児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

身体的虐待加害者のリスク因子

身体的虐待を働く加害者の特徴を知れたら、その対応策やケア方法も浮かんでくると思いませんか?
また、虐待リスクの高い方が相手だと分かっていたら、その後のケースワーク方略や支援構築検討の材料にもなりそうです。
以下、メタアナリシスであるMilner et al.(2022)を中心に整理していきたいと思います。

イントロ(翻訳)紹介 以下引用(Milner et al., 2022)
“子どもの身体的虐待(child physical abuse :以下CPA)は、被害者の精神的・身体的健康に悪影響を及ぼすだけでなく、経済的にも莫大な損失をもたらす。
米国で報告されている児童虐待(CM)の結果の年間推定コストは、800億ドル(Gelles & Perlman, 2012)から1030億ドル(Wang & Holton, 2007)である。生涯コストの推定は、1億2,400万ドル(Fang et al., 2012年)から4,280億ドル(Peterson et al., 2018年)である。推定費用に関しては、児童性的虐待に次いで、CPAが1件当たりで最も費用がかかるタイプのCMのようである(Miller et al., 1996;Wang & Holton、2007)。米国におけるCMに関連する費用見積もりは多様であり、批判がないわけではないが(Corso & Fertig, 2010)、最も保守的な見積もりを用いても、CMとCPAの経済的費用が相当なものであることは明らかである。”

CPAの生存者はまた、短期的・長期的に数多くの教育的・心理的・心理社会的問題を抱えるリスクがある。たとえば
言語や運動技能の発達の遅れ(Prasad et al., 2005)
学業成績の低下(Lansford et al., 2002)
注意欠陥多動性障害(Sugaya et al.、2012)
反抗性障害、行動障害(Flisher et al.,1997)
ディスチミア、大うつ病双極性障害(Dunn et al., 2013; Goodwin & Wamboldt, 2011)
不安障害(Flisher et al., 1997)
心的外傷後ストレス障害(Sugaya et al., 2012)など。

CPAは以下のような健康問題の危険因子でもある。
メタボリックシンドローム(Midei et al., 2013)
身体的不定愁訴(Silverman et al., 1996)
心臓病(Dong et al., 2004)
片頭痛、胃腸障害(Goodwin et al., 2003)
呼吸器障害(Goodwin & Wamboldt, 2011)
がん(Fuller-Thomson & Brennenstuhl, 2009)など。

身体的虐待を受けた子どもの、その後の予測できるリスクとしては
喫煙、過食、薬物乱用、危険な性行動など、高リスクで自傷的な行動 (Chartier et al., 2009; Duke et al., 2010)
自殺念慮や自殺未遂を起こしやすい(Dunn et al., 2013;Silverman et al., 1996)
仲間の攻撃性、デート暴力(Duke et al., 2010;Yexley et al., 2002)
重大な少年犯罪(Smith et al.,)
成人の親密なパートナーからの暴力(Bensley et al., 2003)
CPAを含む子育ての問題(Capaldi et al., 2019)など。


以下は本研究(Milner et al., 2022)の結果を紹介します。
「子どもの身体的虐待の危険因子: 系統的レビューとメタ分析」

結果:リスク因子
①中程度(r> 0.30 からr<0.50)の効果量
・個人(世話人)レベルのCPAリスクは、ES(effect size)の高い順に、
「育児ストレス」、「共感の欠如」、「自尊心の低さ」、「衝動制御の欠如」、「孤独」、「苦痛」、 「否定的な属性」、「うつ病」、「認知的制限」、「不安」、「子供の発達に関する知識の欠如」、および「敵意」
でした。
・関係 (対人) レベルのCPA リスクは、ESの高い順に、
「ネガティブな親子関係」、「家族の結束の欠如」、「ポジティブな子育て行動の少なさ」
でした。

②小さい (r < 0.30)効果量
・個人 (世話人) レベルの CPA リスクは、ESの高い順に、
「認知された子供の問題」、「精神病理学」、「問題解決」スキルの乏しさ、「子供時代のサポートの欠如」、「社会的孤立」、「加害者の出身家族における虐待の子供時代の歴史」、「個人的なストレス」、および強い「懲戒的態度と罰の信念」
でした。
・人間関係 (対人関係) レベルのCPA リスクは、ESの高い順に、
「家族の対立」と「コントロールの必要性」
でした。

まとめ
これほどにまでリスク因子が多岐にわたっている時点で、同一の対応方法を選択することは誤りだと言えます。リスク因子に沿った対処戦略をテーラーメイドしつつ実践していく以外ないかなと。
なので、予防方法も同様に、家族や地域のニーズに応じて柔軟に適用されるべきです。また、専門家や地域の支援組織と協力して、子供や家族に適切なサポートを提供することが重要です。

Milner, J. S., Crouch, J. L., McCarthy, R. J., Ammar, J., Dominguez-Martinez, R., Thomas, C. L., & Jensen, A. P. (2022). Child physical abuse risk factors: A systematic review and a meta-analysis. Aggression and violent behavior, 101778.