児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

性加害のアセスメント

0.性加害(性的問題行動:Problematic Sexual Behavior:PSB/Sexual Behavior Problems:SBP)の事例
 主訴:実父からの身体的虐待で児童養護施設へ入所した7歳男児A。Aが施設内で、年下男児に自身の性器を触らせる、知的に遅れのある同年代女児に衣服を脱いで下着を見せろと命じる、といった問題行動が発覚。施設から児相に援助依頼があった関係で、心理担当がついてAと面接を実施した。
 状態像:Aは知的には普通域。他児への暴力行為は頻繁ではないがある。過去にAに対する性加害は確認されていない。
 家族構成:Aの父は母へのDVもあり、Aは度々その目撃をしていた。Aの母は無職で、Aの父は団体職員。平日昼は父母が在宅であることが多かった。きょうだいはAの下に次男(6)、長女(5)、三男(4)がおり、6人世帯であった。
 児相の関り:児童相談所の心理司が「プライベートゾーン」「良いタッチ・悪いタッチ」などの心理教育を行ったが、その2か月後に同様の行動が再発。今後どのようにAと心理司・施設職員が関わっていけばよいか。

1.性的問題行動とは何か
◆性加害問題対応の課題や必要性
 (厚生労働省, 2019)によれば、2017年度において、児童養護施設等の社会的養護関係施設、児童相談所の一時保護所、里親、ファミリーホームで生じた児童間の性的な問題は732件であり、その当事者となった児童は1,371人を数えた。社会的養護の場で少なくない数の児童間の性的な問題が生じていることが示された。
 施設のように閉鎖性の高い集団生活の場は性暴力を含めた暴力が生じやすいこと(田嶌, 2011)や、異年齢の子どもや大人の男女が集団で生活する環境は性的問題が起こりやすいこと(厚生労働省,2016)は、既に指摘されている。

◆性的問題行動の定義
性加害者治療学会(The Association for the Treatment of Sexual Abuse:ATSA)の性的問題行動を抱える子供の専門調査委員会は、性的問題行動(Problematic Sexual Behavior:PSB)を抱える子供を「12歳以下で、体の性的な部位に対し、その子や相手の子が発達的に見て不適切あるいは有害な行為をするもの(p3)」と定義し、これらの行動は、対人関係や自己中心的なものであり、必ずしも性的な動機づけや性的満足に関連したものではないとされている。「最も心配なケースは(略)攻撃性や力づくや強制があり、有害であったり有害となる可能性があったりするもの(p3-4)」と言われている(Chaffin et al.,2006)。
近年の研究では、性的問題行動には明確なサブタイプがないと示されている。性的問題行動を抱える子供とそうでない子供の違いを明らかにしうる行動特徴や明確な要因は示されなかった(Bonner, Walker, & Berliner,1999 ; Chaffin et al.,2002)。
性的問題行動を抱える子供は、それ以外の問題で治療を受けている子供よりも将来的に性犯罪者になる長期的なリスクが大きいわけではなく(性加害の再犯率は2-3%)、思春期後期や成人の性犯罪者とは質的に異なる(Chaffin et al.,2006)。つまり、成人に対して一般的に用いられる方針・アセスメント・治療はどれも子供には不適切といえる。


