児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

児童虐待の子どもへの影響(簡易ver)

虐待の影響について、ほぼ箇条書きでまとめてみました(脳への影響についての詳細を除く)。
最初に概要をお伝えすると、
認知・心理状態:表情認知、共感性、報酬処理、短期記憶、言語能力、負の刺激への過敏性、行動統制力(衝動性)、自分で感情の動揺を抑えられないという思考
脳機能の低下:海馬(記憶)、扁桃体(感情)、前頭前野(実行機能系)、前帯状回(社会性)
の2本柱があって、そこに感情調節障害が媒介し、不適応行動やトラウマ症状、精神疾患に繋がっていくというイメージです。

1.虐待全般の影響
全般児童虐待への暴露は,ストレスホルモンが発達中の脳の構造にダメージを与え,行動問題,学習,心理社会的,身体的,精神的健康問題に生涯にわたる障害をもたらすことに加え(Bruce,Gunnar,Pears,& Fisher,2013;Larkin et al.,2014),感情調節障害や行動上の問題を引き起こし,生涯にわたって良好な人間関係を形成し維持する能力に影響を及ぼす(Dube et al., 2002)。
再被害リスク:幼少期に身体的または性的虐待を経験したり,IPV(=DV)を目撃したりすると,IPVの被害や加害のリスクが約2倍高まる(Dube, Anda, Felitti, Edwards, & Williamson, 2002; Whitfield, Anda, Dube, & Felitti, 2003)。
子どもの頃に経験した暴力体験の数と,成人後のIPVリスクには,用量効果があることを発見した。具体的には,幼少期に3つの暴力を経験した人の場合,IPVの被害者になるリスクは女性で3.5倍,加害者になるリスクは男性で3.8倍に増加する(Whitfield et al.,2003)。
表情認知児童虐待は,怒った顔や悲しい顔に対する反応時間の短縮に関連したが,正確さは正常であった。恐怖顔や幸せ顔では,最近児童虐待に暴露された人だけが,精度の低下と関連していた。この効果は,3歳以前に児童虐待に暴露された人でより顕著であった(Saarinen et al., 2021)。被虐待児はネガティブな顔や社会的イメージを見たときに,対照群と比較して扁桃体の活動が高まる(McCrory et al., 2011; McLaughlin et al., 2015)。一方,認知的再評価を用いて否定的刺激に対する感情を調節しようとする能動時には,前頭前野活動が増強された(McLaughlin et al., 2015)。
共感性心理的虐待(IPV目撃除)(β = -0.150)とネグレクト(β = -0.137)は,8歳時点での共感性の低下を予測したが,身体的虐待(β = 0.132) とIPVへの曝露(β = 0.164)は,8歳時点での共感性の向上を予測した。さらに,子どもの母親像に対する否定的な表象は,身体的虐待と共感性の正の関連を緩和し(β = -0.177),否定的な表象が増えるほど関連は弱くなることが示された(Berzenski & Yates,2022)。
報酬処理:虐待とRP(報酬処理)の障害の関連について,メタ分析により小さいながらも関連(r = 0.12)が認められている(Oltean et al., 2022).※報酬処理:特定の刺激・状態からどのように報酬(肯定的な結果)を予測し,行動選択を行うかという処理過程。
短期記憶:被虐待経験を持つ女性(18-22歳)は対照群と比較して明らかに短期記憶能力が低下していた(Teicher et al.,2006)。
ネガティブな刺激への反応:虐待を受けた青少年は,虐待を受けなかった青少年と比較して,ネガティブ刺激(画像)暴露時の左扁桃体とセイリエンス処理領域の活性化が大きく(=意識していない刺激までキャッチしてしまう),認知制御に関わる複数の前頭葉系領域(両側上前頭回,中前頭回,背側前帯状皮質)の活性化が低下していた(Jenness et al., 2021)。
感情調節(ER)の困難:感情調節(ER)の困難は,児童虐待と精神病理をつなぐメカニズムであると考えられている(Heleniak et al., 2016 ; Weissman et al., 2019)。身体的・性的虐待や慢性的なIPVの目撃などにさらされた子どもは,感情表現に対して養育者から厳しい懲罰的反応を受けることが多く(Eisenberg, Fabes, & Murphy, 1996),反芻のような不適応なER戦略の使用をより多く示すため(Heleniak et al., 2016),子どもが感情反応を効果的に調節すること(適応的なER)がより困難になると考えられる。
問題行動:身体的,性的,言葉による虐待を受けたり,一貫性のないネグレクトな養育を経験したりする家庭では,有害なストレスが感情,社会,認知,行動の発達と機能を阻害する。特に衝動性や注意欠陥という形で,自己や感情の調節が困難になると,攻撃性や暴力といった長期的な行動上の結果につながることがある(Dube et al.,2002)。
被虐待児の多くは,感情が意識されないことが多いため,ストレッサーや生理的覚醒によって闘争反応や逃走反応につながる。例えば,人間関係でストレッサーが得られた場合,トラウマのある人は,文脈や感情を評価する能力がないまま,刺激から反応に移ることが多く,最終的に過剰反応,暴力,脅迫につながる(van der Kolk, 1994, van der Kolk, 2014)。

