児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

DV(家庭内暴力・配者間暴力)の加害メカニズムや加害者特性、児童虐待との関連について

DV(家庭内暴力・配偶者間暴力)が社会問題となっていることは周知のことだと思います。
子どもの前でDVや夫婦間口論が発生すると、DV加害者や口論した夫婦から子どもに対する心理的虐待に当たるというのはご存じでしょうか。
実は昨今の児童虐待対応件数の急増は、この「DV目撃・夫婦間口論目撃」の認知件数の急増に寄与するところが大きかったりします。
今回のエントリーはその中でDVに焦点を当てたお話。

心理的虐待が脳の器質的・機能的な面に負の影響を及ぼすことは周知の事実だと思いますが、その心理的虐待の中には当然DV目撃も含まれます。
なので、そのDV対応というのは実は児童相談所の中でも件数としては非常に多いのです。
現在我が自治体の児童虐待関係の部署でもDV担当の職員がいて、その方と話す機会があり、その中でDVに関するちゃんとした知識が実は共有されていないという話が出ました。

DVで有名な理論と言えばきっと、DVサイクルの話なのではないでしょうか。
DVサイクルとは、緊張期→爆発期→ハネムーン期というサイクルを繰り返すよというもので、いわゆる「旦那はケンカの後はいい人なんです」と言い、旦那を信じてみたいと言って再度の被害に遭うことを繰り返す、ということに代表されます。
しかしこの理論、現象的には比較的当てはまることがあっても、「なぜこのサイクルに陥るのか」「どうすればフォローアップが可能なのか」という点については表面的なものに留まることが目立っているのが現状です。現象としてはあっても、きちんとした客観的根拠等に基づく話ではないんですよね。
あと、このDVサイクル理論をどの家庭にもドヤ顔で毎回語る人物に対して、とある福祉司さんが「各家庭にそれぞれの苦しみやメカニズムがある」と怒りを表明していたので、自分もその気持ちに応えなきゃ、DVメカニズムについて真剣に考えなきゃなぁと思った次第なのです。
今回はそのDVについて、ある程度の客観的な説明を試みてみたいと思います。

以下研究論文の要旨抜粋
国内研究
◆岡田 博名, 桂田 恵美子(2013)「なぜ人は攻撃するのか」
・男性は攻撃性の身体攻撃・言語的攻撃・間接的攻撃が有意に高く,防衛機制では価値下げ(「とても内気な人間だ」など自身や積極性の無さ),受動攻撃(「もし上司が私をイライラさせたら,仕事でわざとミスしたり,ゆっくりやったりして仕返しする」など間接的攻撃項目),否認(「不愉快な事実を,それがまるで存在しないかのように無視する傾向がある,と人から言われる」など現実逃避と類似した項目)の得点が有意に高かった。
・愛着スタイルと攻撃性及び防衛機制には関連があること,愛着安定型の人より愛着不安定型の人の方が攻撃性及び未熟な防衛が高い
・人は他者との関りに置いて自己が傷付くのを防ぐために他者からの攻撃を避け,自己を防衛する手段として攻撃を用いる可能性がある

◆片岡 祥・園田 直子(2014)「恋人への分離不安と愛情及び交際期間が恋人支配行動に及ぼす影響」
・恋人支配行動が生起する背景
・暴力的支配行動については,有意傾向ながらもコミットメントに正の主効果が,親密性に負の主効果がみられた。
・強い恋人分離不安と短期の交際期間という条件が揃った場合に,暴力的支配行動が抑制されることが示された。弱いながらも,強い情熱と親密性という条件が揃った場合も同様の傾向がみられた。また,強いコミットメントと弱い恋人分離不安という条件が揃った場合には暴力的支配行動が促進される可能性が示唆された。
・恋人分離不安に関しては単独では影響を及ぼさないものの,他の要因との交互作用がみられるという結果をえた。
※コミットメント:愛情の3要素のうちの1つで,お互いがどれほど離れられないかを示すもの。コミットメント因子(私と〇〇との関わりは揺るぎないものである,など7 項目)

◆赤澤 淳子(2016)「国内におけるデートDV 研究のレビューと今後の課題」(レビュー論文なので間接引用)
性役割観や自己評価等の個人変数については,関連するとされる論文もあるが,研究結果は一貫していない。
・関係満足度の高さとデートDV との関連が指摘されており,被害・加害経験者の満足度は低いことが示されている
共依存の高さ,束縛の高さ,独占欲の高さなど,当事者の関係への過剰なのめり込みがデートDV の被害や加害と関連していることが明らかになっている。
・当事者間の不均衡な関係性や両者の勢力の差など,二者関におけるバランスの悪さがデートDV 被害・加害に関連していることが示唆されている。
・DV 加害・被害経験の高さと関連する要因として,家族への否定的感情,親の養育態度や親子関係,親からの虐待,両親間での喧嘩や暴力行為の目撃や愛着が検討されている。