2.問題となる性的行動と典型的な性的発達
◆特定の正常な性的行動との比較
 通常、典型的な性的遊びや探索は、互いによく知る同年齢で同体格程度の間柄で起こり、自然発生的で無計画で、それほど頻繁でないため、不快感や戸惑いを生じないものであり、保護者の制止やルールの提示なのですぐにやめることができる(Gil,1993 ; Friedrich,2007 ; Hagan et al.,2008)。
 標準的なサンプルでは、2歳から5歳の幼児は何らかの性的行動を示す傾向があり、最も一般的には、裸の他人を見る、身体の境界線に侵入する、家庭や公共の場で自分の性的身体部分を触る、母親の胸に触る、などがある(Friedrich, Fisher, Broughton, Houston, & Shafran, 1998)。3歳から6歳の標準的な子どもを対象とした研究では、家庭環境において男女ともに最もよく見られる性的行動は、裸の他人を見ること、服を着ずに歩くこと、母親の胸に触れることだった(Larsson & Svedin, 2002a)。
 学齢期には、性的行動に対する社会的境界線とモラルを学び始めるため、性的行動はより隠蔽されるようになる。たとえば、10歳から12歳の子どもは、幼いころに比べて、裸の他人を見ようとする(6%)、公共の場で自分の性的身体部分を触る(2%)、母親の胸を触る(1%)ということがかなり少なくなる。子どもの年齢が上がるにつれて、一部の性行動が増加する。10歳から12歳の子どもの約15%がテレビでヌードを見ることに関心があるのに対し、2歳から5歳の子どもは5%である(Friedrich et al.,1998)。
 性交をしようとする、他人の性的身体部位に口をつける、他人に性行為をするように頼む、直腸や膣に物や指を挿入するなど、年齢層を超えて稀に見られる行動もある (Friedrich et al., 1991, 1998; Schoentjes et al., 1999)。
 典型的なものとそうでない性的遊びの違いについて、年齢相応の探索的な性的遊びの力動には、自発性、喜び、笑い、うしろめたさや時折生じる脱抑制・抑制などがある。一方問題となる性的行動では、支配関係、強制、脅威、強要が存在する(Gil,1993)。

◆問題となる性的行動
 ・侵入的な性的行動:他者を巻き込んだ行動
 ・攻撃的な性的行動:制限されてもやり続ける、ほかのこと性的な接触をするための方法を計画する、ほかの子に性行為を強要する、身体的な貫通行為(Friedrich,2007)。
 Chaffin et al.(2008)は、性的行動が問題であるかどうかを判断するためのガイドラインを提供している。考慮すべき主な問題は、行動の頻度、いくつかの発達的要因、および関係する危害のレベルである。発達に応じた性的行動は、互いをよく知る年代や発達年齢が近い子どもたちの間で頻繁に発生し、親の介入によって抑制されることが多いが、PSBは親の注意や監視にもかかわらず継続されることが多い。
一般的な子ども同士の性行為は、同意のもとに行われる。これに対し、他人に性行為を求めるような侵入性の強い行動は、子どもの年齢や性別に関係なく稀である。また、遊びの力関係によって、行動を分類することができる。攻撃、強制、脅し、力、脅迫を伴う性的行動は、PSBに分類される可能性がより高い。
また、子ども同士の性行為に伴う感情も注目される。典型的な性行為と比較してPSBは、その行為を受ける側の子どもに不安、恐怖、羞恥心を誘発する可能性が高い。また、身体的な傷害、危害、苦痛を伴う性的行動も、PSBをより強く示唆するものである。
まとめると、子どもの典型的な性行動は、探索的で同意の上、定期的に起こり、恐怖や不安がなく、お互いをよく知り、ほぼ同年齢の子どもの間で起こる可能性が高いということである。発見された場合、これらの行動は通常、親の介入によって解決される。これに対し、PSBは強制的であることが多く、非常に侵入的であり、また夢中であり、年代や発達の異なる子どもたちの間で起こり、頻繁に起こり、そして/または発達上不適切である。また、自発的ではなく、積極的に計画された行動に関連することもある。さらに、PSBは最初の親の介入に抵抗する傾向があり、より集中的な介入が必要とされる。


3.性的問題行動はどのように獲得、そして固定されていくのか
◆性的攻撃性とその他の深刻な行動上の問題
 問題発生に寄与する要因としては個人的要因や環境的要因の他、不適切な養育、強要的あるいは放置的な養育、露骨に性的な表現がされたメディアへの曝露、非常に性的な環境にある中での生活、家族間暴力への曝露などがある(Chaffin et al.,2006 ; Friedrich et al.,2001 ; Langstorm et al.,2002 ; Merrick et al.,2008)。
※佐名注:支配的なかかわりの中でも性的な行為を選択する児童の場合、家庭や施設内で「露骨に性的な表現がされたメディアへの曝露または非常に性的な環境にある中での生活」に曝されて学習した結果、といえる?

