児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

被虐待児ーASD(自閉症スペクトラム)疑い児童の心理アセスメント:架空事例8歳女児

前回の事例がちょっとストーリーに寄りすぎていたので、今回は客観性を保った事例検討に努めてみたいです。

 

・Aちゃん8歳

 

Aちゃんは父母より、本児が言うことを聞かないという理由で通院となった。

Aちゃんの幼少期は、ただひたすら放任主義の家に育っていた。養育放棄ではないが、本児の欲求をただただ受け入れるという、甘やかしのような状態が続いていた。保育園等にも通わず、家で好き勝手過ごさせていた。

知人の母宅にお世話になっている際も、挨拶を返さない、食事マナーを一切守らない、「マナー悪いよ」と言われてもこちらを見るだけで変えようとしないなど、一見ふてぶてしさが目立つ女児だった。

家庭でふてぶてしさが気になるようになったのはAちゃんが小学校に入学してから。友人にも「自己中だから嫌い」と距離を置かれるようになり、これではいけないと父母が思い、Aちゃんに一転、厳しく指導を行うようになった。

次第にAちゃんは嘘をついて指導から逃れるようになり、父母の手をますます焼くことになった。

通院の中で、以下の心理検査を実施した。その中で、父母からの身体的虐待、心理的虐待が開示され、Aちゃんの安全確保のため親子分離がなされた。

 

心理検査結果

◆WISC-Ⅳ 

全検査95 言語理解100 知覚推理100 WM85 処理速度90

積木10 類似13 数唱5 絵概念10 符号9 単語8 語音10 行列10 理解  10 記号9

◆TSCC 

臨床域に達したものは「過剰反応尺度」「解離」「抑うつ」尺度である。

症状があるとみられたい欲求の現れやトラウマに圧倒された状態にある可能性が0ではないという中で、トラウマ後恐怖状態にある可能性、自己卑下などの抑うつ的認知の可能性、情緒的離脱状態にある可能性が示唆された。※本児の生来的特徴も考慮して慎重に解釈することが求められる。

◆P-Fスタディ 

半数近くがU反応(判別不能的な反応)となっている。記載の意図を確認したところ、発言のもつ一般的な意味と意図が一致しない反応が多数確認されている。また場面の理解にも乏しく、検査で想定している理解に及んでいない場面が複数確認された。

 

 

担当者がAちゃんに対し、以下のカテゴリについて質問を行っていったところ、いくつか具体的なエピソードが語られた。

 

・虐待について

母からの暴力については「勉強中に寝たとき」。暴言については「ない」「死ねとかバカとかは言われるけど暴言じゃないと思う」、怒鳴られることは「あるけど気にならない」と話す。父からの虐待については「バレーボールでミスしたとき」「私が、勉強をしてないのにしたと言ったとき」「お前の頑張りとか興味ないから話しかけるなって言われたとき」

 

・家族関係について

家に帰りたくない理由は「家が楽しくないから。勉強をたくさんしなければだめなんです」と話す。両親に対して、オープンに状況を質問していくと比較的肯定的なエピソードがメインで語られやすく、両親に対してネガティブな印象は弱いのかもしれない。

 

 

母からは以下のエピソードが語られた。

 

・対人関係

人にどう見られているかについては無頓着。近所の子にも、本児が自分勝手すぎるから遊びたくないと言われてしまっている。“人と一緒に遊んでいるのに、ワガママに遊びを変える、勝負で負けそうになると「ずるされた!」と言って投げてしまう”など。

 

・学習面

同じ計算でも文章題になるとできなくなる。国語も、漢字は間違って覚えてしまい、修正がきかない。

 

担当者はAちゃんに対し、自分の気持ちを隠したり我慢しすぎると心のケガが癒えないままになってしまう可能性があるんだよ、と伝えた。Aちゃんは、「なんで本音とか気持ちを言わなきゃいけないんだろう」「心のケガってあるの?わかんない」と話す。

また自身の頑張りや努力についても「全然そう思わない」と、自己肯定感の低さが目立っており、達成した具体的な成果についても「私はすごいってのが分からない」と話す。

 

 

