昨今有名な話ではありますが、虐待によって子どもの脳は変形します。
https://toyokeizai.net/articles/-/189445
脳が変形するということは、本来有している脳の機能がうまく発揮できず、本来できるはずのことができなくなるなど、様々な困難が生じてしまうということです。
以下、虐待と脳についての分野で研究を続けられている友田明美先生のコメント(抜粋)です。
虐待やネグレクト(育児放棄)などの不適切な養育は愛着障害を引き起こします。
日常的に養育者が子どもに暴言虐待や長期的な厳格体罰を与える、そうすると不安定な愛着が形成されてしまいます。
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養育者が戻って来たときも同様で、子どもは喜びもしないどころか、そっぽを向いたままです。このように不適切な養育が引き起こす愛着障害は、こころの発達に問題を抱え、さまざまな症状を表します。
症状が内向きに出ると、他人に対して無関心になったり、用心深くなったり、イライラしやすくなったりして、他人との安定した関係が築けません。症状が外向きに出ると、多動で落ち着きがなくなったり、友達とのトラブルが多くけんかが絶えません。また、礼儀知らずとなり、対人関係に支障をきたしてしまいます。実は、虐待などが原因で、社会的養護を受けている子どもたちの40パーセントに愛着障害が発症することがわかってきました。
幼児期に虐待ストレスを受け続けると、脳の中にある感情の中枢である扁桃体(へんとうたい)が異常に興奮し、副腎皮質にストレスホルモンを出すよう指令を出すのです。
そうするとストレスホルモンが過剰に放出され、脳にダメージを与えるのです。
アメリカのハーバード大学との共同研究でわかってきたことは、感情をつかさどる前頭葉が小さくなって、自分のコントロールができなくなり、凶暴になったり、集中力が低下したりします。暴言虐待により聴覚野が変形し、聴こえや会話、コミュニケーションがうまくできなくなったりします。両親間のDV・家庭内暴力を目撃すると視覚野が小さくなり、他人の表情が分かりにくくなり、対人関係がうまくいかなくなったりします。脳の形が変わるのは、「外部からのストレスに耐えられるように情報量を減らす」ための脳の防衛反応だと考えられています。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/264452.html
このように、様々な脳部位に影響を及ぼすのが虐待です。友田先生の研究では他に、脳の感受性期の関係で、被虐待の時期によりダメージを負う脳部位が異なることも示されています。
Executive function performance and trauma exposure in a community sample of children, Anne P.DePrincea.etでは、虐待と、ワーキングメモリ、抑制、聴覚注意、および処理速度タスクで構成される実行機能のパフォーマンス低下との関連が示されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0145213409000969
Cognitive impairment in school-aged children with early trauma,JoanaBücker.etでは、wiscの数唱の短さ(ワーキングメモリの下位検査)が指摘されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0010440X11002392
一方で、こちらでは言語理解と処理速度が比較群より低く、知覚推理とWMは同レベルという結果が出ています(COGNITIVE ABILITIES OF MALTREATED CHILDREN
,Kathleen D. Viezel Benjamin D. Freer Ari Lowell Jenean A. Castillo)。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/pits.21809
いずれにせよ、虐待により認知機能の低下は避けられず、虐待の内容や被虐待年齢等により脳の器質的変化が多様であるという友田先生の有名な研究より、認知機能の変化も多様ということになるのかもしれません。
今更なんでこんな話題をっていうと、
とあるツイートで興味深いものを拝見したからでした。
https://twitter.com/tsuyomiyakawa/status/1217400388724248576
脳トレ的な認知機能トレーニングに関する多数の研究&メタ解析の結果、その種のものには一般的認知機能を向上させる効果はほぼ認められないというものでした。
その後のツイートの中で、発達障害も含め、各種の脳の疾患においての一般的な認知機能に対する認知機能トレーニングの効果は、この総説では検証されていないと続けられています。
虐待により脳に直接与えられたダメージを回復するには、こういった認知機能を回復させる認知機能トレーニングが有効じゃないかと感じており、高次脳機能障害者への認知機能トレによるエビデンスを参考にしていたところでしたので、
一瞬この研究にはびびりましたが、後半のコメントによりまだ可能性が残されていると思い少し安心。
現状から機能向上は難しくても、本来有している機能が損なわれている状態から元の状態に回復する。そういうイメージであれば、認知機能トレーニングが有効であればいいなと思いますし、
偉い人がここらへんを検証して、児童虐待によるダメージから回復するエビデンスが構築されていくと児童虐待の世界は飛躍的に進歩するのになぁ、と思います。
ここらの認知機能が改善したら、情動ラベリングや行動の心理的意味の言語化とか、前頭葉機能を用いる被虐待により歪んだ認知改善もスムーズになるんですが、それはまた別のお話。