児童虐待の専門職が 心理学や統計学を語るブログ

心理学や、心理学研究における統計解析の話など

Olde Homesteader(オールドホームステッダー)のアンダーシャツ

f:id:romancingsame:20190526201900j:plain

部屋着がラグジュアリーだと人生はラグジュアリーに。
自分が敬愛する某H先生がなんとなく言ってそうな名言です。

仕事はとても大変で、精神的にとても落ちてしまうことだって人間誰しもありますよね。
でもそんな時にこの服に身を通せばすぐに気持ちがラグジュアリーになる。…不思議ね!!

そんなラグジュアリーなアンダーシャツの名こそ、Olde Homesteader(オールドホームステッダー)。
何度かお邪魔させていただいている某店でリピート買いしてしまいました。
この着心地…気絶。
https://oldehomesteader.jp/

はじめてこのブログをご覧になる方へ

このブログでは、児童虐待関係の仕事をしているブログ主が、心理学とか心理学研究における統計解析の話などをします。

 

児童虐待領域記事(リンク無しは未発表)

A.虐待の影響

 1.虐待の影響(全般)
 2.内的作業モデル
 3.被虐待児の攻撃性
 4.敵意帰属バイアス
 5.感情調節障害
 6.自傷行為

B.脳

 1.虐待の脳への影響
 2.脳容積と虐待
 3.脳と攻撃性

C.精神医学的診断

 1.ASD(自閉スペクトラム症)1-2.ASDの感情調節障害
 2.ADHD(注意欠陥多動症)
 3.RAD(反応性アタッチメント障害)
 4.DSED(脱抑制型対人交流障害)
 5.C-PTSD(複雑性PTSD)
 6.社会的(語用論的)コミュニケーション症

D.不適応行動・状態

 1.窃盗
 2.過剰適応
 3.性加害
 4.攻撃性全般

E.ケア

 1.実親との面会交流
 2.感情のラベリング
 3.トラウマケア・プレイセラピー

F.虐待関連

 1.児童虐待による死亡(CMF)
 2.子どもの虐待証言(性的虐待順応症候群と絡めて)
 3.虐待加害リスク

G.基礎心理概念

 1.抽象化思考

 

以下カテゴリ

心理ー基礎心理学系⇒心理学の基礎的な話など

   アセスメント⇒架空事例などを用いたアセスメント例など

   児童虐待関係児童虐待にかかわる話など

統計ー基礎心理統計⇒心理統計の基礎的な話など

   時系列解析系⇒時系列データを用いた分析例など

   ベイズ統計系ベイズ統計やそれを用いた分析例など

 

ブログの内容は個人の意見等の表明であり、所属組織の意見・見解を示すものではありません。またブログ内容の正確性については保証しかねます(誤記載等はコメント欄等でお知らせいただけると嬉しいです)。

 

Twitter@yui_sggk

 

内的作業モデル―虐待により傷付いた対人表象のモデル

内的作業モデル(IWM)とは、こういう虐待対応の世界ではよく活用する概念です。ボウルビィが提唱した、乳幼児期の親子関係の中で形成される対人表象についてのモデル。

要は、私は〇〇したら~~してもらえる、××な時は~~ってなる、の積み重ねで、単純には対人関係の応答についての基本的なモデルみたいなイメージでいいと思います。

 

IWMの関係不安が高いほど,喜び・悲しみ・怒りの各表情における誤検出量が多くなるとか、IWMの機能に関する研究は多くはないけどちょくちょく見かけます。

しかし、被虐待児のアセスメントの現場ではやはり、①愛着対象からどのようなかかわり方を受け、②愛着行動に対してどのような応答をされていて、③その結果どのような対人表象つまりIWMが形成されていった可能性があるか、この3点を整理し、現在の行動傾向にどう寄与しているかを把握する必要があります。

 

愛着行動ってよく誤解されがちですが、基本的には不安や不快感の低減を目的としてとる行動のことです。

例えば、母親にだっこされると不安感が低減する、と学習するから、寂しいとか怖いとかの不快感があると母親を求めるというものです。この場合、母親への接近が愛着行動に該当します。

他に、腹が減って泣くのも空腹という不快感を、泣きにより母親が察知して母乳や離乳食を与えてくれ、空腹感という不快感が低減すると学習するから泣くのです。この場合、泣いて母親を呼ぶことが愛着行動に該当します。※ここでは、不快感の行動化としての泣きとは区別して考えています。

 

愛着行動でポピュラーなものに前述の「泣き」があります。

空腹時、恐怖時に子どもが「泣き」を発したとして、次の2点が簡単には考えられます。

1:母親がすぐ接近して前述の不快感を低減してくれる。

2:母親は無反応、もしくは「うるさい」と怒鳴りつける。

1の場合は特に問題なく、健全な愛着関係が育まれることが期待でき、IWMも「不快感を表明したらそれを母親が低減してくれる、精神状態を守ってくれる」と肯定的に構築されます。

