児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

内的作業モデル―虐待により傷付いた対人表象のモデル

内的作業モデル(IWM)とは、こういう虐待対応の世界ではよく活用する概念です。ボウルビィが提唱した、乳幼児期の親子関係の中で形成される対人表象についてのモデル。

要は、私は〇〇したら~~してもらえる、××な時は~~ってなる、の積み重ねで、単純には対人関係の応答についての基本的なモデルみたいなイメージでいいと思います。

 

IWMの関係不安が高いほど,喜び・悲しみ・怒りの各表情における誤検出量が多くなるとか、IWMの機能に関する研究は多くはないけどちょくちょく見かけます。

しかし、被虐待児のアセスメントの現場ではやはり、①愛着対象からどのようなかかわり方を受け、②愛着行動に対してどのような応答をされていて、③その結果どのような対人表象つまりIWMが形成されていった可能性があるか、この3点を整理し、現在の行動傾向にどう寄与しているかを把握する必要があります。

 

愛着行動ってよく誤解されがちですが、基本的には不安や不快感の低減を目的としてとる行動のことです。

例えば、母親にだっこされると不安感が低減する、と学習するから、寂しいとか怖いとかの不快感があると母親を求めるというものです。この場合、母親への接近が愛着行動に該当します。

他に、腹が減って泣くのも空腹という不快感を、泣きにより母親が察知して母乳や離乳食を与えてくれ、空腹感という不快感が低減すると学習するから泣くのです。この場合、泣いて母親を呼ぶことが愛着行動に該当します。※ここでは、不快感の行動化としての泣きとは区別して考えています。

 

愛着行動でポピュラーなものに前述の「泣き」があります。

空腹時、恐怖時に子どもが「泣き」を発したとして、次の2点が簡単には考えられます。

1:母親がすぐ接近して前述の不快感を低減してくれる。

2:母親は無反応、もしくは「うるさい」と怒鳴りつける。

1の場合は特に問題なく、健全な愛着関係が育まれることが期待でき、IWMも「不快感を表明したらそれを母親が低減してくれる、精神状態を守ってくれる」と肯定的に構築されます。

一方で2の場合はどうでしょうか。不快感は表明しても低減されないことを学習し続けると、嫌なことや悩みを他者に言えない子どもに成長してしまうかもしれません。または、不快感をより大きな不快感(怒鳴られる恐怖)などで押さえつけられると、不快感をただひたすら恐怖を伴いながらため込み続けるようになり、限界を超えたときに大爆発させるようになるかもしれませんし、その大爆発で不快感が低減されたと誤学習してしまったら、不快感を感じた時に行動化による発散が定着する、いわゆる不適応行動が定着するようになってしまうかもしれません。

不適応行動のアセスメントを行う際に、安易な対応で済まさず、こういった成育歴の整理によるIWMをベースにしたアセスメントを詰めていくことは極めて重要になります。

 

かなり単純化して話しましたが、心理学概論での基礎知識も、こうやって現場で活きることはたくさんあるので、概論・基礎心理系の勉強って大事だなと思います。