児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

脱抑制型対人関係(交流)障害(DSM4でいう脱抑制反応性愛着障害)という児童虐待の影響

児童虐待と関りの深い、脱抑制対人関係障害(=脱抑制型対人交流障害)  
2022.6.3更新

 

0.事例
母によるネグレクトで一時保護中の4歳女児。
母子家庭。夜間放置が常態化しており、母は彼氏との外出を昼夜問わず繰り返し、夜の飲食店就業も継続しており、明け方に帰宅して昼に起きるような生活が本児出生前から続いていた。保育園等は通っておらず、本児は1人で過ごす時間を多く強いられる形となっていた。
本児が空腹やその他不快感等で泣いた時、身体・心理的虐待は行わないものの、無視をする・外出する等により本児の泣きに対応することはなかった。徐々に泣かなくなった本児を、周囲には「ワガママ言わないイイコ」と話していた。
本児は知的には普通域で、社会生活能力面では身体能力面が正常発達している点と比較して、身辺処理や社会対人面の得点が低く出ている。言語発達は年齢相応で、一般的な会話のやり取りは可能。職員の指示は適切に聞くことが出来、抵抗なく笑顔で接触を求めてくるなど、育てやすい児童という印象を持つ職員もいた。
本児の特徴として、誰彼構わず身体接触を求める一方で、分離時の抵抗などは一切示さないというものが挙げられている。他児とのトラブル時にも不快感等の表明が無く、自らSOSを出せない児童として見守るようになっていった。


1.脱抑制対人関係障害(=脱抑制型対人交流障害:DSED)とは何か

脱抑制対人関係障害(=脱抑制型対人交流障害)、英語表記はdisinhibited social engagement disorder(DSED)です。虐待の中で、ネグレクトを受けた児童にみられることの多い診断/状態像であります。
ちなみに、disinhibited social engagement behavior(DSEB)というものもあります。DSEDに特異的な行動を示すものになります。ちなみにDSEBは、いわゆる“不安定な愛着行動”とは異なるものであると結論づけられています(Zeanah & Gleason,2015)。
この障害、一時保護所なんかでは“誰にでも愛想がいい”という特徴のために「愛着に問題あるね~」なんて言われがちだったりします。
まだまだ全世界で研究対象とされることの少ないこの障害はどんなものなのでしょうか。

DSM-5の診断基準を抜粋すると以下のようになります。

・診断基準A :①見慣れない大人に対してもためらわず交流する②過度に馴れ馴れしい言葉遣い、身体的行動をする(年齢から逸脱するレベルでの)③不慣れな状況において、養育者が見えなくても平気④見慣れない大人についていこうとする
・診断基準B :①安心したり、愛情を持って養育者と関わることがなかった(社会的ネグレクト、または剥奪)②養育者が頻繁に変わる環境だった(例えば、里親による養育の頻繁な交代)③特定の人間と愛着を築きにくい環境にいた(例えば、子どもの数に対して職員の数が足りていない施設等) 
・上記の条件に加えて、少なくとも子どもは9ヶ月以上の年齢で、また注意欠如・多動症の衝動性(AD/HD)によるものではない

DSM-5で概念化されるまでは、反応性愛着障害の2タイプのうちの1つ、脱抑制型反応性愛着障害と言われていました。
しかし、この反応性愛着障害とは質的に異なるとして、別の診断名としてカテゴライズされたものになります。現在、先の2つの反応性愛着障害は、反応性アタッチメント障害(RAD)とDSEDとなっています。
施設入所歴のある脱抑制的症状を持つ子どもたちが、養子縁組や里親になった後も脱抑制的な行動(DSEB)を見せ続けていたことが研究で明らかになっていますが、そのような行動は、子どもたちが現在の養育者と選択的でより安全な、あるいは組織的な愛着関係を築いた後でも発生したことが報告されています(Chisholm,1998;Humphreys et al.,2017;Rutter et al.,2007)。
ということもあり、DSM-5の発表以降、抑制型は反応性愛着障害(RAD)のラベルを維持しつつ、脱抑制型は脱抑制型社会対人関係障害(DSED)のラベルに変更され、愛着の枠組みからの移行がみられています(Lyons-Ruth,2015)。
Stine Lehmann他, 2015, Reactive Attachment Disorder and Disinhibited Social Engagement Disorder in School-Aged Foster Children - A Confirmatory Approach to Dimensional Measures. を参照すると、RAD因子とDSED因子の相関が.60なので2つは近い概念である可能性が感じられますが、DSEDスケールはかなり正規分布である一方RADスケールは明確に歪んでいたことから、やはり質的に異なる概念であることが分かります。


2.DSED(+DSEB)の先行因子や原因・関連要因

DSED(+DSEB)の先行因子や原因・関連要因などはどのようなものがあるのでしょうか。
まずは先行研究をまとめていこうと思います。

・虐待の無い親とDSEB
親と子どもの虐待の無い親子関係において、親の行動の質とDSEBの関連性を検討した研究はほとんどないみたいです(Lalande et al.,2012)。