一方で2の場合はどうでしょうか。不快感は表明しても低減されないことを学習し続けると、嫌なことや悩みを他者に言えない子どもに成長してしまうかもしれません。または、不快感をより大きな不快感(怒鳴られる恐怖)などで押さえつけられると、不快感をただひたすら恐怖を伴いながらため込み続けるようになり、限界を超えたときに大爆発させるようになるかもしれませんし、その大爆発で不快感が低減されたと誤学習してしまったら、不快感を感じた時に行動化による発散が定着する、いわゆる不適応行動が定着するようになってしまうかもしれません。

不適応行動のアセスメントを行う際に、安易な対応で済まさず、こういった成育歴の整理によるIWMをベースにしたアセスメントを詰めていくことは極めて重要になります。

 

かなり単純化して話しましたが、心理学概論での基礎知識も、こうやって現場で活きることはたくさんあるので、概論・基礎心理系の勉強って大事だなと思います。

因子分析における因子の回転について

心理統計については学部時代に清水和秋先生に学んだこともあり、わりと古典的な手法が好きだったりします。

↓清水和秋教授のサイト。誰にも媚びない孤高の人物像を体現したサイトである。

http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~shimizu/chap0.html

 

古典的な手法、例えば因子分析がそうです。

今は↓の因子分析の本を読んでいるところなんですが、数学が得意でない文系人間な自分的にはスムーズに読めないのがつらいところ・・・。でも原理的な部分を勉強できて大変参考になります。

http://www.asakura.co.jp/books/isbn/4-254-12543-7/

 

因子分析と感覚的に似ているものに主成分分析があります。

主成分分析と因子分析の違いがイマイチ理解できないまま学部時代を過ごしかけた記憶がありますが、

主成分分析については以下のサイトが非常にわかりやすいです。

https://logics-of-blue.com/principal-components-analysis/

因子分析については、個人的によく勉強させていただいている清水裕二先生のサイトがわかりやすく詳しいです。後述。

 

 

因子分析を大学のSPSSとかでやった時を思い出すと、以下のような流れだったような気がします。

  • 尺度を選定
  • スクリ―基準等を用いたりして因子数を決定(主成分分析とか挟んだかも)
  • 因子回転を決定(因子間が相関か無相関か、元の尺度に基づいて決定する)
  • 因子共通性や因子負荷量を見て解釈

 

結果例)参考:清水・吉田(2008) Rosenberg自尊感情尺度のモデル化―wordingと項目配置の影響の検討― 関西大学社会学部紀要』第39巻第2 号 より部分抜粋

f:id:romancingsame:20190515223327p:plain

 

※用語説明

・因子共通性:共通性が大きい項目は,共通因子から大きな影響を受けているという(独自因子の影響力が少ない)ことになる。一方で共通性が小さな項目は、共通因子からあまり影響を受けていない(独自因子の影響力が大きい)ということになる。

・因子負荷量=主成分と各項目との相関係数。因子負荷量が1か-1に近い因子ほど主成分により寄与していることになる。因子の解釈を行う際には,回転後の因子負荷量をみる。.40前後以上を示す因子負荷量を1つのまとまった因子と解釈したりする、とか。

・因子寄与率:各因子の寄与(各因子により説明される変数の分散の大きさで、因子kの変数1への寄与、と呼ばれる)を寄与の総和(全変数の分散の総和のうち共通因子により説明された分散の総和)で割った値。その因子が全体分散のうちどのくらい説明をしているかを示す指標。

 

多分この流れの中で、多くの人がいまひとつ意味わからず通り過ぎていたのって「回転」なんじゃないかと思います。

 

研究発表とかではいまだに同概念2因子で他の理由とかなくバリマックス回転とか見ますし、

どういう場合にどの回転ってのは知ってても、そもそも回転の原理って何だってのは私もよくわからんまま生きてきた時間が長かったです。

 

 

 1.そもそもどうして因子を回転するの?

単純には、結果の解釈をしやすくするためです。

 

2.因子回転の解釈ってどうするの?

最初は各因子の意味や潜在変数の性質などは分かりませんよね。単に似たような項目が並んでいるテストだな~程度だと思います。その「似た」というのが感覚的には1つの因子になります。各項目が何か共有している特徴があり、それを因子という仮説にはめていく感じでしょうか。

分析の内容としては、因子パターン行列を推定した後に、その行列の各要素の因子負荷量の値で各因子がどういう性質をもった潜在変数なのかを明らかにすることが、因子の解釈です。解釈は基本的に、解釈しやすいよう因子の回転を行います。解釈しやすい因子は単純構造を持つとか言われますよね。

 

3.因子の回転ってどんなのがあるの?

