児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

ASDの心理学的特徴と神経学的特徴

1.社会的コミュニケーションと相互作用
 1-1.認知的共感と情動的共感
 1-2.表情認知
2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors
3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties
4.実行機能(Executive Function :EF)と心の理論(Theory of Mind :ToM)
5.ASDにおける攻撃性
 5-1.有病率および影響
 5-2.ASDにおける攻撃性の治療
6.神経学的特徴
 6-1.概要
 6-2.共感に関連の深いネットワーク
 6-3.ASDセロトニンドーパミンシステム
7.他障害との関連
 7-1.ADHD
 7-2.感情調節(Emotional Regulation: ER)障害

0.ASDの概要
自閉症スペクトラム障害ASD)は、社会的コミュニケーションや相互作用に障害があり、行動、興味、活動のパターンが制限的で反復的であることを特徴とする神経発達障害です。2010年以降の研究成果をもとに、ASDの心理・神経学的特徴をご紹介します。以下にASDをとりまく要素などを概説して、詳細は続きに記載していきます。
1.社会的コミュニケーションと相互作用の欠落:ASDの方は、社会的な合図を理解すること、社会的な関係を築くこと、維持すること、アイコンタクトや表情、ボディランゲージなどの非言語コミュニケーションを適切に用いることが困難な場合があります。これらの障害は、社会的状況、友達作り、恋愛関係の形成に困難をもたらす可能性があります。
2.制限的で反復的な行動:ASDの人は、体を揺らしたり、手で叩いたり、物を回したりするような反復的な行動をとることがあります。また、非常に特殊な興味や習慣を持ち、変化や移行を苦手とする場合もあります。
3.感覚処理の困難さ:ASDの方の多くは、音や感触、匂いなどの特定の感覚刺激に対して過敏になったり、過少になったりするなどの感覚処理上の困難を経験します。
4.実行機能と心の理論の欠陥:実行機能とは、計画、組織化、タスク遂行に関わる一連の認知プロセスを指します。ASDの方は、計画、整理、問題解決など、実行機能のタスクに苦労することがあります。また心の理論とは、他人が自分とは異なる考え、信念、感情を持っていることを理解する能力のことを指します。ASDの方は、心の理論に困難があるため、社会的なコミュニケーションや他者の視点を理解することに問題がある可能性があります。
5.攻撃性:ASDの攻撃性の高さについても研究が蓄積されています。
6.神経学的特徴:神経画像研究により、ASDの方は脳の構造と機能に違いがあることが示されています。感情の処理に関わる脳領域である扁桃体ASDの方では肥大している一方で、前頭前野などの他の領域が不活発である可能性があることを示唆する研究もある。これらの神経学的な違いは、ASDで観察される社会性やコミュニケーションの障害の一因となる可能性があります。
7.併存疾患:ASD患者の多くは、不安、うつ病ADHDてんかんなどの併存疾患を抱えています。これらの併存疾患は、診断や治療を複雑にする可能性があります。特にADHDとの辺損について、最近研究が進められています。

1.社会的コミュニケーションと相互作用
1-1.ASDの認知的共感と情動的共感について
認知的共感と感情的共感は、共感の重要な2つの要素です。
認知的共感とは、相手の表情や声のトーンなどの非言語的な手がかりから、相手の精神状態や感情状態を理解し予測する能力のことです。
感情的共感は、他者の感情を感情的に共有する,あるいは身体反応を伴って同期、共有する能力を含んでいます。
2010年以降の研究により、自閉症スペクトラム障害ASD)の方は、認知的共感と感情的共感の両方が困難である場合が多いことが明らかになっています。ある研究では、ASDの人は認知的共感能力に問題がないが、感情的共感能力に問題があることが示唆され、また別の研究では、両方の共感能力に障害があることが示されています。
これらの共感障害の説明として考えられるのは、行動や感情の知覚と模倣に関わるミラーニューロンシステム(MNS)の機能障害である。いくつかの研究では、ASDの人は感情表現を観察する際にMNSの活動が低下していることが分かっており、これが感情的な共感の困難さの一因になっている可能性があります。
また、表情や身振り手振りを含む社会的な手がかりを解釈する能力の欠如も、その一因と考えられます。ASDの人は感情表現を認識し解釈することが難しいことが研究で示されており、それが認知的共感と感情的共感の両方における障害の一因になっている可能性があります。