・原因
古い研究では、Lyons-Ruth et al.(2009)は、子どもが生後12ヶ月のときに母親の感情的な混乱(例:混乱、怯え、奇妙な感情を示す)が、12ヶ月と18ヶ月のDSEBの予測因子であることを明らかにしたものがあるが、他研究はこの知見との不一致が多くみられる。
Lalande et al.(2012)は、約20%の子どもがネグレクトされ、10代の母親のためのグループホームで生活していた。著者らは、4ヵ月時点の母親のネグレクトと孤立(例:子どものニーズへの反応が薄い、子どもとの相互作用がほとんどない、刺激が少ない)の両方が15ヵ月時点のDSEBを予測することを明らかにした。
母親のコントロールや否定的・侵入的行動、敵対的行動は、DSEBと有意な関係を示さなかった。このことから、DSEBは感情的・行動的に距離のある母親との相互作用から生じる可能性が高いと結論づけられた(Lyons-Ruth et al.,2019 ; Lalande et al.,2012)。
虐待の無い親子であっても、子どもが母親からの孤立にさらされると、より高いレベルのDSEBが発生する可能性があるが、これら2つの研究では、身体的虐待や厳しい子育てを報告した子どもは含まれていない。
重度のネグレクトにさらされたと推定される虐待を受けた子どもや以前に施設に収容された養子は、一般集団の子どもよりも乳幼児期に不安定な無秩序の愛着を示すリスクが高い(Cyr et al, 2010; Van den Dries et al.2012)。

・DSEBと愛着の関連
関連あり:子どものDSEBと(養育の質の代理としての)養育者への愛着に関する最近のメタ分析の結果、DSEBと愛着不安(d = 0.48)または無秩序(d = 0.47)の関連は中程度に近い効果量。養育または育児過程がDSEBの発達に(ある程度)関与しているかもしれないという仮説を補強する(Zephyr et al.,2020年改訂版)。
さらに、これらの効果量の信頼区間が重なっていることから、DSEBを持つ子どもは、愛着が無秩序である可能性が同じくらい高いことが示された。
この仮説を支持するものとして、乳児期の愛着の乱れや優先的養育者による養育の質の低さ(感受性の低さ、低刺激、平坦な感情、孤立など)が、施設養育の5歳児のDSEBを予測するという結果がある(Gleason et al.,2014年)。
DSEBと無秩序型愛着はDSEBと他のタイプの不安定な愛着よりも強い関連を示すはずであると示唆した(Van IJzendoorn & Bakermans-Kranenburg,2013)。
↑の仮説を支持するように、多くの研究がDSEBと無秩序型アタッチメントの間に有意な関連を示している(Delbarre, 2017; Gleason et al.2011; Lyons-Ruth et al.2009; Minnis et al.2009; Prichett,Prichett, et al.2013; Van den Dries et al.2012 )。
安全または不安定な愛着タイプのいずれかと有意な関連性も見出している(Boris et al., 2004, Chisholm, 1998; Dobrova-Krol et al., 2010; Kocovska et al., 2012; Lalande et al., 2012; Lanctôt, 2017; O'Connor et al., 2003; Pritchett et al.,2013a, b; Rutter et al, 2007)。
関連なし:DSEBと子どもの愛着との間に有意な関連を明らかにしなかった研究もある(Bruce et al., 2009; De Schipper et al., 2012;Pears et al., 2010; Schoemaker et al., 2020; Schröder et al.,2019; Zephyr et al., 2020)。

以上関連あり・なしのケースを見ていきました。DSEBを持つ子どもは愛着が無秩序型である可能性が示されたという知見は、これまでの知見(Lyons-Ruth et al., 2009; Minnis et al., 2009; O'Connor & Zeanah, 2003など)と一致し、DSEBと愛着という異なる二つの概念は約5〜6%の共有分散を示していることから弱い関連があることが分かっています。
またAllen (2011)が示唆するように、抑制的な行動をとる子どもの社会的な問題行動は、その子どもが識別的あるいは選択的な愛着像を持っていないことが主な原因ではない可能性があります。こちらの場合はRADが該当する感じでしょうか。
ネグレクトにさらされたり、施設で育てられたりした子どもがすべてDSEBを発症するわけではないことを考えると、DSEBの潜在的な前兆は生物学的なもので、一部の子どもをネグレクトや病原性ケアの有害な影響により敏感にさせる可能性があります(Zeanah & Gleason、2015年)。
特に、DSEBの発症には遺伝的な影響が強く、男性ほど高い遺伝率を示すことを示唆する文献が増加しています(Minnis et al.、2007)。
Bruceら(2009)による別の研究では、実行機能の遺伝性の高い構成要素である抑制性制御(Friedmanら、2008)がDSEBと中程度の関連性を示し、DSEBを部分的に説明できる可能性が示唆されています。

以上を考えると、DSED/DSEBについては、愛着や養育方法との関連性がやや認められるものの、それ以外の要素の影響も大きそうだなということが言えるのかなと思いました。ただ、それ以外の要因が何なのか、ほとんど解明されていないのが現状なんですね。


3.DSEDの誤診パターンと鑑別

ADHDとの鑑別が問題にあるケースがあります。
本障害児では注意集中の困難さや多動は示さない、とあります(「標準精神医学(医学書院)」より)。重篤なネグレクトにより内的な枠が脆弱なため、一見すると多動だったり注意散漫に見えることはあります。

ASDとの鑑別が問題になるケースもあります。
こちらは、愛着や内的作業モデルの形成不全のため、共感性に課題がある場合などが考えられています。内的作業モデルは、愛着対象の内在化されたイメージが中心となり、内在化のプロセスにおいて愛着対象の感情や認知も合わせて子供の認知に組み込まれていきます。上述の内在化された愛着対象の感情や認知が、子どもの他者への共感性の基礎になると考えられています。愛着対象が内在化し、その対象像がある程度の自立性を備えることによって、ある事象を自分自身の視点のみでなく、愛着対象の視点で評価することが可能になります。内在化された愛着対象のモデルが「他の人もそうだろう」と汎化し、他者視点に立てるようになっていく。これが他者視点獲得の萌芽です。つまり、
虐待やネグレクトなどにより愛着と内的作業モデル形成不全⇒共感性の発達に不全を生じた子供が自閉症スペクトラムと誤診を受ける
という流れになります。

