなどの行為が含まれます。
関係性攻撃には、社会的関係を操作したり、噂を流したりして、誰かの社会的地位や人間関係を傷つけることが含まれます。

攻撃性は否定的なものと考えられがちですが、攻撃性が防御機構として機能する場合や、挑発やストレスに対する反応として機能する場合があることは見落とされがちだったりします。
攻撃性を理解するには、社会的背景、個人の心理、根底にある動機やきっかけなど、行動に影響を与える複数の要因を考慮した視点が必要です。効果的に対処するためには、そういった知識の上で戦略を練っていかなきゃです。

1.攻撃のタイプ:反応/積極型、虐待、IPV
攻撃って色んなタイプがあります。計画的だったり、反射的だったり。ここでは2つの型が言及されていて、その2つの型はそれぞれ異なる要因・様子があります。以下、先行研究が続きます。
反応的攻撃性:(a)怒り,憤怒,敵意を必ず伴う,(b)欲求不満や知覚された挑発に反応して起こる(特に対人関係において),(c)不快な情動状態を鎮めるというより初歩的な目的によって動機づけられる攻撃性,である。
積極的攻撃性:(a)常に怒りや怒りなどの否定的な情動状態を伴わず,(b)典型的には,挑発されるのではなく,加害者によって開始され,(c)価値のあるもの,例えば,物,報酬,権力,地位,社会的優位を得るという期待によって明示的に動機づけられていることが特徴的である(Rosell & Siever, 2015)。
反応的攻撃性と積極的攻撃性は同時に存在するにもかかわらず,この2つのサブタイプは重要な相違を示す。反応的攻撃性は虐待歴(Dodge,Lochman,Harnish,Bates, & Pettit 1997,Kolla,Malcolm,Attard,Arenovich,Blackwood & Hodgins, 2013),負の感情性,衝動性(Cima,Raine,Meesters & Popma,2013 ; Raine,Dodge & Loeber,2006)と関連しており,CU特性(精神病質の構成要素)はやや負の予測をする。
一方,積極的攻撃性は,サイコパス(Kolla,Malcolm,Attard,Arenovich,Blackwood & Hodgins ,2013)の身体的攻撃性,暴力犯罪と正の相関があることが示された(Cima,Raine,Meesters & Popma,2013 )。さらに,社会的手がかりに敵意を過剰に帰属させる傾向,すなわち敵意帰属バイアスは反応的攻撃性と関連するが,積極的攻撃性とは関連しない(Arsenio, Adams & Gold ,2009 ; Hubbard, Dodge, Cillessen, Coie & Schwartz ,2001). 一方,暴力や攻撃行為が好ましい結果につながるという確信,すなわち正の結果期待感は積極的攻撃性と特に関連している(Smithmyer, Hubbard & Simons ,2000 ; Walters ,2007).
最後に,攻撃性に関連する刺激による注意の干渉は,反応的攻撃性と相関がある(Brugman, Lobbestael & Arntz, 2015 )。

1-1.反応的攻撃性
 脅威に対するこの哺乳類の反応が、扁桃体 内側から、主に 終末線条を介して視床下部内側へ、そしてそこから中 脳水道周囲灰白質 (PAG) の背側半分へと 走る回路を介して媒介されることを示している(Gregg & Siegel, 2001 ;Lin et al., 2011 ; Nelson & Trainor, 2007)。 この回路は、脅威だけでなく,フラストレーションや社会的挑発に対しても、人間の反応的攻撃を媒介すると主張されてきた(Blair, 2004 )。参照:フラストレーション(Yu et al., 2014)、社会的挑発に対する報復(da Cunha-Bang et al., 2017 ; White et al., 2014)。
 この回路 (扁桃体視床下部、および PAG) が過敏性である場合、個人は脅威/フラストレーション/社会的挑発に対して反応性暴力のリスクが高いと予測できる(Blair, 2019)。間欠性爆発性障害 ( Coccaro et al., 2007 )、重度の気分調節障害 (Thomas et al., 2013)、境界性パーソナリティ障害 (Hazlett et al., 2012)、反応的に攻撃的な若者 (White et al., 2016)、および衝動的なIPV( Lee,Chan, & Raine, 2008 ) は脅迫的な刺激に対する扁桃体の反応性が高い。さらに、衝動的な攻撃の傾向と恐怖の表現に対する扁桃体の反応との間の正の関連性が報告されている(Choe et al., 2015)。

1-2.積極的攻撃性
積極的攻撃性は道具的攻撃ともいえます。道具的攻撃は、目標を達成するための個人の行動反応の選択の結果です。
じゃあなぜ一部の人々は、他の人よりも目標を達成するためにこの行動を選択するのでしょうか?
道具的攻撃を選ぶ人は、それ開始することにより、達成されると予想される報酬に基づいて、行動を選択する(Blair et al., 2018)。これは、次の場合に個人が道具的暴力に関与する可能性が高いことを示唆しています。1.行動の期待される報酬が特に顕著、2.行動に対して予想される罰の不透明さ、3.期待値の表現を可能にする神経メカニズム…など。
手段としての暴力の潜在的な報酬を理解したり、他者の潜在的な負のコストを理解できないと、暴力などの反社会的行動に関与する可能性が高まる(Blair, 2003)。
一部の暴力的な個人は、他人の感情表現を処理する能力に障害を示し ( Dawel et al., 2012 ; Marsh & Blair, 2008 )、他の個人の苦痛、特に恐怖に対する扁桃体や島の反応が低下し ( Decety et al., 2014; Dolan & Fullam, 2009 ; Jones et al., 2009 ; Lozie et al., 2014 ; Marsh et al., 2008 ; Michalska, Zeffiro, & Decety, 2016 ; Viding et al.,2012)、他人の苦痛に対する扁桃体の反応が低下した人は、手段による暴力に関与する可能性が高くなる (Lozier et al., 2014)。

1-3.虐待
虐待は、暴力のリスクとの関連だけでなく、脅威に対する扁桃体の反応性を高めることが頻繁に観察される (McCrory et al., 2017)。扁桃体の反応性に対するこの影響は、虐待と特に反応性攻撃のリスクの増加との関連の多くを仲介している可能性が高い (Blair et al., 2018)。 しかし、強化情報の表現が虐待後に損なわれる可能性があることを示唆する最近の発見を考慮することは有用です(Hanson et al., 2017)。
身体的虐待加害のリスク因子について、加害者の個人要因では、中程度の効果量:「育児ストレス」「共感の欠如」「自尊心の低さ」「衝動制御の欠如」「孤独」「苦痛」「否定的な属性」「うつ病」「認知的制限」「不安」「子供の発達に関する知識の欠如」および「敵意」/低い効果量:「認知された子供の問題」「精神病理学」「問題解決スキルの乏しさ」「子供時代のサポートの欠如」「社会的孤立」「加害者の出身家族における虐待の子供時代の歴史」「個人的なストレス」および「強い懲戒的態度と罰の信念」。関係性要因では、中程度の効果量:「ネガティブな親子関係」「家族の繋がりの欠如」「ポジティブな子育て行動の少なさ」、低い効果量:「家族の対立」「コントロールの必要性」であった(Milner et al., 2022)。
児童性的虐待者は健常対照者と比較して、実行機能におけるセットの切り替え・抑制・言語機能に多くの欠損が認められた。児童性的虐待者を非性的加害者や成人に対する性的加害者と比較した場合、明確な差は認められなかった。⇒性的虐待加害者は健常者と比較すると特異だが、一般犯罪者と比較して特異といえる根拠はなかった(Turner & Rettenberger, 2020).

1-4.親密なパートナーによる暴力(DV・IPV) (Dempsey et al., 2023; Stover et al., 2022)
IPV犯罪者の認知的リスク因子は、認知の柔軟性 (Romero-Martínez et al., 2019; Romero -Martínez, et al., 2013)、実行機能(Stanford et al., 2007 ; Westby & Ferraro, 1999) 、衝動制御 (Chan et al., 2010 ; Romero-Martínez et al., 2019 ; Schafer & Fals-Stewart, 1997)機能の低さが認められた。さらに、アルコール乱用IPV犯罪者だと、ワーキングメモリ(Easton et al., 2008)、実行機能と認知的柔軟性(Romero-Martínez et al., 2019 ; Romero-Martínez et al., 2016 ; Vitoria-Estruch et al., 2018)の低さが認められた。
児童虐待とIPV目撃 (Brown et al., 2015 ; Capaldi et al., 2012 ; Mair et al., 2012)は、成人期のIPVと関連。虐待などの幼少期ストレスは、扁桃体や海馬などの脳領域の変化を含む神経生物学的変化によって衝動制御が不十分になり、IPV 使用のリスクが増加する可能性 (Zietz et al., 2020 ; Lovallo, 2013 ; Anda et al.,2006)。さらに、子供時代の身体的虐待の経験は、子供のストレス反応システムの変化と関連しており、それはコルチゾール反応の鈍化の証拠とともに持続する可能性がある (Carpenter et al., 2011 ; Suzuki et al., 2014)。
身体的および心理的IPV(DV)の動機としては、「自己防衛」「感情的な傷に対する報復」「コミュニケーションの困難」が認められた(Dempsey et al., 2023)。
IPV犯罪者の脳について、扁桃体(Flanagan et al., 2019;Verdejo-Román et al., 2019)や前頭前皮質(Bueso-Izquierdo et al., 2016)の機能不全、P3 成分の振幅の減少 (Stanford et al., 2007)等が認められた。
テストステロンは、一般的に犯罪行為や攻撃性に関連していることが長い間発見されてきたが( Higley et al., 1996 )、IPV のみを使用する男性のテストステロンレベルの上昇を検出した多数の研究がある(Romero-Martínez et al., 2016)。テストステロンは、IPV男性の急性ストレッサーに反応して免疫応答を間接的に刺激する可能性がある(Romero-Martínez et al., 2014)。


2.リスク因子
2-1.外的変数
(a) 出生前の危険因子 (例えば、胎児のアルコールへの曝露、産科合併症)、(b) 一般的な育成 (例えば、重要な 暴力への暴露 、社会経済的地位および文化的背景)、(c) 身体的および性的虐待、(d) 育児スタイルおよび子供時代の虐待 ( 例、親の不在または早期の母親の拒絶)、(e) 遺伝的素因 、(f) 脳病変 、(g) 初期の健康リスク要因、(h) ピア グループ、および (i)低所得地域に住むこと ( Bergeron & Valliant, 2001 ; Broomhall, 2005 ; Friedman et al., 2018 ; Hancock, Tapscott, & Hoaken, 2010 ; Ishikawa et al., 2001 ; Pennuto, 2007 ; Raine, 2019 ; Volavka, 1999 )。
一般的な犯罪の強い予測因子=家族・親の次元で、犯罪の持続性の重要な予測因子=犯罪志向集団/学校・雇用/家族/精神的健康/酒・薬物乱用 (Basto-Pereira & Farrington, 2022)。

2-2.実行機能
暴力的な犯罪者は、自己調整と自己制御といった実行機能の欠如傾向にある(Cruz et al., 2020)。
攻撃的な人はまた、フィードバックの手がかりを使用して行動を調整し、迅速な決定を下すことができないことを示しており、その結果、挑発に対して攻撃的で不釣り合いな反応を示す可能性が高くなる(Hoaken et al., 2003)。

2-3.衝動性
衝動性にはさまざまな側面(すなわち、負の衝動性、正の衝動性、計画性欠如、忍耐欠如、感覚追求)がある。負の衝動性とは、個人が負の感情を感じたときに無謀な行動をとる傾向を指し、正の衝動性とは、正の感情を感じたときに衝動的な行動をとる個人の傾向、感覚追及はスリルを求める行動への個人の関与を示し、外向性に関連。
衝動性が高いほど攻撃性が高く、さらに、負の衝動性、正の衝動性、計画性の欠如は、他の側面よりも攻撃性と有意に強い関連を示した(Bresin, 2019)。
反応的攻撃性は衝動性(Cima et al., 2013 ; Raine et al., 2006)と関連を示した。