1-2.表情認知
ASD では,顔処理と同様,表情情報も非定型的に処理していると考えられている.例えば,定型発達では,ネガティブな感情については目に,ポジティブな感情については口に注目するのに対し,ASD ではそもそも顔・表情,その中でも目への注視時間が短い. 動的表情を複数の速度で呈示された際に,表情変化の自然さを評定すると,ASD では表情の変化速度が遅くなっても不自然さを感じにくいといった表情変化速度処理の非定型性,また,幸福表情の認識そのものには影響ないが,幸福表情の検出が遅い、(定型発達においては,感情表情の検出は中性表情と比較して素早いことが知られている)といった表情知覚に関する問題も指摘されている.
上側頭溝および扁桃体は,顔情報の動的な側面を処理する領域であり,表情を見ている際に,ASD では定発達と比較して活動が低下しているという報告が多数なされている.扁桃体は目への注視によってその活動が調整され,ASD では目への注視時間が短縮していることから,注意の向け方の問題が扁桃体の活動に大きく影響しているという指摘もある.しかし,注視点の呈示により目への注目を高めても表情を見ている際の扁桃体の活動は低下しているという報告が一定存在することから,ASDにおいては扁桃体の機能不全により表情認知が障害されていることが示唆される.
Facialmimicry には,他者の運動を観察した時に活動すると同時に自身が同じ運動を行う際に活動する神経システムであるミラーニューロンシステムが重要な役割を果たすと考えられており,顔の動きを知覚する上側頭溝,運動知覚に関わる情報を処する下頭頂小葉,模倣の神経基盤である下前頭といった領域がヒトでは関与する。ASD では情動認知の障害に加えて,情動的行動の表出の少なさも中核的症状の一つであり,実証研究では,他者とのやりとりの際に表情反応の減少や場面にそぐわない表情の表出があることが見出されてきた.近年facialmimicry の減少やタイミングの遅れの報告も相次いでおり,facial mimicry の障害,すなわちミラーニューロンシステムの不全が,ASD における情動認知の障害に影響を与えている可能性がある。

2.制限・反復的行動:Restricted and Repetitive Behaviors
自閉スペクトラム症ASD)に見られる制限・反復行動(restricted and repetitive behaviors:RRB)の原因は、複雑かつ多面的であり、未だ完全には解明されていません。しかし、2010年以降の研究により、ASD患者のRRB潜在的な基礎メカニズムが明らかにされました。
有力な説のひとつは、ASD患者のRRBは、認知・知覚処理の困難さに起因している可能性があるというものです。具体的には、ASDの人は、特定の感覚刺激や詳細に注目する傾向があり、同時に、異なる領域にわたる情報を統合して処理することが困難であると考えられています。このため、注意の焦点が狭く柔軟性に欠け、圧倒的な感覚環境に対処する方法として、ルーチンや儀式に過度に依存するようになる可能性があります。この説は、ASD患者の感覚処理、注意、実行機能を司る領域における脳活動の違いを示す神経画像研究によって支持されています。
もう一つの説は、RRBは脳内の興奮性神経活動と抑制性神経活動の間の不均衡から生じる可能性があるとするものです。この説によると、ASDの人は興奮系が過剰に働くため、特定の内容や興味に過度に集中し、注意を柔軟に転換したり、環境の変化に適応したりする能力が低下している可能性があるという。同時に、抑制性神経活動の欠損があり、反復行動や自己制御の困難さの一因となっている可能性があります。この説は、ASD患者における抑制的制御と認知的柔軟性の基盤となる神経メカニズムを検討した研究によって支持されています。
これらの認知的・神経的要因に加え、社会的・環境的要因もASD患者のRRBの発達・維持に寄与している可能性がある。例えば、RRBは不安やストレスを軽減する方法として機能したり、これらの行動を行うことで注意や他の報酬を不用意に与える介護者によって強化されることがある。さらに、ASDの特徴である社会的相互作用やコミュニケーション能力の欠如は、社会規範や慣習を理解することの難しさにつながり、その結果、社会世界をナビゲートする方法として、反復行動や儀式的行動に依存することにつながるかもしれません。
まとめると、ASD患者におけるRRBの根本的な原因は、認知的、神経的、社会的、環境的な要因が複雑に絡み合い、多面的であると考えられる。近年、これらのメカニズムに対する理解は著しく進んでいるが、ASD患者におけるRRBの発達と維持については、まだ多くのことが分かっていない。

