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性的虐待順応症候群(Child sexual abuse accommodation syndrome)が児相界隈で無批判に受け入れられていることについて

性的虐待順応症候群(Child sexual abuse accommodation syndrome:以下CSAAS)という言葉があります。
先日弁護士さんに声を掛けられて話を聞いているうちに、どうも児相がおかしな話を展開していることを知りました。CSAASを根拠にして裁判を戦っているようです。これって、そもそも児童虐待があった根拠になる概念なのでしょうか。弁護士さんは不安を抱えていたそうです。私も正直に「なにそれこわーい」と発してしまいました。
どこかから「余計な話をするな」と御叱りを受けそうな話題なんですが、ぶっちゃけ分かる人がちゃんと調べれば辿り着く結論なので、きちんとここで話題にしたいと思います。

CSAASとは何か。以下に田崎他(2017)による、シンポジウム5:性的虐待の被害児童を支援する─福祉・医療がするべきこと─, 児童青年精神医学とその近接領域, 2017 年 58 巻 5 号 p. 669-676から引用します。
 米国の精神科医ローランド・サミットは1983年 「性的虐待順応症候群(CSAAS)」 を発表した。これは性的虐待を受けた子どものノーマルな心理反応であり,性虐待の発見や対応のためには知っておく必要のある内容である(Summit, 1983)。
1 )性的虐待を秘密にしようとする
 加害者から子どもへの脅しや口止めにより,言ってはいけないことだと子どもが思い込む。また,開示しても 「誰も信じないよ」 と加害者が子どもに伝えることで口封じを強化させる。
2 )自分は無力で状況を変えることはできないと感じる
 子どもは保護者や権威ある人に 「いや」 ということができず,わいせつな行為をされても寝たふりをしたり,隠れたり,解離したりするのが精いっぱいなことが多い。
3 )加害者を含めた周りの大人の期待に合わせよう,順応しようとする
 子どもは秘密にすることと無力感の中で生活しており,その生活に順応しようとする。
4 )被害の開示の遅れ,開示内容に矛盾があること,開示が説得力に欠けること
 子どもの性的虐待の開示が遅れるのは極めて正常なことである。しかし虐待の説明が,矛盾していたり,開示が遅れたりすることで,子どもによる報告の内容の信ぴょう性が疑われてしまうこととなる。
5 )被害を開示した後で撤回する
 自分だけ家族から引き離される,開示しても信じてもらえないなど,開示後に起こるかもしれないと恐れていたことが本当に起こった場合に虐待の開示を撤回する子どももいる。
 子どもたちが,自分が悪かったと思いこんでいる罪悪感,加害者や家族が自分のことで困った立場へ立たされることへの不安,性的虐待が立証されたら自分の身はどうなるのかという恐れなどが上記のような反応を子どもに引き起こす。

だ、そうです。

現場において、私個人はこの用語を使用したことはありません。それはきちんとした診断基準として存在するものではない、いわゆるスラングのようなものだからです。
しかし、どうやら私の知らない場所で、この用語がかなり幅を利かせて使用されているそうです。
例えば裁判の場で、「子どもが証言を撤回したのは、まさしくCSAASによるものだ!だから性的虐待はあったんだ!」のような感じのようです。
また専門職への研修の場で、通称性虐おじさんと言われている方が、この用語をベースに性虐を語っていると聞きます。
ofSを広めている1人である某先生も、この用語を用いて性虐についての話をしていました(https://news.yahoo.co.jp/articles/11f443b025fad137e76ee5cadf0a27b0388d8198?page=2)。

しかし、Wikipediaレベルですらこの症候群を否定しています
https://en.wikipedia.org/wiki/Child_sexual_abuse_accommodation_syndrome
サミット自身は後の論文で、多くの人が「症候群」という用語の使用によって誤解を受けていた程度や、彼の理論が行動科学と刑事裁判の両方の診断法として不適切に使用されていたことを認識していた。
いくつかの州がCSAASに関する証言を禁止しているが、これは、報告が遅れている場合を除き、科学者に一般的に受け入れられていないという証拠に基づくものである。アメリカ精神医学会もアメリカ心理学会も、CSAASを認めていない。

新しいところでは、Kamalaら(2020)「Analyzing the scientific foundation of Child Sexual Abuse Accommodation Syndrome」においても、CSAASが科学的根拠に乏しい、科学的根拠に基づいているものだとしているLyon氏の提言には賛同できない、等の否定的意見が出されています(London氏の共同研究者だからという邪推もできるが)。

色々と思うところはありますが、一度このCSAASについての議論を、肯定否定両面を込みで整理してみようと思います。

・議論の流れ
このCSAASの歴史としては、Summit氏が提言⇒客観性の乏しさetcの科学的根拠についての批判⇒Lyon氏がCSAASをフォローする意見を出す(Lyonら(2007)「False denials.Overcoming methodological biases in abuse disclosure research」など)⇒その意見の客観性について批判…
と流れていき、最終的に「影響力のある決定が行われている法廷などの場では使用されるべきでない」と落ち着いた感じがします。
結局のところ、CSAASの科学的根拠の乏しさ、研究法の不適切さなどの指摘が相次いだ結果、この用語が専門的には受け入れられていない状況になっちゃった感があります。
ちなみに、おおむね肯定的意見に回っているLyon氏の関わっている以下の比較的最近の論文
Thomas D. Lyon, Hayden M. Henderson(2021), Increasing true reports without increasing false reports: Best practice interviewing methods and open-ended wh-questions. American Professional Society on the Abuse of Children Advisor, Legal Studies Research Paper Series No. 21-1,January 4, 2021.
Elizabeth B Rush , Thomas D Lyon , Elizabeth C Ahern , Jodi A Quas (2014),Disclosure Suspicion Bias and Abuse Disclosure: Comparisons Between Sexual and Physical Abuse. Child Maltreat.,2014,19(2):113-118.
では、Child sexual abuse accommodation syndromeの単語は1度も出てきていません。内容的には言及されても良さそうなんですけどね。やっぱりもう使わないようにしているんだろうかと思っちゃう(調べ不足なだけだったらごめんなさい)

・否定的意見の一部
Londonら(2005)「Disclosure of child sexual abuse: What does the research tell us about the ways that children tell」では、撤回はまれであり、CSAが「診断」される確実性に関連しているとしさしています(“撤回はまれ”という表現は後述する研究で否定できそうです)。
科学的根拠の乏しさ、研究法の不適切さに言及した論文はたくさんあるので割愛します。要は、それだけ研究的には不適合な概念だったということなんですね。