◆反応性の性的行動あるいは虐待反応性の行動
性的虐待を受けた子供は様々な要因から性的に行動化するが、たいていは性的虐待に適応しようとした結果である(※佐名注:性虐のあるケースに限る意見)。より積極的に加害者の役割を取ろうとしたり、反対に受け身的に犠牲者の役割を取ったりすることもある。しかしこの行動は、ある侵入的な思考や耐えきれない何かの感覚が引き金となって、子供が自覚して意識的にやることもある(エリアナ ギル & ジェニファー ショウ,2019)。
「過剰に性的な刺激を受けた子供のほとんどは、その経験を合理的に自分の中に統合することができません。そのため、その子の関心は増大していき、駆り立てられるように頻繁に、そして年齢不相応な知識による性的行動という形でその混乱を行動化しうるのです」(Gil,1993,p45)。

◆SBPのリスク因子となる虐待
 SBPの子どもはさまざまな問題を抱え、性的虐待とは別の形の暴力にさらされていることが多い(Araji, 1997)。学齢期の子どもを具体的に見ると、あるサンプルでは、PSB治療のために紹介された子どもの約50%は、児童福祉サービスによる性的虐待の実証歴を持っていなかった=親からの報告のみであった(Bonner et al.,1999)。Silovsky and Niec (2002)が行ったPSB治療のために紹介された未就学児の研究では、性的虐待の履歴が立証されたのは38%のみであった。つまり、性的虐待を受けた子どもの多くはPSBを発症せず、同様に、性的虐待の既往がなくてもPSBを行う子どもは多く存在することが示唆される。
Tarren-Sweeney(2008)は、複合的な精神病理をもつ347人の子どもを対象に研究を行い、特定の形態の虐待(接触を伴う性的虐待を除く)がSBPの存在を予測することはないことを明らかにした。その結果、ストレスやトラウマとなりうる出来事(例えば、家族間の葛藤)の組み合わせなど、逆境への累積的な曝露が、SBPの発生を最もよく予測することが示唆された。
Tremblay et al.(2020)において、SBPの子どもたちは平均3.28の非性的な被害体験にさらされていたことを報告している。具体的には、73.6%が家庭内暴力、65.8%がいじめ、58.1%が身体的虐待、49.4%がネグレクト、48.1%が心理的虐待、20.5%が暴力犯罪目撃、14.8%が暴力犯罪加害者であった。
Szanto, Lyons, & Kisiel(2012)は、若者が経験するトラウマ的出来事の種類が多いほど、SBPを呈しやすいことも示している:1種類のトラウマ的出来事を経験した若者は9%しかSBPを呈さなかったが、8種類以上のトラウマ的出来事を経験した若者は80%以上、これらの行動を呈していた。
 性的虐待を受けた子供はそうでない子供よりも、自分の性器や肛門にものを挿入する傾向がある(Friedrich et al.,1991 ; Friedrich,2007)。
 性的問題行動で医療機関に紹介される子供は、性的被虐待歴のある子どもの割合の方が性的被虐待歴のない子供の割合よりも高い(Chaffin et al.,2006 ; Friedrich,2007)。
 性的被虐待歴のある就学前の子供は特に危険性が高く、彼らの3分の1が性的問題行動を示す。学童期の子供になるとその発生率は下がって約6%となっている(Kendall-Tackett et al.,1993)。

◆その他主なPSBリスク因子
PSBは、ヌード、親の性行為、ポルノにさらされる可能性のある、家族の境界が曖昧=バウンダリーに問題のある家庭で育った子どもに多い(Friedrich et al.,2003; Curwen, Jenkins, & Worling, 2014; L evesque et al.,2010)。
貧困、片親、貧弱な子育て習慣など、親の指導・監督を阻害する家庭の逆境要因もPSBと関係がある(Elkovitch et al.,2009)。Grayら(1997、1999)のサンプルでは、PSBを持つ子どもの38%と54%が、それぞれ所得が貧困ライン以下の家庭で生活していた。家庭の所得もまた、性的侵入行動の強固な予測因子であり、所得の低い家庭の子どもはリスクが高いことが判明している(Friedrich et al.,2003)。
PSBを持つ子どもの親は、他の親に比べて、子どもの活動に対する監督や監視が少ない可能性を示唆している(Pithers, Gray, Busconi, & Houchens, 1998)。
子どものPSBには、セクシュアリティ性的嗜好)に関連する家族の境界線(バウンダリー)の欠如、不十分な監督につながる家族の逆境要因、家庭内暴力や身体的虐待への曝露が関係しているとレビューされている(Mesman,2019)。

