児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

親の自殺は子どもの自殺率に影響を与えるの?

「親が自殺していたら子どもも自殺しやすいの?」と聞かれました。
感覚的には確かにそんな気はしますし、自殺が身近に感じられたり、自殺の方法を学んでしまったりして、より自殺に至る可能性が上がってしまう、というのは一見無理のない感じがします。
また、自殺ではなく死別の場合は子どもに影響はあるのでしょうか。
先行研究もそんなに多いわけではありませんでしたが、気になったのでざっと調べてみました。


Geulayov, G., Gunnell, D., Holmen, T. L., & Metcalfe, C. (2012). The association of parental fatal and non-fatal suicidal behaviour with offspring suicidal behaviour and depression: a systematic review and meta-analysis. Psychological medicine, 42(8), 1567-1580.
関連する交絡因子を制御すると、両親が自殺で死亡した子どもは、両親が生きている子どもよりも自殺で死亡する可能性が高かった[aOR 1.94、95%信頼区間(CI)1.54-2.45]が、子どもの自殺未遂への影響を調べた2件の研究では不均一な結果が見られた(aOR 1.31, 95% CI 0.73-2.35)。
親が自殺未遂をした子どもは、自殺未遂のリスクが高かった(aOR 1.95、95%CI 1.48-2.57)。
親の自殺による死への曝露が、その後の情動障害のリスクと関連することを示す証拠は限られていた。


Lee, K. Y., Li, C. Y., Chang, K. C., Lu, T. H., & Chen, Y. Y. (2017). Age at exposure to parental suicide and the subsequent risk of suicide in young people. Crisis.
親を自殺で亡くした子どもでは、自殺のリスクが顕著に上昇することが示唆された。このリスクの上昇は、自殺曝露の性別および曝露時年齢によって異なっていた(高齢男児では低く(HR = 3.94, 95% CI = 2.57-6.06)、高齢女児では高かった(HR = 5.30, 95% CI = 3.05-9.22 )ようであった。)。


※参考 親の置き去り(親だけ移住)
Fellmeth, G., Rose-Clarke, K., Zhao, C., Busert, L. K., Zheng, Y., Massazza, A., ... & Devakumar, D. (2018). Health impacts of parental migration on left-behind children and adolescents: a systematic review and meta-analysis. The Lancet, 392(10164), 2567-2582.
低・中所得国(LMICs)において、親の移住が取り残された子どもや青年の健康に及ぼす影響について調査した。
調査結果
非移民の子どもと比較して、置き去りの子どもはうつ病のリスクが高く、うつ病スコア(RR 1-52 [95% CI 1-27-1-82]; SMD 0-16 [0-10-0-21] )、不安(RR 1-85 [1-36-2-53]; SMD 0-18[0-11-0-26]), 自殺念慮(RR 1-70[1-28-2-2]), 行動障害(SMD 0-16[0-04-0-28]), 物質使用(RR 1-24[1-00-1-52]), 衰弱(RR 1-13[1-02-1-24]), 発育不全(RR 1-12[1-00-1-26] )であった.
その他の栄養アウトカム,不慮の怪我,虐待,下痢については,取り残された子供と非移住者の子供との間に差は確認されなかった.その他の感染症自傷行為、無防備な性行為、早期妊娠に関するアウトカムを報告した研究はなかった。


という訳で結論としては
①死別→家庭養育の影響→影響表出(死因とは関係無し)
②自殺の影響は自殺率のみで、自殺曝露時の年齢と性別の影響を受ける(高齢女児がリスク高)
が言えそうでした。
親が自殺で亡くなってしまった子どもは、自殺リスクが高いと考えて何かの支援などに繋げる、あるいは見守り体制を確認しておく、などは必要なのかもしれません。

また、自殺未遂も子どもに影響があるんですね。これは目撃の有無も関係しているのでしょうか。
親が自殺や自殺未遂に至らないよう、それらの連鎖を止めるよう、リスクのある人には丁寧に関わっていきたいです。