否定的意見に入れるべきかは迷いましたが、Summit(1983)の中で語られている、症候群の出立についてです。Summitの論文は独自の研究でも系統的な研究のレビューでもなく、彼の結論は主に臨床相談員としての仕事や専門家、インフォーマルな関係者からの「お墨付き」に基づいていることを強調しているのです(Summit, 1983, p. 180)。なので、この症候群自体、臨床的経験則から作られたものであって、科学的客観性によって作られたものではないといえます。
また、この症候群の提唱者であるSummit(1992)より、重大な危惧が語られています。それは、本来CSAASは、性的虐待の被害者が直面する偏見に対処する手段として使用する意図があったにもかかわらず、証人が真実を語っている可能性があることを証明するための武器として司法現場で使用されている、というものです。同氏は自身の著書の中で、CSAASは診断ツールとしての利用を意図したものではないことを繰り返し述べている訳です。Summit氏本人が危惧していた状況が、日本において展開されてしまっているんですね。

・提案
Summit氏の提言を無視はできない。でも裁判で戦える何かが欲しい。
そこで、CSAASで提唱されている各タームをそれぞれ立証していく手法はどうでしょうか。

性的虐待を秘密にしようとすることを示す先行研究があります。
Londonら(2005)「Disclosure of child sexual abuse: what does the research tell us about the ways that children tell?」によると、子どもの頃に性的虐待を受けた成人を対象とした 11 の研究をレビューの結果、成人の参加者の60~70%は幼少期に虐待を開示しなかったとのことです。
London ら(2008)「Review of the contemporary literature on how children report sexual abuse to others: findings, methodological issues, and implications for forensic interviewers.Memory 16:29–47」によると、小児期に性的虐待を受けた成人の55~69%が児童期に虐待を開示しなかったと回答していた。また開示は1ヶ月から5年以上遅れていました。

遅延開示の存在を示す先行研究があります。
Farrellら(1981)「Prepubertal gonorrhea: A multidisciplinary approach. Pediatrics, 67, 151-53.」では、24人の子どもが最終的に性的接触の開示をした子どもたちのうち、少なくとも71%(17/24人)は、最初に質問されたときに虐待を開示しませんでした。
Ingramら(1982年)「Sexual contact in children with gonorrhea. American Journal of Diseases of Children, 136, 994-96.」では、淋病の女児において最終的に性的接触を開示した少女のうち、少なくとも62%(8/13)は最初に開示しませんでした。

開示内容の矛盾について示す先行研究があります。
Sjobergら(2002)「Limited disclosure of sexual abuse in children whose experiences were documented by videotape.」では、加害者によってビデオ撮影された102件の暴行事件について、被害者の供述と併せて調査したところ、確認された被害者は性的虐待を過小評価または否定して報告がなされていました。子どもが性的虐待の経験を開示しない理由としては、虐待の側面に対する理解不足、感情的な動機、幼少期の健忘症、虐待に関連した記憶を忘れようとしたり避けようとする活動的な行動が記憶障害につながるなど、さまざまな理由が示唆されています。この研究のサンプルは9と少なく、男児8と男児に偏りがあるので解釈には注意が必要ですが。

撤回について示す先行研究があります。
Malloy ら(2007)「Filial dependency and recantation of child sexual abuse allegations.」では、撤回は珍しいことではなく、成人の家族の影響に対する子供の脆弱性の影響を受けることを示唆しています。
Hershkowitzら (2014)「Allegation rates in forensic child abuse investigations: Comparing the revised and standard NICHD protocols.」では、虐待が裏付けられた身体的および性的虐待のケースで25%の撤回率を報告しました。
Lindsayら(2016)「Familial Influences on Recantation in Substantiated Child Sexual Abuse Cases」では、家族(非加害者である養育者以外の家族)が子どもの申し立てを信じていると表明した人が1人でもいる場合に子どもは撤回する可能性が低い/家族(非加害者である養育者以外の家族)が申し立てに不信感を表明した場合、子どもは撤回する可能性が高くなることが明らかになりました(疑惑を明確に信じていることを表明した家族が少なくとも1人いた子供の33%が撤回したのに対し、そのような家族がいなかった子供の56%は撤回していた/不信感を表明した家族が少なくとも1人いた子どもの撤回率は66%であったのに対し、そのような家族がいなかった子どもの撤回率は44%)。また、現在の居場所(すなわち、開示時の生活状況)にとどまっていた子どもたちは、一時保護等で分離した子どもたちよりも、撤回する可能性が高かった(在宅の子どもたちの撤回率が68%に対し、分離した子どもたちの撤回率は46%)この結果は、社会的プロセスが性的虐待の報告を撤回する動機となることを示唆していますが、いずれにせよ撤回可能性は低くはないというものでした。


以上を見てみると、性的虐待順応症候群(Child sexual abuse accommodation syndrome:CSAAS)についてはSummit氏のペーパーを見ても、その用語の出立自体には科学的根拠・客観性に乏しい概念と言わざるを得ず、法定等の場や公的機関の意見書に用いることは避けるべきだと思います。
しかしSummit氏が提言している症候群の各タームについて詳細に見ていくと、臨床的体験から示唆を得て構成した概念が、データでも立証されつつあるように思われます。
CSAASをバラした要素ごとに、例えば「性的虐待における撤回は珍しくないことが先行研究で示されているため、撤回したから性的虐待はなかったと言い切ることはできない。/性的虐待開示の撤回は、性的虐待被害者においてごく一般的な行動であることが示されているからだ。」のように用いることはできるのではないでしょうか。

いずれにせよ、「撤回はCSAASのパターンやんけ!性虐あった証拠や!」みたいに用いるのはご法度であることはご理解いただけたと思います。あくまでも統計上の話であることと、現時点ではCSAASとしての立証はされていません。そもそもCSAASが専門的に認められている前提での話をすることは避けなければいけません。要素にバラしたらある程度根拠が得られそうだ、という程度に過ぎません(程度と言っても大きな成果ですが)。
でも近い将来、CSAASの概念が再構成されて立証されていく可能性はありそうですね。性的虐待の予後の悪さや不開示状況における児童の予後の悪さ等を考えると、きちんと立証され活用されていくであろうその日が楽しみです。

DV(家庭内暴力・配者間暴力)の加害メカニズムや加害者特性、児童虐待との関連について

DV(家庭内暴力・配偶者間暴力)が社会問題となっていることは周知のことだと思います。
子どもの前でDVや夫婦間口論が発生すると、DV加害者や口論した夫婦から子どもに対する心理的虐待に当たるというのはご存じでしょうか。
実は昨今の児童虐待対応件数の急増は、この「DV目撃・夫婦間口論目撃」の認知件数の急増に寄与するところが大きかったりします。
今回のエントリーはその中でDVに焦点を当てたお話。