◆子どものPSBの特性や構造
大江他(2007)では、性非行のリスクファクターと性非行の反復の関連が報告されている。反復性高群は性への欲求・関心が高く、軽微な性非行を繰り返す一方で、反復性低群には多様な非行や重大な非行に至るケースが多い傾向にあったことが示された。また生活環境(生活状況・学校の安定性や、ポジティブなサポート体制など)が性非行の反復に深く寄与していることも示された。

◆SBPと外在化行動
外在化行動の問題はSBPの発症と持続に重要な影響を及ぼすと思われる。Boisvert, Tourigny, Lanctôt, & Lemieux(2016)は、外在化行動とSBPの関連性に関する11の研究のうち、7つの研究でこれら2つの行動発現の間に有意かつ正の関連があることがわかったと報告している。
臨床文献によると、攻撃的なSBPを行う子どもは、排泄行動や言語攻撃など、いくつかの外在化行動の問題も示すことが明らかになっている(Araji, 1997)。
PSBの子どもは、反抗的行動、行動問題、不注意、多動性、衝動性、社会的困難、複雑なトラウマ歴、重度のトラウマ症状など、他の精神病理を抱えている可能性も高い(Chaffin et al.,2008;Elkovitch et al.,2009)。また、多くの研究の結果、PSBと児童行動チェックリスト(Achenbach & Rescorla, 2001)の内面化、外面化、総合尺度の間に強い正の関係があることが示されている(Baker, Gries, Schneiderman, Parker, Archer, & Friedrich, 2008; Bonner et al, 1999; Friedrich et al., 2001; Levesque, Bigras, & Pauze, 2010; Gray, Busconi, Houchens, & Pithers, 1997; Gray, Pithers, Busconi, & Houchens, 1999)。
Lévesque, Bigras, & Pauzé(2010)は、 SBPと外在化行動がともに言語的虐待と関連していたとしても、SBPは家族のセクシュアリティと強く関連していたのに対し、外在化行動はそうでなかったことを見いだした。さらに、ネグレクトは外在化行動を予測するが、SBPは予測しないことがわかった。
Tremblay et al.(2020)は、外在化行動問題の有無は、SBPの多様性と重症度の両方に関して考慮すべき最も重要な要因であると述べ、累積ストレス次元(すなわち、社会経済的地位と親の心理的苦痛)はSBPの多様性と重症度の両方と関連せず、性的虐待とSBPの多様性および重症度との間に有意な関連は認められなかったと報告している。

◆大人の性加害と子どもの性加害の違い 
高岸(2020)によれば、成人の場合、一般犯罪と性犯罪のリスク因子は変わらないとの見解が示されている。性犯罪については、性的固執の強さ、反社会的パーソナリティ、性犯罪を容認する態度・思考スタイル、親密さの欠如がリスクとして整理されている。
一方で、子どもの場合、認知機能、性格ともに発達途上のため、成人のものをそのまま適応することが難しい。子ども時代に性的加害行為をしていたからと言って、成人後も継続する人が少ないという藤岡(2016)の指摘もあるように、別物(違う要因によって生起している)と捉える方が望ましい。

◆子どもの性加害に関する要因
Friedrich(2003)は、子どもの性加害の場合、以下の4側面が影響していると指摘している。①衝動コントロールなどの子ども自身の脆弱性②保護者のネグレクトなど不安定な家庭環境③暴力被害などの強制や相手の意図を無視する関わりのモデリング④性刺激への暴露→環境からの刺激も多い。そのため、特に子どもへの支援を考える際には、環境調整や保護者の協力が必要になってくる。
Rich(2005)はアタッチメントですべて説明ができるとは言わないまでも、性加害と一定の関連性があると指摘している。また、アタッチメントの視点を持つことで、子ども時代の性加害行為と成人後の性犯罪を連続体として見れるのではないか、とのこと。※工藤・浅野が言う仮の安心感を得るための構図か。

