児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

心理―基礎心理系

ASDの感情調節障害

1.ASDと感情調節の概要 ASD児童は感情コントロールができず、かんしゃくを起こすことが珍しくないように感じます。ASDは感情調節が難しい性質をもっているのでしょうか。 感情調節の困難さは、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ子どもや成人にとって一般…

Emotion Regulation deficits / Emotional dysregulation :感情調節障害

0.感情調節障害の事例(ChatGPTで生成/プロンプト:以下の特徴を持つ10歳の少年について、800字程度で事例を生成してください。どのような子どもで、どのような場面で、どのような問題行動が生じており、それに対する専門知識のない教員の対応でどの…

敵意帰属バイアス(Hostile Attribution Bias:HAB/Hostile Intent Attribution:HIA)

1.敵意帰属バイアスの概要 敵意帰属バイアスとは、あいまいで中立的な社会的手がかりを、意図的に敵意や攻撃性があると解釈する認知バイアスのことです。言い換えれば、他者の行動には別の説明が可能であるにもかかわらず、その行動や言葉に敵意があるとす…

抽象的思考の神経基盤とASDにおける不安:前頭前野の役割

抽象化思考 Abstract thinking 1. 抽象的思考の概要 抽象的思考とは、具体的で目に見える物や考えを超えて考え、概念的な思考や問題解決に取り組む能力のことです。アイデア、概念、シンボルを生成し操作する能力、および比喩や類推などの抽象的な概念を理解…

攻撃性のタイプ/リスク因子/神経機序/介入

攻撃性一般攻撃性とは一般的に、他人に危害や傷害を加えることを意図した行動を指す。身体的攻撃、言語的攻撃、関係的攻撃など、さまざまな形で現れます。 身体的攻撃には、殴る、蹴る、押すなど、身体に危害や損傷を与える行為が含まれます。 言葉的攻撃に…

ASDの心理学的特徴と神経学的特徴

1.社会的コミュニケーションと相互作用 1-1.認知的共感と情動的共感 1-2.表情認知 2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors 3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties 4.実行機能(Executive Function :EF)と心の…

ADHDと虐待・脳・攻撃性

0.ADHDの概要 1.多動性と衝動性 2.ADHDと関連が示されている概念 2-1.虐待 2-2.虐待以外 2-3.環境的影響 2-4.遺伝的影響 2-5.神経伝達物質的影響 3.脳の構造的影響 3-1.大脳基底核と小脳 3-2.前頭前野 3-3.扁桃体 …

社会的(語用論的)コミュニケーション症(Social (Pragmatic) Communication Disorder:SPCD/SCD(SPCD))

大学院の課題でカプラン(Sadock et al., 2016)をベースにまとめたものです。せっかくなのでこちらにも。 いわゆるASDと混同されがちな診断、という印象です。 ASDと思っていた子が実はSPCDだった、なんてことは結構ある気がします。0.概要 言語障害の一つ…

被虐待児の感情コントロール:感情ラベリング(Affect Labeling: LA)

0.感情コントロール方法:感情コントロールなんてできるの? 虐待を受けた児童のケアやアセスメントの中で、感情コントロールに課題を抱えている子どもは多いです。 もちろん、その子ども自身の問題や責任という訳でなく、虐待や生来的な衝動性といった外…

児童虐待の子どもへの影響(簡易ver)

虐待の影響について、ほぼ箇条書きでまとめてみました(脳への影響についての詳細を除く)。 最初に概要をお伝えすると、 認知・心理状態:表情認知、共感性、報酬処理、短期記憶、言語能力、負の刺激への過敏性、行動統制力(衝動性)、自分で感情の動揺を…

反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder:RAD)という虐待の影響

0.RADの事例 母より本児の顔を枕で押さえつける,叩く,蹴るといった身体的虐待が繰り返されて一時保護,施設入所となった1歳児童,知的には普通域で発達面に問題は無し。父は,実母へのDVに加えてギャンブルでの多額の借金を作っており,DVにより疲弊…

複雑性PTSD(complex posttraumatic stress disorder:CPTSD)と児童虐待

0.複雑性PTSDの架空事例A <主訴と経過> Aは2歳以前から両親の暴力が継続していた。顔や腹を殴られたり土下座を強要されたりするなどだけでなく、真冬や真夏の戸外締め出し、食事を与えないといった複数の虐待が確認されている。 Aが6歳になり親族宅にAが…

親の自殺は子どもの自殺率に影響を与えるの?