心理的虐待が脳の器質的・機能的な面に負の影響を及ぼすことは周知の事実だと思いますが、その心理的虐待の中には当然DV目撃も含まれます。
なので、そのDV対応というのは実は児童相談所の中でも件数としては非常に多いのです。
現在我が自治体の児童虐待関係の部署でもDV担当の職員がいて、その方と話す機会があり、その中でDVに関するちゃんとした知識が実は共有されていないという話が出ました。

DVで有名な理論と言えばきっと、DVサイクルの話なのではないでしょうか。
DVサイクルとは、緊張期→爆発期→ハネムーン期というサイクルを繰り返すよというもので、いわゆる「旦那はケンカの後はいい人なんです」と言い、旦那を信じてみたいと言って再度の被害に遭うことを繰り返す、ということに代表されます。
しかしこの理論、現象的には比較的当てはまることがあっても、「なぜこのサイクルに陥るのか」「どうすればフォローアップが可能なのか」という点については表面的なものに留まることが目立っているのが現状です。現象としてはあっても、きちんとした客観的根拠等に基づく話ではないんですよね。
あと、このDVサイクル理論をどの家庭にもドヤ顔で毎回語る人物に対して、とある福祉司さんが「各家庭にそれぞれの苦しみやメカニズムがある」と怒りを表明していたので、自分もその気持ちに応えなきゃ、DVメカニズムについて真剣に考えなきゃなぁと思った次第なのです。
今回はそのDVについて、ある程度の客観的な説明を試みてみたいと思います。

以下研究論文の要旨抜粋
国内研究
◆岡田 博名, 桂田 恵美子(2013)「なぜ人は攻撃するのか」
・男性は攻撃性の身体攻撃・言語的攻撃・間接的攻撃が有意に高く,防衛機制では価値下げ(「とても内気な人間だ」など自身や積極性の無さ),受動攻撃(「もし上司が私をイライラさせたら,仕事でわざとミスしたり,ゆっくりやったりして仕返しする」など間接的攻撃項目),否認(「不愉快な事実を,それがまるで存在しないかのように無視する傾向がある,と人から言われる」など現実逃避と類似した項目)の得点が有意に高かった。
・愛着スタイルと攻撃性及び防衛機制には関連があること,愛着安定型の人より愛着不安定型の人の方が攻撃性及び未熟な防衛が高い
・人は他者との関りに置いて自己が傷付くのを防ぐために他者からの攻撃を避け,自己を防衛する手段として攻撃を用いる可能性がある

◆片岡 祥・園田 直子(2014)「恋人への分離不安と愛情及び交際期間が恋人支配行動に及ぼす影響」
・恋人支配行動が生起する背景
・暴力的支配行動については,有意傾向ながらもコミットメントに正の主効果が,親密性に負の主効果がみられた。
・強い恋人分離不安と短期の交際期間という条件が揃った場合に,暴力的支配行動が抑制されることが示された。弱いながらも,強い情熱と親密性という条件が揃った場合も同様の傾向がみられた。また,強いコミットメントと弱い恋人分離不安という条件が揃った場合には暴力的支配行動が促進される可能性が示唆された。
・恋人分離不安に関しては単独では影響を及ぼさないものの,他の要因との交互作用がみられるという結果をえた。
※コミットメント:愛情の3要素のうちの1つで,お互いがどれほど離れられないかを示すもの。コミットメント因子(私と〇〇との関わりは揺るぎないものである,など7 項目)

◆赤澤 淳子(2016)「国内におけるデートDV 研究のレビューと今後の課題」(レビュー論文なので間接引用)
性役割観や自己評価等の個人変数については,関連するとされる論文もあるが,研究結果は一貫していない。
・関係満足度の高さとデートDV との関連が指摘されており,被害・加害経験者の満足度は低いことが示されている
共依存の高さ,束縛の高さ,独占欲の高さなど,当事者の関係への過剰なのめり込みがデートDV の被害や加害と関連していることが明らかになっている。
・当事者間の不均衡な関係性や両者の勢力の差など,二者関におけるバランスの悪さがデートDV 被害・加害に関連していることが示唆されている。
・DV 加害・被害経験の高さと関連する要因として,家族への否定的感情,親の養育態度や親子関係,親からの虐待,両親間での喧嘩や暴力行為の目撃や愛着が検討されている。

◆片岡 祥・園田 直子(2016)「2 つの恋人支配行動の生起メカニズムの違い」
・恋人分離不安を媒介した効果はみられなかったものの,未熟性因子から暴力的支配行動への直接効果がみられた
・強い未熟性特性持つ者は分離不安とは関係なくどちらの支配行動もとるという仮説2 は,部分的に支持された。これは強い未熟性特性を持つ者は,例え破綻のリスクが大きくても,関係性の状態に関わらずに暴力行動を選択してしまう傾向にあることを示唆するものであろう。共依存関係の中で,暴力行動は強い未熟性特性を持つ者がとりうることを示した点は意義あるものといえる。
共依存の未熟性特性が強い者は,関係性における不安とは無関係に束縛的支配行動も暴力的支配行動も選択する傾向にある。
共依存の未熟性特性は「ものごとを忍耐強く待つことが苦手である」や「過去の人間関係の失敗から学ぶことが少なく,同じことを繰り返すことが多い」といった項目から測定されることからもわかるように,世話を受ける側は相手を失いたくないという自分の欲求を最優先にし,手段を選ばず相手が去っていかないようにする可能性が高いと考えられる。