◆子どもの性加害の「獲得」と「維持要因」
獲得要因は、おそらく上記①から④の組み合わせ。不全感を持っていたことを発散する方法を思いついた。最初は探索行動レベルだったのが、成功体験を積む中で次第に嗜癖化していったか。


4.性的問題行動から性犯罪へ:性犯罪の先行研究から
◆一般犯罪と性犯罪
たった1つのタイプの犯罪しか行っていないと報告したのは、犯罪者の内、わずか26% (Makkai & Payne,2005)。つまり、性犯罪者は性犯罪以外の犯罪も行う=性には関係のない犯因変数にも注意を向ける必要あり。
性犯罪者は非性犯罪も行う(Bench et al.,1997 ; Lussier et al.,2005)
粗暴犯罪の再犯率(性+非性)は19.5 %、性犯罪の再犯率は 11.5%(Hanson & Morton Bourgon,2009)
性犯罪者と非性犯罪者の類似性の一例:犯罪指向的支持の役割⇒望んでいない性交渉を支持するような仲間がいることの重要性(Suarez & Gadalla,2010 ; Alder,1985 ; Kanin,1967 ; Swartout,2013 ; Mengeling et al.,2014)

◆性犯罪者の再犯
性犯罪者は非性犯罪者よりも性犯罪の再犯をしやすい(Hanson et al.,1995;Soothill et al.,2000)。89研究のメタアナリシスによって「子どもへの性犯罪者における態度の違い」が見いだされた;子どもへの性犯罪者と非性犯罪者の態度比較として,子どもへの性犯罪者は犯罪に対する自己の責任を矮小化しやすく(r=.27)、大人と子供の性行為に寛容(r=.25)ということが示されている(Whitaker et al.,2008)。

◆性犯罪者のリスク要因
逸脱した性的ファンタジーは性的逸脱を予測するものの(Hanson & MortonBourgon,2005)、性犯罪の原因としての役割は十分に明確ではない。
ポルノ使用:①ポルノが性的逸脱を刺激し実行に移すよう作用、②ポルノ使用がカタルシスとなり性的攻撃性が低まる、の両立場がある。性的犯罪とポルノの役割にはコンセンサスがなく(Bensimon,2007)、ポルノの果たす役割はケースにより異なる。
RNR 原則を順守した治療は大きな再犯率低下を示した(Hanson et al.,2009)⇒一般犯罪者に関連するリスク要因が、性犯罪者のそれとも重なっている(Hanson,2014 ; Hanson & yates,2013)
性犯罪者に認知について、「加害行為の合理化」と「加害責任のわい小化」の各サブスケール得点は,いずれも子どもへの性犯罪者群の方が刑事司法コントロール群よりも有意に高かったこと、「加害責任のわい小化」サブスケール得点は,子どもを被害者とする性犯罪者群の方が他の性犯罪者群よりも有意に高かったことを報告している(勝田,2016)

◆性犯罪へのプロセス
日常生活における《つまずき》から始まる《つまずきへの対処》,《不安定な心理状態》,《つまずきへのネガティブなとらえ方》のサイクルに引き続き,《性犯罪をしたい気持ち》,《自分の欲求へのこだわり》,《性犯罪をしてもよいという考え》,《性犯罪ができるという考え》,《統制不能》,《女性の気持ちの読み違い》ならびに《犯罪をしたい気持ち》の七つの犯罪に関する認知が生じ,《被害者への接近》という現実の行動に繋がっていく過程を示している(勝田,2016)。

◆愛着スタイルと性犯罪
性犯群の方が非性犯群よりも,愛着スタイルが不安定(「見捨てられ不安」が高い)ことが示された(星・河野,2018)。愛着スタイルにおいて見捨てられ不安が高く,否定的な自己観を持っている人は,一般的に,他者からの承認に依存的で,拒否されることを過剰に恐れる傾向があるため,相手の些細な言動を被害的に受けとめ,激しい不安にとらわれてしまい,それが相手への怒りや敵意となって攻撃行動に至る場合がある(岡田,2011)。性犯罪者の場合,そこに彼ら特有の認知の歪みや女性への敵意(大淵・石毛・山入端・井上,1985)などの要因が加わって,性加害に至った可能性が考えられる。