◆片岡 祥・園田 直子(2016)「2 つの恋人支配行動の生起メカニズムの違い」
・恋人分離不安を媒介した効果はみられなかったものの,未熟性因子から暴力的支配行動への直接効果がみられた
・強い未熟性特性持つ者は分離不安とは関係なくどちらの支配行動もとるという仮説2 は,部分的に支持された。これは強い未熟性特性を持つ者は,例え破綻のリスクが大きくても,関係性の状態に関わらずに暴力行動を選択してしまう傾向にあることを示唆するものであろう。共依存関係の中で,暴力行動は強い未熟性特性を持つ者がとりうることを示した点は意義あるものといえる。
共依存の未熟性特性が強い者は,関係性における不安とは無関係に束縛的支配行動も暴力的支配行動も選択する傾向にある。
共依存の未熟性特性は「ものごとを忍耐強く待つことが苦手である」や「過去の人間関係の失敗から学ぶことが少なく,同じことを繰り返すことが多い」といった項目から測定されることからもわかるように,世話を受ける側は相手を失いたくないという自分の欲求を最優先にし,手段を選ばず相手が去っていかないようにする可能性が高いと考えられる。

◆金政 祐司・浅野 良輔・古村 健太郎(2017)「愛着不安と自己愛傾向は適応性を阻害するのか?」
・愛着不安が高くなると,被受容感が低くなることで,あるいは被拒絶感が高まることで抑うつ傾向ならびに一般他者への攻撃性が高くなるという問題部分で議論した仮定プロセスが支持されたと言える
・愛着不安は,個人内適応ならびに個人間適応を阻害すること,さらに,個人間適応に関しては,本人の報告したパートナーに対する間接的暴力加害のみならず,配偶者が報告した間接的暴力被害とも関連することが示された。加えて,媒介過程についても仮説を支持する結果が得られており,愛着不安が高くなることで,パートナーからの被受容感が低まり,あるいは被拒絶感が高まり,その結果,抑うつ傾向が高くなる,また,パートナーに対する間接的暴力加害や配偶者が報告した間接的暴力被害が高くなるという仮定したプロセスの妥当性が示された。
・研究1ならびに研究2で一貫して得られた結果は,愛着不安と自己愛傾向の双方が,共通して個人間適応を阻害し,また,それらの影響が他者からの被受容感によって媒介されるというものであった。研究1, 2で共に,愛着不安あるいは自己愛傾向が高くなると,個人間適応の指標である一般他者に対する攻撃性やパートナーに対する間接的暴力加害が増大すること,また,それらの影響は一般他者やパートナーからの被受容感によって媒介されることが示されていた。
・自己への信念という観点からは概念的に対置されるはずの愛着不安と自己愛傾向が適応性に影響を及ぼす際のプロセスの共通項としては,双方が個人間適応を阻害し,かつその影響が他者からの被受容感によって媒介されることであると言える。これらの結果は,愛着不安の高さによる過度の不安感と焦燥感から生じるバイアス,あるいは自己愛傾向の高さが孕みもつ自己の不安定性や脆弱性から理解されるものであろう。ただし,その媒介プロセスは異なっていた。つまり,愛着不安が高くなると被受容感は低くなり,そのことで攻撃性は高まるが,自己愛が高くなれば被受容感は高まり,それによって攻撃性は抑制されるというものであった。加えて研究1, 2での愛着不安から被受容感を媒介した攻撃性への間接効果の方向性を踏まえると,愛着不安から攻撃性への影響は被受容感を媒介させることで弱まっていた。これは,間接効果自体はそれほど大きくはないものの,愛着不安から攻撃性への元々の影響の幾分かは,問題部分で言及したような,愛着不安の高さゆえに他者からの受容を低く見積もることによるもの,すなわち,周囲の他者やパートナーから受容されていないと感じることに基づいているものであることを示す結果と考えられる
・間接効果としては比較的小さいものの,自己愛傾向から攻撃性への元々の影響は,自己愛傾向の高さに起因する周囲の他者やパートナーから受容されているというポジティブな感覚によって抑えられていることを示唆していると言える。