「DSED」によるものか、「ネグレクト(虐待)の影響」によるもの(行動様式や枠など)かは、適宜鑑別していく必要はあると思います。いやまぁ、DSEDそれ自体がネグレクトの影響ではあるので、表現が難しいところではありますが…。
ちなみに、ネグレクトが2歳以後の場合に本障害が発現するという報告は今のところないっぽいです。「愛着と愛着障害(北大路書房)」には、遅くとも3歳までに選択的愛着を形成する機会がない状態が続くと、見知らない人への警戒心を発達させるための生物学的に決定されている敏感期(あるいは臨界期)を逃してしまうかもしれません、とあります(要出典)。

DSEDが対象となった研究がまだ少なく、治療エビデンスなどの蓄積もありません。養育的治療をやり、学習的に身につけさせていく手段はまぁ良しとして、そもそも安全基地の欠如から適切な内的作業モデル構築ができず、他者への警戒心を育むことができずに定着したDSEDに対して、認知行動的な治療なんかあるんでしょうかね。
ちなみに薬物療法エビデンスもありません。
Van den Driesら(2012)の研究では、より敏感な母親を持つ養子(施設や里親から)のDSEBが減少しており、DSEBの発達と回復における親の敏感さの役割の可能性がより明確に指摘されています。
これを見るとやはり、業界用語で「育てなおし」という、要は適切な養育環境で適切な関係性や社会的枠組みを学習していくこと以外に、今のところ良さそうな方法はないのかもしれません。


4.DSED/DSEBの獲得過程

では、DSEDがどのように獲得されてしまうんでしょうか。
実はDSEDが、というのは難しいですが、ネグレクトにより愛着が適切に育まれなかったケースを想定してみようと思います。

乳児は原始的に恐怖という感情を備えています。動物全般がそうであるのと同じです。
乳児は泣きます。何かしらの不快がある際にとる行動です。泣くということは愛着行動と呼ばれ、愛着対象が抱っこなどによって不快を低減してくれた際に泣きは終息します。そして、最初は人物の弁別ができなかった乳児が、「こいつ良いやつだな」と弁別できるようになります。ボウルビーが用いた用語を使用するなら、愛着対象に対して特殊性が付与された、ということです。

脳神経学的な説明もある程度可能です。情動の調節をもとに考えてみたいと思います。
情動調節は、苦痛と快楽への反応として乳児期に始まります。6~12か月の間に前頭前野から扁桃体、海馬への神経路が発達し、馴染んだ人(本来の愛着対象)とそうでない人を区別したり、馴染みのない対象(新奇性)へ恐怖を感じるようになります。
その際、乳児がマイルドで短い恐怖のエピソードに対処すること(抱っこなどで大人が恐怖を低減してくれること)を繰り返し成功していけば、(大人による介入を通して)自己の調節は強化されていきます。
しかし、虐待等が持続⇒新奇性への恐怖を緩和調節する方法が学習困難⇒新奇性は持続的でどうにもできない存在、と誤認知する流れが形成されてしまいます。
ネグレクトの継続の場合は、そもそも本来の愛着対象の区別ができないため本来の愛着対象への特殊性が付与されないまま、新奇性への対処可能性が認められないまま(愛着対象とそうでない対象が未区別のまま)、自己の調整も強化されず成長することに繋がってしまいます。馴染んだ人が不在なので、馴染まない人への恐怖などが喚起されづらい状態ができ、DSED状態へと繋がっていく感じなんですかね。

まとめますと、①不快を感じた際に泣きという愛着行動を用いる、②愛着対象が不快を低減してくれる、③愛着対象に特殊性が付与され、他者を弁別可能になる、という流れで“特定の”対象への愛着が育まれていきます。
この、①が発生した後に②が起こらなければ③に至らず、無差別な他者への愛着行動に繋がるリスクがありますし(DSED)、(話がDSEDから反れますが)①に対して無視(ネグレクト)や攻撃(心理・身体的虐待)が予測されるまでに学習が続いてしまった際には、強化理論的に①そのものが消失し、結果的には養育者に対する一貫した抑制的で、情緒的にひきこもった行動のパターン(RADの診断基準)に繋がるリスクがあることが想定されます。


5.DSED/DSEB児童のアセスメントや対応など

ここで改めて事例を提示します。

母によるネグレクトで一時保護中の4歳女児。
母子家庭。夜間放置が常態化しており、母は彼氏との外出を昼夜問わず繰り返し、夜の飲食店就業も継続しており、明け方に帰宅して昼に起きるような生活が本児出生前から続いていた。保育園等は通っておらず、本児は1人で過ごす時間を多く強いられる形となっていた。
本児が空腹やその他不快感等で泣いた時、身体・心理的虐待は行わないものの、無視をする・外出する等により本児の泣きに対応することはなかった。徐々に泣かなくなった本児を、周囲には「ワガママ言わないイイコ」と話していた。
本児は知的には普通域で、社会生活能力面では身体能力面が正常発達している点と比較して、身辺処理や社会対人面の得点が低く出ている。言語発達は年齢相応で、一般的な会話のやり取りは可能。職員の指示は適切に聞くことが出来、抵抗なく笑顔で接触を求めてくるなど、育てやすい児童という印象を持つ職員もいた。
本児の特徴として、誰彼構わず身体接触を求める一方で、分離時の抵抗などは一切示さないというものが挙げられている。他児とのトラブル時にも不快感等の表明が無く、自らSOSを出せない児童として見守るようになっていった。

