児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

人はなぜ人を攻撃するのか―被虐待児の攻撃性について心理学的に分かっていること+α

人はどうして人を攻撃するんでしょうか。

~~少年S君(4歳)は、父からの身体的虐待で一時保護されています。父母の口論を毎晩見続け、父から母への暴力が毎週のように発生していたのも見ていました。耐えかねた母が浮気相手の男を連れて失踪。父子生活となったのがS君が3歳になったばかりの時。でも父は、言うことを聞かないS君を度々暴力によってしつけるようになります。暴言を吐き、S君が言うとりに行動しないとお腹や頭を強く殴ります。保育園の先生が、わき腹に数センチの青あざを発見し、一時保護に至りました。保育園での様子も保護所での様子も同様に、玩具の取り合いで相手を殴る・やりたくないことがあると叫んだり相手をたたいたりして、自己の欲求を押し通そうとする傾向が強いというものです。父は「ウチの子は発達障害だから」と言うが、ADHDやASDの診断基準には当てはまらず、単に“手がかかり、言うことをすぐきかず、言葉じゃなくて衝動的に手が出る”というものでした。~~

児童相談所で勤務していると、虐待を受けた子どもは他と比較すると明らかに攻撃行動が顕著です。
しかしそれは当然、その子どもの性格的な問題ではありません。虐待の影響により、他者を攻撃せざるを得ない状態になってしまっているのです。
しかし、それはいったいどういう理屈からなのでしょう。

自分が一応想定していたメカニズムとして、①虐待による歪んだ対人認知・内的作業モデル、②扁桃体の不安恐怖に対する反応としての攻撃行動の2点を主に用いた説明を行っていました。簡単に言うと、虐待によって些細な言動を否定的(自己への攻撃・非難など)にとらえ、その否定的な言動から自分を守る反応として扁桃体機能として攻撃行動を生起させた、というものです。その中で、言語化による意思疎通不足から情緒的交流欠如があり、③言語化による欲求不満解消が困難、と繋がっていったという見立てを立てることも度々ありますが、あくまで子どもの能力的側面でなく大人の情緒的交流欠如という環境的側面によるもの、という考えからです。
ただ、ちょっとシンプルすぎる説明ですし、本当にこれだけで正確に説明できているのか不安はあります。もっと言うと、攻撃行動の基盤は扁桃体だけでなく視床下部にもあるため、上記のメカニズムは十分ではないんだろうなと感じています。
なので、今回は心理学的な理論などもさらっと概説しながら、もうちょっと攻撃性・攻撃行動について深堀りしていければいいなと思います。
でも勉強していると、攻撃性・攻撃行動についての論文ってめっちゃ少ない…。実験デザインの難しさからなんでしょうかね。

まず、怒りの定義を整理します。
怒りとは、外的な脅威に対する防衛反応といえる情動であり、典型的には、他者から与えらえた痛みや苦痛が、敵意的な意図に基づくものだと認識した際に生じる(Shiota & Karat,2012)、とされています。不安や恐怖と同様に、怒り情動には闘争―逃走反応と呼ばれる、一連の生理的覚醒状態が伴います。

攻撃行動の定型
まず攻撃行動は「反応的攻撃」と「道具的攻撃」に区別できるとされています。
反応的攻撃:敵意的攻撃と呼ばれ、外的な刺激に対する怒りによって誘発される攻撃行動。交感神経系が興奮し、心拍数上昇、立毛や発汗、発声などがみられる。
道具的攻撃:能動的攻撃と呼ばれ、何らかの目標を達成するための手段として用いられる攻撃行動で、必ずしも怒りや交感神経系の興奮の特徴を伴わないとされる。

攻撃行動の原因について、いくつか心理学的な理論が提唱されています。
攻撃行動の原因としては内的衝動説、情動発散説、社会的機能説の三つの系統が考えられています。
内的衝動説:人間には内的な攻撃の本能(衝動)が備わっており、それが表面化したのが攻撃行動であるとする考え方です。精神分析学者のフロイトや動物行動学者のローレンツがこの立場を採っています。
情動発散説:不快な感情を解消するために攻撃行動を起こすという考え方です。ダラードは欲求不満が常に何らかの攻撃行動をもたらすと論じており、またバーコヴィッツは欲求不満に加えて攻撃行動のきっかけによって初めて起こると論じています。
社会的機能説:さまざまな対立や利害衝突などの社会的葛藤を解決するために攻撃行動が機能しているという考え方です。攻撃の社会的機能としては強制・制裁、防衛、威嚇などの機能が挙げられます。
自分が仕事をするうえでは、元々情動発散説をベースに持っており、社会的機能を誤学習して攻撃行動に至った、という考え方を用いています。