この情報から、心理アセスメント結果を作ってきます。

母の話やP-Fスタディの結果からは、なんだかASD(自閉スペクトラム症)をにおわせます。ASDをにおわせる理由を具体的に整理してみましょう。ASDの機序については、ミラーニューロン機能の弱さは言及されています。他者視点や共感性の弱さに繋がってきます。一方で同一性への固執については、何か神経的な機序って明らかになっていたでしょうか…?勉強不足です。

 

まず、ASDの診断基準を簡単に記載します。

A.現在または履歴により,以下のようなことが明らかにされ,多くの状況を通した社会的コミュニケーションと社会的相互作用の持続的な障害

1 .社会―情緒的相互性の障害

2 .社会的相互作用に使われる非言語的コミュニケーション行動の障害

3 .関係性の発達・維持・理解の障害

B .現在あるいは履歴において以下の事項の内少なくとも2つにより示される,行動・関心・活動における固定的・反復的なパターン

1 .型にはまったもしくは反復的な動作やものの使用ないし会話(たとえば,単純な運動パターン,おもちゃの配列,特異なフレーズ)

2 .同一性へのこだわり,決まったやり方への柔軟性を欠いた固執,儀式化した言語的・非言語的行動パターン

3 .強度や焦点が異常なかなり限定された固定的関心

4 .感覚刺激への過剰反応もしくは鈍感さ、環境の感覚的側面への通常でない関心

 

・人にどう見られるか無頓着⇒ASDにあるミラーニューロン機能の弱さが強く出ているエピソードのように見えます。共感性、他者視点の獲得の困難さがこの行動傾向に繋がった、と考えられます。

・文章題になるとできない⇒診断基準にはありませんが、ASDによくみられる、抽象化機能の低さに由来しているように見えます。具体的な文章場面を、数という概念に抽象化してイコールで結んで考える機能ないし、細部を統合して総合的に文章を理解・把握する中枢性統合機能が弱いからだと考えられます。(※統語論、形態論、音韻論では非ASDと変わりがないとされています)

・発言のもつ一般的な意味と意図が一致しない反応が多数確認されている。また場面の理解にも乏しく、検査で想定している理解に及んでいない場面が複数確認された⇒これも共感性・他者視点などから説明ができそうです。

・「勉強しなきゃだめだから帰りたくない」と、理由があまりにも浅い。全般的に、自身の被害体験も含め、情緒面に踏み込んだ話に至らず、表面的な表現に終始する傾向が強い⇒抽象化機能の弱さから、表面的・具体性の高い記述で語る傾向が強まっている、と考えられます。

・遊び場面でのかんしゃくのようなもの⇒他者の気持ちを想定した関りができない、コミュニケーションや社会相互作用の弱さを示す代表的なエピソードです。

 

また、ASD傾向のある児童であれば、TSCCの解釈を慎重に行うべきです。ASDの人は、抑うつ症状の尺度において、非ASD者よりも高い得点を示すといった先行研究もあり、事故報告式の尺度ではASD児童の回答については慎重に解釈したほうがよさそうです。

参考:Maltreatment and depression in adolescent sexual offenders with an autism spectrum disorder https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23350540

 

 

では、AちゃんはASD傾向が問題性に寄与しており、今後はASD児童へのSST等による行動改善+虐待のケア、でよいのでしょうか。結論から言うと、この場合はそう単純に考えてよいものではないと思います。

 

一般的に、ASD傾向は今でいう脱抑制社会対人関係障害、昔でいう脱抑制反応性愛着障害と一致する行動傾向は少なくありません。

そういった表面的な理解だけでなく、Aちゃんの成育歴を追うだけで、見えてくるものがあるかもしれません。例えば

・本児の欲求をただただ受け入れるという、甘やかしのような状態が続いていた

・保育園等にも通わず、家で好き勝手過ごさせていた

この2点は、本児の健全な精神発達を妨げる養育になります。発達課題でいうところの、自律性の養われない養育になります。

 

また、児童の自律性、勤勉性などの発達課題が養われず、暴力などの強制力で児童を統制するようになったらどうなるでしょうか。

児童の行動は、単純な「恐怖からの回避」を動機に行われることになります。言うことを聞けば恐怖から回避できる、の状態なら勉強を頑張ってするのかもしれませんが、それは正しいな指導ではありません。