◆荒井 崇史・金政 祐司(2019)「愛着不安とDaV」(研究発表)
・愛着不安が直接的に交際相手への間接的暴力へとつながるのではなく,愛着不安が恋人を支配したいという欲求に結び付く場合に,交際相手への間接的暴力が生じると考えることができる

●国内研究の課題:生育歴を含めた追跡研究がない

海外研究
◆Donald G. Dutton (2008)reflections on thirty years of Domestic Violence Research
・「恐怖心の強い愛着」,中心的な特徴としての高い不安に基づく怒りを持つ愛着スタイルが,妻の虐待の報告と加害者の嫉妬,怒り,トラウマ症状の自己報告と有意に相関している。 親密な関係の中で虐待を受けた男性は,ボーダーラインの特徴と愛着不安の両方を持っていた。虐待性の心理的特徴のスキーマやパターンが現れ始めていた。大規模なサンプルを用いたその後の研究では,主にこれらの初期の知見:境界線の特徴,愛着不安,衝動性と虐待性の間の接続のパターンが確認されている。
・身体的虐待によってトラウマを受けた子供たちの研究により,この暴露のために長期的に続く "認知的欠損 "を持っていることが示された。彼らの認知は,非難として行動化する傾向があり,自己の否定的な経験をパートナーが「引き起こした」ものとして見る傾向があり,パートナーに対するフラストレーションと怒りを生成する。怒りは,物理的な虐待性の閾値にまで達し,その後,しばしば破壊的に表現される。

Angela J. Narayan, M.A., Michelle M. Englund, Elizabeth A. Carlson, and Byron Egeland(2014)「Adolescent Conflict as a Developmental Process in the Prospective Pathway from Exposure to Interparental Violence to Dating Violence」
・幼児期の両親間暴力の目撃は成人期早期のデート・バイオレンスの加害を直接予測

●知見まとめ
加害メカニズム:愛着不安が恋人を支配したいという欲求に結び付く場合に,交際相手への間接的暴力が生じる+愛着不安が高くなると被受容感は低くなり,そのことで攻撃性は高まる+強いコミットメントと弱い恋人分離不安という条件が揃った場合には暴力的支配行動が促進+強い共依存の未熟性特性を持つ者は,例え破綻のリスクが大きくても,関係性の状態に関わらずに暴力行動を選択してしまう傾向(研究知見より)
 =愛着不安傾向が強いと,被受容感などのパートナーによる否定的な経験を「パートナーが引き起こしたもの」と被害的に受け止め,しかしコミットメントの強さから相手と離れられないという感覚があるためパートナーへの執着を有し,未熟性の強さのため建設的な関係構築に至らず自己の欲求を最優先にしてしまう結果,怒りをベースにした攻撃的な対応(DV等)を用いて支配的行動を取る(まとめるとこんな感じ?)
加害者特性:愛着不安傾向(による被受容感・恋人分離不安)/共依存の未熟性特性/強いコミットメント
加害者の経験:家族への否定的感情,親の養育態度や親子関係,親からの虐待,両親間での喧嘩や暴力行為の目撃や愛着不安

さて、知見まとめの中の加害メカニズムを、緊張期→爆発期→ハネムーン期みたいなDVサイクル理論の中のハネムーン期に焦点を当てて考えてみることとします。
ネムーン期は簡単に言うと、散々暴力を振るった後に「ごめんね俺が悪かった、愛しているよ」と優しくなる時期のことを指します。
「自己の欲求を優先する共依存の未熟性などが基本にある攻撃的な支配」がDVでした(※それだけがDVメカニズムじゃないと思いますけど、それに限定して話します)。
その支配は、愛着不安によりパートナー(人全般)に対する安心感・信頼感の欠如がベースにあります。だから強制力を持って支配し、自己のもとを離れないようにするんですね。
離れて欲しくないから、その欲求を謝罪や愛情表現という形で心情的に訴える訳ですが、結局のところ「愛着不安による被害的認知により怒りが誘発されて攻撃的な対応に至る」というベースの部分は解決に至っていないため、結局加害者自身の愛着不安を刺激する出来事があると、またDVサイクルに陥ってしまうのではないかと思われます。
これが金政・浅野・古村(2017)「(攻撃性は)周囲の他者やパートナーから受容されているというポジティブな感覚によって抑えられていることを示唆している」に繋がっていくんじゃないかなぁと個人的には感じるところではあります。

Angela, Michelle, Elizabeth, and Byron(2014)でもありますが、DV目撃による虐待は連鎖していくリスクがあります。いわゆる虐待の連鎖を止めるために、家庭ごとにあるDVメカニズムをアセスメント・共有し、負の連鎖を食い止めていく必要があると思うわけです。