a.オーソマックス回転=因子間相関を想定しない、直行回転

a-1:コーティマックス基準:回転後の因子パターンの要素における、全体の分散ないし行ごとの分散の和の最大化を図ったもの

a-2:バリマックス基準:回転後の因子パターンの要素における、列ごとの分散の和の最大化を図ったもの

b.オブリミン回転:回転後の因子パターンの要素における、列間の共分散の和の最小化を図ったもの。各項目がそれぞれ違う因子に負荷することを図ります。

c.プロクラテス回転:因子パターン行列または因子構造に関する仮説が存在するとき、その仮説行列と因子パターン行列または因子構造行列とのズレの最小化を図ったもの。仮説行列に近づけるために元の因子パターン行列等を回転させる回転行列を求める方法と言い換えられる。

c-2.プロマックス法:得られた行列にバリマックス回転を施した因子負荷行列を3~4乗した因子負荷行列を用い、斜交プロクラテス回転を行うもの。※プロマックス回転は計算の速さが売りだが真の解に一致しないことがあり、あくまで簡便な方法として用いるべき。

d.オーソブリク回転:因子の分散をすべて1に基準化した状態で直行回転を行うもの。

 

プロマックス回転やバリマックス回転は、いわゆる特定の回転基準を設定するもの。プロクラテス回転は別の因子負荷行列(例えば先行研究で得られた因子負荷行列)とのズレを小さくするように解を求めるもの、と言い換えることができます。

 

参考:清水裕士先生のHP「因子分析における因子軸の回転法について」

http://norimune.net/706

  

私たちが使用する際は、因子間相関を想定しないから直行回転、因子間相関を想定する尺度だから斜交回転、くらいのものだと思いますが、こうやって色々勉強してみると非常に深い話なんだろうな~と感じます。

なんとなく面白そうなんですが、回転の基本原理から始まり、各回転法の原理などを数式で追っていると、「ほんとに理解できてんのだろうか」という不安にかられ、やっぱりちゃんと分かってなかったんだ!と後で分かるという悲しい感じになりまくります。

 

とはいえ、因子分析は多大な情報を集約して抽象化する手法ともいえますので、数学的なエレガントさを備えた魅力的な技法だと常々感じています。もっと勉強したいな~。

 

 

個人に対する心理療法の効果測定―マルコフ転換モデル―

・個人に対する心理療法の効果測定―マルコフ転換モデル―

 

心理療法(=介入)前後で指標となる尺度の得点が変化したか、その変化は有意な差を表しているのか、そういうことをt検定で測定する文献をよく見ますが、一定のクライエント数があってこそ。

クライエント数が得られない、個人に対する心理療法の効果測定などでは、そういった統計的手法って心理系の論文では(私の勉強不足もあると思いますが)見た記憶がないんです。

 

そこで、クライエント個人に心理療法を適用した効果を研究論文に発表する際、よく用いられるのが質的な事例報告ですよね。

 

事例報告の何がデメリットかって、それは事例報告や質的研究そのものを否定するつもりではないんですが、あまりに個人の主観で進められすぎている場合、その研究自体が再現性に乏しく、科学の体をなさない危険が大きくなってしまいます。

 

じゃあどうやって個人の心理療法の効果を図るのかって疑問に対し、ひとつこれは面白いかなーって思ったのが「マルコフ転換モデル」の利用です。

 

マルコフ転換モデルっていうのは、前提として一定の「連続データ」が必要になります。つまり、今日尺度得点をとって、来週も同じ尺度をやってもらって、さらにその来週も、って感じで、一定の連続するデータを用いるというものです。

 

そうやって作成した連続データにマルコフ転換モデルを用いると、簡単に言うと途中で状態が変化する場合を検出してくれるというものです。

 

3.3.4.3.4.2.4.3….という連続データから

4.4.3.4.4.3.5.4.3.4.4.5….とわずかながらに変化したら、データのもつ質自体が変化したように感じませんか?

 

マルコフ転換モデルは、そういった感じを数量的に受け取り示してくれるものです。

 

また、日々の心理的状態にはそれぞれある一定の状態があります。

心理療法的介入を行うことはそういった心理的状態の変化を目的としているため、心理療法等の介入前後で心理過程の変化が確認されることが望ましいんです。

そういった意味でも、得点の変化だけでなく、データの持つ過程の変化が確認できることがより望ましいんじゃないかなって思います。

 

なんだかわかりづらい表現になりましたが、要するにデータの状態変化を検出するという形で効果を確認する方が、2点の差を求めるよりも良いのではないかと思うということです。

 

 

以下例

 

心理尺度の場合、今日の気分は昨日の気分に少なからず影響を受けることを考慮し、得られたデータは自己回帰過程(AR過程)に従うとして分析をしたとします。

 

結果は以下のように表示されます。

 

f:id:romancingsame:20190513163058g:plain

マルコフ転換モデルによって、異常値となる部分(ここでは片方の過程と異なる過程とする)が陰影によって示されます。

この図から、比較的介入時である中心を境に陰影のあり・なしが分かれているのが確認できますので、これをもって介入による効果があったと判断することもできるのではないでしょうか。

 

個人を対象にした臨床研究であっても、連続データさえ用意できれば、科学的手法を適用することだって可能なことが多くなります。

 

ここ最近ではベイズも発展してきていますし、他にも様々なやり方はあります。

 

ちょっと手間はかかりますが、ぜひ連続データを準備して科学的な事例報告にしてほしいなあと思います。