◆性犯罪の再発防止
性加害行為抑止の取り組みでは、性加害行為をリラプス(再発) に位置づけ、リラプスを促進する認知や行動スタイルを同定し、それらの変容を目的として、“性犯罪に関する知識の獲得(心理教育)”、“三項随伴性の刺激統制”、“認知的再体制化”、“問題解決訓練”、”被害者共感性の教育”、“社会的スキル訓練”、情動への対処”などの心理学的介入が実施され(嶋田,2006;嶋田・野村,2008),洞察中心の心理療法的アプローチなどと比較して再犯率の低下に効果があることがメタ分析を用いた検討の結果から確認されている(Losel& Schmucker,2005)。しかし、性加害行為の抑止を目的とした心理学的アプローチの効果サイズは、必ずしも大きくないことが指摘されている(Harkins & Beech,2007)。
ターゲットとされる変容可能な心理社会的要因と具体的な介入方針として4つに分類でき、(a)性的な興味に関する方向性やその強さに関する“性的嗜好”への介入:性的嗜好に特徴づけられる対象者に対しては、逸脱した性的嗜好を変容させるアプローチ、(b)性加害行為を正当化する役割を果たしているとされる、犯罪行為、性のあり方、被害に対する信念である“歪んだ態度”へのアプローチ:歪んだ態度に特徴づけられる対象者に対しては、認知的歪みと性的権利に関する信念の変容を試みるアプローチ、(c)他者に対する働きかけと働きかけに関する認知感情的要素である”社会感情的機能”へのアプローチ:社会感情的機能に特徴づけられる対象者に対しては、親密な関係性を築き、社会的に機能しうる具体的な対処を学習するアプローチ、(d)長期的な目標の達成に向けた計画、問題解決、衝動の統制であるセルフ・マネジメントへのアプローチ:ネガティブな感情状態への反応へのセンシティビティや衝動的、無計画的行動といったセルフ・マネジメント上の問題に特徴づけられる対象者に対しては、感情統制を含む自己統制スキルや問題解決スキルを中心としたアプローチの実施(Marshall& Barbaree,1991)。
性的嗜好や歪んだ態度は“特定領域”,向社会的行動の促進や生活上の心理社会的問題への対処を通して性加害行為の抑止を目的とする社会感情的機能やセルフ・マネジメントなどは“非特定領域”に分類される(Beech & Fisher,2002;Hudson et al.,1995)。特定領域の心理社会的要因をターゲットとした心理学的アプローチである性的嗜好の変容、歪んだ態度の変容、およびリラプス・プリベンションと非特定領域の心理社会的要因である社会感情的機能の向上をプログラム構成に組み込むことで性加害行為抑止効果が望めることが示唆(野村,2011)。一方で、セルフ・マネジメント等の非特定領域の心理社会的要因を高めることで、性加害対象への接近を高めることとなり、性加害行為を促進してしまう可能性への指摘あり(Brown,2005)。
被害者共感性介入が性犯罪行動リスクに及ぼす影響性について、被害者の心情理解を促す関りは再発予防に限定的な効果,さらに性犯罪被害場面についての検討を促す手続きによって性犯罪行動リスクを高めてしまう可能性が高いことが報告されている(野村,2017)。
身体的去勢 :低い再犯率を示すが(Bradford,1997)、比較群を用いていない・性的機能の喪失は保証しない・倫理や副作用等の問題を抱えるので 現在ではあまり用いられていない。
化学的去勢 :テストステロン分泌を刺激するホルモン(アンドロゲン)分泌をブロックする薬物などを使用 性的欲動が低下する効果があり、再犯率も低下(Bradford et al.,2013 ; Maletzky et al.,2006)。
性的行動と行動的に関連するもの(逸脱した性的思考など)に対しては効果なし。心理学的治療も並行して必要。
性犯罪の再犯リスクが時間経過とともに低下(Hanson et al.,2014)・・・なぜ低下するのかはまだ分かっていない。
性犯罪者にとっては、精神障害犯罪者や一般犯罪者と同様、犯罪歴が最大の予測因子であり、その他には反社会的パーソナリティ・パターンや犯罪指向的態度がある。