2-4.敵意帰属バイアス(cf. Tuente, Bogaerts & Veling, 2019)
幼少期や青年期に否定的な経験に遭遇した人は、他者の曖昧な行動を敵対的、脅威的、自分自身に向けられたものとして経験する可能性が高く、脅威に対する過敏性と敵対的な意図帰属の持続的なパターンに影響される(Dodge et al., 2015)。人の行動が意図的に有害であると認識されることで、こうした人はより攻撃的に反応しやすくなる。このメカニズムは「敵対的帰属バイアス」(HAB)と呼ばれる。
HABとは、特に社会的文脈の手がかりがあいまいであったり、予測不可能であったり、解釈が困難であったりする場合に、他者の行動を敵対的意図があると解釈してしまう傾向のことで(Milich & Dodge, 1984)、環境の手がかりの不正確な解釈が敵意と関連が示されている (Hoaken et al., 2007)。社会的情報処理理論によれば、HABは、現在の否定的な出来事によって、他者や出来事を表す否定的な認知スキーマや経験が活性化され、過去の出来事と意識的または無意識的に関連づけられることで出現する(Guerra & Huesmann, 2004)。
挑発や脅威に対する誰かの反応は、客観的な社会的手がかりのみに依存するのではなく、社会的情報の処理方法に強く影響されるとしている(Setchell, Fritz, & Glasgow, 2017)。社会的情報の処理は、(i)手がかりを符号化することから始まり、次のように循環的に行われる: (ii)それらの手がかりの解釈、(iii)目標の明確化、(iv)反応の生成、(v)反応の選択と効果評価、そして最後に(vi)行動である(Crick & Dodge, 1994)。最初の2つの段階は初期社会情報処理と呼ばれ、不明瞭であいまいな状況を誤って解釈し、脅威の思考や感情を呼び起こすため、反応性の攻撃行動を引き起こすと提唱されている。HABはこの段階の重要な構成要素である。
HAB と攻撃性の間に小から中程度の正の関連を示し、攻撃性の高い個人はあいまいな刺激や敵対的な状況で一層相手が敵対的な意図を持っているとも考えることが示唆された(Tuente, Bogaerts & Veling, 2019)。
反応的攻撃性におけるHABは脅威に関連する刺激に向けられるという注意処理の偏りに関連(Manning, 2020)。

2-5.社会的要因
 反応的攻撃性は虐待歴(Dodge et al., 1997; Kolla et al., 2013)、早期の問題行動、仲間関係不適応(Dodge et al., 1997)と関連。

3.神経学的機序
3-1.衝動的攻撃
腹側線条体機能の低下は,攻撃性の誘因となる対人的な侮辱や社会的拒絶に対する過度の過敏性など,不均衡なフラストレーションの影響を受けやすく,衝動的攻撃性(衝動的反社会性の一要素)と関連する可能性を示唆している(Buckholtz, Treadway & Cowan,2010)。

3-2.挑発に対する攻撃
反応性暴力のリスクが高い人は、急性脅威システムの神経回路の反応性が高い。この高い反応性は、挑発 (脅威、フラストレーション、社会的挑発) に対しては回避・フリーズ反応でなく、反応的な攻撃を開始することを意味する可能性(Blair, 2019)。
被験者が攻撃的行動をとるか金銭的報酬を追求するかを選択し、挑発(金銭的減算)後の脳の活性化を測定した。結果、暴力犯罪者は対照者よりも攻撃的に行動し、扁桃体線条体における挑発に対する脳の反応性が有意に高く、扁桃体-前頭前野および線条体-前頭前野の結合性が低下していた。挑発に対する扁桃体の反応性は、暴力的犯罪者の課題関連行動と正の相関があった。挑発に対する線条体および前頭前野の反応性は、特性怒りおよび特性攻撃性と正の相関を示した。⇒暴力的な人は社会的挑発に対する神経感受性が異常に高く、攻撃的行動に関連する感受性を示すことを示唆(da Cunha-Bang et al., 2017)。

3-3.不平等扱いへの拒絶
自分自身が不平等扱いの条件では特に拒絶と関連する内側前頭前皮質と、自分自身と第三者の両方の条件では拒絶と関連する左前島皮質との間に解離が認められ、第三者に対しても公正な行動を促進することが示唆(Corradi-Dell'Acqua et al., 2013)。

4.その他攻撃性との関連
4-1.犯罪・攻撃の否認
心理的な苦痛を感じていること、犯罪を認める、被害者への共感、治療の動機の表明 と再犯の減少との間に相関関係はない (Hanson & Morton-Bourgon, 2019)。
IPV(≒DV)についての法律の認識を高めることでIPVが減少(Song et al., 2017)。

4-2.関係性攻撃:Relational aggression
関係攻撃性とは、広くは「社会的排除」や「友情操作」(Voulgaridou et al., 2019 )などにより、他人の人間関係を傷つけるために使用される行動。具体的には、噂、秘密、嘘の流布、悪意のある噂話、仲間はずれを指し、それは言語的・非言語的な方法(一部の仲間を避ける、無視する、無言で接する)で現れることがあり、社会的関係を終わらせると脅したり、意図的な関係操作・友情操作によって他者を傷つけたりする(Crick & Grotpeter, 1995; Murray-Close, Nelson, Ostrov, Casas, & Crick, 2016; Voulgaridou & Kokkinos, 2015)。
身体的攻撃性は幼児期 (18 ~ 30 か月)にピークに達し、その後、子供が自己調整能力を発達させ、認知および言語の発達と社会的情報処理が増加するにつれて減少する。対照的に、関係性攻撃性は幼児期に現れ、特に年長の女の子ではやや安定したまま (Blakely-McClure & Ostrov, 2016;Crick et al., 2006)。
心理社会的要因:社会的認知、子育てのスタイル、実行機能、言語発達、抑うつ症状、メディア、多動性衝動性、不安などがあるが、包括的な調査は不十分 (Swit & Slater, 2021).

5.介入
「苦痛の手がかりに対する扁桃体の反応の減少に関連する道具的暴力の神経認知的危険因子/脅威・欲求不満・および社会的挑発に対する扁桃体の反応の増加に関連する反応的暴力の神経認知的危険因子/vmPFC内の価値の機能不全の表現に関連する暴力の神経認知危険因子」システムのいずれかが機能不全に陥ると、個人の暴力のリスクが高まる。介入は、将来の暴力を防止する (または少なくともそのリスクを軽減する) ために、個人の特定の形態の機能不全に的を絞る必要がある。他人の苦痛に対する扁桃体の反応性を高めるように設計された介入は、過度の脅威への反応性による反応的攻撃の増加を示す人にとって、利益をもたらす可能性は低く、困難を悪化させる可能性さえある(Blair, 2019)。
反応性暴力のリスクが高まることに直面している攻撃的な個人は、感情的な反応を減らすためのテクニックが役立つ可能性があります。 確かに、これらのテクニックは、トラウマを経験した患者に対して存在し、脅威への反応性を低下させることが示されています (Cisler et al., 2015 ; Cisler et al., 2016; van Rooij et al., 2016)。 さらに、参加者に 感情制御 戦略のトレーニングを行うと、一部の若者の反応的攻撃が減少することが示されています (Ford et al., 2012 ; Gatzke-Kopp et al., 2015 )。

以上、攻撃性の知見をまとめてみました。
攻撃性という概念の幅広さと深さを感じました。
先行研究をベースに、その対象に合った対処戦略を構築していくことが大事になると思いました。

引用文献(一部…)
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Blair, R. J. R. (2019). What role can cognitive neuroscience play in violence prevention?. Aggression and violent behavior, 46, 158-164.
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Buckholtz, JW, Treadway, MT, Cowan, RL, et al. Mesolimbic dopamine reward system hypersensitivity in individuals with psychopathic traits. Nat Neurosci. 2010; 13(4): 419–421.
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ASDの心理学的特徴と神経学的特徴

1.社会的コミュニケーションと相互作用
 1-1.認知的共感と情動的共感
 1-2.表情認知
2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors
3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties
4.実行機能(Executive Function :EF)と心の理論(Theory of Mind :ToM)
5.ASDにおける攻撃性
 5-1.有病率および影響
 5-2.ASDにおける攻撃性の治療
6.神経学的特徴
 6-1.概要
 6-2.共感に関連の深いネットワーク
 6-3.ASDセロトニンドーパミンシステム
7.他障害との関連
 7-1.ADHD
 7-2.感情調節(Emotional Regulation: ER)障害

0.ASDの概要
自閉症スペクトラム障害ASD)は、社会的コミュニケーションや相互作用に障害があり、行動、興味、活動のパターンが制限的で反復的であることを特徴とする神経発達障害です。2010年以降の研究成果をもとに、ASDの心理・神経学的特徴をご紹介します。以下にASDをとりまく要素などを概説して、詳細は続きに記載していきます。
1.社会的コミュニケーションと相互作用の欠落:ASDの方は、社会的な合図を理解すること、社会的な関係を築くこと、維持すること、アイコンタクトや表情、ボディランゲージなどの非言語コミュニケーションを適切に用いることが困難な場合があります。これらの障害は、社会的状況、友達作り、恋愛関係の形成に困難をもたらす可能性があります。
2.制限的で反復的な行動:ASDの人は、体を揺らしたり、手で叩いたり、物を回したりするような反復的な行動をとることがあります。また、非常に特殊な興味や習慣を持ち、変化や移行を苦手とする場合もあります。
3.感覚処理の困難さ:ASDの方の多くは、音や感触、匂いなどの特定の感覚刺激に対して過敏になったり、過少になったりするなどの感覚処理上の困難を経験します。
4.実行機能と心の理論の欠陥:実行機能とは、計画、組織化、タスク遂行に関わる一連の認知プロセスを指します。ASDの方は、計画、整理、問題解決など、実行機能のタスクに苦労することがあります。また心の理論とは、他人が自分とは異なる考え、信念、感情を持っていることを理解する能力のことを指します。ASDの方は、心の理論に困難があるため、社会的なコミュニケーションや他者の視点を理解することに問題がある可能性があります。
5.攻撃性:ASDの攻撃性の高さについても研究が蓄積されています。
6.神経学的特徴:神経画像研究により、ASDの方は脳の構造と機能に違いがあることが示されています。感情の処理に関わる脳領域である扁桃体ASDの方では肥大している一方で、前頭前野などの他の領域が不活発である可能性があることを示唆する研究もある。これらの神経学的な違いは、ASDで観察される社会性やコミュニケーションの障害の一因となる可能性があります。
7.併存疾患:ASD患者の多くは、不安、うつ病ADHDてんかんなどの併存疾患を抱えています。これらの併存疾患は、診断や治療を複雑にする可能性があります。特にADHDとの辺損について、最近研究が進められています。

1.社会的コミュニケーションと相互作用
1-1.ASDの認知的共感と情動的共感について
認知的共感と感情的共感は、共感の重要な2つの要素です。
認知的共感とは、相手の表情や声のトーンなどの非言語的な手がかりから、相手の精神状態や感情状態を理解し予測する能力のことです。
感情的共感は、他者の感情を感情的に共有する,あるいは身体反応を伴って同期、共有する能力を含んでいます。
2010年以降の研究により、自閉症スペクトラム障害ASD)の方は、認知的共感と感情的共感の両方が困難である場合が多いことが明らかになっています。ある研究では、ASDの人は認知的共感能力に問題がないが、感情的共感能力に問題があることが示唆され、また別の研究では、両方の共感能力に障害があることが示されています。
これらの共感障害の説明として考えられるのは、行動や感情の知覚と模倣に関わるミラーニューロンシステム(MNS)の機能障害である。いくつかの研究では、ASDの人は感情表現を観察する際にMNSの活動が低下していることが分かっており、これが感情的な共感の困難さの一因になっている可能性があります。
また、表情や身振り手振りを含む社会的な手がかりを解釈する能力の欠如も、その一因と考えられます。ASDの人は感情表現を認識し解釈することが難しいことが研究で示されており、それが認知的共感と感情的共感の両方における障害の一因になっている可能性があります。