・本児の状態像のアセスメントをします。
誰彼構わず身体接触を求める一方で、分離時の抵抗などは一切示さないなど、DSEBとみられるパターンが示されています。
過程での養育状況は、“1人で過ごす時間を多く強いられ、愛着行動への情緒的対応の欠如”などが認められることから、子どものニーズへの反応が薄い、子どもとの相互作用がほとんどないといった、本児が情緒的に孤立しているネグレクト環境であったことは推測できます。
以上により、DSEDの診断基準は満たせそうだな、と考えることが出来ます。

・本児の状態像獲得の機序を考えます。
愛着対象が不快を低減してくれることで、愛着対象に特殊性が付与され、他者を弁別可能になる、という流れが経験できなかったことで、“特定の”対象への愛着が育まれることは恐らく無かったのだろうと思います。ネグレクトの継続により、本来の愛着対象への区別ができず本来の愛着対象への特殊性が付与されないまま、自己の調整も強化されず、新奇性への対処可能性が認められないまま(愛着対象とそうでない対象が未区別のまま)成長していったと考えられます。
その結果、DSED/DESBとみられる状態像が作られていったと考えることが出来ます。

・本児に将来起こりうるリスクを検討します。
年齢などについては不明ですが(すいません勉強不足なだけです)、情緒的に敏感な養育者のもとで育つことでDSEBの減少可能性はあるかもしれませんが、(要出典情報ですが)臨界期が存在するのであれば、この状態像はおおむね継続していく可能性があります。
愛着対象との区別の難しさ、無差別な接近行動などは、成長してから事件や犯罪に巻き込まれるリスクに繋がることは容易に考えられます(確かそういった報告もあった気が…)。
そういったリスクを低減していく関りとしては、やはりネグレクト環境下からの移動ないし介入による環境改善を早急に図り維持していくこと以外、今のところはないのかもしれません。


よって所見としては、以下のようなものが考えられます。
知的に普通域の4歳女児。知的能力と社会生活能力の乖離と家庭養育の状況から、本児が長期間情緒的に孤立しているネグレクト環境下で養育されてきた可能性は高い。
夜・昼間放置という物理的ネグレクトや愛着行動の無視といった情緒的ネグレクト環境の継続により、本児は本来の愛着対象への区別ができずに本来の愛着対象への特殊性が付与されないまま、自己の調整も強化されず、愛着対象とそうでない対象が未区別のまま成長していったことが推測された。
以上によりネグレクトの影響が強く認められており、現在の家庭環境においての養育は本児の福祉侵害継続に繋がるため、家庭養育を行うには物理的・情緒的双方の点にいおいてネグレクト環境の改善が必要である。


参考文献(一部)
Zephyr, L., Cyr, C., Monette, S., Langlois, V., Cyr-Desautels, L., & Archambault, M. (2021). Disinhibited social engagement behaviors in young maltreated children: dysfunctional behavior of biological parents and child attachment. Child Abuse & Neglect, 111, 104791.
Zephyr, L., Cyr, C., Monette, S., Archambault, M., Lehmann, S., & Minnis, H. (2021). Meta-Analyses of the Associations Between Disinhibited Social Engagement Behaviors and Child Attachment Insecurity or Disorganization. Research on Child and Adolescent Psychopathology, 49(7), 949-962.

内的作業モデル(IWM)について分かっていること+アセスメントへの応用

内的作業モデル(IWM)は,以前のエントリーでも触れました。虐待の世界ではよく用いられる概念ですね。

 

定義的なものを改めて説明すると,ボウルビィが提唱した,乳幼児期の親子関係の中で形成される対人表象についてのモデルです。

私は〇〇したら~~してもらえる,××な時は~~ってなる,の積み重ねで,単純には対人関係の応答についての基本的なモデルみたいなイメージでいいと思います,という風に説明しました。

今回は,そのIWMについて今現在分かっていることを紹介し,最終的にIWMの概念を簡単に統合できればと思います。

 

突然ですが,私の隣の席のお姉さんが,担当児童と話していました。後でお姉さんが私に言いました。「さっきの子,自分が敏感すぎて病気なんじゃないかって言っている。人の視線とか表情とか,いろんな人のことに敏感で,いつもつらいだそうな。」

私は言いました。それってIWMで説明ができるかもしれないと。その子の成育歴を簡単に教えてください,と。

聞くところによると,身体的虐待が継続していた家庭で育ち,児童養護施設へ入所。退所してからは次々と恋人を乗り換えるが,どれも異性に恵まれず傷付き体験が重なる一方だとか。

「人の目とか言動に敏感になりすぎてしまうのに,人を見る目がないんだってさ」「これって心理さんから見たらどうなの?」

 

 

以下,先行研究を参照しながら考えてみたいと思います。

愛着の内的作業モデルが対人情報処理に及ぼす影響(島 義弘,2010)では対人関係に関連した用語の処理について,以下のように言及があります。

対人関係関連語において“反応のずれ”は“回避”からの有意な影響を受けていた。

対人関係関連語の“反応のずれ”は“不安”と“回避”の交互作用の影響も受けていた。これらの効果は“不安”と“回避”の双方が高い場合に最も顕著であった。

このことから,対人関係に関連した情報の処理は愛着の内的作業モデル,特に“回避”の影響を受けることが示唆された。

 

