児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

施設入所した児童と実親との面会交流のポジティブ/ネガティブ効果

子どもが施設や里親に行った場合であっても、家族や子供には親と面会交流する権利があります。もちろん、場合によっては加害者と子どもの面会を拒むことは可能ですが、それはまた別の機会に話題にするとして、
虐待加害者が親だったとして、その親と面会をさせることの意義ってどこにあるんでしょうか。
完全な主観ですが、福祉司はケースワークを進める目的や保護者との関係構築のために面会交流に前向きである傾向があるように感じますし、一方で心理担当は子どもの不安などを理由に後ろ向きな場合もあるように感じます。
ここでは、養護施設や里親に委託中の児童が親と面会交流することで、どのような効果があるのかなどを確認していきたいと思います。

児童養護施設にいる間に子どもが実の親と接触すること自体は、子どもの継続的な身体的・精神的成長(Ainsworth, 1989; Hess, 1982)、子どものより良い全体的適応(Hess, 1988)、子どもの情緒的幸福(Hess, 1988; Oyserman & Benbenishty, 1992)にとって有益とされています。また母親と父親の両方との接触頻度が高いほど精神症状の低減と関連し、兄弟姉妹から引き離されることもまた、より多くの精神衛生上の問題と関連していたことがわかっています(McWey & Cui, 2021)。
親と会えるだけでもプラスの効果が期待できるということです。


また、面会交流は1度だけではありません。多くの場合は定期的な交流を目指していくことになると思います。
両親や親族との定期的な接触は、情緒的・行動的問題に対してプラスの効果があり(Simesk et al., 2007)、実の親と定期的に面会している子どもは、まったく面会していない子どもよりも問題行動が少ない(Cantos, Gris, & Slis, 1997)、という報告があります。さらに、実母との接触がない子どもは、外在化行動(問題行動)が最も多く、接触回数が少なかった子どもは外在化行動がわずかに少なく、接触が最も多い子どもは、外向的行動が最も少ない(McWey et al., 2010)、という結果も得られています。
①質の低い面会を経験した子どもたちは、面会する親からの温かみが少なく、批判や拒絶をより多く感じていたため、専門家は、面会交流の質を高めるために必要なスキルを身につけ、関係者全員(子ども、実親、里親)に十分な準備と支援を提供することが重要ということ、②接触面会(より頻繁な)は、生みの親との絆を強化し、家族の再統合を促進し、子どもの幸福に貢献する可能性が高い(Ruiz-Romero et al., 2022)、といった報告もあり、質の高い情緒的交流のある面会を実施することが望ましいことも分かっています。

回数に加えて定期性も含めてみます。
再統合が目標である家庭においては、実親との接触がより一貫して頻繁である子どもは、接触が少ない子どもよりも行動上の問題が少なく、精神科の薬を服用する可能性が低く、「発達の遅れ」と呼ばれる可能性が低かった。(McWey & Mullis, 2004)との報告があります。

このように、複数回の交流や、定期的な交流は、子どもの行動・発達上の問題リスクを低減する働きがあることが分かります。

しかし、面会交流が負の影響を及ぼすこともあります。
それは交流が「一貫しない」場合のようです。
実の親との接触パターンが(定期的で頻繁な面会とは対照的に)一貫していない方が、まったく接触しないよりも抑うつが大きくなる(McWey et al., 2010)。
親が一切の接触を拒否した場合、子どもは拒否されたことを受け入れ、前に進もうとする余地が与えられるため、一貫しない接触よりも接触しない方がよい(Moyer et al., 2006)。

以上、解釈も含めた先行研究を紹介しましたが、いったん整理します。
交流方法:一貫性を持たせて定期的に実施していくことが望ましいようでした。質の高い、情緒的交流のある面会であることも求められているようでした。現場感覚とも一致していると思います。
プラス面:情緒的・行動的問題の緩和、情緒的幸福、身体・精神的成長、服薬・発達的問題リスク低下、適応全般の向上
マイナス面:一貫しない交流は抑うつ憎悪
以上のようになります。

一貫した交流が子どもにとって望ましいからと言って、なんでもかんでも交流をしまくればええんや、というものではありません。
当然、加害者と被害児童との関係性が重要です。
たとえば「虐待を認めていない」「加害性が低減していない」など、交流時に加害リスクがあるケースや、子どもが親の加害に対する不安が高いケースなどは、交流自体が子どもの心理面に強い負担を強いることになります。
親からの見捨てられ不安より、交流時の再被害への不安の方が強い場合は、交流の中止を検討する必要があるんじゃないかと思います。
少なくとも、加害者が虐待についての内省を進めており、交流時の再発リスクは低いといえる状態において、一貫した面会交流を継続していくことが望ましいといえると思います。

引用文献
Ainsworth, M., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of attachment: A psychological study of the strange situation. Hillsdale, NJ: Erlbaum.
Cantos, A. L., Gries, L. T., & Slis, V. (1997). Behavioral correlates of parental visiting during family foster care. Child Welfare, 76, 309 – 329.
Hess, P.(1982). Parent-child attachment concept: Crucial for permanency plan-ning.Social Casework,63, 46–53.
Hess, P.(1988). Case and context: Determinants of planned visit frequency infoster family care. Child Welfare,67, 311–326.
McWey, L. M., & Mullis, A. K. (2004). Improving the lives of children in foster care: The impact of supervised visitation. Family Relations, 53(3), 293-300.
McWey, L. M., Acock, A., & Porter, B. E. (2010). The impact of continued contact with biological parents upon the mental health of children in foster care. Children and youth services review, 32(10), 1338-1345.
McWey, L. M., & Cui, M. (2021). More contact with biological parents predicts shorter length of time in out of home care and mental health of youth in the child welfare system. Children and youth services review, 128, 106164.
Ruiz-Romero, K. J., Salas, M. D., Fernández-Baena, F. J., & González-Pasarín, L. (2022). Is contact with birth parents beneficial to children in non-kinship foster care? A scoping review of the evidence. Children and Youth Services Review, 143, 106658.
Oyserman, D., & Benbenishty, R.(1992). Keeping in touch: Ecological factorsrelated to foster care visitation.Child and Adolescent Social Work Journal,9,541–554.
Simsek, Z., Erol, N., Öztop, D., & Münir, K. (2007). Prevalence and predictors of emotional and behavioral problems reported by teachers among institutionally reared children and adolescents in Turkish orphanages compared with community controls. Children and youth services review, 29(7), 883-899.