1-2.表情認知
ASD では,顔処理と同様,表情情報も非定型的に処理していると考えられている.例えば,定型発達では,ネガティブな感情については目に,ポジティブな感情については口に注目するのに対し,ASD ではそもそも顔・表情,その中でも目への注視時間が短い. 動的表情を複数の速度で呈示された際に,表情変化の自然さを評定すると,ASD では表情の変化速度が遅くなっても不自然さを感じにくいといった表情変化速度処理の非定型性,また,幸福表情の認識そのものには影響ないが,幸福表情の検出が遅い、(定型発達においては,感情表情の検出は中性表情と比較して素早いことが知られている)といった表情知覚に関する問題も指摘されている.
上側頭溝および扁桃体は,顔情報の動的な側面を処理する領域であり,表情を見ている際に,ASD では定発達と比較して活動が低下しているという報告が多数なされている.扁桃体は目への注視によってその活動が調整され,ASD では目への注視時間が短縮していることから,注意の向け方の問題が扁桃体の活動に大きく影響しているという指摘もある.しかし,注視点の呈示により目への注目を高めても表情を見ている際の扁桃体の活動は低下しているという報告が一定存在することから,ASDにおいては扁桃体の機能不全により表情認知が障害されていることが示唆される.
Facialmimicry には,他者の運動を観察した時に活動すると同時に自身が同じ運動を行う際に活動する神経システムであるミラーニューロンシステムが重要な役割を果たすと考えられており,顔の動きを知覚する上側頭溝,運動知覚に関わる情報を処する下頭頂小葉,模倣の神経基盤である下前頭といった領域がヒトでは関与する。ASD では情動認知の障害に加えて,情動的行動の表出の少なさも中核的症状の一つであり,実証研究では,他者とのやりとりの際に表情反応の減少や場面にそぐわない表情の表出があることが見出されてきた.近年facialmimicry の減少やタイミングの遅れの報告も相次いでおり,facial mimicry の障害,すなわちミラーニューロンシステムの不全が,ASD における情動認知の障害に影響を与えている可能性がある。

2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors
自閉スペクトラム症ASD)に見られる制限・反復行動(restricted and repetitive behaviors:RRB)の原因は、複雑かつ多面的であり、未だ完全には解明されていません。しかし、2010年以降の研究により、ASD患者のRRB潜在的な基礎メカニズムが明らかにされました。
有力な説のひとつは、ASD患者のRRBは、認知・知覚処理の困難さに起因している可能性があるというものです。具体的には、ASDの人は、特定の感覚刺激や詳細に注目する傾向があり、同時に、異なる領域にわたる情報を統合して処理することが困難であると考えられています。このため、注意の焦点が狭く柔軟性に欠け、圧倒的な感覚環境に対処する方法として、ルーチンや儀式に過度に依存するようになる可能性があります。この説は、ASD患者の感覚処理、注意、実行機能を司る領域における脳活動の違いを示す神経画像研究によって支持されています。
もう一つの説は、RRBは脳内の興奮性神経活動と抑制性神経活動の間の不均衡から生じる可能性があるとするものです。この説によると、ASDの人は興奮系が過剰に働くため、特定の内容や興味に過度に集中し、注意を柔軟に転換したり、環境の変化に適応したりする能力が低下している可能性があるという。同時に、抑制性神経活動の欠損があり、反復行動や自己制御の困難さの一因となっている可能性があります。この説は、ASD患者における抑制的制御と認知的柔軟性の基盤となる神経メカニズムを検討した研究によって支持されています。
これらの認知的・神経的要因に加え、社会的・環境的要因もASD患者のRRBの発達・維持に寄与している可能性がある。例えば、RRBは不安やストレスを軽減する方法として機能したり、これらの行動を行うことで注意や他の報酬を不用意に与える介護者によって強化されることがある。さらに、ASDの特徴である社会的相互作用やコミュニケーション能力の欠如は、社会規範や慣習を理解することの難しさにつながり、その結果、社会世界をナビゲートする方法として、反復行動や儀式的行動に依存することにつながるかもしれません。
まとめると、ASD患者におけるRRBの根本的な原因は、認知的、神経的、社会的、環境的な要因が複雑に絡み合い、多面的であると考えられる。近年、これらのメカニズムに対する理解は著しく進んでいるが、ASD患者におけるRRBの発達と維持については、まだ多くのことが分かっていない。

3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties
まず、感覚処理とは、環境からの感覚情報を受け取り、解釈し、反応する脳の能力であることを理解することが重要です。これには、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のほか、体の位置や動きの感覚(固有感覚)、平衡感覚(前庭感覚)など、あらゆる感覚からの情報が含まれます。
研究により、ASDの方は、脳が感覚情報を処理する方法に違いがあることが分かっています。この違いは、脳が入力された感覚情報を処理し、フィルタリングする方法に関係しているという説があります。ある研究では、ASDの人は感覚系が「うるさい」または「過敏」である可能性があり、感覚情報が圧倒されたり、痛みを感じたりする可能性があると指摘しています。また、ASDの方は、複数の情報源からの感覚情報を統合することが難しく、混乱したり、環境を理解することが難しくなったりする可能性があることを示唆する研究もあります。
神経学的に、研究者はASD患者の脳の構造や機能に違いがあり、それが感覚処理の難しさにつながっている可能性があることを発見しました。例えば、ASDの方は、感情処理に関わる扁桃体や、運動制御や協調に関わる小脳など、特定の脳領域の大きさや結合性に違いがあることが、いくつかの研究でわかっています。これらの違いは、脳が感覚情報を処理する方法に影響を与える可能性があります。
ASDにおける感覚処理の難しさを説明するもう一つの可能性は、ASDの人が環境とどのように関わっているかに関連しています。研究者の中には、ASDの人は感覚環境を調整する方法として、反復行動や定型的な行動をとることがあると指摘する人もいます。例えば、回転や揺れは、感覚情報に圧倒されている人に癒しや心地よさを与えるかもしれません。
まとめると、ASDにおける感覚処理障害の根本的な原因は複雑であり、神経学的要因と環境要因の組み合わせが関係している可能性が高い。これらの困難を引き起こすメカニズムを完全に理解するため、さらなる研究が必要である。

4.実行機能(Executive Function :EF)と心の理論(Theory of Mind :ToM)
EFの障害は反復行動パターンには特異的であるが、制限行動パターンには特異的ではないことが示唆された(1Boyd et al., 2009)。制限行動や反復行動の症状とEFを関連付ける理論が導かれ、EFの構成要素がASDの行動クラスター内で区別できることが示唆された。
反応抑制の構成要素である事前反応抑制と干渉制御を調査した小児と青少年におけるメタアナリシスでは、年齢による違いが確認された(Geurts et al., 2014)。反応前抑制の障害は年齢が高くなるにつれて弱まるが、干渉制御の障害は生涯にわたって持続した。小児と青年におけるワーキングメモリの調査(Wang et al., 2017)では、言語性ワーキングメモリと空間性ワーキングメモリの両方に障害があることが明らかになった。年齢による差はなかったが、言語性ワーキングメモリと比較して空間性ワーキングメモリでより大きな効果サイズが観察され、ASDの青少年では空間領域でより大きな困難があることが示唆された。プランニングは適応行動における重要なEFと考えられており、メタアナリシスではASDのプランニングの障害が報告されている(van den Bergh et al., 2014)。プランニングの困難さは、年齢、知的機能、アセスメントタイプの影響とは無関係であった。上記のメタアナリシスでは、個別のEFの障害が確認されている。しかし、これらが共通のメカニズムによって支えられているのか、あるいはASDにおいて個別のEFが異なって障害されているのかは不明であった。
しかし最近行われた2つのメタアナリシス(Lai et al., 2017 ; Demetriou et al., 2018)では、ASDにおける複数のEF領域にわたるクールEFが調査され、この疑問が解決された。EFの広範な障害は、小児と青少年(Lai et al., 2017)とライフスパン(Demetriou et al., 2018)の両方で観察された。(Lai et al., 2017)のメタアナリシスでは、反応抑制とプランニングの障害は、柔軟性(セットスイッチングとセットシフト)、生成性/流暢性、ワーキングメモリーの障害に比べてあまり顕著ではなかった。(Demetriou et al., 2018)のメタアナリシスでは、上記のすべての領域で障害が確認された。両研究とも、根底にある共通の経路がASDのEFプロセスに影響を与えている可能性を示唆している。
ToMとの関連について、EFがASDのToMパフォーマンスに影響を与え(Kouklari et al., 2018 ; Pellicano, 2007)、社会的コミュニケーション・クラスタに影響を与える可能性を示している。ToMモデルは、心的状態を自己と他者に帰属させる能力の障害が、社会的コミュニケーション・クラスタで観察される障害を含むさまざまな障害の一因であると提唱されている (Mazza et al., 2017)。最近の研究では、ToMが障害を予測する可能性も指摘されている(Pepper et al., 2018)。EFとToMの間の推定される関連性を支持する知見として、ワーキングメモリの減少が社会的コミュニケーション能力を緩和するというものがある(McEvoy et al., 1993)。
他者の痛みへの共感についての研究がある。静的刺激および動的刺激として、痛みを伴う全身動作の写真とビデオを用いた。両群とも、刺激中のモデルが痛みを感じているかどうかを判断するよう指示し、その反応時間、正確さ、事象関連電位(ERP)データを記録した。その結果、痛みを伴う静的刺激を見た場合、高ASD群では低ASD群よりも反応が大きかったが、痛みを伴う動的刺激を見た場合、両群間に差は認められなかった。つまり、自閉症特性が静的刺激に対する他者の痛みの情動処理に影響を及ぼしていることを示唆していた(Li et al., 2022)。

5.ASDにおける攻撃性
5-1.有病率および影響
攻撃的な行動はASDの人に比較的多く見られ、有病率は50%から70%と推定されています。攻撃性の結果は、他者への傷害や自傷行為、社会的状況からの排除、教育や職業機会へのアクセス制限など、深刻なものになることがあります。さらに、ASD患者の攻撃性は、その行動の重大性と持続性、そして根本的な原因の理解が限られているため、特に管理が困難な場合があります。
ASDにおける攻撃性の原因には、生物学的要因、環境要因、社会的要因など、多くの可能性があります。以下では、2010年以降の研究で明らかになった、ASDにおける攻撃性の原因として最も著名なものをいくつか紹介します。
感覚の過負荷 :ASDの患者さんには感覚処理の障害がよく見られ、感覚過敏や過敏になることがあります。感覚刺激に圧倒されると、ASDの人は覚醒レベルを自己調整する方法として、攻撃的になることがあります。
コミュニケーションの困難さ:コミュニケーション障害はASDの中核的な特徴であり、自分のニーズを表現できなかったり、他人を理解できなかったりすると、フラストレーションや攻撃性につながる可能性があります。
社会的孤立:社会的孤立もASDの方によく見られる症状で、不安やストレスのレベルの上昇につながることがあります。攻撃性は、この不安やストレスを表現する方法のひとつかもしれません。
遂行機能障害:計画、問題解決、衝動制御の問題など、実行機能の障害はASDの方に多く見られます。これらの障害は、攻撃的な行動の発生や持続の一因となる可能性があります。
精神衛生状態の併発:ASDの方の多くは、不安、うつ、ADHDなどの精神的な健康状態も併発しています。これらの疾患は、攻撃的な行動の発生を助長する可能性があります。
自閉症スペクトラム障害ASD)の児童・青年1,380人を対象に、攻撃性の有病率と危険因子を検討した。有病率は高く、68%が養育者に対して、49%が非養育者に対して攻撃性を示したことがあると親が報告していた。全体として、攻撃性は、臨床医が観察したASD症状の重症度、知的機能、性別、配偶者の有無、親の教育レベル、コミュニケーションの側面とは関連していなかった。年齢が低い人、高収入の家庭の出身者、親が報告した社会的/コミュニケーション上の問題が多い人、反復行動をとる人は、攻撃性を示す可能性が高かった(Kanne & Mazurek, 2011)。
反応的攻撃性は、定型発達児では感情的共感と負の相関を示したが、ASD児では正の相関を示した。この結果は、感情調節の乏しさと他者の感情理解の障害の組み合わせが、ASD児の攻撃的行動と関連していることが示唆された(Pouw et al., 2013)。
ToMは一般的な攻撃性を低下させる一方で、攻撃性は発達段階においてToM能力の低下をも生じさせる可能性があることが示唆され、いじめ以外の攻撃性とToMの間には負の相関がああるが、いじめとToMの間には相関がなかった(Wang et al., 20223)。