◆金政 祐司・浅野 良輔・古村 健太郎(2017)「愛着不安と自己愛傾向は適応性を阻害するのか?」
・愛着不安が高くなると,被受容感が低くなることで,あるいは被拒絶感が高まることで抑うつ傾向ならびに一般他者への攻撃性が高くなるという問題部分で議論した仮定プロセスが支持されたと言える
・愛着不安は,個人内適応ならびに個人間適応を阻害すること,さらに,個人間適応に関しては,本人の報告したパートナーに対する間接的暴力加害のみならず,配偶者が報告した間接的暴力被害とも関連することが示された。加えて,媒介過程についても仮説を支持する結果が得られており,愛着不安が高くなることで,パートナーからの被受容感が低まり,あるいは被拒絶感が高まり,その結果,抑うつ傾向が高くなる,また,パートナーに対する間接的暴力加害や配偶者が報告した間接的暴力被害が高くなるという仮定したプロセスの妥当性が示された。
・研究1ならびに研究2で一貫して得られた結果は,愛着不安と自己愛傾向の双方が,共通して個人間適応を阻害し,また,それらの影響が他者からの被受容感によって媒介されるというものであった。研究1, 2で共に,愛着不安あるいは自己愛傾向が高くなると,個人間適応の指標である一般他者に対する攻撃性やパートナーに対する間接的暴力加害が増大すること,また,それらの影響は一般他者やパートナーからの被受容感によって媒介されることが示されていた。
・自己への信念という観点からは概念的に対置されるはずの愛着不安と自己愛傾向が適応性に影響を及ぼす際のプロセスの共通項としては,双方が個人間適応を阻害し,かつその影響が他者からの被受容感によって媒介されることであると言える。これらの結果は,愛着不安の高さによる過度の不安感と焦燥感から生じるバイアス,あるいは自己愛傾向の高さが孕みもつ自己の不安定性や脆弱性から理解されるものであろう。ただし,その媒介プロセスは異なっていた。つまり,愛着不安が高くなると被受容感は低くなり,そのことで攻撃性は高まるが,自己愛が高くなれば被受容感は高まり,それによって攻撃性は抑制されるというものであった。加えて研究1, 2での愛着不安から被受容感を媒介した攻撃性への間接効果の方向性を踏まえると,愛着不安から攻撃性への影響は被受容感を媒介させることで弱まっていた。これは,間接効果自体はそれほど大きくはないものの,愛着不安から攻撃性への元々の影響の幾分かは,問題部分で言及したような,愛着不安の高さゆえに他者からの受容を低く見積もることによるもの,すなわち,周囲の他者やパートナーから受容されていないと感じることに基づいているものであることを示す結果と考えられる
・間接効果としては比較的小さいものの,自己愛傾向から攻撃性への元々の影響は,自己愛傾向の高さに起因する周囲の他者やパートナーから受容されているというポジティブな感覚によって抑えられていることを示唆していると言える。

◆荒井 崇史・金政 祐司(2019)「愛着不安とDaV」(研究発表)
・愛着不安が直接的に交際相手への間接的暴力へとつながるのではなく,愛着不安が恋人を支配したいという欲求に結び付く場合に,交際相手への間接的暴力が生じると考えることができる

●国内研究の課題:生育歴を含めた追跡研究がない

海外研究
◆Donald G. Dutton (2008)reflections on thirty years of Domestic Violence Research
・「恐怖心の強い愛着」,中心的な特徴としての高い不安に基づく怒りを持つ愛着スタイルが,妻の虐待の報告と加害者の嫉妬,怒り,トラウマ症状の自己報告と有意に相関している。 親密な関係の中で虐待を受けた男性は,ボーダーラインの特徴と愛着不安の両方を持っていた。虐待性の心理的特徴のスキーマやパターンが現れ始めていた。大規模なサンプルを用いたその後の研究では,主にこれらの初期の知見:境界線の特徴,愛着不安,衝動性と虐待性の間の接続のパターンが確認されている。
・身体的虐待によってトラウマを受けた子供たちの研究により,この暴露のために長期的に続く "認知的欠損 "を持っていることが示された。彼らの認知は,非難として行動化する傾向があり,自己の否定的な経験をパートナーが「引き起こした」ものとして見る傾向があり,パートナーに対するフラストレーションと怒りを生成する。怒りは,物理的な虐待性の閾値にまで達し,その後,しばしば破壊的に表現される。

Angela J. Narayan, M.A., Michelle M. Englund, Elizabeth A. Carlson, and Byron Egeland(2014)「Adolescent Conflict as a Developmental Process in the Prospective Pathway from Exposure to Interparental Violence to Dating Violence」
・幼児期の両親間暴力の目撃は成人期早期のデート・バイオレンスの加害を直接予測

●知見まとめ
加害メカニズム:愛着不安が恋人を支配したいという欲求に結び付く場合に,交際相手への間接的暴力が生じる+愛着不安が高くなると被受容感は低くなり,そのことで攻撃性は高まる+強いコミットメントと弱い恋人分離不安という条件が揃った場合には暴力的支配行動が促進+強い共依存の未熟性特性を持つ者は,例え破綻のリスクが大きくても,関係性の状態に関わらずに暴力行動を選択してしまう傾向(研究知見より)
 =愛着不安傾向が強いと,被受容感などのパートナーによる否定的な経験を「パートナーが引き起こしたもの」と被害的に受け止め,しかしコミットメントの強さから相手と離れられないという感覚があるためパートナーへの執着を有し,未熟性の強さのため建設的な関係構築に至らず自己の欲求を最優先にしてしまう結果,怒りをベースにした攻撃的な対応(DV等)を用いて支配的行動を取る(まとめるとこんな感じ?)
加害者特性:愛着不安傾向(による被受容感・恋人分離不安)/共依存の未熟性特性/強いコミットメント
加害者の経験:家族への否定的感情,親の養育態度や親子関係,親からの虐待,両親間での喧嘩や暴力行為の目撃や愛着不安

さて、知見まとめの中の加害メカニズムを、緊張期→爆発期→ハネムーン期みたいなDVサイクル理論の中のハネムーン期に焦点を当てて考えてみることとします。
ネムーン期は簡単に言うと、散々暴力を振るった後に「ごめんね俺が悪かった、愛しているよ」と優しくなる時期のことを指します。
「自己の欲求を優先する共依存の未熟性などが基本にある攻撃的な支配」がDVでした(※それだけがDVメカニズムじゃないと思いますけど、それに限定して話します)。
その支配は、愛着不安によりパートナー(人全般)に対する安心感・信頼感の欠如がベースにあります。だから強制力を持って支配し、自己のもとを離れないようにするんですね。
離れて欲しくないから、その欲求を謝罪や愛情表現という形で心情的に訴える訳ですが、結局のところ「愛着不安による被害的認知により怒りが誘発されて攻撃的な対応に至る」というベースの部分は解決に至っていないため、結局加害者自身の愛着不安を刺激する出来事があると、またDVサイクルに陥ってしまうのではないかと思われます。
これが金政・浅野・古村(2017)「(攻撃性は)周囲の他者やパートナーから受容されているというポジティブな感覚によって抑えられていることを示唆している」に繋がっていくんじゃないかなぁと個人的には感じるところではあります。

Angela, Michelle, Elizabeth, and Byron(2014)でもありますが、DV目撃による虐待は連鎖していくリスクがあります。いわゆる虐待の連鎖を止めるために、家庭ごとにあるDVメカニズムをアセスメント・共有し、負の連鎖を食い止めていく必要があると思うわけです。