2.IPV目撃(=心理的虐待)の影響
・精神発達病理学的説明
低社会経済状態,低所得で治安の悪い地域,地域暴力への曝露,養育者の精神的ヘルスの低下,過酷な子育て,子どもの虐待を含む追加の重大なリスク要因がある中でIPVへの曝露が起こると,追加のリスク要因に曝露されていないIPV被害児と比較して,子どもはより悪い短期および長期適応を示す(Aifi et al., 2011; Afifi et al., 2014; Campbell, Walker, & Egede, 2016; Coêlho, Andrade, Borges, Viana, & Wang, 2016; Fuller-Thomson, Roane, & Brennenstuhl, 2016; Gilbert et al, 2015; Hagan, Sulik, & Lieberman, 2016; Hanson et al., 2006a, Hanson et al., 2006b; Hodges et al., 2013; Kennedy, Bybee, Sullivan, & Greeson, 2010; McLaughlin, Conron, Koenen, & Gilman, 2010).
トラウマ反応がもっとも重篤なのが,「IPV目撃と暴言による虐待」の組み合わせだった。つまり,身体的虐待やネグレクトを受けた人よりも,親のIPVを目撃し,かつ自分も言葉でののしられた人の方が,トラウマ症状が重篤であった(Teicher et al., 2006)。
各パターンのIPV(すなわち、両親間の暴力を目撃し、親の暴力を経験すること)暴露は、より高いレベルの心的外傷後ストレス症状(PTSS)を予測する(Muhammad et al ,2019)。
IPV暴露は、10歳時点での受容語彙力(d=0.26)、一般言語力(d=0.23)、語用論的言語力(d=0.41)の能力低下を示すスコアと関連(Laura et al.,2021)。

・社会的学習理論
IPV曝露の若者は,行為問題,攻撃的・反抗的行動などの児童期の外在化問題,および思春期や成人期の法律違反,逸脱,攻撃的行動を示すリスクが著しく高まる(Espelage, Low, Rao, Hong, & Little, 2014; Fagan & Wright, 2011; Foshee et al, 2015; Graham-Bermann & Perkins, 2010; Huang, Vikse, Lu, & Yi, 2015; Knous-Westfall, Ehrensaft, Watson MacDonell, & Cohen, 2012; Latzman, Vivolo-Kantor, Niolon, & Ghazarian, 2015; Lee et al, 2016; Lucas, Jernbro, Tindberg, & Janson, 2016; Ma et al., 2016; Narayan et al., 2014; Palmetto, Davidson, Breitbart, & Rickert, 2013; Temple et al., 2013; Tyler & Schmitz, 2015; Vogel & Keith, 2015; Zarling et al., 2013) 。
しかし身体的攻撃性は2歳から3歳の間にピークに達した後はほとんどの個人で着実に減少しており(Ogilvie, Newman, Todd, & Peck, 2014),攻撃的な行動に事前に触れることなく暴力の使用に関する好ましい態度や価値観を身につけるといった報告から(Weerman,2011),IPVにさらされた子どもにおいて暴力を発症する/発症しないを区別する変数の存在が示唆されている(Dardis, Dixon, Edwards, & Turchik, 2015).

・愛着理論
IPVにさらされた子どもは,基本的な愛着欲求が満たされにくく,ネガティブなIWM(内的作業モデル)や関係パターンを身につけやすく,愛着者を潜在的な危険源として対処しなければならない(Godbout,Dutton,Lussier,& Sabourin,2009)。
IPVにさらされた子どもは,養育者に対して不安定な愛着や無秩序な愛着を形成し,成人後もこうした愛着スタイルを維持する可能性が高い(Berdot-Talmier et al.2016; Muller, Sicoli, & Lemieux, 2000; Waters, Merrick, Treboux, Crowell, & Albersheim, 2000; Weinfield, Sroufe, & Egeland, 2000)。
母子関係の質がIPV曝露後の子どもの規範的機能の最も重要な予測因子の一つであり,これらの子どものレジリエンスと精神病理のプロファイルを識別する因子の一つである(Graham-Bermann et al., 2009; Miller-Graff, Cater, Howell, & Graham-Bermann, 2016; Skopp, McDonald, Jouriles, & Rosenfield, 2007)。
母親の暖かさ,敵意のなさ,精神的健康が,IPVへの曝露と子どもの適応困難を媒介・調整する(D'Andrea & Graham-Bermann, 2016; Miller-Graff, Cater, et al., 2016; Skopp et al., 2007)