「内的作業モデルが表情刺激の情動認知に与える影響(島 義弘, 福井 義一, 金政 祐司, 野村 理朗, 武儀山 珠実, 鈴木 直人,2012)では,ネガティブな表情に対する認知について以下のように言及があります。

①その表情とは異なるネガティブな情動の存在を認知,②“表情とは一致しない情動がないこと”の認知に時間を要する+真顔や快表情に対しても“ネガティブ情動がないこと”の認知に時間を要する

⇒“回避”の高い人がこれらの表情にネガティブな情動を読み取ってしまうことに起因

=回避の高い人:意識レベルでの情報処理の抑制+無意識下での脅威情報の処理の亢進,という特徴の反映,などが考えられました。

 

「被虐待経験と内的作業モデルが表情の誤検出量に及ぼす影響(松尾和弥,2018:学会発表の抄録集より)」の中では以下について言及されています。

例えば先行研究からは,虐待を受けた人々は,そうでない人々と比べ,他者の否定的な表情に注意を向けやすく,曖昧な表情を「怒り」と認識しやすい傾向があり,このような対人情報処理の歪みは,被虐待経験の不安増悪効果を高めることが報告されています。

そしてこの研究では,被虐待経験の有意な影響は認められなかったのに対して,IWMの関係不安が高いほど,喜び・悲しみ・怒りの各表情における誤検出量が多かったことが示されています。これは関係不安によって他者の情動に対する過剰な注目が生じたものと解釈できる,とされています。

 

また,「潜在的な愛着の内的作業モデルと情報処理の関連(藤井 勉, 上淵 寿, 山田 琴乃, 斎藤 将大, 伊藤 恵里子, 利根川 明子, 上淵 真理江,2015)」では以下について言及されています。

内的作業モデル(IWM)は「自己モデル(自分は他者から受容される存在かどうか)」「愛着対象モデル(他者からどのような応答が期待できるか,他者は信頼できる存在かどうか)」の2つに分かれています。

形成されたIWMは,感情の経験・表出・抑制のみならず,愛着と関連する情緒的・感情的に重要な情報の処理方法といった事柄にも影響を与えます。IWMが選択的フィルタとして働くことにより,自動的にある種の情報に選択的に注意を向け解釈・評価を行い,その結果,注意の拡散を避け,情報処理の効率性や安定性の向上につながっています。

この研究の中では,潜在的親密性回避傾向は愛着に関連する情報処理に対して抑制的に働くことが示されています。親密性回避が高い場合,①愛着関連の情報への意識的なアクセスが困難になる,②愛着関連ネガティブ語への反応が促進される,といったことが起こりうるようです。

 

「Disinhibited reactive attachment disorder symptoms impair social judgements from faces.(Miellet S, Caldara R, Gillberg C, Raju M, Minnis H,2014)」では、IWMとは異なりますが、脱抑制反応性愛着障害(dRAD:今でいう脱抑制型対人交流障害)の表情認知について言及があります。一般的な子供は、提示された顔魅力とその顔について信頼性があるかどうかについて判断する課題の間に強い相関関係を示した。一方dRADグループは、合意が少なく、信頼性と魅力度の判断の間に有意な相関関係が見られませんでした。

 

ここまでの情報で,お隣のお姉さんの担当児童のことをIWM的に考えてみましょう。

・身体的虐待の連続→他者は自分に危害を加えてくる+他者が守ってくれない感覚

があると,「恐怖心や自尊心低下から自分を守るため」の機制を働かせて,対人場面において回避傾向が身につくことはある程度想定できます。そこで,何でもない表情に対しても,その表情とは異なるネガティブな情動の存在を認知してしまい,しんどくなるとか。これは別に敏感というか,一般的な言い方をすれば「考えすぎ」ってやつなんですが,本人からしたら必要以上に読み取ってしまう敏感さと感じてしまうんだろうなと思います。

また「考えすぎ」ではなかったとしたら,虐待を受けた人々は,そうでない人々と比べ,他者の否定的な表情に注意を向けやすく,曖昧な表情を「怒り」と認識しやすい傾向があり,このような対人情報処理の歪みは,被虐待経験の不安増悪効果を高める,という先行研究の通りの可能性も考えられます。ちょっとした相手のネガティブなニュアンスに敏感に注意を向け,「怒り」のような被害的な認知を受けて不安憎悪に繋がる,みたいな。

 

また回避傾向でなく,関係不安の高いパターンについても検討できます。

関係不安によって他者の情動に対する過剰な注目が生じた結果,表情についてネガティブな誤検出に至るという先行研究があります。不安だから気にしすぎた結果,ネガティブな意図を誤検出してしんどくなる,という具合です。

 

そして、本件は身体的虐待ケースであり、脱抑制型対人交流障害はネグレクト状況下で生じやすい状況ではあるので以下が言えるかは微妙なとこですが、他者の外見で信頼度の判断が難しくて「見る目がない」状態が続いてしまっている可能性もまぁなくはないんじゃないかなと思いました。

 

いずれにせよ,幼少期からの虐待によるIWMの傷付き(っていう表現していいのかな)によって,他者の表情などに敏感になり,ネガティブな誤検出のために被害的認知で不安憎悪等に繋がり,しんどくなる。これを個人の感覚で「人に敏感すぎてしんどい」という表現に置き換わったのではないかと思われました。

こんなことを説明したら,お姉さんもケースワークの結構な専門的な話が広がっていって,いつか心理とワーカーで組んで仕事したいね,と言われる流れに。

「いつか組みたいね」と言われるのは,心理司の仕事ぶりの酷さ(他者評)から極めて心理司の評価の低い(心理司不要論をよく聞く)この業界において,本当に嬉しいことだったりします。

