児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

個人に対する心理療法の効果測定―マルコフ転換モデル―

・個人に対する心理療法の効果測定―マルコフ転換モデル―

 

心理療法(=介入)前後で指標となる尺度の得点が変化したか、その変化は有意な差を表しているのか、そういうことをt検定で測定する文献をよく見ますが、一定のクライエント数があってこそ。

クライエント数が得られない、個人に対する心理療法の効果測定などでは、そういった統計的手法って心理系の論文では(私の勉強不足もあると思いますが)見た記憶がないんです。

 

そこで、クライエント個人に心理療法を適用した効果を研究論文に発表する際、よく用いられるのが質的な事例報告ですよね。

 

事例報告の何がデメリットかって、それは事例報告や質的研究そのものを否定するつもりではないんですが、あまりに個人の主観で進められすぎている場合、その研究自体が再現性に乏しく、科学の体をなさない危険が大きくなってしまいます。

 

じゃあどうやって個人の心理療法の効果を図るのかって疑問に対し、ひとつこれは面白いかなーって思ったのが「マルコフ転換モデル」の利用です。

 

マルコフ転換モデルっていうのは、前提として一定の「連続データ」が必要になります。つまり、今日尺度得点をとって、来週も同じ尺度をやってもらって、さらにその来週も、って感じで、一定の連続するデータを用いるというものです。

 

そうやって作成した連続データにマルコフ転換モデルを用いると、簡単に言うと途中で状態が変化する場合を検出してくれるというものです。

 

3.3.4.3.4.2.4.3….という連続データから

4.4.3.4.4.3.5.4.3.4.4.5….とわずかながらに変化したら、データのもつ質自体が変化したように感じませんか?

 

マルコフ転換モデルは、そういった感じを数量的に受け取り示してくれるものです。

 

また、日々の心理的状態にはそれぞれある一定の状態があります。

心理療法的介入を行うことはそういった心理的状態の変化を目的としているため、心理療法等の介入前後で心理過程の変化が確認されることが望ましいんです。

そういった意味でも、得点の変化だけでなく、データの持つ過程の変化が確認できることがより望ましいんじゃないかなって思います。

 

なんだかわかりづらい表現になりましたが、要するにデータの状態変化を検出するという形で効果を確認する方が、2点の差を求めるよりも良いのではないかと思うということです。

 

 

以下例

 

心理尺度の場合、今日の気分は昨日の気分に少なからず影響を受けることを考慮し、得られたデータは自己回帰過程(AR過程)に従うとして分析をしたとします。

 

結果は以下のように表示されます。

 

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マルコフ転換モデルによって、異常値となる部分(ここでは片方の過程と異なる過程とする)が陰影によって示されます。

この図から、比較的介入時である中心を境に陰影のあり・なしが分かれているのが確認できますので、これをもって介入による効果があったと判断することもできるのではないでしょうか。

 

個人を対象にした臨床研究であっても、連続データさえ用意できれば、科学的手法を適用することだって可能なことが多くなります。

 

ここ最近ではベイズも発展してきていますし、他にも様々なやり方はあります。

 

ちょっと手間はかかりますが、ぜひ連続データを準備して科学的な事例報告にしてほしいなあと思います。