神経科学的影響
「言葉による IPV」 を目撃してきた人の方が,身体的 IPV を目撃した人より,脳へのダメージが大きかった。具体的には,身体的 IPV 目撃は舌状回(視覚野の一部で夢や単語の認知に関係)の容積3.2%の減少に対し、言葉によるIPV では19.8%の減少(Tomoda et al., 2012)。

◆IPV目撃により子どもも暴力的になる?各世代間伝達モデルについての概要
・精神発達病理学的モデルに基づくIPVの世代間伝達モデル
社会経済的地位の低さ,失業,教育水準の低さ,心身の健康状態の悪さ,不安定な愛着スタイル,非効果的/否定的な育児実践,暴力行使に対する肯定的態度,司法制度への関与歴などの個人レベルおよび家族レベルの多くのリスク要因が,IPV発生リスクおよび家族内の暴力の世代間伝達を著しく高める(Ehrrensaft et al.,2003; Garrido & Taussig, 2013; Jouriles, Mueller, Rosenfield, McDonald, & Dodson, 2012; Mbilinyi et al., 2012; Minter, Longmore, Giordano, & Manning, 2015; Narayan, Englund, Carlson, & Egeland, 2014; Smith, Ireland, Park, Elwyn, & Thornberry, 2011).

・社会的学習理論に基づくIPVの世代間伝達モデル
IPVの世代間伝達に関する社会的学習モデルの経験的価値を探る文献は,部分的な支持しか得ていない(Akers, 1998; Bevan & Higgins, 2002; Boeringer, Shehan, & Akers, 1991; Cochran et al, 2011; Cochran, Jones, Jones, & Sellers, 2016; Eriksson & Mazerolle, 2015; Fritz, Slep, & O'Leary, 2012; Jennings, Park, Tomsich, Gover, & Akers, 2011; Sellers et al., 2005; Zavala, 2016)。さらに,メタ分析では,幼少期のIPVへの曝露と,思春期から成人期にかけての暴力的な恋愛関係への関与との間に,弱から中程度の関連性が存在することが示唆されており(Pratt et al.,2010)、社会的学習理論のみでの説明では不十分である裏付けとなっている。

・愛着理論に基づくIPVの世代間伝達モデル
幼少期にIPVにさらされることは,不安定な愛着だけでなく無秩序な愛着の発達の重大な危険因子であり,それが男女ともに思春期から成人期にIPVの加害や被害を受ける重大な危険因子である(Allison,Bartholomew,Mayseless,& Dutton, 2007; Cameranesi, 2016; Doumas, Pearson, Elgin, & McKinley, 2008; Godbout, Lussier, & Sabourin, 2009; Godbout et al. , 2016; Sutton, Simons, Wickrama, & Futris, 2014)。
IPVは女性に対する攻撃であると同時に,介護システム全体に対する攻撃として概念化されており,世代を超えて受け継がれる傷ついたIWMは,女性(個人として,母親として)と子どもの社会的・感情的機能に悪影響を与える。このモデルによると,IPVを経験した母親は,恐怖と圧倒され,乳児の苦痛に対して,乳児が自分と同じように無力で脆弱であると認識する投影的同一化,または乳児が加害者のように攻撃的で敵対的であると認識する投影で反応することが多いという。これらの心理的歪みは,一貫性のない,敵対的な,あるいは無神経な育児行動につながり,子どもの不安定な愛着や無秩序な愛着の発達を引き起こすため,暴力の連鎖が続く可能性がある。


簡単にですが、虐待全般の影響に加えて、心理的虐待と密接なIPV(≒DV)の影響について紹介してきました。
子どもの行動や特性について、子ども自身の問題や特性だと誤って説明するのは避けるべきだし
同様に必要以上に虐待の影響だと言うのも誤りです。
どこまでが虐待の影響で、どこからが子ども本来の特性か、きちんと鑑別した上で治療計画等に臨んでいけるといいなと思います。


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