5-2.ASDにおける攻撃性の治療
ASDの攻撃性を軽減するのに有効であることが示されているいくつかの介入がある。以下のようなものがあります。
感覚統合療法:感覚統合療法は、ASD患者の覚醒レベルを調整し、攻撃性を軽減するために、感覚的な体験を利用するものです。
ソーシャルスキルレーニング:ソーシャルスキルレーニングは、ASDの方のコミュニケーション能力の向上、社会的孤立の解消、欲求不満や不安を解消するための対処法の開発に役立ちます。
薬物療法抗精神病薬気分安定薬などの薬物療法は、一部のASD患者の攻撃性を軽減するのに有効な場合があります。しかし、薬物療法には副作用があり、すべての人に有効であるとは限らないため、注意して使用する必要があります。
行動的介入:応用行動分析(ABA)のような行動的介入は、ASD患者の攻撃的な行動を減らすのに効果的である可能性が言われていた。これらの介入は、行動の先行要因と結果を特定し、攻撃性の可能性を減らすために、それらの要因を修正する計画を立てることに重点を置いています。しかし現在のメタアナリシスでは、有効とは言えない結果が得られている(以下,Im, 2021)。
有効:ASD成人の攻撃性治療に対するリスペリドン、プロプラノロール、フルボキサミン、活発な有酸素運動、デキストロメトルファン/キニジン
有効とは言えない:行動的介入、多重感覚環境(Multi Sensory Environments :MSEs)、抑肝散、その他の治療法

6.神経学的特徴
6-1.概要
ASDの方は、神経質な方と比較して、脳の構造や機能に違いがあることが研究により明らかにされています。これらの違いは、神経接続、神経可塑性、神経処理に影響を与え、ASDの中核的な症状の一因となると考えられています。
最も一貫した知見のひとつは、ASDの人は脳の体積が大きく、前頭前野扁桃体など特定の脳領域で灰白質が増加する傾向があることです。しかし、これらの増加はすべての脳領域で一様ではなく、ASDを持つ個人の特定のサブグループに特有のものである可能性があります。
また、ASDの方は、特に上側頭溝(STS)や楔状回などの社会的認知に関わる脳領域において、神経接続や処理が変化している可能性があることが研究で示されています。STSは、視線方向や表情などの社会的情報の処理に関与していると考えられており、ASDの人は社会的課題中にSTSの活性化が低下していることが研究で示されている。同様に、顔認識に関与する楔状回についても、ASDの人では顔処理タスク中の活性が低下していることが示されています。
もう一つの重要な発見は、ASDの人は神経同期のパターン、つまり脳の異なる領域がどのように連携して働くかが変化している可能性があるということです。研究によると、ASDの人は、社会的処理に関わる脳領域間の同期が低下している可能性があるが、知覚処理に関わる領域では同期が増加していることが示されている。このことは、ASDの方が一般的に経験する感覚的な処理の難しさの一因になっている可能性があります。
最後に、セロトニン系やドーパミン系を含む、ASD患者の神経伝達系における異常も研究により確認されています。これらの神経伝達系は、気分調節、報酬処理、社会的認知など様々な機能に関与しており、これらのシステムの異常は、ASDに見られる社会的・行動的な困難の一因となっている可能性があります。

6-2.共感に関連の深いネットワーク(梅田,2018)
1)エモーショナルネットワーク(emotional network),扁桃体側坐核視床前頭葉眼窩部など,ヤコブレフの情動回路を中心としたネットワークであり,感情反応を実現するネットワークである。これらの部位に機能低下があると,質的にはさまざまなバリエーションはあるものの,感情そのものの反応に障害が生じるため,必然的に,共感反応にも機能障害が起こる。
2)セイリエンスネットワーク(salience network),帯状回前部および島皮質前部からなるネットワークである。ホメオスタシス状態から逸脱した際に敏感に反応し,その回復を促す役割を担う。帯状回前部については,心的ストレスがかかるような課題に従事させると活動する傾向が認められている。さらに,この部位の活動は,自律神経における交感神経活動と深い関連があることも報告されている。島皮質は内臓を含む身体内部の状態をモニターし,異変が生じた時に,それを意識化させる機能を持つものと想定されている。本人が物理的な痛みを感じていない状態でも,親密な関係ある他者が痛みを感じている場面を見ると,島皮質が活動することが明らかにされ,いわゆる心理的な痛みに対しても島皮質が関与する。
3)メンタライジングネットワーク(mentalizing network),メンタライジング,すなわち「心の理論」にかかわるネットワークであり,前頭前野内側部・帯状回前部近傍,側頭頭頂接合部,上側頭溝後部などから成り立っている。
4)ミラーニューロンネットワーク(mirror neuronnetwork),観察をもとに,それを真似ることによる学習を実現するネットワークである。局在的には,頭頂葉下部や運動前野腹側・前頭葉下部などの部位から成り立つ。
内側前頭前野と他者友好性判断(メンタライジングネットワーク)と、右島皮質と他者感情類推能力について、山本(2018)による報告がある。ASD 当事者が行うと,定型発達者に比べて非言語情報を重視して友好性を判断する機会が有意に少なく,その際に内側前頭前野などの賦活が有意に減弱していた。そして内側前頭前野の賦活が減弱しているほど臨床的に評点したコミュニケーション障害の重症度が重いという相関を認めた。そこでさらに,40 名の成人男性のASD 当事者を対象に,上述した社会的コミュニケーションの障害を反映する心理課題成績や脳画像指標が,オキシトシン単回投与によって改善するかどうかを二重盲検で無作為化した偽薬-実薬のクロスオーバーデザインの臨床試験で検討した。その結果オキシトシン投与によって,定型発達群で観察されていた表情や声色を活用して相手の友好性を判断する行動がASD 群においても増え,元々減弱していた領域で内側前頭前野の活動が回復し,それら行動上の改善度と脳活動上の改善度が関与しあっていた。また, ASD 当事者で低下していた他者の感情の類推能力とその背景をなしていた右島皮質の活動低下についても検討し,これらについてもオキシトシン投与によって有意に改善することを示した。

6-3.ASDセロトニンドーパミンシステム
ASD の病態として,セロトニンドーパミンシステムの初期障害が指摘されている。自閉症スペクトラム障害ASD)の方は、セロトニンドーパミン系に異常があり、行動や認知機能に影響を及ぼす可能性がある。
セロトニンは気分調節、社会的行動、認知に関与する神経伝達物質であり、ドーパミンは報酬処理、動機づけ、運動に関与する神経伝達物質である。これら2つの神経伝達物質の相互作用は、社会的行動やコミュニケーションなど、さまざまな機能にとって重要。
ASDは脳内のセロトニン濃度が低く、それがASDの行動症状の一因となっている可能性がある。
さらに、ASDは脳内のドーパミン受容体の密度や分布に違いがあることが示され、これがASDで観察される認知や運動の障害の一部や、反復行動と関連している可能性がある。
さらに、セロトニン系とドーパミン系の相互作用がASDに関与している可能性も提唱されています。例えば、この2つのシステムの相互作用の異常が、ASD患者に見られる社会性やコミュニケーション障害に関係している可能性を示唆する研究もある。

7.他障害との関連
7-1.ADHD
ASDADHD群は、柔軟性と計画性の両方においてASD群と障害を共有しているように見えるが、反応抑制の欠損はADHD群と共有している。逆に、注意力、ワーキングメモリ、準備過程、流暢さ、概念形成の欠損は、ASDADHDASDADHD群の識別において特徴的なものではなく、実行機能障害の共通した併発は、別個の障害を持つ別の病態というよりは、むしろ相加的な併存症を反映していることが示唆されている(Craig et al., 2016)。

7-2.感情調節(Emotional Regulation: ER)障害
 ER障害の有病率は、一般群と比較してASD群で有意に高く、精神科入院ASD群で最も高かった。同様に、精神科の入院歴、最近の救急サービスの利用(過去2ヵ月間の感情や行動に関する懸念による警察との接触、救急外来受診、在宅での危機評価)、向精神薬の処方は、ASD群で有意に高かった。つまり、一般集団と比較してASDにおけるER障害の割合が大幅に高い(Conner et al., 2021)。

※引用が明記されていない個所はChatGPTを使用して作成してみました。間違いがあればご指摘ください!!

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ADHDと虐待・脳・攻撃性

0.ADHDの概要
1.多動性と衝動性
2.ADHDと関連が示されている概念
 2-1.虐待
 2-2.虐待以外
 2-3.環境的影響
 2-4.遺伝的影響
 2-5.神経伝達物質的影響
3.脳の構造的影響
3-1.大脳基底核と小脳
3-2.前頭前野
3-3.扁桃体
4.攻撃性の鑑別(ADHDかそうじゃないか)
 4-1.ADHD
 4-2.反応的攻撃性

0.ADHDの概要
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、不注意、衝動性、多動性の症状を特徴とする神経発達障害です。
ADHDには、以下の3つのタイプがあります(診断基準とは別)。
(1)主に不注意なタイプ
(2)主に過活動・衝動性のタイプ
(3)主に多動なタイプ
ADHDの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、研究により、遺伝、脳の構造、環境要因など、いくつかの要因がその発症に寄与している可能性が示唆されています。

1.多動性と衝動性(ここは診断基準に準拠)
衝動性と多動性はADHDの2つの異なる症状であり、両者には異なる神経学的な基礎メカニズムが関与していると考えられています。
ADHDの多動性は、そわそわする、落ち着きがない、じっとしていられないなど、過剰で不適切な運動活動を特徴とします。多動性は、運動制御に関わる脳領域である大脳基底核や小脳の機能障害と関係があると考えられています。研究により、ADHDの子どもたちは、これらの脳領域の大きさや機能に違いがあり、それが多動性の一因になっている可能性があることが分かっています。
ADHDの衝動性は、行動を抑制すること、満足を遅らせること、自分の行動の結果を考慮することの難しさを特徴とします。衝動的な行動は、意思決定、衝動制御、計画などの実行機能に関わる前頭前野の機能障害と関連しています。研究によると、ADHDの子どもは前頭前野の活動が低下しており、これが衝動性の一因になっている可能性があります。
まとめると、多動性は小脳や大脳基底核、衝動性は前頭前野が大きく関与していると考えられています。

2.ADHDと関連が示されている概念
2-1.虐待
児童虐待歴のあるADHD 症例では、児童虐待歴がない症例よりも 自殺念慮・企図スコアが有意に高かった。さらに、自殺念慮および精神的虐待のスコアが、ADHDの成人における自殺企図スコアの有意な予測因子であった(Yildirim & Dalkıran, 2022)。
ADHD のある成人は、健康な対照者よりも幼少期のトラウマを経験する割合が高い。ネグレクト歴のあるADHD者だけが、そうでない人よりも処理速度が遅かった。ADHDグループでは、ネグレクト・心理的虐待と処理速度との間に有意な関連性が見出された(Baran et al., 2018)。
母親のADHDと子供の性別(男児)が精神的虐待を増加させます。一方、母親の精神的虐待や身体的無視の履歴、父親の注意欠陥は性的虐待を増加させ、母親の多動性/衝動性の高さはADHDの子供の感情的ネグレクトを増加させる。ADHDの子供に対する虐待は、子供のADHDの症状よりも親の要因とより関連している(Gul & Gurkan, 2018)。
IPV(=DV)の危険因子としてADHD症状が示唆された。ADHDは、素行障害(CD)と反社会性パーソナリティ障害(ASPD)を媒介変数としてIPVへ影響を与える可能性(Buitelaar et al., 2022)。