過剰適応という虐待の影響

A君は小学校入学前から激しい暴力を受けて育ちました。父母共に、A君に対し、些細な言動を理由に殴る等の暴力の他に、お前は無能だなどの暴言を吐き続けていました。また母は、A君のクラスメイトに対し、あの子はバカだから関わるな、あの子は無能だから話すと無能が移るなど、第3者への暴言を用いてA君を孤立させていきました。A君が耐えかねて家を飛び出した時には、誰も探しに来てくれないばかりか、家へ戻ったところカギがかけられており、結果として締め出され、追い出される形となったこともありました。ある日のこと、A君がお皿洗いを忘れてゲームをしていたところ、父が激怒しフライパンで殴打、A君は流血してしまいます。母に助けを求めるも、こっちに来ないで、アンタが悪いんじゃないのと言ってA君を父の部屋へ突き返し、鍵を閉めて父と2人きりにさせてしまいました。翌日父母は学校を休ませるも、不審に思った近隣住民の通報により児童相談所が介入し虐待が発覚、一時保護となりました。
一時保護中のA君は、“大人には丁寧な口調で話し、負の情動を一切表出しない一方で、大人の居ないところでは他児をいじめ暴言を吐き続けるなど、大人の前では過剰適応+他児には攻撃的に振舞うというような状態が継続していました。

「イイコ過ぎる」とかよく言われる児童に出会いますが、いわゆる虐待の影響で過剰適応となってしまっている場合のお話です。一般的に考えても、大人のせいで怖い思いをしてきた子どもが、大人の前で過剰にイイコに振舞うことは、あまり不思議ではないと思います。
しかしだからと言って、「そんなイイコにしなくていいんだよ」と声掛けをするだけでは何一つ変化はないでしょう。過剰適応は、大人にとってはイイコで都合の良い存在に映るかもしれませんが、子どもにとっては何一つ解決にならない状態ですので、「過剰適応を解除しても安心できるんだ」という状態に持っていくことが求められるのです。
過剰適応の児童は、一見するといい反応を返してくれるので担当者も安心してしまうケースがありますが、子どもの認知的・心理的な変化にもっていくまで苦労することが多かったなという感じです。というのも、偶然かもですが自分が担当していた子どもは「過剰適応+他児への攻撃性」がセットになっていることが多く、過剰適応についてのある程度の変化があっても、一時保護の期間で「自尊心の傷付きのために他児に対する攻撃的な行為で自尊心の補償を衝動的に行ってしまう」という部分の修正まで至ったケースって、ほとんど思い浮かばないんですよね(過剰適応とはまた別ではありますが…)。

過剰適応の定義を整理します。
過剰適応とは周囲に合わせすぎてしまう傾向と一般的には理解されていますが、心理学界隈では、真面目・頑張り屋というパーソナリティ特徴+自分の意思や感情を過度に抑制する傾向・他者からの評価を気にして他者に過度に合わせる傾向などが指摘されています。
過剰適応の概念は,「外的適応の過剰さ」と「内的適応の低下」という2 側面が考えられています。桑山(2003)はこれをもとに過剰適応を「外的適応が過剰なために内的適応が困難に陥っている状態」と定義しています。外的適応が過剰なために内的適応が困難に陥っている状態…非常にしっくりきます。
桑山(2003)「外界への過剰適応に関する一考察―欲求不満場面における感情表現の仕方を手がかりにして―」

過剰適応の先行研究のうち、虐待にかかわりがありそうなものを確認し、2つと少ないんですけども以下にまとめます。

藤元・吉良(2014)「青年期における過剰適応と自尊感情の研究」
過剰適応的な青年は見捨てられ不安や見捨てられ抑うつを抱えていることが先行研究より示唆されていて、そのために自分の感情に気づきはしても、見捨てられ不安があることから外的適応行動を止めることができないと推察されるとあります。なので過剰適応高群の者は、自身の気づきが高まると学校適応感は高まるが、内的適応の低さゆえのつらさを抱えたままの状態であると考えられ、過剰適応的方略で適応するのではなく、自分の意思に基づく振る舞いをして適応することの有効性が示唆された、とあります。
日潟(2016)「過剰適応の要因から考える過剰適応のタイプと抑うつとの関連」でも、自分らしさを感じられないタイプの過剰適応者には、自己不全感に代表される内的不適応感を解消していく介入が有効と考えられるという記述もありますし、こういうベクトルでの心理療法が有効なんでしょうね。

小川・德山(2018:日本心理学会発表論文集のものですが)「大学生の愛着スタイルが過剰適応に及ぼす影響」
アンビバレント」が高い場合は過剰適応の内的・外的側面が共に高くなった。アンビバレント型は周囲に合わせすぎて自身の内的適応が困難になるため,心理的不適応を起こすリスクが高いと考えられる、とあります。なお、アタッチメントスタイルの無秩序型についてデータはないですが、これはまぁやむなしでしょうか。

被虐待児で過剰適応な児童について考えてみます。
安定的でない不適切な養育を受け、しかもそれは恐怖心等自己の安全を脅かす体験の連続だったとします。
1. 先行研究をシンプルに引用して、不安定で不適切な養育の結果、見捨てられ不安の高まりがあることにより、外的適応行動を止めることができない
2. 他者からの攻撃により安全を脅かされることを学習しているため、その攻撃を回避する方略として、過去に学んだ他者の攻撃性を低下させる・攻撃を回避する関りを相手に行う
の2点に加えて、場合によっては自己の内面に触れる面接は虐待を想起させるため侵襲性が高く、防衛的に回避したその言動が過剰適応的になる、というものもあるとは思います。

ここまで書いてお気づきでしょうが、過剰適応についての理屈を並べると「見捨てられ不安の回避」「攻撃の回避」(+「虐待想起による侵襲の回避」)と、普通に考えたら辿り着ける話ばかりです。
この分野って、もしかしてそこまで研究が進んでいないのでしょうか。
もしくは、過剰適応の概念がまだ深まっていないということなのでしょうか。

事例のA君をこれらに基づいてアセスメントすると、
「大人からの身体的攻撃による自尊心の低下に加え、度重なる本児の存在自体を否定する言動により見捨てられ不安が憎悪したことにより、他者の攻撃を回避し見捨てられ不安を低減するために、過剰適応としての外的適応行動が多発している様子がうかがえた。
虐待による自尊心の低下+親による他児を見下す言動の誤学習により、他児を見下し安心感を得ることによる自尊心の補償という行動パターンが固定されており、そのため他者と対等な関係を構築することが困難となり、そこでのトラブルによる大人の介入に対し、外的適応行動により侵襲の回避を行うことで本児の不適応行動が根本で解決されず問題を繰り返してしまうという負の循環も認められた。」
大体こういう流れがベースになってくるのかなぁと思います。