「親が自殺していたら子どもも自殺しやすいの?」と聞かれました。 感覚的には確かにそんな気はしますし、自殺が身近に感じられたり、自殺の方法を学んでしまったりして、より自殺に至る可能性が上がってしまう、というのは一見無理のない感じがします。 ま…

性加害のアセスメント

0.性加害(性的問題行動:Problematic Sexual Behavior:PSB/Sexual Behavior Problems:SBP)の事例 主訴:実父からの身体的虐待で児童養護施設へ入所した7歳男児A。Aが施設内で、年下男児に自身の性器を触らせる、知的に遅れのある同年代女児に衣服を脱…

攻撃性と脳機能

虐待を受けている児童と接する中で、攻撃性が高い子とか、よく加害をしてしまう子に出会います。 虐待を受けているから攻撃性が高いんだ、と言われがちですが、そんな単純なものではないですし、科学的根拠を無視して言うのであればそれは偏見です。 ただ、…

虐待の脳への影響

虐待と脳発達の専門家である某先生の研究不正が話題になりました。 一部「脳に影響が出るからって子どもが保護されたけど嘘だったのか」みたいに言ってる方(児相の介入があった方なのかな)がいらっしゃいましたが、以下に示すだけでも非常に多くの先行研究…

DV(家庭内暴力・配者間暴力)の加害メカニズムや加害者特性、児童虐待との関連について

DV(家庭内暴力・配偶者間暴力)が社会問題となっていることは周知のことだと思います。 子どもの前でDVや夫婦間口論が発生すると、DV加害者や口論した夫婦から子どもに対する心理的虐待に当たるというのはご存じでしょうか。 実は昨今の児童虐待対応…

人はなぜ人を攻撃するのか―被虐待児の攻撃性について心理学的に分かっていること+α

人はどうして人を攻撃するんでしょうか。 ~~少年S君(4歳)は、父からの身体的虐待で一時保護されています。父母の口論を毎晩見続け、父から母への暴力が毎週のように発生していたのも見ていました。耐えかねた母が浮気相手の男を連れて失踪。父子生活と…

脱抑制型対人関係(交流)障害(DSM4でいう脱抑制反応性愛着障害)という児童虐待の影響

児童虐待と関りの深い、脱抑制対人関係障害(=脱抑制型対人交流障害) 2022.6.3更新 0.事例母によるネグレクトで一時保護中の4歳女児。母子家庭。夜間放置が常態化しており、母は彼氏との外出を昼夜問わず繰り返し、夜の飲食店就業も継続しており…

内的作業モデル(IWM)について分かっていること+アセスメントへの応用

内的作業モデル(IWM)は,以前のエントリーでも触れました。虐待の世界ではよく用いられる概念ですね。 定義的なものを改めて説明すると,ボウルビィが提唱した,乳幼児期の親子関係の中で形成される対人表象についてのモデルです。 私は〇〇したら~~して…

虐待を受けた子どもは脳の機能が低下する

昨今有名な話ではありますが、虐待によって子どもの脳は変形します。 https://toyokeizai.net/articles/-/189445 脳が変形するということは、本来有している脳の機能がうまく発揮できず、本来できるはずのことができなくなるなど、様々な困難が生じてしまう…

内的作業モデル―虐待により傷付いた対人表象のモデル

内的作業モデル(IWM)とは、こういう虐待対応の世界ではよく活用する概念です。ボウルビィが提唱した、乳幼児期の親子関係の中で形成される対人表象についてのモデル。 要は、私は〇〇したら~~してもらえる、××な時は~~ってなる、の積み重ねで、単純に…