2-2.虐待以外
併存疾患: ADHDはしばしば、反抗性障害(ODD)、行為障害(CD)、不安障害、気分障害などの他の精神疾患と併発する。
ワーキングメモリー: ワーキングメモリーの障害は、一貫してADHDと関連している。ADHDの子どもはワーキングメモリーに障害を示すことが多く、認知課題中に情報を保持し、操作する能力に影響を及ぼす可能性がある。
抑制性コントロール: 不適切な反応や行動を抑制する能力である抑制性コントロールの障害は、ADHDの中核的な特徴であり、Go/No-GoやStop-Signalパラダイムのような課題を通して評価されることが多い。
認知的柔軟性: 認知的柔軟性の欠如、つまり注意を転換したり、変化する要求に適応したりすることの難しさは、ADHDの症状と関連している。ADHDの子どもは、課題の切り替えや新しい状況への適応に苦労することがあります。
時間の認識: いくつかの研究によると、ADHDの子どもは時間認知が変化している可能性があり、時間間隔を正確に見積もり、時間を効果的に管理することが困難になる。
運動技能: ADHDの子どもでは、微細運動技能および粗大運動技能の障害が報告されており、協調性や正確さを必要とする活動に影響を及ぼしている。
社会経済的地位: 社会経済的地位が低いほどADHDのリスクが高まることが研究で示唆されている。社会経済的要因は、ADHD症状の発現や管理に影響を及ぼす可能性がある。
子育てのスタイル: 批判が多かったり、しつけに一貫性がなかったりするような子育ての仕方は、ADHDの症状と関連している。支持的で肯定的な子育ては、ADHDの子どもによい影響を与える可能性がある。
他に、ADHDの子供は反応制御(進行中の行動を中断)の障害を示したが、積極制御(停止が必要であることが事前にわかっている場合に応答を制御する)は維持されることや(Pani et al., 2013)、感情調節不全が成人ADHDの中核症状という報告もある(Hirsch et al., 2018)。さらに、育児ストレス (r= .25)、否定的な育児慣行 (r= .19)、親のパートナーシップの崩壊 (r= .19)、親の精神病 (r=.14–.16) 、社会経済的地位 (r= −.10)、およびひとり親家庭 (r= .10) は、ADHD 症状の重症度と有意に関連(Jendreizik, 2023)。
ADHDの恐怖機能について、ADHD者では、早期消去時の島皮質の活性化が有意に大きく、後期消去時の背側前帯状皮質の活性化が小さく、後期消去学習時および消去想起時の内側前頭前皮質の活性化が小さく、消去想起時の海馬の活性化が大きかった。トラウマを負わず、薬物治療を受けていない成人のADHDでは、消去学習と消去想起の際にPTSDのある被験者と同様の恐怖回路の異常がみられた。これらの所見は、ADHDPTSDの有意な関連、およびADHDにおける情動調節障害を説明できる可能性がある(Spencer et al., 2017)。
ADHDや行動障害(DBD)の特徴として、衝動的攻撃性(IA)と反応抑制機能障害(RI)がある。
前頭-線条体-小脳の広範な機能障害がADHDとDBDに関与し、ADHDとDBDには衝動的攻撃性と機能不全反応抑制が認められる。ADHDの衝動的攻撃性(IA)は前頭前野帯状皮質の障害と関連が、DBDの衝動的攻撃性(IA)は重度の皮質-皮質下皮質の機能不全と関連している。反応抑制機能障害(RI)の障害は、外側前頭前野、島皮質、扁桃体の活動低下に起因している(Puiu, 2018)。

2-3.環境的影響
母親の抑うつ、ゆるいしつけスタイル、育児ストレスなどの早期家庭環境の特徴が、ADHD症状の(悪い意味での)安定性、実行機能障害、QOLの低さの長期予測因子であった。理解しやすく、管理しやすく、意味のあるADHD児の育児に対処するための資源は、ADHDの症状の進展に好ましい影響を与えた。対照的に、子どもの幼少期の両親のストレスと、健康、気分、仕事、余暇活動、社会的関係などの日常生活のさまざまな領域における子どものその後の生活の質との間に負の関係が検出された(Miranda, 2021)。
妊娠・出産前後の影響も報告されている。妊娠中の因子:妊娠前体重、子癇前症、妊娠合併症(薬物等使用の影響によるADHD?)、テストステロン曝露の上昇/出産後の因子:新生児仮死(アプガー)スコア(アプガースコアは多くの妊娠関連合併症と関連)、新生児疾患、母乳育児なし(Bitsko, 2022)、母親が過体重または肥満(Sanchez et al., 2018)。母乳育児の欠如と ADHD との関連性は、栄養的要因、ホルモン曝露、免疫伝達、および社会的要因を含む複数のメカニズムに関連している可能性(Silva et al., 2014 ; Tseng et al., 2019)。さらに、母乳育児は母子愛着の改善に関連しており、これは注意力の向上や児童虐待の減少にも関連している(Hayatbakhsh et al., 2012)。各要因が ADHD と関連するメカニズムは包括的に研究されておらず、おそらく異なる可能性があります。多くの場合、個々の要因が複数の作用機序を通じて神経発達に影響を与える可能性がある。

2-4.遺伝的影響
双生児研究では、ADHDの病因に対する遺伝的寄与が示されており、遺伝率の推定値は70%~80%である(Faraone & Larsson, 2019)。ADHDの遺伝率は、小児期から成人期にかけて安定していることも判明している(Bergen, Gardner, & Kendler, 2007; Chang, Lichtenstein, Asherson, & Larsson, 2013)。

2-5.神経伝達物質の影響
ADHDの子に見られる多動性については、神経学的な説明の一つとして、脳内の特定の神経伝達物質、特にドーパミンとノルエピネフリンの機能不全が関与していると考えられています。これらの神経伝達物質は、注意力、意欲、衝動のコントロールに関わる脳領域の活動を制御する役割を担っています。
研究によると、ADHDの子どもたちは、実行機能に関わる前頭前野や運動制御に関わる大脳基底核など、脳の特定の領域でドーパミンとノルエピネフリンの濃度が低いことが分かっています。この神経伝達物質のバランスが崩れることで、注意や行動の調節が難しくなります。

3.脳の構造的影響
脳画像研究により、ADHDの子どもたちは、前頭前野大脳基底核、小脳などいくつかの領域で脳の構造や機能に変化が見られることが分かっています。これらの脳領域は、運動制御、注意、実行機能に関与しており、その機能不全がADHDに見られる多動性や衝動性の一因になっている可能性があります。

3-1.大脳基底核と小脳
大脳基底核と小脳は運動制御に関わる重要な脳領域で、運動や姿勢の調節に重要な役割を担っています。大脳基底核は運動行動や意欲の調節に重要な役割を担っており、これらはADHDの多動性や衝動性の症状と密接に関連しています。大脳基底核の機能不全は、さまざまな運動障害や意欲の低下を引き起こし、これらの症状の発症の一因となる可能性があります。
研究により、大脳基底核と小脳がADHDで観察される多動に関与している可能性が示唆されています。特に、大脳基底核の機能障害は運動活動の亢進につながり、小脳の機能障害は運動協調や平衡感覚の問題の一因となる可能性があります。
MRIfMRIなどのさまざまな画像技術を用いた研究により、ADHDの子どもは、定型発達の子どもと比較して、大脳基底核や小脳の大きさや活動に違いがあることが示されています。例えば、ある研究では、ADHDの子どもは、定型発達の子どもと比較して大脳基底核の体積が小さく、この違いが多動症状と関連していることがわかりました。
また、別の研究では、ADHDの子どもは、細かい運動制御を必要とする課題中の小脳の活性化が低下していることがわかり、ADHDの運動協調障害に小脳が関与している可能性が示唆されました。
さらに、大脳基底核と小脳は相互に関連しており、これらの領域の一方の機能障害が他方に影響を及ぼす可能性があるという証拠もある。例えば、大脳基底核の機能障害が小脳の代償性変化を引き起こし、それが多動症状の一因となる可能性があることが研究で示唆されています。
大脳基底核の機能:大脳基底核は、尾状核被殻淡蒼球黒質など、脳の深部に位置する皮質下構造で、相互に連結しています。大脳基底核は、運動制御、認知、感情、意欲に関連する幅広い機能に関与している。特に、多動性、衝動性に関連して、大脳基底核は運動行動の調節と不要な動きの抑制に重要である。大脳基底核の機能障害は、ADHDの多動性と衝動性の発症に関与しているとされています。
多動性と衝動性に関連する大脳基底核の重要な機能の1つは、随意運動の制御である。大脳基底核は大脳皮質からの入力を受け、その情報をもとに視床と脳幹の活動を調節することで運動行動を制御しています。これにより、運動動作の開始、実行、終了、および不要な動作の抑制が可能になります。大脳基底核の機能障害は、ADHDの多動性や衝動性によく見られるチック症や不随意運動などの運動障害につながることが研究により明らかになっています。
多動性と衝動性に関連する大脳基底核のもう一つの重要な機能は、報酬と動機づけの調節です。大脳基底核は、報酬処理と動機づけに関与する中辺縁系ドーパミン系からの入力を受けています。
研究によると、大脳基底核の機能障害は報酬処理の変化につながり、それがADHDの多動性と衝動性の発達に寄与する可能性があることが示されています。例えば、ADHDの子どもたちは大脳基底核ドーパミン機能が低下していることが研究で示唆されており、これが意欲の低下や刺激に対する欲求の増加につながる可能性があります。

3-2.前頭前野
前頭前野(と扁桃体)は、注意、感情、行動の調節に関わる2つの重要な脳領域です。これらの領域の機能不全は、多動性を含むADHDの様々な症状と関連しています。
前頭前野は、意思決定、衝動制御、計画などの実行機能に関与しています。前頭前野の機能障害は、ADHDの衝動性や多動性の特徴である行動の抑制や満足を遅らせることの難しさなど、これらの機能の障害と関連があるとされています。
研究により、前頭前野の機能障害は、注意や行動の調節に影響を与えることで、ADHDの多動に寄与している可能性が示唆されています。例えば、ADHDの子どもは、注意や抑制制御を必要とするタスク中に前頭前野の活性化が低下していることが研究で示されています。
さらに、前頭前野は、大脳基底核や小脳など、注意や行動の制御に関わる他の脳領域と相互に関連しているという証拠もある。これらの領域の機能不全は、前頭前野の機能に影響を与え、ADHDで観察される多動性に寄与する可能性があります。

3-3.扁桃体
扁桃体は、感情の制御、特に脅威やストレスに対する反応に関与しています。扁桃体の機能不全は、ADHDを含む様々な精神疾患における感情調節障害や衝動性と関連しています。
研究により、扁桃体の機能不全は、感情の調節や反応性に影響を与えることで、ADHDの多動性に寄与する可能性が示唆されています。例えば、ADHDの子どもは、恐怖や怒りを表す顔などの情動刺激に反応して、扁桃体の活性化が増加することが研究で示されています。
ADHDの子どもは、感情的な表情の解読に全般的な欠損を示し、怒りと悲しみの識別に特異的な欠損がみられた。ADHD群では、対人関係の問題と感情的な表情の解読障害との間に有意な相関があり、それは怒りの表情でより顕著であった(Pelc et al., 2006)。
扁桃体の活動はADHDの青少年で大きく、扁桃体と外側前頭前野(LPFC)の間に大きな連結が検出された。ADHDの青少年において、恐怖処理の神経基盤・扁桃体とLPFCの間の結合が非典型的であった(Posner et al., 2011)。
さらに、扁桃体は、前頭前野をはじめとする注意や行動の調節に関わる他の脳領域と相互に関連しているという証拠もある。これらの領域の機能不全は、扁桃体の機能に影響を与え、ADHDで観察される感情調節障害や多動に寄与する可能性があります。
結論として、ADHDの子どもたちは、ドーパミンやノルエピネフリンなどの神経伝達物質の機能障害や、運動制御や注意に関わる領域の脳の構造や機能の変化により、多動性を経験すると考えられます。

4.攻撃性の鑑別(ADHDかそうじゃないか)
 児童精神科や小児科からの紹介でありがちなのが、“衝動的に攻撃する子だからADHDだろう。ADHD治療薬を処方しよう”→“効果ない?じゃあ量増やそう”→“これ以上増やせません。児相に相談してみたら?”のコンボ。
 虐待・マルトリートメントが絡む場合の攻撃性について、医療系の方々は経験がない場合があるんだろうなと思いましたし、効果がない理由を検討する専門性の材料も持ち合わせてなかったりするんだろうなと。
 「衝動的に攻撃している(ように見える)」場合、どのような可能性があるんでしょうか。

4-1.ADHDベースの場合
こちらは単純に考えてよいと思います。衝動性の高さのため、不快感による行動化を自己統制できず、行動に直結させてしまう、というものです。

4-2.反応的攻撃性の場合
反応的攻撃性:(a)怒り,憤怒,敵意を必ず伴う,(b)欲求不満や知覚された挑発に反応して起こる(特に対人関係において),(c)不快な情動状態を鎮めるというより初歩的な目的によって動機づけられる攻撃性,である(Rosell & Siever, 2015)。
反応的攻撃性は虐待歴(Dodge,Lochman,Harnish,Bates, & Pettit 1997,Kolla,Malcolm,Attard,Arenovich,Blackwood & Hodgins, 2013),負の感情性,衝動性(Cima,Raine,Meesters & Popma,2013 ; Raine,Dodge & Loeber,2006)と関連。さらに,社会的手がかりに敵意を過剰に帰属させる傾向,すなわち敵意帰属バイアスは反応的攻撃性と関連 (Arsenio, Adams & Gold ,2009 ; Hubbard, Dodge, Cillessen, Coie & Schwartz ,2001)。攻撃性に関連する刺激による注意の干渉は,反応的攻撃性と相関がある(Brugman, Lobbestael & Arntz, 2015)。


※引用が明記されていない個所はChatGPTを使用して作成してみました。間違いがあればご指摘ください!!