以下、いくつかの基本的知見についてまとめます。
・怒りの抑制
認知的再評価群/抑制群/アクセプタンス群 の3群の比較では、怒りのきっかけとなった出来事や他者について様々な観点から認知的に再評価することが、怒りを低減するために役立つことが示されています。また、感情が過小ないし過大に制御されると、攻撃性の可能性が高くなることが示されています。

・攻撃行動と脳etc
視床下部:系統発生的には古い脳領域であり、摂食行動、性行動、攻撃行動、睡眠といった本能行動の中枢です。視床下部への電気刺激は攻撃行動を引き起こします。
扁桃体:攻撃性に深く関与しており、例えばハムスターの扁桃体への刺激は強い攻撃行動を引き起こしますし、扁桃体の容積と攻撃性に負の相関が示された知見もあります。また、IED(間欠性爆発性障害)患者では怒りを表す顔に対して扁桃体の反応性が亢進し、OFC(眼窩前頭皮質)の活性化が低下し、攻撃的な被験者は怒った顔に対する反応において扁桃体とOFCの結合を示すことができない等、衝動的な攻撃的行動の既往歴を持つ個人において、怒った顔の処理に対する扁桃体-OFC機能不全が示されています。
視床下部腹内側核 (ventromedial hypothalamic nucleus; VMH)については、視床下部腹内側の刺激で防御的威嚇行動が、その背外側で逃走行動が生じることが示されています。
テストステロン:分泌が増加する思春期から攻撃行動が増加するとされています。また、成体雄の精巣を除去すると攻撃行動が低下し、そこにテストステロンを投与することで攻撃行動が回復することから、テストステロンが攻撃行動の出現に必須であることが示されています。
セロトニン(5-HTT):衝動攻撃性人格障害患者の左ACC(前帯状回)における5-HTT結合の低下が示されています。他にも、コルチゾールも攻撃性に関与しているという知見が得られていますが詳細については不明な点が多いです。

日本の論文で、いくつかのユニークな知見もあります。
かつおだしが攻撃行動を低下させる仕組み」では、マウスを用いた実験において, 1) かつおだしを長期摂取させると攻撃行動が低下すること,2)かつおだしの作用に脳内のパルプアルプミン陽性神経密度の増加が関与すること, 3) これらの作用に迷走神経を介する情報は関与しないこと,が示唆されました。「Behavioral and functional connectivity basis for peer-influenced bystander participation in bullying (Takami・haruno, 2018)」では、攻撃に加担する要因として、他者への同調だけが有意な効果を持ちました。また攻撃への同調の程度は、その人の社会的不安傾向に相関し、他者の感情を感じる度合いである共感性とは相関しないことを見いだしました。人が攻撃に加担する程度と、その人の社会的不安、および扁桃体と側頭・頭頂接合部の結合強度と相関することを示しました。今回の結果から、不安を減らすことで攻撃行動を減らせる可能性が示唆されると結論付けられています。また「大学生の対人恐怖心性と攻撃性の関連について(太宰・佐野,2012)」では、「対人恐怖心性尺度」における、他者の目が気になる悩み因子,社会的場面で当惑する悩み因子,集団に溶け込めない悩み因子の 3因子は攻撃性の全ての側面と関連していました。この3つの恐怖は最終的に攻撃性へとつながっているようです。
まとめると、不安や恐怖が攻撃性に加担している様子でした。攻撃行動の低下には、かつおのおだしを摂取するのが良いですが、日本人が穏やかなのと(主観)関係があるんでしょうかね。


上述から検討すると、
さすがに伝達物質を考慮することは困難ですが、
・虐待により傷つけられた対人表象・内的作業モデルがベースにあり、扁桃体-OFC機能不全による他者の怒り表情処理の失敗(内的作業モデルの傷付きでも表情認知の歪みが指摘されています)と、他者の言動を被害的に歪んで捉えることが重なることで、不安や恐怖が一層喚起され、不安や恐怖から自己を守る機能として又はフラストレーションの解消として、恐らく親から誤学習した暴力等の攻撃行動を発現させる
…そんな流れがあるのではないでしょうか。
この範囲なら攻撃行動についてのモデルとしてオーバーフィッティングはしていないんじゃないかなぁ、とか思ったり。なので今後はこれをベースに改良を加えつつ、攻撃行動を表している子どもを個別化してアセスメントしたいなと思います。