そしてこの,「努力の成果を共有するといいリアクションをもらえる」という安心感は,自分が幼少期に培ったIWMに他ならないのかもしれません。

comm.arch.のHand Framed Knitted CD(すごいショールカラーカーディガン)

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コムアーチのショールカラーカーディガン。

横浜仲町台のEuphonicaさまで購入。

東北地方にて昔ながらの手横編み機のみでニット製造を行うニッターさんの手で丁寧に編み立てられて作られたものだとか。

襟部分の返りが柔らかく立体的で、首元を優しく包んでくれる。羽織るとずっしり重さを感じるものの、不思議と負担感はない。

あとカーディガンとは思えない威圧感とオーラがある。

 

一流のニットデザイナーと一流の職人が作り上げた逸品。

良いものには全て根拠があるのだ。

 

 

 

虐待を受けた子どもは脳の機能が低下する

昨今有名な話ではありますが、虐待によって子どもの脳は変形します。

https://toyokeizai.net/articles/-/189445

 

脳が変形するということは、本来有している脳の機能がうまく発揮できず、本来できるはずのことができなくなるなど、様々な困難が生じてしまうということです。

以下、虐待と脳についての分野で研究を続けられている友田明美先生のコメント(抜粋)です。

虐待やネグレクト(育児放棄)などの不適切な養育は愛着障害を引き起こします。

日常的に養育者が子どもに暴言虐待や長期的な厳格体罰を与える、そうすると不安定な愛着が形成されてしまいます。

養育者が戻って来たときも同様で、子どもは喜びもしないどころか、そっぽを向いたままです。このように不適切な養育が引き起こす愛着障害は、こころの発達に問題を抱え、さまざまな症状を表します。

症状が内向きに出ると、他人に対して無関心になったり、用心深くなったり、イライラしやすくなったりして、他人との安定した関係が築けません。症状が外向きに出ると、多動で落ち着きがなくなったり、友達とのトラブルが多くけんかが絶えません。また、礼儀知らずとなり、対人関係に支障をきたしてしまいます。実は、虐待などが原因で、社会的養護を受けている子どもたちの40パーセントに愛着障害が発症することがわかってきました。

幼児期に虐待ストレスを受け続けると、脳の中にある感情の中枢である扁桃体(へんとうたい)が異常に興奮し、副腎皮質にストレスホルモンを出すよう指令を出すのです。

そうするとストレスホルモンが過剰に放出され、脳にダメージを与えるのです。

アメリカのハーバード大学との共同研究でわかってきたことは、感情をつかさどる前頭葉が小さくなって、自分のコントロールができなくなり、凶暴になったり、集中力が低下したりします。暴言虐待により聴覚野が変形し、聴こえや会話、コミュニケーションがうまくできなくなったりします。両親間のDV・家庭内暴力を目撃すると視覚野が小さくなり、他人の表情が分かりにくくなり、対人関係がうまくいかなくなったりします。脳の形が変わるのは、「外部からのストレスに耐えられるように情報量を減らす」ための脳の防衛反応だと考えられています。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/264452.html

 

このように、様々な脳部位に影響を及ぼすのが虐待です。友田先生の研究では他に、脳の感受性期の関係で、被虐待の時期によりダメージを負う脳部位が異なることも示されています。

 

Executive function performance and trauma exposure in a community sample of children, Anne P.DePrincea.etでは、虐待と、ワーキングメモリ、抑制、聴覚注意、および処理速度タスクで構成される実行機能のパフォーマンス低下との関連が示されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0145213409000969

 

Cognitive impairment in school-aged children with early trauma,JoanaBücker.etでは、wiscの数唱の短さ(ワーキングメモリの下位検査)が指摘されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0010440X11002392

 

一方で、こちらでは言語理解と処理速度が比較群より低く、知覚推理とWMは同レベルという結果が出ています(COGNITIVE ABILITIES OF MALTREATED CHILDREN

,Kathleen D. Viezel  Benjamin D. Freer  Ari Lowell  Jenean A. Castillo)。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/pits.21809

 

いずれにせよ、虐待により認知機能の低下は避けられず、虐待の内容や被虐待年齢等により脳の器質的変化が多様であるという友田先生の有名な研究より、認知機能の変化も多様ということになるのかもしれません。

 

 

今更なんでこんな話題をっていうと、

とあるツイートで興味深いものを拝見したからでした。

https://twitter.com/tsuyomiyakawa/status/1217400388724248576

脳トレ的な認知機能トレーニングに関する多数の研究&メタ解析の結果、その種のものには一般的認知機能を向上させる効果はほぼ認められないというものでした。

その後のツイートの中で、発達障害も含め、各種の脳の疾患においての一般的な認知機能に対する認知機能トレーニングの効果は、この総説では検証されていないと続けられています。

 

虐待により脳に直接与えられたダメージを回復するには、こういった認知機能を回復させる認知機能トレーニングが有効じゃないかと感じており、高次脳機能障害者への認知機能トレによるエビデンスを参考にしていたところでしたので、

一瞬この研究にはびびりましたが、後半のコメントによりまだ可能性が残されていると思い少し安心。

 

現状から機能向上は難しくても、本来有している機能が損なわれている状態から元の状態に回復する。そういうイメージであれば、認知機能トレーニングが有効であればいいなと思いますし、

偉い人がここらへんを検証して、児童虐待によるダメージから回復するエビデンスが構築されていくと児童虐待の世界は飛躍的に進歩するのになぁ、と思います。

ここらの認知機能が改善したら、情動ラベリングや行動の心理的意味の言語化とか、前頭葉機能を用いる被虐待により歪んだ認知改善もスムーズになるんですが、それはまた別のお話。

項目反応理論と段階反応モデル

項目反応理論(IRT)による分析のモデルの1つに段階反応モデルがあります。

 

  • 段階反応モデルってなあに?