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社会的(語用論的)コミュニケーション症(Social (Pragmatic) Communication Disorder:SPCD/SCD(SPCD))

大学院の課題でカプラン(Sadock et al., 2016)をベースにまとめたものです。せっかくなのでこちらにも。
いわゆるASDと混同されがちな診断、という印象です。
ASDと思っていた子が実はSPCDだった、なんてことは結構ある気がします。

0.概要
言語障害の一つ。かつては「広汎性発達障害」と分類されていたが、DSM-5で社会的(語用論的)コミュニケーション症と新たに追加された。コミュニケーションの社会的使用における持続的な障害で、自閉スペクトラム症ASD)とは異なり特定の物事に対する興味の偏りや反復的行動は伴わない。
この障害は、言語使用の社会における決まり事や身振り、社会的文脈を理解したりそれらに従ったりすることが難しいという形で現れる。本障害は音声言語の習得の遅れに加え、現在/生涯の構造的言語障害が挙げられ、ADHD、LD、行動障害などの症状が見られることも報告されている。
SCD(SPCD)の歴史と概念の源について、著者や研究施設によって使用される用語は異なり、そのような子どもは「意味語用法症候群」「意味語用法的困難」「会話障害」「語用法障害」「意味語用法障害」そして最近では「語用性言語障害(PLI)」として報告されている。従来、PLIを持つ子どもたちは、社会的文脈における言語や身振りの不適切/非有効な使用を示すと定義され11、PLI児の言語の構造的要素(語彙や文法など)は比較的保たれているが、文脈に依存した言語の使用や理解、言語使用の社会的ルールや慣習に従うことは損なわれていた。ASDs児によく見られる反復的、制限的行動や興味を示さない子どもが大半を占めていると報告されている。そのため、言語障害文献におけるPLIと児童精神医学文献における高機能自閉症アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)との類似点・相違点が指摘され、その概念の収束性・発散性が議論されてきた。
SPCDがDSM-5に導入された理由としては、限定された反復的な興味や行動は見られないがゆえにASDの診断基準を満たさないけれども、コミュニケーション困難な児童を考慮してのことである。SPCDは使われた単語を理解するだけでなく、社会的環境の理解の中にフレーズを統合させて意味を推測する能力を包含する。
本障害の診断の問題点としては、DSM-5 に記載されているように、SCD(SPCD) の概念は曖昧で、LD、PLI、ASD との関係が特定されておらず、高い併存率を示し、その時間的安定性が明らかでないため、診断の妥当性に問題がある。

1.疫学
 有病率の推定は困難。言語障害のある家族の3分の1は、少なくとも軽度/中等度の社会的コミュニケーション障害(36.6%)および制限された関心と反復的行動(43.3%)を示した。また、非感染者の一部も、軽度/中等度レベルの社会的コミュニケーション障害(両親=10.1%、兄弟姉妹=11.6%)および制限された興味と反復的行動(両親=14.0%、兄弟姉妹=22.1%)を呈していた。しかしこれらのデータは、社会的コミュニケーション障害と制限された興味と反復行動の両方を持ちながら臨床サービスを必要としている子どものプロファイルを、SPCDが捉えていないことを示唆している。

2.病因
 コミュニケーション症、ASD、限局性学習症の家族歴があると、社会的(語用論的)コミュニケーション症のリスクが高まるため、この障害の発生には遺伝的な影響が関係していると考えられている。しかし、言語症やADHDの合併の多さを考えると、遺伝以外に環境や発達上の問題も関係している可能性がある。
 SCD(SPCD)の神経解剖学について、ASD男児において、両側の内側尾状頭の変形が社会的コミュニケーションの問題と相関していることと上縦束と前頭葉アスラント路の分数異方性がSCQの社会的相互作用下位尺度と関連すること、ASD の青年・若年成人において、右前頭葉の完全性が社会的コミュニケーション質問票(SCQ)の下位スコアと強い相関があること、ASDの一卵性双生児において、社会コミュニケーションの障害が小脳底の変化と相関していることなどが報告されている。

3.診断と臨床的特徴
 臨床的特徴
 SPCDの特徴としては、暗示的な文章や、比喩、ユーモア、格言などの間接的な言葉の使い方の処理に障害がある。また、文脈に応じた挨拶、会話の順番待ち、文脈に応じた行動の調整など、言語的なコミュニケーションに加え、非言語的なコミュニケーションの問題も見られる。そして限定された反復的な行動様式は認めない。
 診断基準(DSM-5)
A.言語的および非言語的なコミュニケーションの社会的使用における持続的な困難さで、以下のうちすべてによって明らかになる。
1. 社会的状況に適切な様式で、挨拶や情報を共有するといった社会的な目的でコミュニケーションを用いることの欠陥)
2. 遊び場と教室とで喋り方を変える、相手が大人か子どもかで話し方を変える、過度に堅苦しい言葉を避けるなど、状況や聞き手の要求に合わせてコミュニケーションを変えるための能力の障害
3. 会話で相づちを打つ、誤解されたときに言い換える、相互関係を調整するための言語的および非言語的な合図の使い方を理解するなど、会話や話術のルールに従うことの困難さ
4. 明確に示されていないこと(例:推測すること)や、字義どおりでなかったりあいまいであったりする言葉の意味(例:慣用句、ユーモア、隠喩、解釈の状況によっては複数の意味をもつ話)を理解することの困難さ
B.それらの欠陥は、効果的なコミュニケーション、社会参加、社会的関係、学業成績、および職業的遂行能力の1つまたは複数に機能的制限をもたらす。
C.症状は発達期早期より出現している(しかし、能力の限界を超えた社会的コミュニケーションが要求されるまでは、その欠陥は完全には明らかにならないかもしれない)。
D.その状況は他の医学的または神経疾患、および言語の構造や文法の領域における能力の低さによるものではなく、自閉スペクトラム症、知的能力障害(知的発達症)、全般的発達遅延、および他の精神疾患ではうまく説明されない。

4.鑑別診断
ASDASDで限定された反復的な興味や行動が発達早期で顕著であったが徐々に目立たなくなることも多い。この特徴が現在認められなくても過去に認められればASDと診断され、SPCDとは診断されない。あくまでもSPCDは「限定された反復的な興味や行動が一度も認められなかったときの診断」である。
社交不安症:社交不安症では、対人関係のコミュニケーション能力は保たれているが、不安を感じる社会的状況ではその能力が発揮されないものである。一方SPCDでは、適切な対人関係のコミュニケーションスキルがどの場面でも見られない。
知的障害:知的障害のためにコミュニケーション能力が障害されている子どもがSPCDと混同される可能性もある。SPCD診断は対人関係のコミュニケーション能力の障害が明らかに知的能力障害よりも重度の場合に飲み下されるべきである。

5.経過と予後
 個人差が大きく、何もしなくても数年で改善する人もいれば、大人になっても困難が持続する人もいる。5歳までにはほとんどの患児が対人コミュニケーションの障害があるとはっきりわかるような話し言葉と言語能力を呈するようになる。例え症状は改善しても、幼少期にこの障害があったことで生じた学業成績や対人関係の問題が長引くこともある。

6.治療・介入
 治療で明確なエビデンスのあるものはほとんどない。動物モデルや初期の臨床試験のデータから、N-methyl-D-aspartate モジュレーター、γ-アミノ酪酸アゴニスト、メタボトロピックグルタミン酸受容体アンタゴニスト、神経ペプチドなどの新規および既存の化合物は、ASD における社会的コミュニケーション/機能を高める可能性があることが示唆されている 。一方、心の理論や拡張/代替コミュニケーションへの介入は、ASDの社会的コミュニケーションに影響を与えないことが示されたが、SCD(SPCD)の子どもへの影響(もしあるならば)はまだ不明である。

参考文献
Flax, J., Gwin, C., Wilson, S., Fradkin, Y., Buyske, S., & Brzustowicz, L. (2019). Social (pragmatic) communication disorder: Another name for the broad autism phenotype?. Autism, 23(8), 1982-1992.
Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P, 井上令一,四宮滋子,田宮 聡. (2016). カプラン臨床精神医学テキストDSM-5診断基準の臨床への展開 第3版. メディカル・サイエンス・インターナショナル.
Topal, Z., Samurcu, N. D., Taskiran, S., Tufan, A. E., & Semerci, B. (2018). Social communication disorder: A narrative review on current insights. Neuropsychiatric disease and treatment, 14, 2039.

施設入所した児童と実親との面会交流のポジティブ/ネガティブ効果

子どもが施設や里親に行った場合であっても、家族や子供には親と面会交流する権利があります。もちろん、場合によっては加害者と子どもの面会を拒むことは可能ですが、それはまた別の機会に話題にするとして、
虐待加害者が親だったとして、その親と面会をさせることの意義ってどこにあるんでしょうか。
完全な主観ですが、福祉司はケースワークを進める目的や保護者との関係構築のために面会交流に前向きである傾向があるように感じますし、一方で心理担当は子どもの不安などを理由に後ろ向きな場合もあるように感じます。
ここでは、養護施設や里親に委託中の児童が親と面会交流することで、どのような効果があるのかなどを確認していきたいと思います。

児童養護施設にいる間に子どもが実の親と接触すること自体は、子どもの継続的な身体的・精神的成長(Ainsworth, 1989; Hess, 1982)、子どものより良い全体的適応(Hess, 1988)、子どもの情緒的幸福(Hess, 1988; Oyserman & Benbenishty, 1992)にとって有益とされています。また母親と父親の両方との接触頻度が高いほど精神症状の低減と関連し、兄弟姉妹から引き離されることもまた、より多くの精神衛生上の問題と関連していたことがわかっています(McWey & Cui, 2021)。
親と会えるだけでもプラスの効果が期待できるということです。


また、面会交流は1度だけではありません。多くの場合は定期的な交流を目指していくことになると思います。
両親や親族との定期的な接触は、情緒的・行動的問題に対してプラスの効果があり(Simesk et al., 2007)、実の親と定期的に面会している子どもは、まったく面会していない子どもよりも問題行動が少ない(Cantos, Gris, & Slis, 1997)、という報告があります。さらに、実母との接触がない子どもは、外在化行動(問題行動)が最も多く、接触回数が少なかった子どもは外在化行動がわずかに少なく、接触が最も多い子どもは、外向的行動が最も少ない(McWey et al., 2010)、という結果も得られています。
①質の低い面会を経験した子どもたちは、面会する親からの温かみが少なく、批判や拒絶をより多く感じていたため、専門家は、面会交流の質を高めるために必要なスキルを身につけ、関係者全員(子ども、実親、里親)に十分な準備と支援を提供することが重要ということ、②接触面会(より頻繁な)は、生みの親との絆を強化し、家族の再統合を促進し、子どもの幸福に貢献する可能性が高い(Ruiz-Romero et al., 2022)、といった報告もあり、質の高い情緒的交流のある面会を実施することが望ましいことも分かっています。

回数に加えて定期性も含めてみます。
再統合が目標である家庭においては、実親との接触がより一貫して頻繁である子どもは、接触が少ない子どもよりも行動上の問題が少なく、精神科の薬を服用する可能性が低く、「発達の遅れ」と呼ばれる可能性が低かった。(McWey & Mullis, 2004)との報告があります。