3.感覚処理の困難:Sensory Processing Difficulties
まず、感覚処理とは、環境からの感覚情報を受け取り、解釈し、反応する脳の能力であることを理解することが重要です。これには、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のほか、体の位置や動きの感覚(固有感覚)、平衡感覚(前庭感覚)など、あらゆる感覚からの情報が含まれます。
研究により、ASDの方は、脳が感覚情報を処理する方法に違いがあることが分かっています。この違いは、脳が入力された感覚情報を処理し、フィルタリングする方法に関係しているという説があります。ある研究では、ASDの人は感覚系が「うるさい」または「過敏」である可能性があり、感覚情報が圧倒されたり、痛みを感じたりする可能性があると指摘しています。また、ASDの方は、複数の情報源からの感覚情報を統合することが難しく、混乱したり、環境を理解することが難しくなったりする可能性があることを示唆する研究もあります。
神経学的に、研究者はASD患者の脳の構造や機能に違いがあり、それが感覚処理の難しさにつながっている可能性があることを発見しました。例えば、ASDの方は、感情処理に関わる扁桃体や、運動制御や協調に関わる小脳など、特定の脳領域の大きさや結合性に違いがあることが、いくつかの研究でわかっています。これらの違いは、脳が感覚情報を処理する方法に影響を与える可能性があります。
ASDにおける感覚処理の難しさを説明するもう一つの可能性は、ASDの人が環境とどのように関わっているかに関連しています。研究者の中には、ASDの人は感覚環境を調整する方法として、反復行動や定型的な行動をとることがあると指摘する人もいます。例えば、回転や揺れは、感覚情報に圧倒されている人に癒しや心地よさを与えるかもしれません。
まとめると、ASDにおける感覚処理障害の根本的な原因は複雑であり、神経学的要因と環境要因の組み合わせが関係している可能性が高い。これらの困難を引き起こすメカニズムを完全に理解するため、さらなる研究が必要である。

4.実行機能(Executive Function :EF)と心の理論(Theory of Mind :ToM)
EFの障害は反復行動パターンには特異的であるが、制限行動パターンには特異的ではないことが示唆された(1Boyd et al., 2009)。制限行動や反復行動の症状とEFを関連付ける理論が導かれ、EFの構成要素がASDの行動クラスター内で区別できることが示唆された。
反応抑制の構成要素である事前反応抑制と干渉制御を調査した小児と青少年におけるメタアナリシスでは、年齢による違いが確認された(Geurts et al., 2014)。反応前抑制の障害は年齢が高くなるにつれて弱まるが、干渉制御の障害は生涯にわたって持続した。小児と青年におけるワーキングメモリの調査(Wang et al., 2017)では、言語性ワーキングメモリと空間性ワーキングメモリの両方に障害があることが明らかになった。年齢による差はなかったが、言語性ワーキングメモリと比較して空間性ワーキングメモリでより大きな効果サイズが観察され、ASDの青少年では空間領域でより大きな困難があることが示唆された。プランニングは適応行動における重要なEFと考えられており、メタアナリシスではASDのプランニングの障害が報告されている(van den Bergh et al., 2014)。プランニングの困難さは、年齢、知的機能、アセスメントタイプの影響とは無関係であった。上記のメタアナリシスでは、個別のEFの障害が確認されている。しかし、これらが共通のメカニズムによって支えられているのか、あるいはASDにおいて個別のEFが異なって障害されているのかは不明であった。
しかし最近行われた2つのメタアナリシス(Lai et al., 2017 ; Demetriou et al., 2018)では、ASDにおける複数のEF領域にわたるクールEFが調査され、この疑問が解決された。EFの広範な障害は、小児と青少年(Lai et al., 2017)とライフスパン(Demetriou et al., 2018)の両方で観察された。(Lai et al., 2017)のメタアナリシスでは、反応抑制とプランニングの障害は、柔軟性(セットスイッチングとセットシフト)、生成性/流暢性、ワーキングメモリーの障害に比べてあまり顕著ではなかった。(Demetriou et al., 2018)のメタアナリシスでは、上記のすべての領域で障害が確認された。両研究とも、根底にある共通の経路がASDのEFプロセスに影響を与えている可能性を示唆している。
ToMとの関連について、EFがASDのToMパフォーマンスに影響を与え(Kouklari et al., 2018 ; Pellicano, 2007)、社会的コミュニケーション・クラスタに影響を与える可能性を示している。ToMモデルは、心的状態を自己と他者に帰属させる能力の障害が、社会的コミュニケーション・クラスタで観察される障害を含むさまざまな障害の一因であると提唱されている (Mazza et al., 2017)。最近の研究では、ToMが障害を予測する可能性も指摘されている(Pepper et al., 2018)。EFとToMの間の推定される関連性を支持する知見として、ワーキングメモリの減少が社会的コミュニケーション能力を緩和するというものがある(McEvoy et al., 1993)。
他者の痛みへの共感についての研究がある。静的刺激および動的刺激として、痛みを伴う全身動作の写真とビデオを用いた。両群とも、刺激中のモデルが痛みを感じているかどうかを判断するよう指示し、その反応時間、正確さ、事象関連電位(ERP)データを記録した。その結果、痛みを伴う静的刺激を見た場合、高ASD群では低ASD群よりも反応が大きかったが、痛みを伴う動的刺激を見た場合、両群間に差は認められなかった。つまり、自閉症特性が静的刺激に対する他者の痛みの情動処理に影響を及ぼしていることを示唆していた(Li et al., 2022)。

