児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

延長因子分析(extention factor analysis)という技法

因子分析には様々な技法があります。

1個人に連続してデータをとって時系列データっぽいものを対象としたp技法因子分析とか、サンプルが集まらない際の苦肉の策として私個人としても用いたことがある技法もあったりしますが、

今回は「延長因子分析(extention factor analysis)」のお話をしたいと思います。

大体が『延長因子分析の方法論― 変数と因子との相関係数として定義される因子構造を用いて―』清水和秋(2012),関西大学心理学研究,2012,第3号 からの情報なので、ここを見た方が正確ではあるんですが、せっかく論文を読んで学んだことのまとめということで。

そもそも延長因子分析って、実務的には追加した変数をパス関係に置くことによる測定モデルの意味とか、イマイチ腑に落ちない部分もある(理解不足)ので、延長因子分析を用いるメリットデメリットなどをどうぞアホな私に教えて偉い人。

我が恩師の清水先生の論文は無駄がなく簡潔なので、自分のようなアホにはようわからんことが多いのです。

 

延長因子分析って、元々行われた因子分析結果があったとして、そこに新しい変数を加え、その新しく加えた変数の因子パターンをどうやって分析するか~っていうものなんです。

その分析の方法としていくつか方法論が提案されているんですが、

2000年前後から広まってきた構造方程式モデリング(=SEM)を用いるとかなり簡便に延長因子分析が可能となる、

そんな感じでよろしいのでしょうか偉い人。

 

因子分析の基本モデルを行列で表すところから始めます。

まず、あるN人の被験者について、n変数の測定を行い、m 個の因子を抽出することができたものとします。次に、この観測変数の標準得点行列をZ(N×n)とすると因子分析のモデルは次のように表すことができます。

  • (1)Z = FV’fp+ UD

F は(N×m)次の因子得点行列、

Vfpは(n×m)次の因子パターン行列、

(1)式のaj1~ajm を第j 番目の変数の因子パターンm 個の値とすると、

この行列の要素(n×m)はn 個の変数の因子パターンからなります。

この共通因子空間とは独立した独自性に関するものが(N×n)次の独自性得点行列U と、独自性を対角項にもつ(n×n)次の対角行列Dになります。

 

R を(n×n)次の変数間の相関行列とすると、次のように展開することができます。

  • (2)R =(1/N)*Z’ Z

        = VfpCfVfp +D2

Cf は(m×m)次の因子間相関行列です。

(2)式は、因子得点間の相関行列でもあります。

Vfp は初期の因子解を回転した結果の因子パターン行列です。

これに対して、変数と因子との相関係数が因子構造であり、この行列Vfs(n×m)(=因子構造行列)は、次のように計算することができます。

・(3) Vfs =(1/N) Z'F

 

因子パターン行列と因子構造行列との関係は次のように表すことができます。

・(4)Vfs = Vfp C ⇒ 因子構造行列=因子パターン行列×因子間行列

 

ここでは、この得点の推定値Fˆ を算出したものとします。そして、同じN 人を対象としてi 個の変数を追加することができたものとします。

この標準得点行列をiZ(N×i)と表して、上の因子得点との相関係数を(3)式のように求めてみると以下のようになります。

・(5)iVfs =(1/N)Z Fˆ

 

この(5)式で得られた新しい変数の因子構造行列に(4)式のように因子間相関行列の逆行列を次のように掛けると

・(6) iVfp= iVfs C-1f

となりまして、新しく追加した変数の因子パターンの値iVfpを得ることができました。

すなわち、因子分析での対象ではなかった新たに加えられたi 個の変数をm 次元のn 変数から抽出された共通因子空間に布置させることができた、ということになります。

以上が、古典的な延長因子分析の考え方になります。

 

SEMによる方法 ※図は清水(2012)から引用

イメージとしては、以下の図のような感じです。追加変数を設定して、まとめてSEMによる分析を行います。

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Fig.1 8 変数2 因子の測定モデルに3 つの変数を追加

標準化解:因子パターンp1 ~ p8、因子間相関

延長因子分析:因子と追加した変数との相関係数r1 ~ r3

 

図のr1 ~ r3 の因子と追加した変数との相関係数は、(5)式のiVfs(iの因子構造行列) に相当します。これらの値は、(6)式のように因子パターンへの変換が必要となります。

※直接iVfp (新しく追加した因子パターンの値)を推定するために測定モデルである因子からのパスとしてこれらの追加した変数を置くことも可能なように思えますが、このやり方では因子を構成する変数に変化を起こすことになるそうなので、ここでは追加した変数は相関関係としておいています。

 

SEM の方法からは、このように、因子得点と追加した変数との相関係数を直接的に計算することができ、この点が古典的な方法とは異なる点になります。適合度等の検定も可能となるので、延長因子分析についてはSEMを用いると便利なように思えます。

昔の偉い人は色々工夫をして繁雑な計算を行っていたのですが、複雑な計算を行わずに済むようなソフトを開発してくれた最近の偉い人のお陰で自分のようなアホに様々な恩恵があると思うと、今と昔の偉い人はすごいなと思います。