このように、複数回の交流や、定期的な交流は、子どもの行動・発達上の問題リスクを低減する働きがあることが分かります。

しかし、面会交流が負の影響を及ぼすこともあります。
それは交流が「一貫しない」場合のようです。
実の親との接触パターンが(定期的で頻繁な面会とは対照的に)一貫していない方が、まったく接触しないよりも抑うつが大きくなる(McWey et al., 2010)。
親が一切の接触を拒否した場合、子どもは拒否されたことを受け入れ、前に進もうとする余地が与えられるため、一貫しない接触よりも接触しない方がよい(Moyer et al., 2006)。

以上、解釈も含めた先行研究を紹介しましたが、いったん整理します。
交流方法:一貫性を持たせて定期的に実施していくことが望ましいようでした。質の高い、情緒的交流のある面会であることも求められているようでした。現場感覚とも一致していると思います。
プラス面:情緒的・行動的問題の緩和、情緒的幸福、身体・精神的成長、服薬・発達的問題リスク低下、適応全般の向上
マイナス面:一貫しない交流は抑うつ憎悪
以上のようになります。

一貫した交流が子どもにとって望ましいからと言って、なんでもかんでも交流をしまくればええんや、というものではありません。
当然、加害者と被害児童との関係性が重要です。
たとえば「虐待を認めていない」「加害性が低減していない」など、交流時に加害リスクがあるケースや、子どもが親の加害に対する不安が高いケースなどは、交流自体が子どもの心理面に強い負担を強いることになります。
親からの見捨てられ不安より、交流時の再被害への不安の方が強い場合は、交流の中止を検討する必要があるんじゃないかと思います。
少なくとも、加害者が虐待についての内省を進めており、交流時の再発リスクは低いといえる状態において、一貫した面会交流を継続していくことが望ましいといえると思います。

引用文献
Ainsworth, M., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of attachment: A psychological study of the strange situation. Hillsdale, NJ: Erlbaum.
Cantos, A. L., Gries, L. T., & Slis, V. (1997). Behavioral correlates of parental visiting during family foster care. Child Welfare, 76, 309 – 329.
Hess, P.(1982). Parent-child attachment concept: Crucial for permanency plan-ning.Social Casework,63, 46–53.
Hess, P.(1988). Case and context: Determinants of planned visit frequency infoster family care. Child Welfare,67, 311–326.
McWey, L. M., & Mullis, A. K. (2004). Improving the lives of children in foster care: The impact of supervised visitation. Family Relations, 53(3), 293-300.
McWey, L. M., Acock, A., & Porter, B. E. (2010). The impact of continued contact with biological parents upon the mental health of children in foster care. Children and youth services review, 32(10), 1338-1345.
McWey, L. M., & Cui, M. (2021). More contact with biological parents predicts shorter length of time in out of home care and mental health of youth in the child welfare system. Children and youth services review, 128, 106164.
Ruiz-Romero, K. J., Salas, M. D., Fernández-Baena, F. J., & González-Pasarín, L. (2022). Is contact with birth parents beneficial to children in non-kinship foster care? A scoping review of the evidence. Children and Youth Services Review, 143, 106658.
Oyserman, D., & Benbenishty, R.(1992). Keeping in touch: Ecological factorsrelated to foster care visitation.Child and Adolescent Social Work Journal,9,541–554.
Simsek, Z., Erol, N., Öztop, D., & Münir, K. (2007). Prevalence and predictors of emotional and behavioral problems reported by teachers among institutionally reared children and adolescents in Turkish orphanages compared with community controls. Children and youth services review, 29(7), 883-899.

被虐待児の感情コントロール:感情ラベリング(Affect Labeling: LA)

0.感情コントロール方法:感情コントロールなんてできるの?
 虐待を受けた児童のケアやアセスメントの中で、感情コントロールに課題を抱えている子どもは多いです。
 もちろん、その子ども自身の問題や責任という訳でなく、虐待や生来的な衝動性といった外的要因や神経的要因に寄与していることが多く、対応は非常に困難なことが多いです。
 特に今回は、虐待といった外的要因のために感情コントロールに課題を抱えている子どもに対して、エビデンスのある、かつ比較的簡便で実施しやすい手法「感情ラベリング( Affect Labeling)」について紹介できればと思います。

1.感情ラベリング( Affect Labeling) って何?
感情ラベリングは、「感情を言葉にする」と表現される感情調整戦略です。具体的には、自分の感情状態(通常はネガティブな状態)に明示的に感情を表現するワードを用いてラベリングすることです。
たとえば実験などでは、写真の表情からこの人はどのような感情をもつかを言語化してもらうといったものが有名です。日常的には、恐怖場面などで自分の感情を“怖い”“不安”などラべリングする、といったものが感情ラベリングに該当します。この感情ラベリングを行う効果として
扁桃体優位でなく前頭前野優位の状態になる
扁桃体優位な反応=恐怖等への防御反応(有害な反応:攻撃行動)が減少する
という機序が想定できるものです。
実験の結果から、感情ラベリングによって扁桃体の覚醒が低下し、前頭葉が活性化するといった結果が得られています。後ほど詳細を紹介します。
扁桃体は、不安や恐怖に対する防衛反応に寄与する部位として有名で、この防衛反応が4つのFと言われる反応だったりし、このうちの1つに「攻撃反応(Fight)」があります。扁桃体が覚醒し、攻撃反応を表出することで、攻撃的な不適応行動に繋がるというものです。
もちろん攻撃反応以外にも逃走反応(Flight)などがあり、必要な場面で回避的な行動を頻発する児童などがこれに該当すると思われます。
この攻撃反応や逃走反応は、不適応行動として認められる場面が多いです。

児童相談所では、「不適応行動化リスクを下げ、言語化可能性を高める」ために用いることが多いです。また、大人が子どもの感情をラベリングしてくれることで、子どもにとっての受容感を高める効果もあるんじゃないかと感じています。

以下、感情ラベリングについての根拠を述べていこうと思います。

2.感情ラベリングってどのような効果があるの?
感情ラベリングを実施することで、その感情状態から生じる意識的な経験、生理的反応、および/または行動が減少する。具体的には、主観的な情動感情の低下、扁桃体の活動の低下、恐怖刺激に対する皮膚コンダクタンス反応の低下など、感情ラベリングの情動調節効果が示されてます(Torre, & Lieberman, 2018)。たとえ誰かが自分の感情を調節しようと思っていない場合でも、自分の感情にラベルを付けるという行為にはプラスの効果があることが報告されています(Lieberman et al.,2011)。
感情ラベリングはラベリングのタイミングによらず、効率的に苦痛を低下させる一方、強度の高い嫌悪条件では苦痛を減少させるが、強度の低い条件では苦痛を増加させることも明らかになています(Levy-Gigi & Shamay-Tsoory, 2022)。

3.感情ラベリングの神経科学的根拠
感情ラベリングに取り組むと、感情刺激を含む他のタスクと比較して、腹外側前頭前皮質(vlPFC)の脳活動が高くなり、扁桃体の活動が低下することが研究で明らかになっています( Burklund et al., 2015 ; Lieberman et al., 2007)。さらに、脳病変研究からも、vlPFCが感情ラベリングのプロセスに関わることが指摘されています。右のvlPFCに病変がある被験者は、映画を通して登場人物の感情状態を識別する能力が低かった。このことは、感情ラベリングが行われるためには、この領域が必要であることを示唆している(Goodkind et al., 2012)。さらにメタアナリシスにより、扁桃体は感情刺激を伴うタスクで活動することが分かっているが、刺激を単に受動的に見るのではなく、感情を特定しなければならない場合には活動が低くなることが示されています(Costafreda et al., 2008)。
これらの知見を統合する1つの理論は、vlPFCが感情ラベリング中に扁桃体の活動を低下させるように働くことを提案しています(Young et al., 2019)。さらに研究者は動的因果モデリングを使って、vlPFCにおける活動の増大は低い扁桃体活動の原因となることを明確に示しています(Torrisi et al., 2013)。

4.感情ラベリングをどのように活用するの?
使用するタイミングについて、基本的には日常から常に使用していくのが良いと思います。
 また、何か児童に不適応行動が生じたときに、大人側がこれを一緒にやっていくのが望ましいと思います。その際、日常的に感情のラベリングに慣れていないと「ぶっ殺したいからぶっ殺したいんだよ」のようなデ●ジ君や進●郎議員状態になってしまうので、普段から感情ラベリングを使い慣れているのが良いかなと思います。

5.まとめ
 感情のラベリングはひとつの技術ですが、これの良いポイントは「俺の気持ちに共感してくれた」感を感じてもらえる可能性が高いところです。虐待などで傷つき、大人に心を大切にしてもらえなかった子どもたちが、自分の感情に触れてくれる感覚を抱いてくれたら、それは子どもへの心理支援として大きな意義があるのではないかなと思っています。
 また、日常的に忙しい支援者さん達にとって、特別な場面を設定しない・日常の声掛けで対応できる点も優れている部分かなと思います。
 支援者も子どもも、お互いが自身の感情を肯定的にシェアできる環境が作られれば、行動的な面だけでなく心理的にもおだやかな生活を送れる可能性が高まるのではないかなと思います。感情ラベリング、ぜひ活用してみてください。


引用文献
Burklund LJ, Craske MG, Taylor SE, Lieberman MD (2015). "Altered emotion regulation capacity in social phobia as a function of comorbidity". Social Cognitive and Affective Neuroscience. 10 (2): 199–208. doi:10.1093/scan/nsu058
Costafreda SG, Brammer MJ, David AS, Fu CH (2008). "Predictors of amygdala activation during the processing of emotional stimuli: a meta-analysis of 385 PET and fMRI studies". Brain Research Reviews. 58 (1): 57–70. doi:10.1016/j.brainresrev.2007.10.012
Goodkind MS, Sollberger M, Gyurak A, Rosen HJ, Rankin KP, Miller B, Levenson R (2012). "Tracking emotional valence: the role of the orbitofrontal cortex". Human Brain Mapping. 33 (4): 753–62. doi:10.1002/hbm.21251
Levy-Gigi, E., & Shamay-Tsoory, S. (2022). Affect labeling: The role of timing and intensity. Plos one, 17(12), e0279303.
Lieberman MD, Eisenberger NI, Crockett MJ, Tom SM, Pfeifer JH, Way BM (2007). "Putting feelings into words: affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli". Psychological Science. 18 (5): 421–8. doi:10.1111/j.1467-9280.2007.01916.x.
Lieberman MD, Inagaki TK, Tabibnia G, Crockett MJ (2011). "Subjective responses to emotional stimuli during labeling, reappraisal, and distraction". Emotion. 11 (3): 468–80. doi:10.1037/a0023503.
Torre, JB, & Lieberman, MD. (2018). Putting feelings into words: Affect labeling as implicit emotion regulation. Emotion Review, 10(2), 116-124. doi:10.1177/1754073917742706.
Torrisi SJ, Lieberman MD, Bookheimer SY, Altshuler LL (2013). "Advancing understanding of affect labeling with dynamic causal modeling". NeuroImage. 82: 481–8. doi:10.1016/j.neuroimage.2013.06.025
Young, KS, LeBeau, RT, Niles, AN, Hsu, KJ, Burklund, LJ, Mesri, B, Saxbe, D, Lieberman, MD, Craske, MG.(2019). "Neural connectivity during affect labeling predicts treatment response to psychological therapies for social anxiety disorder". Journal of Affective Disorders. 242: 105–110. doi:10.1016/j.jad.2018.08.016

児童虐待の子どもへの影響(簡易ver)

虐待の影響について、ほぼ箇条書きでまとめてみました(脳への影響についての詳細を除く)。
最初に概要をお伝えすると、
認知・心理状態:表情認知、共感性、報酬処理、短期記憶、言語能力、負の刺激への過敏性、行動統制力(衝動性)、自分で感情の動揺を抑えられないという思考
脳機能の低下:海馬(記憶)、扁桃体(感情)、前頭前野(実行機能系)、前帯状回(社会性)
の2本柱があって、そこに感情調節障害が媒介し、不適応行動やトラウマ症状、精神疾患に繋がっていくというイメージです。