5.ASDにおける攻撃性
5-1.有病率および影響
攻撃的な行動はASDの人に比較的多く見られ、有病率は50%から70%と推定されています。攻撃性の結果は、他者への傷害や自傷行為、社会的状況からの排除、教育や職業機会へのアクセス制限など、深刻なものになることがあります。さらに、ASD患者の攻撃性は、その行動の重大性と持続性、そして根本的な原因の理解が限られているため、特に管理が困難な場合があります。
ASDにおける攻撃性の原因には、生物学的要因、環境要因、社会的要因など、多くの可能性があります。以下では、2010年以降の研究で明らかになった、ASDにおける攻撃性の原因として最も著名なものをいくつか紹介します。
感覚の過負荷 :ASDの患者さんには感覚処理の障害がよく見られ、感覚過敏や過敏になることがあります。感覚刺激に圧倒されると、ASDの人は覚醒レベルを自己調整する方法として、攻撃的になることがあります。
コミュニケーションの困難さ:コミュニケーション障害はASDの中核的な特徴であり、自分のニーズを表現できなかったり、他人を理解できなかったりすると、フラストレーションや攻撃性につながる可能性があります。
社会的孤立:社会的孤立もASDの方によく見られる症状で、不安やストレスのレベルの上昇につながることがあります。攻撃性は、この不安やストレスを表現する方法のひとつかもしれません。
遂行機能障害:計画、問題解決、衝動制御の問題など、実行機能の障害はASDの方に多く見られます。これらの障害は、攻撃的な行動の発生や持続の一因となる可能性があります。
精神衛生状態の併発:ASDの方の多くは、不安、うつ、ADHDなどの精神的な健康状態も併発しています。これらの疾患は、攻撃的な行動の発生を助長する可能性があります。
自閉症スペクトラム障害ASD)の児童・青年1,380人を対象に、攻撃性の有病率と危険因子を検討した。有病率は高く、68%が養育者に対して、49%が非養育者に対して攻撃性を示したことがあると親が報告していた。全体として、攻撃性は、臨床医が観察したASD症状の重症度、知的機能、性別、配偶者の有無、親の教育レベル、コミュニケーションの側面とは関連していなかった。年齢が低い人、高収入の家庭の出身者、親が報告した社会的/コミュニケーション上の問題が多い人、反復行動をとる人は、攻撃性を示す可能性が高かった(Kanne & Mazurek, 2011)。
反応的攻撃性は、定型発達児では感情的共感と負の相関を示したが、ASD児では正の相関を示した。この結果は、感情調節の乏しさと他者の感情理解の障害の組み合わせが、ASD児の攻撃的行動と関連していることが示唆された(Pouw et al., 2013)。
ToMは一般的な攻撃性を低下させる一方で、攻撃性は発達段階においてToM能力の低下をも生じさせる可能性があることが示唆され、いじめ以外の攻撃性とToMの間には負の相関がああるが、いじめとToMの間には相関がなかった(Wang et al., 20223)。