「はい」「いいえ」のような2値反応ではなく、「はい」「どちらでもない」「いいえ」のような3つ以上の順序尺度的な反応を求められる課題があるとします。それをIRTの枠組みの中で分析する方法が、段階反応モデルになります。

やや小難しい説明になりますが

段階反応モデルでは、項目 j(=1, …, J ; J は項目数)の反応ujがC個の値をとる順序尺度の離散変数であると仮定します。

 

以下に、課題a~eの得点を、3つの順序尺度で得点化したデータがあるとします。たとえば、「a. 算数より国語の方が好きだ いいえ=0、どちらでもない=1、はい=2」「b. 算数より国語の方が高得点の傾向にある いいえ=0、どちらでもない=1、はい=2」のような質問紙があるとして、以下のように記入してもらうという感じです。

   a b c d e

A君 1 2 3 2 3

B君 3 3 3 2 3

C君 1 2 1 1 2

D君 1 1 2 2 1

E君 3 1 3 2 3

F君 2 1 3 2 3

G君 3 3 3 2 3

H君 1 3 3 2 3

このデータを、段階反応モデルを用いた項目反応理論による分析を行うとします。

 

結果と解釈は以下のようになります。

各課題を、いいえ=0、どちらでもない=1、はい=2として3カテゴリの順序尺度とし、MCMCによるIRT段階反応モデルのパラメータ推定を実施。

f:id:romancingsame:20191218232221p:plain

 

その結果

課題4は、困難度の観点で見ると、b「4,1」とb「4,2」の差が最も大きい。これは中間に位置するカテゴリ(1点)に反応する確率が最も高いことを示しており、すなわち偶然正答の「1」の可能性の高さが示されている困難度の差が最も大きく「どちらでもない」の可能性が最も高い課題であることが示された。

課題1は適切な困難度かつ、偶然正答の「1」の可能性も最も低く、個人特性を最も識別する課題であることが示された。

課題3、課題5については、困難度の最下位(b[3,1]b[5,1])、最上位(b[3,2]b[5,2])が負の域に入っていることから、困難度の低い課題、すなわち平均以下の個人特性でも正答する率が高い傾向にある課題であることが示された。

 

各課題の特性を検討するには項目反応理論は有用で、段階反応モデルはその拡張版といえます。

個人的には、検査をある種質的な観点で解釈できる分析手法として好んで用いています。でも使いこなせているかはまた別の話…。

 

本解析で用いたStanコードはこちら。

 

data{

 int ni;

 int nj;

 int nc;

 real D;

 int<lower=1,upper=3> y[ni,nj];

}

 

parameters{

 vector[nj] a;//識別力母数

 ordered[nc-1] ba[nj];//困難度母数

 vector[ni] theta;//回答者の特性値

}

 

transformed parameters{//項目反応カテゴリ特性曲線の定義を用いる

 real b[nj,nc];

 vector<lower=0,upper=1>[nc-1] pa[ni,nj];

 simplex[nc] p[ni,nj];

 for (j in 1:nj){

  for (c in 1:nc){

   if (c ==1){//もしcが1(最下位カテゴリなら)

    b[j,c]<-ba[j,c];

   }else if (c ==nc){//cがnc(最上位カテゴリ)なら

    b[j,c]<-ba[j,c-1];

   }else{//cが上2つ以外なら

    b[j,c]<-(ba[j,c-1]+ba[j,c])/2;

   }

  }

 }

 for (i in 1:ni){//i:1~ni

 for (j in 1:nj){//j:1~nj

 for (c in 1:nc-1){//c:1~nc-1

  pa[i,j,c]<- 1/(1+exp(-D*a[j]*(theta[i]-ba[j,c])));

  }                      

 }

 }

 for (i in 1:ni){

 for (j in 1:nj){

  for(c in 1:nc){

   if (c==1){

    p[i,j,c]<-1-pa[i,j,c];

   }else if(c==nc){

    p[i,j,c]<- pa[i,j,c-1];

   }else{

    p[i,j,c]<- pa[i,j,c-1]-pa[i,j,c];

   }

  }

 }

}

}

model{

 for (i in 1:ni){

  theta[i]~normal(0,1);

  for (j in 1:nj){

   y[i,j]~categorical(p[i,j]);//カテゴリカル分布:結果が3種類以上の状態を持つ施行が従う分布

  }

 }

 for (j in 1:nj){

  a[j]~lognormal(0,sqrt(0.5));

  for (c in 1:nc-1){

   ba[j,c]~normal(0,2);

  }

 

このとき、一般的な項目反応理論の説明と同様に、潜在能力θの被験者がuj =cと反応する確率Pjc (θ)は、潜在能力θの被験者が uj≧cと反応する確率Pjc(θ) を用いて表現できます。

θを変数とみると段階反応モデルにおける項目jのカテゴリcの項目特性曲線を表しており、これは項目反応カテゴリ特性曲線(Item Response Category Characteristic Curve; IRCCC)と呼ばれます。

また、境界特性曲線(Boundary Characteristic Curve; BCC)は、θの値によらず

Pj0(θ)=1 ・・・0より大きくなるのは確率1(100%)

PjC(θ)=0 ・・・Cより大きくなるのは確率0(0%)