5.性的問題行動の治療・改善は可能なのか
◆治療と予測因子に関する先行研究
 PSBの子どもに対する重要な治療要素は、問題行動や違法な性行動をとる青年に用いられる介入戦略とは異なる。全体として、子育てと行動管理に焦点を当てた実践要素がPSBの減少に最も成功したが、青年や成人によく用いられる要素(再発防止、暴行サイクル、覚醒再調整)はPSBの減少に独自に寄与しなかった(St. Amand et al.,2008)。Carpentier, Silovsky, & Chaffin(2006)によると,5歳から12歳の間にPSBを発症した子どもを対象とした10年間の追跡調査では、子育て・行動管理が成功する治療法であることがさらに支持された。行動管理と心理教育を中心とした認知行動療法プロトコル(CBT)を完了した子どものうち、治療後10年間に性犯罪を犯したのはわずか2%であった(他セラピーを受けた子どもたちの将来の性犯罪率が10%)。
 Bonnerら(1999)は性的問題行動を抱える6-12歳の児童に対し、衝動統制、認知の癖、意思決定、正しい知識の獲得に重点を置いたグループCBTを開発し,10年後の追跡調査で性的加害を行った回数と性的加害による逮捕の数の長期的な数が有意に少なかったことを報告した。
 子供のころの性的問題行動が青年期や成人期に引き続き存在するリスクは、適切な治療的介入によってベースライン値まで下がりうる(Chaffin et al.,2006)。
性的問題行動につながるリスクが最も高い子供を予測する要因に基づいた「セクシュアリティモデリング」「家族の抱える困難」「威圧的な行動のモデリング」「全般的な子どもの行動」の4因子が提案されている。中でも家族機能(特にバウンダリーセクシュアリティ)に関連する因子は重要で、そのほかにも貧困・家族のストレス・緊張した親子関係といった社会的因子も性的問題行動の発生のリスクを増大させる(Friedrich et al.,2003)。
性的問題行動を抱える子供を対象に、性的問題行動に焦点を当てた保護者も関わるCBT的介入方法に加えトラウマによるストレス症状に対する取り組みも行う治療は、両方の問題を抱える子供に対して行えば、どちらの問題や症状にも改善効果がみられる(エリアナ ギル & ジェニファー ショウ,2019)。

◆治療における保護者の役割
 性的問題行動の介入でも、適切に焦点化され目的志向的な方法を用い、保護者や教師に実践的な子どもの行動管理の方法を指導し、親子関係を強化するときにその効果は最大化する(Patterson, Reid, & Eddy,2002)。
 アタッチメントに焦点化した取り組みの必要性があるにもかかわらず、現在実際に行われている介入は個人に注意が向けられ、性的問題行動に関連する認知に焦点が当てられている(Friedrich,2007)。
高岸他(2021)から、保護者が「積極的に子どもに行動や様子を確認するよう働きかけること」を行う保護者のモニタリングが、性犯罪抑止に効果的に働く可能性に言及している。

◆PSBケアのための推奨事項(Mesman et al.,2019)
頻度と保護者の管理に関する情報を入手する/発達要因の考慮/危害の程度を評価する/標準化されたノルムレファレンス測定法を使用する/家庭環境の評価/性的虐待の履歴を評価する/虐待が疑われる場合、適切な当局に通知する/子供を精神科に紹介する/家族のメンタルヘルスサービスを紹介する/安心感と心理教育の提供


6.今後の課題
◆サブタイプごと(下着盗、のぞき、公然わいせつ、痴漢、強姦)の特徴があるのか、それによって選択される治療法も異なるのか ※単純な「窃盗」カテゴリでしたら以前まとめましたが、性的な窃盗とはかなり特徴が異なっていました。性が絡むと質的に異なるんだなぁと思いました。あと大人の性犯罪の場合は特徴(接近型と回避型の分類とか)も有効な治療もあるっぽいですね(三住他,2021)