1.虐待全般の影響
全般児童虐待への暴露は,ストレスホルモンが発達中の脳の構造にダメージを与え,行動問題,学習,心理社会的,身体的,精神的健康問題に生涯にわたる障害をもたらすことに加え(Bruce,Gunnar,Pears,& Fisher,2013;Larkin et al.,2014),感情調節障害や行動上の問題を引き起こし,生涯にわたって良好な人間関係を形成し維持する能力に影響を及ぼす(Dube et al., 2002)。
再被害リスク:幼少期に身体的または性的虐待を経験したり,IPV(=DV)を目撃したりすると,IPVの被害や加害のリスクが約2倍高まる(Dube, Anda, Felitti, Edwards, & Williamson, 2002; Whitfield, Anda, Dube, & Felitti, 2003)。
子どもの頃に経験した暴力体験の数と,成人後のIPVリスクには,用量効果があることを発見した。具体的には,幼少期に3つの暴力を経験した人の場合,IPVの被害者になるリスクは女性で3.5倍,加害者になるリスクは男性で3.8倍に増加する(Whitfield et al.,2003)。
表情認知児童虐待は,怒った顔や悲しい顔に対する反応時間の短縮に関連したが,正確さは正常であった。恐怖顔や幸せ顔では,最近児童虐待に暴露された人だけが,精度の低下と関連していた。この効果は,3歳以前に児童虐待に暴露された人でより顕著であった(Saarinen et al., 2021)。被虐待児はネガティブな顔や社会的イメージを見たときに,対照群と比較して扁桃体の活動が高まる(McCrory et al., 2011; McLaughlin et al., 2015)。一方,認知的再評価を用いて否定的刺激に対する感情を調節しようとする能動時には,前頭前野活動が増強された(McLaughlin et al., 2015)。
共感性心理的虐待(IPV目撃除)(β = -0.150)とネグレクト(β = -0.137)は,8歳時点での共感性の低下を予測したが,身体的虐待(β = 0.132) とIPVへの曝露(β = 0.164)は,8歳時点での共感性の向上を予測した。さらに,子どもの母親像に対する否定的な表象は,身体的虐待と共感性の正の関連を緩和し(β = -0.177),否定的な表象が増えるほど関連は弱くなることが示された(Berzenski & Yates,2022)。
報酬処理:虐待とRP(報酬処理)の障害の関連について,メタ分析により小さいながらも関連(r = 0.12)が認められている(Oltean et al., 2022).※報酬処理:特定の刺激・状態からどのように報酬(肯定的な結果)を予測し,行動選択を行うかという処理過程。
短期記憶:被虐待経験を持つ女性(18-22歳)は対照群と比較して明らかに短期記憶能力が低下していた(Teicher et al.,2006)。
ネガティブな刺激への反応:虐待を受けた青少年は,虐待を受けなかった青少年と比較して,ネガティブ刺激(画像)暴露時の左扁桃体とセイリエンス処理領域の活性化が大きく(=意識していない刺激までキャッチしてしまう),認知制御に関わる複数の前頭葉系領域(両側上前頭回,中前頭回,背側前帯状皮質)の活性化が低下していた(Jenness et al., 2021)。
感情調節(ER)の困難:感情調節(ER)の困難は,児童虐待と精神病理をつなぐメカニズムであると考えられている(Heleniak et al., 2016 ; Weissman et al., 2019)。身体的・性的虐待や慢性的なIPVの目撃などにさらされた子どもは,感情表現に対して養育者から厳しい懲罰的反応を受けることが多く(Eisenberg, Fabes, & Murphy, 1996),反芻のような不適応なER戦略の使用をより多く示すため(Heleniak et al., 2016),子どもが感情反応を効果的に調節すること(適応的なER)がより困難になると考えられる。
問題行動:身体的,性的,言葉による虐待を受けたり,一貫性のないネグレクトな養育を経験したりする家庭では,有害なストレスが感情,社会,認知,行動の発達と機能を阻害する。特に衝動性や注意欠陥という形で,自己や感情の調節が困難になると,攻撃性や暴力といった長期的な行動上の結果につながることがある(Dube et al.,2002)。
被虐待児の多くは,感情が意識されないことが多いため,ストレッサーや生理的覚醒によって闘争反応や逃走反応につながる。例えば,人間関係でストレッサーが得られた場合,トラウマのある人は,文脈や感情を評価する能力がないまま,刺激から反応に移ることが多く,最終的に過剰反応,暴力,脅迫につながる(van der Kolk, 1994, van der Kolk, 2014)。

2.IPV目撃(=心理的虐待)の影響
・精神発達病理学的説明
低社会経済状態,低所得で治安の悪い地域,地域暴力への曝露,養育者の精神的ヘルスの低下,過酷な子育て,子どもの虐待を含む追加の重大なリスク要因がある中でIPVへの曝露が起こると,追加のリスク要因に曝露されていないIPV被害児と比較して,子どもはより悪い短期および長期適応を示す(Aifi et al., 2011; Afifi et al., 2014; Campbell, Walker, & Egede, 2016; Coêlho, Andrade, Borges, Viana, & Wang, 2016; Fuller-Thomson, Roane, & Brennenstuhl, 2016; Gilbert et al, 2015; Hagan, Sulik, & Lieberman, 2016; Hanson et al., 2006a, Hanson et al., 2006b; Hodges et al., 2013; Kennedy, Bybee, Sullivan, & Greeson, 2010; McLaughlin, Conron, Koenen, & Gilman, 2010).
トラウマ反応がもっとも重篤なのが,「IPV目撃と暴言による虐待」の組み合わせだった。つまり,身体的虐待やネグレクトを受けた人よりも,親のIPVを目撃し,かつ自分も言葉でののしられた人の方が,トラウマ症状が重篤であった(Teicher et al., 2006)。
各パターンのIPV(すなわち、両親間の暴力を目撃し、親の暴力を経験すること)暴露は、より高いレベルの心的外傷後ストレス症状(PTSS)を予測する(Muhammad et al ,2019)。
IPV暴露は、10歳時点での受容語彙力(d=0.26)、一般言語力(d=0.23)、語用論的言語力(d=0.41)の能力低下を示すスコアと関連(Laura et al.,2021)。

・社会的学習理論
IPV曝露の若者は,行為問題,攻撃的・反抗的行動などの児童期の外在化問題,および思春期や成人期の法律違反,逸脱,攻撃的行動を示すリスクが著しく高まる(Espelage, Low, Rao, Hong, & Little, 2014; Fagan & Wright, 2011; Foshee et al, 2015; Graham-Bermann & Perkins, 2010; Huang, Vikse, Lu, & Yi, 2015; Knous-Westfall, Ehrensaft, Watson MacDonell, & Cohen, 2012; Latzman, Vivolo-Kantor, Niolon, & Ghazarian, 2015; Lee et al, 2016; Lucas, Jernbro, Tindberg, & Janson, 2016; Ma et al., 2016; Narayan et al., 2014; Palmetto, Davidson, Breitbart, & Rickert, 2013; Temple et al., 2013; Tyler & Schmitz, 2015; Vogel & Keith, 2015; Zarling et al., 2013) 。
しかし身体的攻撃性は2歳から3歳の間にピークに達した後はほとんどの個人で着実に減少しており(Ogilvie, Newman, Todd, & Peck, 2014),攻撃的な行動に事前に触れることなく暴力の使用に関する好ましい態度や価値観を身につけるといった報告から(Weerman,2011),IPVにさらされた子どもにおいて暴力を発症する/発症しないを区別する変数の存在が示唆されている(Dardis, Dixon, Edwards, & Turchik, 2015).

・愛着理論
IPVにさらされた子どもは,基本的な愛着欲求が満たされにくく,ネガティブなIWM(内的作業モデル)や関係パターンを身につけやすく,愛着者を潜在的な危険源として対処しなければならない(Godbout,Dutton,Lussier,& Sabourin,2009)。
IPVにさらされた子どもは,養育者に対して不安定な愛着や無秩序な愛着を形成し,成人後もこうした愛着スタイルを維持する可能性が高い(Berdot-Talmier et al.2016; Muller, Sicoli, & Lemieux, 2000; Waters, Merrick, Treboux, Crowell, & Albersheim, 2000; Weinfield, Sroufe, & Egeland, 2000)。
母子関係の質がIPV曝露後の子どもの規範的機能の最も重要な予測因子の一つであり,これらの子どものレジリエンスと精神病理のプロファイルを識別する因子の一つである(Graham-Bermann et al., 2009; Miller-Graff, Cater, Howell, & Graham-Bermann, 2016; Skopp, McDonald, Jouriles, & Rosenfield, 2007)。
母親の暖かさ,敵意のなさ,精神的健康が,IPVへの曝露と子どもの適応困難を媒介・調整する(D'Andrea & Graham-Bermann, 2016; Miller-Graff, Cater, et al., 2016; Skopp et al., 2007)

神経科学的影響
「言葉による IPV」 を目撃してきた人の方が,身体的 IPV を目撃した人より,脳へのダメージが大きかった。具体的には,身体的 IPV 目撃は舌状回(視覚野の一部で夢や単語の認知に関係)の容積3.2%の減少に対し、言葉によるIPV では19.8%の減少(Tomoda et al., 2012)。

◆IPV目撃により子どもも暴力的になる?各世代間伝達モデルについての概要
・精神発達病理学的モデルに基づくIPVの世代間伝達モデル
社会経済的地位の低さ,失業,教育水準の低さ,心身の健康状態の悪さ,不安定な愛着スタイル,非効果的/否定的な育児実践,暴力行使に対する肯定的態度,司法制度への関与歴などの個人レベルおよび家族レベルの多くのリスク要因が,IPV発生リスクおよび家族内の暴力の世代間伝達を著しく高める(Ehrrensaft et al.,2003; Garrido & Taussig, 2013; Jouriles, Mueller, Rosenfield, McDonald, & Dodson, 2012; Mbilinyi et al., 2012; Minter, Longmore, Giordano, & Manning, 2015; Narayan, Englund, Carlson, & Egeland, 2014; Smith, Ireland, Park, Elwyn, & Thornberry, 2011).

・社会的学習理論に基づくIPVの世代間伝達モデル
IPVの世代間伝達に関する社会的学習モデルの経験的価値を探る文献は,部分的な支持しか得ていない(Akers, 1998; Bevan & Higgins, 2002; Boeringer, Shehan, & Akers, 1991; Cochran et al, 2011; Cochran, Jones, Jones, & Sellers, 2016; Eriksson & Mazerolle, 2015; Fritz, Slep, & O'Leary, 2012; Jennings, Park, Tomsich, Gover, & Akers, 2011; Sellers et al., 2005; Zavala, 2016)。さらに,メタ分析では,幼少期のIPVへの曝露と,思春期から成人期にかけての暴力的な恋愛関係への関与との間に,弱から中程度の関連性が存在することが示唆されており(Pratt et al.,2010)、社会的学習理論のみでの説明では不十分である裏付けとなっている。

・愛着理論に基づくIPVの世代間伝達モデル
幼少期にIPVにさらされることは,不安定な愛着だけでなく無秩序な愛着の発達の重大な危険因子であり,それが男女ともに思春期から成人期にIPVの加害や被害を受ける重大な危険因子である(Allison,Bartholomew,Mayseless,& Dutton, 2007; Cameranesi, 2016; Doumas, Pearson, Elgin, & McKinley, 2008; Godbout, Lussier, & Sabourin, 2009; Godbout et al. , 2016; Sutton, Simons, Wickrama, & Futris, 2014)。
IPVは女性に対する攻撃であると同時に,介護システム全体に対する攻撃として概念化されており,世代を超えて受け継がれる傷ついたIWMは,女性(個人として,母親として)と子どもの社会的・感情的機能に悪影響を与える。このモデルによると,IPVを経験した母親は,恐怖と圧倒され,乳児の苦痛に対して,乳児が自分と同じように無力で脆弱であると認識する投影的同一化,または乳児が加害者のように攻撃的で敵対的であると認識する投影で反応することが多いという。これらの心理的歪みは,一貫性のない,敵対的な,あるいは無神経な育児行動につながり,子どもの不安定な愛着や無秩序な愛着の発達を引き起こすため,暴力の連鎖が続く可能性がある。


簡単にですが、虐待全般の影響に加えて、心理的虐待と密接なIPV(≒DV)の影響について紹介してきました。
子どもの行動や特性について、子ども自身の問題や特性だと誤って説明するのは避けるべきだし
同様に必要以上に虐待の影響だと言うのも誤りです。
どこまでが虐待の影響で、どこからが子ども本来の特性か、きちんと鑑別した上で治療計画等に臨んでいけるといいなと思います。


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