5-2.ASDにおける攻撃性の治療
ASDの攻撃性を軽減するのに有効であることが示されているいくつかの介入がある。以下のようなものがあります。
感覚統合療法:感覚統合療法は、ASD患者の覚醒レベルを調整し、攻撃性を軽減するために、感覚的な体験を利用するものです。
ソーシャルスキルレーニング:ソーシャルスキルレーニングは、ASDの方のコミュニケーション能力の向上、社会的孤立の解消、欲求不満や不安を解消するための対処法の開発に役立ちます。
薬物療法抗精神病薬気分安定薬などの薬物療法は、一部のASD患者の攻撃性を軽減するのに有効な場合があります。しかし、薬物療法には副作用があり、すべての人に有効であるとは限らないため、注意して使用する必要があります。
行動的介入:応用行動分析(ABA)のような行動的介入は、ASD患者の攻撃的な行動を減らすのに効果的である可能性が言われていた。これらの介入は、行動の先行要因と結果を特定し、攻撃性の可能性を減らすために、それらの要因を修正する計画を立てることに重点を置いています。しかし現在のメタアナリシスでは、有効とは言えない結果が得られている(以下,Im, 2021)。
有効:ASD成人の攻撃性治療に対するリスペリドン、プロプラノロール、フルボキサミン、活発な有酸素運動、デキストロメトルファン/キニジン
有効とは言えない:行動的介入、多重感覚環境(Multi Sensory Environments :MSEs)、抑肝散、その他の治療法

6.神経学的特徴
6-1.概要
ASDの方は、神経質な方と比較して、脳の構造や機能に違いがあることが研究により明らかにされています。これらの違いは、神経接続、神経可塑性、神経処理に影響を与え、ASDの中核的な症状の一因となると考えられています。
最も一貫した知見のひとつは、ASDの人は脳の体積が大きく、前頭前野扁桃体など特定の脳領域で灰白質が増加する傾向があることです。しかし、これらの増加はすべての脳領域で一様ではなく、ASDを持つ個人の特定のサブグループに特有のものである可能性があります。
また、ASDの方は、特に上側頭溝(STS)や楔状回などの社会的認知に関わる脳領域において、神経接続や処理が変化している可能性があることが研究で示されています。STSは、視線方向や表情などの社会的情報の処理に関与していると考えられており、ASDの人は社会的課題中にSTSの活性化が低下していることが研究で示されている。同様に、顔認識に関与する楔状回についても、ASDの人では顔処理タスク中の活性が低下していることが示されています。
もう一つの重要な発見は、ASDの人は神経同期のパターン、つまり脳の異なる領域がどのように連携して働くかが変化している可能性があるということです。研究によると、ASDの人は、社会的処理に関わる脳領域間の同期が低下している可能性があるが、知覚処理に関わる領域では同期が増加していることが示されている。このことは、ASDの方が一般的に経験する感覚的な処理の難しさの一因になっている可能性があります。
最後に、セロトニン系やドーパミン系を含む、ASD患者の神経伝達系における異常も研究により確認されています。これらの神経伝達系は、気分調節、報酬処理、社会的認知など様々な機能に関与しており、これらのシステムの異常は、ASDに見られる社会的・行動的な困難の一因となっている可能性があります。