7.性加害児童Aへのアセスメントと対応
 改めて性加害児童Aの事例を掲載します。
 主訴:実父からの身体的虐待で児童養護施設へ入所した7歳男児A。Aが施設内で、年下男児に自身の性器を触らせる、知的に遅れのある同年代女児に衣服を脱いで下着を見せろと命じる、といった問題行動が発覚。施設から児相に援助依頼があった関係で、心理担当がついてAと面接を実施した。
 状態像:Aは知的には普通域。他児への暴力行為は頻繁ではないがある。過去にAに対する性加害は確認されていない。
 家族構成:Aの父は母へのDVもあり、Aは度々その目撃をしていた。Aの母は無職で、Aの父は団体職員。平日昼は父母が在宅であることが多かった。きょうだいはAの下に次男(6)、長女(5)、三男(4)がおり、6人世帯であった。
 児相の関り:児童相談所の心理司が「プライベートゾーン」「良いタッチ・悪いタッチ」などの心理教育を行ったが、その2か月後に同様の行動が再発。今後どのようにAと心理司・施設職員が関わっていけばよいか。

本児の行動は遊びの一環なのでしょうか、それともれっきとしたPSBなのでしょうか。この場合は「12歳以下で、体の性的な部位に対し、その子や相手の子が発達的に見て不適切あるいは有害な行為をするもの」と考えられるのでPSBと考えて問題なさそうです。また支配関係や強制がある“心配な・問題のあるケース”と考えてよさそうです。
次に、本児の抱える個人・環境の脆弱性(先行因子)についてざっと検討します。
環境因を考えると、身体的虐待やDV目撃による心理的虐待を始めとした累積的な逆境環境への暴露、は間違いなく言えそうです。本児の環境から推測するに、不十分な監督や性情報への暴露などもありそうですが、現段階では確証がありません。
個人の脆弱性については情報が多くはありません。衝動性や歪んだ性認知・対人認知などが本加害行為に影響を及ぼしている可能性は当然ありますが、歪んだ対人認知については“DV目撃により支配関係による対人構築という歪んだ対人認知を誤学習した”というモデリングが寄与している可能性は否定できません。衝動統制については能力的に課題がある可能性がありますが、知的には普通域ですから、DN-CAS等の認知機能系の検査を行っていくのがいいかな、と思います。このように、加害に至る・加害を抑制できなかった個人因子は、過去の行動エピソードや心理検査等で情報を得ていきます。
次に、性加害で用いる行為をどこで学習したかです。これも情報がありません。家庭の中で性曝露があったのか、施設入所後に性曝露があったのか、もしくは直接の性被害があったのか、そこを念頭に置いて調査を行っていく必要があります。
そして、本児にとって性加害のもつ機能をアセスメントします。性加害を行うことで獲得できるものは何なのか、という視点です。例えばアタッチメントの視点から「仮の安心感」を得ることによる快感覚が強化子として働いていたのか、性加害による支配に本児にとって肯定的な意味があったのか、見捨てられ不安のような不安定な愛着スタイルが先行因子としてあり、不安の解消された感覚が強化子として働いた可能性はあるか、などです。もちろん、トラウマの行動化・フラッシュバックの結果としての性加害という側面も頭に入れつつアセスメントを進めていかなければいけません。

性加害への治療は具体的にどう進んでいくのが望ましいのでしょうか。
まずアセスメントとして↑の先行因子に当たるリスクをつぶしていき、その上で本児の性加害で得る機能を具体的に特定していき、同様の機能の得られる代替行動を検討していきます。
治療エビデンスを基に考えると、本児のモニタリング等により行動管理を適切にした上で、性加害やその周辺についての心理教育を行い、次いで衝動統制・認知の癖・意思決定等に重点を置いたCBTに進んでいく、という感じになるかと思われます。CBTの中で、同様の機能を得られる代替行動の学習を進めていく感じでも良いのですかね?

 性加害は「誤学習と寂しさ」の2側面で強引にアセスメントして心理教育で終わってしまうことが珍しくないように感じます。その2側面は性加害エビデンスのうちのごく一部でしかありませんので、加害者のケアや被害者を生まないこと等を目的として、きちんと関わっていきたいものです。