虐待に関係のある先行研究の少なさ(というか自分の勉強不足?)のため微妙な気持ちで本エントリを書いていましたが、アセスメント例を書いてみると意外とそれっぽくまとまるので、自分自身を誤魔化せてしまう恐怖心を感じる今日この頃でありました。

彼氏彼女を作るためにロジスティック回帰モデルを活用する方法(恋愛心理学と統計)

「どうやったら彼女(彼氏)ができるんだろう」
きっと世の中の誰しもが、恋人ができないことについて悩んだことがあるはずです。
私も例に漏れず、特に中学時代は異性のことしか頭になく、そのせいでか成績は常に最底辺を這いつくばるカス生徒でした。

中学時代を思い起こしてみると、「どうやったら恋人ができるか」についてはクラスの恋愛未経験者の知恵(妄想のみ)を集めて何度も議論してみたものです。
そしてついに異性とのデートにこぎつけた時、意味も分からずメンズノンノ(名前聞いたことあったから)やKERA(女の子が可愛かったから)を読んで、それっぽい知識や異性の生態なんかをリサーチし、その結果失敗を繰り返していたにも関わらず、周囲には「結構いい感じだったw」とうわべを取り繕う悲し過ぎる嘘を繰り返していました。
しかし周囲には嘘だと気付かれなかったため(恋愛事前分布がない連中だったから)、様々な質問をされては想像でちぐはぐな回答を繰り返し、質問した側もよく分かっていないので「スゲー」となるという、マヌケがマヌケの言うことを真に受ける地獄のような状況が展開されていました。

今回の話は、そんな悲劇が日本で繰り返されないために、私なりに考えた恋愛心理学です。

恋人ができない(0)という状況から、いかにして恋人ができた(1)という状況に変化させるかを考えます。つまり、どんな変数が得られれば、恋人ができない(0)⇒恋人ができた(1)となるか、と言い換えられます。
目的変数はすなわち、恋人の有無です。有無だけなので、0or1の2変数データです。
説明変数は以下の表の通りです。
f:id:romancingsame:20200802162009g:plain

この説明変数がどれだけ恋人の有無という目的変数に影響するか、を分析する方法として、ロジスティックモデルを用いた回帰分析があります。
ロジスティック回帰分析とは、重回帰分析と近い分析方法で、複数の説明変数を用いて1つの目的変数を説明・表現するという意味では雰囲気が似ています。
重回帰分析では、説明変数が目的変数の値を変化させます。そのため、説明変数から目的変数の「値」を予測可能です。
一方、ロジスティック回帰分析で考えるのは「特定の現象の有無」です。係数の得られた各変数に実際の数値を入力していき、目的変数である「特定の現象」が発生する確率を導く、という使い方ができます。また後半に説明しますが、オッズ比というのを利用し、○○は××に比べて~倍「特定の現象」が生起する確率が高い、という表現が可能になります。

では、実際に分析してみます。
以下のStanコードを使用して実際に分析しました。無駄に身長と収入を階層モデルにしていますが、そこら辺は特に自由にやって大丈夫です。
data {
int I;//被験者数
int y[I];//目的変数
int s[I];//性別
real high[I];
real money[I];
int b1[I];
int b2[I];
int b3[I];
int b5[I];
int b7[I];
int b8[I];
}

parameters {
real intercept;
real bhigh;
real bmoney;
real bs;//0:女、1:男
real bexfrend;//元恋人数
real balc;//週の飲酒数
real bfas;//おしゃれ:1
real bmarry;//既婚者:1
real bface;
real balone;//一人暮らし:1
real mu_hi;
real s_hi;
real mu_mo;
real s_mo;
}

transformed parameters {
real q[I];
for (i in 1:I)
q[i] = inv_logit(intercept + bhigh*high[i] +bmoney*money[i] + bs*s[i] +
bexfrend*b1[i] + balc*b2[i] + bfas*b3[i] +
bmarry*b5[i] + bface*b7[i] + balone*b8[i]);
}

model {
for (i in 1:I)
high[i] ~ normal(mu_hi,s_hi);
for (i in 1:I)
money[i] ~ normal(mu_mo,s_mo);
for (i in 1:I)
y[i] ~ bernoulli(q[i]);
}

得られた結果は下の通りになります。
f:id:romancingsame:20200802162115g:plain

これらの係数のmean値(平均値)より恋人の有無は

  • 13.63(exp) + 15.74*身長(exp) +1.75*収入(exp) - 0.43*性別(exp) + 0.21*元恋人数(exp) - 0.62*週の飲酒量(exp) + 1.64*おしゃれかどうか(exp) - 0.08*既婚かどうか(exp) + 0.83*顔魅力(exp) + 0.32*一人暮らしかどうか(exp)

によって決まることがデータから分かりました。
しかしこの式の(exp)って何なんでしょうか。この式の(exp)という部分、ここが重回帰分析と異なる大きなポイントになります。

ロジスティック回帰は、リンク関数としてロジット関数を用いているので、係数の解釈がやや複雑になります。松浦(2016)を参考に、以下で解釈を進めていきます。
オッズという概念があります。オッズとは、「失敗するよりも何倍成功しやすいか」を表した指標で、オッズ=p/(1-p)で表現されます。pは確率値です。このオッズの変数比はオッズ比と呼ばれます。
ロジスティック回帰モデルの回帰係数に指数関数expを適用するとオッズ比になります。そのため、回帰係数は対数オッズ比であると解釈されます。
上の結果だと、正の値になっているものは、その変数が増えるほど(1であるほど)恋人の獲得率が上がります。
そこからオッズ比を算出して、具体的な比率を出していくという流れです。

以上により、解釈は色付けしたオッズ比の部分を参照して行います。
解釈例1:身長が180㎝の男女は、160㎝の男女に比べ、2.52倍の確率で恋人を獲得しやすい(注:身長が20㎝伸びると恋人ができる確率が2.52倍になる、という解釈はできない)
解釈例2:男性は、女性と比較して、0.65倍の確率で恋人を獲得しやすい(男性の方が恋人ができにくい)
という感じになります。
結論として、オシャレな長身で美男美女で金を稼いで、飲酒を少なくして1人暮らしをしたら恋人ができます。また、男性よりも女性の方が倍くらいの確率で恋人ができますので、男は一層頑張って欲しいところです。
ついでに、このデータは仮想データなので、結果も妄想のようなものなのですので注意してください(分析は真面目にやりました)。