6-2.共感に関連の深いネットワーク(梅田,2018)
1)エモーショナルネットワーク(emotional network),扁桃体側坐核視床前頭葉眼窩部など,ヤコブレフの情動回路を中心としたネットワークであり,感情反応を実現するネットワークである。これらの部位に機能低下があると,質的にはさまざまなバリエーションはあるものの,感情そのものの反応に障害が生じるため,必然的に,共感反応にも機能障害が起こる。
2)セイリエンスネットワーク(salience network),帯状回前部および島皮質前部からなるネットワークである。ホメオスタシス状態から逸脱した際に敏感に反応し,その回復を促す役割を担う。帯状回前部については,心的ストレスがかかるような課題に従事させると活動する傾向が認められている。さらに,この部位の活動は,自律神経における交感神経活動と深い関連があることも報告されている。島皮質は内臓を含む身体内部の状態をモニターし,異変が生じた時に,それを意識化させる機能を持つものと想定されている。本人が物理的な痛みを感じていない状態でも,親密な関係ある他者が痛みを感じている場面を見ると,島皮質が活動することが明らかにされ,いわゆる心理的な痛みに対しても島皮質が関与する。
3)メンタライジングネットワーク(mentalizing network),メンタライジング,すなわち「心の理論」にかかわるネットワークであり,前頭前野内側部・帯状回前部近傍,側頭頭頂接合部,上側頭溝後部などから成り立っている。
4)ミラーニューロンネットワーク(mirror neuronnetwork),観察をもとに,それを真似ることによる学習を実現するネットワークである。局在的には,頭頂葉下部や運動前野腹側・前頭葉下部などの部位から成り立つ。
内側前頭前野と他者友好性判断(メンタライジングネットワーク)と、右島皮質と他者感情類推能力について、山本(2018)による報告がある。ASD 当事者が行うと,定型発達者に比べて非言語情報を重視して友好性を判断する機会が有意に少なく,その際に内側前頭前野などの賦活が有意に減弱していた。そして内側前頭前野の賦活が減弱しているほど臨床的に評点したコミュニケーション障害の重症度が重いという相関を認めた。そこでさらに,40 名の成人男性のASD 当事者を対象に,上述した社会的コミュニケーションの障害を反映する心理課題成績や脳画像指標が,オキシトシン単回投与によって改善するかどうかを二重盲検で無作為化した偽薬-実薬のクロスオーバーデザインの臨床試験で検討した。その結果オキシトシン投与によって,定型発達群で観察されていた表情や声色を活用して相手の友好性を判断する行動がASD 群においても増え,元々減弱していた領域で内側前頭前野の活動が回復し,それら行動上の改善度と脳活動上の改善度が関与しあっていた。また, ASD 当事者で低下していた他者の感情の類推能力とその背景をなしていた右島皮質の活動低下についても検討し,これらについてもオキシトシン投与によって有意に改善することを示した。

6-3.ASDセロトニンドーパミンシステム
ASD の病態として,セロトニンドーパミンシステムの初期障害が指摘されている。自閉症スペクトラム障害ASD)の方は、セロトニンドーパミン系に異常があり、行動や認知機能に影響を及ぼす可能性がある。
セロトニンは気分調節、社会的行動、認知に関与する神経伝達物質であり、ドーパミンは報酬処理、動機づけ、運動に関与する神経伝達物質である。これら2つの神経伝達物質の相互作用は、社会的行動やコミュニケーションなど、さまざまな機能にとって重要。
ASDは脳内のセロトニン濃度が低く、それがASDの行動症状の一因となっている可能性がある。
さらに、ASDは脳内のドーパミン受容体の密度や分布に違いがあることが示され、これがASDで観察される認知や運動の障害の一部や、反復行動と関連している可能性がある。
さらに、セロトニン系とドーパミン系の相互作用がASDに関与している可能性も提唱されています。例えば、この2つのシステムの相互作用の異常が、ASD患者に見られる社会性やコミュニケーション障害に関係している可能性を示唆する研究もある。

7.他障害との関連
7-1.ADHD
ASDADHD群は、柔軟性と計画性の両方においてASD群と障害を共有しているように見えるが、反応抑制の欠損はADHD群と共有している。逆に、注意力、ワーキングメモリ、準備過程、流暢さ、概念形成の欠損は、ASDADHDASDADHD群の識別において特徴的なものではなく、実行機能障害の共通した併発は、別個の障害を持つ別の病態というよりは、むしろ相加的な併存症を反映していることが示唆されている(Craig et al., 2016)。

7-2.感情調節(Emotional Regulation: ER)障害
 ER障害の有病率は、一般群と比較してASD群で有意に高く、精神科入院ASD群で最も高かった。同様に、精神科の入院歴、最近の救急サービスの利用(過去2ヵ月間の感情や行動に関する懸念による警察との接触、救急外来受診、在宅での危機評価)、向精神薬の処方は、ASD群で有意に高かった。つまり、一般集団と比較してASDにおけるER障害の割合が大幅に高い(Conner et al., 2021)。

※引用が明記されていない個所はChatGPTを使用して作成してみました。間違いがあればご指摘ください!!

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