・嘘をついて指導から逃れる

勉強を頑張ることより、嘘をついたほうが楽に恐怖から逃れられる、そう学習してしまったらこういった行動が固定されてしまいます。自律性が養われないことで、自身で行動を自発的に選択する、といった能力が育まれず、結果親が何かしらの強制力を持った養育に踏み込んだ結果、その強制力に付随する恐怖から回避するために嘘が身についた。

成育歴を追っていき、当時のAちゃんの感情面を整理していき、現在の行動傾向への繋がりを見出すことにより、先述のアセスメントが補強されていくという感じです。

 

また、話はここで終わりません。

暴力等の強制力による指導が常態化した場合、ないがしろにされる大切なものがあります。それって何でしょうか?それは子ども自身が本来当然のように有している、自分自身の感情に他なりません。

少し語弊のある言い方にはなりましたが、何も感情を失う訳ではないです。

子どもの感情を大切に扱いながら養育ができていれば、きっと暴力で統制する関りに至ってはいません。Aちゃんは自分の感情をないがしろにされ、暴力や叱責などにより、行動面や結果だけを評価されてきたのではないでしょうか。

行動面や結果だけを評価されてきたか…これは本人に確認しなければいけません。

暴力や叱責を用いて、Aちゃんの感情に焦点化した養育は行えていたか…これはAちゃんの親に、当時の関わり方を確認していく以外ないでしょう。感情に焦点化した養育とは、Aちゃんの情動を言語化するような養育を常に行えていたか、というところになります。(この辺の話は、東京学芸大の大河原先生の研究に詳細があります)

 

つまり、親はAちゃんの自律性を養う養育を行えず、Aちゃんの感情や情動などを親が受容したかかわりを行えておらず罰等で恐怖による統制を継続していた結果、「共感性、他者視点の獲得」が困難となり、対人関係の課題に加え、すぐバレるような嘘で安易に恐怖を回避しようとする等、一見するとASD傾向と思われる社会性やコミュニケーションに課題が感じられることとなった。

Aちゃんの被虐待をベースにしたアセスメントを実施すると、このようになります。

 

じゃあAちゃんはASD傾向ではなく被虐待によるものなのでしょうか。

じつは今回の情報だけでは、両者を鑑別し断定するだけの根拠には乏しいです。

大切なのは、ASD傾向の可能性も視野に入れながら、被虐待による認知の修正と適応行動の獲得…つまりは、不適切な養育により獲得できなかった自身の素直な情緒に対する認知を高め、それを他者への共感性、そして社会的行動の獲得へとつなげていく、そんな風な心理療法が求められていくのではないかと思います。

 

 

以上により、心理アセスメントとしては、以下のようにまとめられます。

・知的には普通域を示しているがワーキングメモリの指標のみ境界域程度の値が出ている。聴覚的短期記憶の量が増加すると記憶が困難となる傾向が強い。

・本児は日常において、他者と自己中心的な関わりをすることが目立つ。本児の欲求を満たすことを主とした関わりが長期間続いており、他者と社会の中で協調的に関わる感覚が育まれる環境には乏しかったことがうかがえるため、本児の前述の自己中心的な特徴が生来的な発達の偏りに由来するかどうかは、適切な環境で継続して養育される中での変化を確認したい。

・自身の情緒面への認知の乏しさ、対人場面理解力の乏しさ等からも、生来的な偏りの可能性が否定できない。また被虐待によるトラウマについても、心理的な傷付きについてのエピソードは具体的に語られず、不快場面からの回避程度にあたる動機が主に語られているなど、TSCCは年齢相応の内省力を有していない本児が過大評価した可能性も否定できない。一方で、両親から自身を否定するような声かけを行われていることから、本児自身の感情を認知する力の弱さは、本児の自己肯定感の低さも考慮すると、親からの非情緒的な関わりの継続という環境因によるものである可能性も否定できない。

・今後は生来的な特徴も視野に入れながら、感情教育SSTと繋げ、社会場面における適応力向上を図っていきたい。

 

あくまでも被虐待をベースにした心理療法をメインで進めてほしいなあと思うのは、被虐待による傷付きを置き去りにしたまま他のことをやって欲しくないという個人的な思いもあったりします。