※追記 2020.8.23
先日某先生と話していて、オッズ比とリスク比の話になりました。というか、こんなエントリー書いておいて「リスク比って何ッスかwww」と醜態をさらしてしまい、先生の話を聞きながら「オッズ比 リスク比 とは」と中学生がググる時みたいなメモを書き、自宅での勉強のためにメールでメモを送信しました。
オッズ比とリスク比の違い:オッズが二者の比を表す一方で、リスクは全体の中で恋人がいる割合などを表します。
このエントリーの事例でリスク比を用いてみたいと思います。分かりやすいように、イケメンかどうかが、恋人の有無にどう関わっているかを表にまとめてみたいと思います。
f:id:romancingsame:20200823122836g:plain
この表を用いてリスク比を計算してみますと、イケメンの恋人率は86%、非イケメンの恋人率は41% ですからリスク比は2.1です。イケメンの方が2倍近く恋人のいるリスクが高い、という表現になります。
オッズ比の2.29とほぼ似たような値になりました。
解釈上はどうも、「非イケメンがイケメンになったからといって、今の2倍強の確率で恋人ができるようになる」みたいにはならないようなので注意。
とあるサイト(http://www.snap-tck.com/room04/c01/stat/stat10/stat1001.html)では「リスク比は目的変数が名義尺度の時のラフな指標です。 目的変数が計量尺度の時は、回帰直線を利用して目的変数の値そのものを求めることができます。 したがって通常はラフな指標であるリスク比をわざわざ求める必要はない」という記述がありました。リスク比ってそういうもんなんだな、オッズ比が出せればそれでいいのかな、程度の気分でいようと思います。

参考
松浦 健太郎・石田 基広(2016). StanとRでベイズ統計モデリング 共立出版

描画テスト(HTP)って正しい根拠あるの? ⇒検証してみた

描画テストって、なぜか日本では(●●県の児童相談所だけ?)よく使用されていますが、そもそもこれってちゃんとした検査なんでしょうか。

個人的に描画や「私の経験」でアセスメントする(ピーーー)県の児童相談所の先輩心理司の指導に吐くほど馴染めなかったため、自分でアセスメントスタイルetcを作り上げていった悲しい過去があったりします。

とまあ、私個人のくだらない黒歴史は横にして、今回はその描画テストの正しさとか、説明責任に耐えうるものなのかとか、そういったことを検討していきたいと思います。

 

日本における文献レビューでは、佐渡忠洋・坂本佳織・伊藤宗親(2010),日本におけるバウムテスト研究の変遷 において、描画テストの数量的エビデンスの乏しさについて以下のように言及しています。

バウムテストにおける数量的な研究は,バウムを形態基準,即ち,「一線枝」や「一線幹」などの指標を用いて数量化して検討する方法が主流であると考えられた.しかしながら,論文を吟味すると,指標の基準や数が不明瞭な論文が多かった…その有用性は十分検証されてはおらず,それらの指標が選抜された理論的根拠が不明瞭である.…<印象評定>も SD 用形容詞対がいくつも報告されており,<空間配置>も空間の分割方法が研究で異なるなど,統一の基準の作成には至っていない.

10年前のレビューの時点の話ではありますが、なんだか泣けてくる記述です。

 

G Groth-Marnat, L Roberts(1998),Human Figure Drawings and House Tree Person Drawings as Indicators of Self-Esteem: A Quantitative Approachからは、自尊心についての評価がHTPの評価と関連していないことが示されています。

 

また、最近の研究で、描画テストの有効性について検討された研究があります。Guifang Yang, Liping Zhao, and Lijuan Sheng(2019),Association of Synthetic House-Tree-Person Drawing Test and Depression in Cancer Patientsでは、がん患者のうつ病に対するS-HTP描画テストの結果(一部のサイン)とSDSスケール(自己評価うつ病スケール:自己表記)の結果と正の相関が示されています。具体的には、装飾のない家、シンプルな人物画、無表情、などです。

例えば、装飾のない家の記述統計では

    計       うつ      非うつ     χ二乗 p

あり       136(81.4)        51(81.0)          85(81.7)          0.016     0.900

なし       31(18.6)          12(19.0)          19(18.3)

となっています。

装飾のない家を描いた人は全体の8割強。これはうつのあるなしは関係がありませんでした。

小さいサイズだと

    計       うつ      非うつ     χ二乗 p 

あり       46(27.5)          27(47.4)          19(17.3)          17.039   <0.001

なし       121(72.5)        30(52.6)          91(82.7)

となっています。

小さいサイズを描く人は全体の3割以下で、うつの人の方が有意に小さいサイズを描きやすい、というもの。

 

うつ病の予測におけるS-HTP描画特性の役割を調べるロジスティック回帰分析(部分抜粋+和訳)。

f:id:romancingsame:20200711135223g:plain

 

上の結果より、SDS(うつ病グループを1に設定し、うつ病のないグループを0に設定)の結果を従属変数としたロジスティック回帰モデルは以下のように示されています。

ロジット(P)= -2.997 + 1.345 * (サイズ小) + 0.919 * (弱い線) + 2.044 * (簡略図)-0.888 * (装飾図)-0.944 * (歪線・非結合) + 1.439 * (装飾家) + 2.106 * (小さいドア) + 0.679 * (枯れ木) + 1.148 * (丁寧な顔)

この回帰式をがん患者に適用した結果、がん患者32人にうつ病があり、正解率は56.1%(32/57)でした。同時に、うつ病のないがん患者110人を対象にロジスティック回帰方程式を実行したところ、98人のがん患者にうつ病がなく、正しい率は89.1%(98/110)でした。つまり、うつ病的中率は半分…要はコイントスとそう変わらないということです。でも、うつ病が無い人への的中率は高いですね。

 

さて、この指標を高橋依子著「描画テスト」と照らし合わせてみましょう。

サイズ小、弱い線、簡略図、枯れ木については抑うつ系のサインである旨の記載がありますが、他のサインではそれはありません。

歪線、非結合(-)は外側からの影響を受けやすく、無力感、自己不確実感、不安、小心などを表す。小さいドア(+)は積極的な人間関係を好まず、他者の接近を避けようとしたり、無力感を表すとあります。丁寧な顔(+)は外見や人間関係への関心が強かったり、不適切な感情を抑圧していることが考えられるとあります。

うつ病得点に-に働く歪線・非結合は抑うつサインはないもののそれに近い状態のサインであり、+に働くはずの他のサインは抑圧傾向に関わるサインではありません。HTPとS-HTPの差異のためかもしれんので断定的なことは言えませんが、この本と先述の研究結果の間には解離がありそうです。

そもそもこのサインの記述、バーナム効果の起こりやすい、捜査一課の田宮さん画像の状況になりかねないやつで、アセスメント道具としてどうなんだろうという思いが強いです。

 