です。

Paulsmith Collectionのプリントシャツ

f:id:romancingsame:20191218234222j:plain

ポールスミスと聞いて浮かぶイメージとは、やはり派手な裏地のジャケットやカジュアルに振ったマルチストライプの財布でしょうか。

これはコレクションラインの、いわゆる総柄プリントシャツ。

コレクションラインの良さは、多くはメイド・イン・ジャパンで、素材の良さや縫製・着心地の良さなどもよく語られますが

個人的には、Paulsmith Collectionの持つ退廃的な世界観だろうと思います。

構造方程式モデリング(SEM)の基本的な考え方

構造方程式モデリング(SEM)は、多変量解析と呼ばれる統計手法群の1つですが、この手法の特徴は柔軟なモデル構成力にあります。

ある概念を測定したいと心理検査を構成した際に、その概念の下位にある要素間の関係性や概念に対して要素がどのように影響しているか、などを確認する手法です。

SEMの特徴としては他に、「構成概念f」と「観測変数x」があります。観測変数というのは実際の尺度項目、構成概念は実際にある項目ではないですが観測変数により確認された仮想的な変数です。

数学、英語、国語という科目が観測変数、学力が構成概念、という感じです。

 

SEMは研究論文などでなんとなく見たことある方も多いとは思いますが、

  • その指標(パス係数とか、独自分散とか)がどのように測定されているのか
  • モデルの適合度がどのように計算されているのか

といったところは正直よく分からず見ている方が多いのではないでしょうか。

せっかくなので、以下の図を例に解説していければと思います。

 

図(考え方を簡単にするため簡略化)

f:id:romancingsame:20190922164548g:plain

e:独自変数…観測変数の固有にもっている変数で、構成概念ではカバーできない範囲

v:観測変数…実際に測定したもの

f:構成概念…観測変数に影響を与えている概念

a:影響指標・因子負荷・パス係数etc…構成概念から観測変数への影響力の強さ

 

この図の場合、3つの測定方程式が立てられます。

v1=a1*f1+e1

v2=a2*f1+e2

v3=a3*f1+e3

と表現されます。モデルを分かりやすくするため、(本来はそんなことないんですけど)基本的な「学力」で説明しきれない個々のテストの成績は互いに無相関、ということにして、

E[eiej]=0  (i≠j)

と仮定します。

 

観測変数の共分散と測定方程式の母数との関係を記述すると(途中式省略)

σ12=E[v12]=a12e12

と表現されます。同様に

σ22=a22e22

σ32=a32e32

となります。次にv1とv2の共分散は(途中式省略)

σ21=E[v2v1]=a2a1

σ31=a3a1

σ32=a3a2

が導かれます。

観測変数の共分散行列の要素がこれで全て揃いました。以下に整理すると

f:id:romancingsame:20190922164657g:plain

と構造化して書き直すことができます。上のように共分散を方程式モデルの母数で表現したものを「共分散構造」といいます。

この共分散構造行列がSEMの係数導出等の基本になるものでして、具体的な集計データからこの共分散構造行列にあてはめ、観測変数の標本共分散行列を構成して、最終的な係数等があてはめられたモデルが作られていくという感じです。

 

次に、パス係数や因子負荷などの推定量の導出です。

a1=±√(σ21σ31)/σ32 が得られます。a1が導出できれば残りの係数も導出できます。

a2=σ21/a1

a3=σ31/a1

 

誤差分散は

σe12=σ12-a12

σe22=σ22-a22

σe32=σ32-a32

より導出されます。

その後、分散が1に標準化された「標準化モデル」により、モデルを解釈しやすい形に数値を変換する、などの作業を行ったりします。

 

以上のようにSEMは、潜在した共通原因のために観測変数の間に相関が生じる現象を表現した「測定方程式モデル=因子分析モデル」から共分散行列を構成し、その共分散行列を利用して測定方程式モデルの母数の推定量を導出することで、各観測変数や潜在変数(構成概念)の関係性をモデルで表現するものといえます。

SEMのパスとかって一体どこから出てくるんだろうとか思っていた時期がながくありましたが、この共分散行列に由来していたんですね。

 

 

こうやって作られたモデルの適合度を測定する指標は色々ありますが

SEMで使用するものとしてはRMSEAとか、我らが赤池先生の考案したAICとかが有名でしょうか。

 

RMSEAはSEMに特化して、モデルの分布と真の分布との乖離を、1自由度当たりの量として表現した指標になります。

RMSEA=√max((fML/df)-(1/N-1),0) ※fML=最尤法の目的関数、df=自由度

0.05以下であればあてはまりが良く、0.1以上であれば当てはまりが悪いとすることが多いように思われますが、この数値自体に根拠があるわけではないので注意。

 

AIC=χ2-2df

尤度で定義された統計モデルの良さを測定するために使用され、数値が小さいほど良いモデルだと判断されます

なお、χ2=(N-1)fMLで定義され、適合が悪いほど値が大きくなります。カイ自乗値(検定統計量)はより小さく、p値はより大きなものであることが望ましいといえます。値そのものを適合度の指標として用いるよりは、「モデルはデータに適合している」という帰無仮説を検定するための検定統計量として用いられます。サンプルサイズが大きければ得られるp値も大きくなります(つまり第1種の誤りの確率が高くなる)が、SEMではそもそもサンプルサイズの大きいデータを用いることが多いので、この検定結果に意味を求める感じではないです。

 

SEMの適合度指標については、星野・岡田・前田(2005)『構造方程式モデリングの適合度指標とモデル改善について:展望とシミュレーション研究による新たな知見』が詳しいのでそちらを参照に!