児童相談所の現場で右向け右的に使用され、某児童相談所所長(心理出身)なんて描画やってないと定例会議でなんか言ってくるくらいに高い地位を獲得している描画テストで、現場の心理司さんは、この高橋依子著「描画テスト」と参考に解釈をしたり、所見の根拠に用いたりしています。

先述の少ない先行研究だけで言ってはいけないかもしれませんが、いずれにせよこの高橋依子著「描画テスト」、もしくは描画テスト自体がエビデンスに乏しいものである可能性は否定できません。もっと複数の論文からメタってみたら、より深いところまで検討できるんじゃないかなと思います。

 

 

追記(2020/7/12)

6年前と古いデータですが、バウムテストと自尊感情尺度、外向性尺度(big-five)の調査結果を用いて分析してみました。

分析方法はIRT(項目反応理論)。これをMCMCにより事後分布を出しました。

尺度得点は、便宜的に1,2を0、他を1などとして、自尊感情高得点群・低得点群、外向群、内向群、みたいに分けてデータをセットしなおしました。尺度得点の平均値を用いると、項目が「サイン+得点」の2つとなって結果がうまく出ないので、項目ごとの得点1つずつをデータにセットしました。

IRTは1次元尺度でないと使用不可なので、「自尊高+描画大」のように、セットになる概念+描写と1つずつ、計4つの分析を行いました。

バウムの統計が載っている本に、本研究で用いたサインのデータがなかったため、事前分布は適当に設定しています。

 

コードは↓

data {

  int<lower=1> J; // 被験者

  int<lower=1> K; // 項目(項目数の異なるデータセットがあるので複数コードを作成)

  int y[J,K]; // 観測数

}

parameters {

  real theta[J];//被験者パラメータ

  vector<lower=0>[K] a;//識別度

  vector[K] b;//困難度

}

model {

  theta ~ normal(0,1);//被験者パラメータは平均0、SD1と仮設定

  a ~ cauchy(0,1);

  b ~ normal(0,1);

    for (j in 1:J){

    for(k in 1:K){

      y[j,k] ~ bernoulli_logit(a[k]*(theta[j]-b[k]));

    }

  }

}

以下結果(表)

f:id:romancingsame:20200712114859g:plain

識別度については>0の値で設定してあります。結論から言うと、いずれも識別度は高いとは言えず、各心的概念をよく識別するサインであるとは言い難い結果になりました。

困難度についてはいずれも平均値が正の値を示しました。いわゆる、平均以下の特性(自尊心とか)でもヒットする率が高いサイン、みたいな結果にはなりませんでした。

まとめると、自尊心ボロボロの人が大きい樹木を描くみたいなエラーは出づらいが、そもそもこのサイン(大きさ、位置)で自尊心のような心的概念を識別できているとは言い難い、という感じでしょうか。

先行研究だけで描画をディスるのもアンフェアかな、と思って自ら分析してみましたが、それでも描画を支持する結果は得られなかったなというのが正直なところです。

 

ただ、IRTにハマる形で、かつ事前分布の利用も視野に入れたデータ収集を試みたら、また違う結果になる可能性はあります。なので今後はそういった研究もやってみたいなと思うところです。

同時確率やら周辺分布やら

ゴリゴリ文系の自分が統計の勉強をしていて(^q^)となった概念シリーズ。

勉強のためにまとめたもの。

 

・同時確率

例えば、2つの変数XとYがあるとします。X=0,Y=1である確率をP(X=0,Y=1)で表し、これを同時確率と呼びます。いちばん基本的な同時確率の考え方です。

 

では次に、これを連続確率変数に変えて考えてみます。

a<X<bかつc<Y<dとなる確率は、P(a<X<bかつc<Y<d)と表現できます。

P(a<X<bかつc<Y<d)同時確率と呼びます。

 

・同時確率密度関数

p(x,y)≧0

かつ

∬p(x,y)dxdy=1

を満たす関数によって、同時確率

P(a<X<b,c<Y<d)=∫(∫p(x,y)dx)dy を定義し、

p(x,y) を、X,Yの同時確率密度関数と呼びます。同時確率密度関数を図にすると、よく見る山みたいになっている三次元のあれです。つまり、f(x,y)のグラフは局面になります。1次元の確率密度関数f(x)をxの全区間積分すると1になるのと同じで、f(x,y)はx,yの全区間で重積分すると1になります。

R2f(x,y)dxdy=1

これは、先述のよく見る山みたいになってる3次元のあれの体積が1であることに対応します。

複数の確率密度関数f(x1,x2,x3…xn)があって、x(1~n)の全区間で重積分をしたら1になる場合、f(x1,x2,x3…xn)同時確率密度関数という、と言い換えられます。

 

・周辺確率

ただ一つだけの事象が起きる確率。例えば、Xの周辺確率とは、他の事象に関係なく、事象Xが発生する確率を指します。周辺確率は、周辺確率を求めたい事象とその他の事象の同時確率の総和で求められます。Xの周辺確率はP(X)、周辺確率密度関数は、f(X)と表記します。

 

・周辺分布(周辺確率分布)

同時分布から片方の変数を積分によって消去することで得る確率分布のことを周辺分布といいます。例えば2変量正規分布では、x(またはy)単独の事象に関する確率の分布のことです。確率変数(X,Y)の確率密度関数がp(x,y)である時にはこれを同時確率分布といいますが、これの周辺分布はそれぞれ

p(x)=∫p(x,y)dy

p(y)=∫p(x,y)dx

と、それぞれの確率分布によって定義されます。

行列のランク

ゴリゴリ文系の自分が統計の勉強をしていて(^q^)となった概念シリーズ。

勉強のためにまとめたもの。

 

・行列のランク

行列において、少なくとも1つは0でない要素がある行の個数、ないし行ベクトルのうち零ベクトルにならないものの個数を、その行列のランク(階数)といいます。

 

ランクはベクトルの線形独立性との関りがあり、その線形独立(一次独立)である列ベクトルの最大個数とイコールになります。

ある行列が与えられたとき、それを複数の方程式とみなして式を消去していく要領で、最終的にいくつかの式が残った時、その式の個数?がランクというイメージです。

 

一般に、m×n行列Aに対し、一次変換の像{Ax; x∈Rn}の次元をAのランクといい、rank(A)で表します。

一般に、m×n(ただし、m≧n)行列Aにおいて、

rank(A)=nのときフルランクといい、

rank(A)<nのときランク落ちしているといいます。

とくに、正方行列がランク落ちしている場合は、連立方程式の解が存在しても一意でなく不定となります。標本の大きさ<母数の個数、となる場合なんかが該当します。

 

Rのエラーでランクがどうのこうの言われることがあって('A`)でしたので、せめて直感的に理解できるようになれたらいいなと思う。